不動産営業の人材課題を解決する「FC加盟」という選択肢 ─ 業界の構造変化と成長戦略を探る

不動産業界が直面する深刻な人材不足。厚生労働省の労働者過不足判断D.I調査によると、2024年5月時点の不動産業界は37ポイントという高い数値を示している。さらに転職サイトdodaの登録者層は営業職・エンジニア・グローバル系職種が多く、経験者採用に強みがある一方で、求職者の獲得競争は激化の一途をたどる。この状況下で、中小不動産業者はいかにして優秀な人材を確保し、組織を成長させていくのか。その答えの一つが、フランチャイズ(FC)への加盟という選択肢だ。

不動産営業を取り巻く「2025年問題」の現実

人材獲得競争の激化と構造的課題

不動産業界の求人数が2018年に比べて、22年には2.35倍に増えている現状は、業界全体の人材不足を如実に物語っている。令和4年度末時点で不動産業の法人数は378,460であり、平成15年度と比較して101,317業者増加しているにもかかわらず、従業者数の伸びは法人数の増加に見合うものではない。

特に深刻なのは営業職の人材不足だ。コールセンターは内見予約受付以外に入居者からの問い合わせ対応もしており、本来理想とする人員よりかなり少ない状態で回していて、じっくり時間をかけた新人教育の時間がなかなか取れずに新人スタッフの離職率も高いという実態がある。この悪循環が、業界全体の成長を阻害する要因となっている。

離職率の高さがもたらす負のスパイラル

不動産営業の現場では、厚生労働省が公開している令和4年度の雇用動向調査結果を見ると、不動産業(物品賃貸業含む)の入職率は18.4%それに対する離職率は13.8%となっており、人材の流動性が極めて高い。その背景には、土日勤務の常態化、歩合給中心の給与体系、クレーム対応による精神的負担など、構造的な問題が存在する。

営業担当者の定着率が低いことは、顧客サービスの質にも直結する。経験の浅い担当者が増えれば、物件査定の精度が落ち、契約トラブルのリスクも高まる。結果として、企業の信頼性低下につながりかねない。

フランチャイズ加盟がもたらす競争優位性

ブランド力による集客効果

不動産仲介会社には「商品」がありません。仲介手数料の上限も法律で決まっていることから、不動産会社のイメージや相談しやすさを大きく左右するのは「認知度」および「信頼感」であるという現実がある。FC加盟により大手ブランドの看板を活用できることは、特に新規開業や事業拡大を図る企業にとって大きなアドバンテージとなる。

実際、大手不動産フランチャイズのセンチュリー21によると、2024年3月期の加盟店取扱高は8,360億円・総受取手数料は542.2億円という実績を上げている。フランチャイズ加盟店数は994ですので、1店舗当たり約8.4億円の取扱高・約5,400万円の総受取手数料がある計算になる。

教育・研修システムによる人材育成の効率化

FC本部が提供する研修プログラムは、人材育成の大きな助けとなる。すでに蓄積されたノウハウが共有され、フランチャイズで持っているシステムを利用できるので業務の効率化も可能だ。特に、宅地建物取引士の資格取得支援や営業スキル研修、デジタルツール活用研修など、体系的な教育プログラムが用意されている点は見逃せない。

新人教育に時間を割けない中小企業にとって、FC本部の教育システムは即戦力化への近道となる。標準化されたマニュアルと実践的な研修により、未経験者でも短期間で一定レベルの営業活動が可能になる。

横のネットワークが生む相乗効果

フランチャイズは、他事務所の経営者との交流も多くあるため心配事も共有できますし、そこで刺激を受けることでモチベーションのアップにもなります。孤独になりがちな経営者にとって、同じ立場の仲間との情報交換は精神的な支えとなるだけでなく、ビジネスチャンスの創出にもつながる。

成功事例の共有、市場動向の情報交換、共同キャンペーンの実施など、加盟店同士の協力関係は、個人経営では得られない大きなメリットだ。

デジタル化による業務効率化と働きやすさの実現

DX推進で変わる不動産営業の現場

不動産業界はアナログな業務体制、長時間労働、人手不足、顧客ニーズの多様化といった課題に直面しています。しかし、FC本部が提供するデジタルツールの活用により、これらの課題解決が加速している。

1時間あたり10件程度しか新規募集ができていなかったものが、「入力速いもん」を使えば1時間あたり20件以上を新規で掲載できるようになったという事例もある。物件情報の入力作業、大手不動産ポータルサイトへの掲載、顧客管理など、煩雑な事務作業の自動化により、営業担当者は本来の業務である顧客対応に集中できるようになる。

CRMシステムによる顧客管理の最適化

顧客情報の一元管理、追客の自動化、成約予測分析など、CRMシステムの活用は営業効率を飛躍的に向上させる。過去の来店履歴や問い合わせ内容、物件の閲覧履歴などを分析することで、より精度の高い提案が可能になる。

FC本部が提供する統一されたシステムを使用することで、導入コストを抑えながら最新のテクノロジーを活用できる点も大きなメリットだ。

オンライン内見・IT重説の標準装備

コロナ禍を経て、非対面での営業活動は必須となった。VR内見、オンライン商談、電子契約など、デジタルツールの活用により、地理的制約を超えた営業活動が可能になっている。FC本部が提供するプラットフォームを活用すれば、これらの機能を個別に導入するよりも低コストで実装できる。

人材定着率を高める組織づくりの実践

働きやすい環境の整備

人材不足の解決策は給与だけではなく、働きやすさも大きく関わってくることが明らかになっている。FC加盟により、以下のような働き方改革が実現可能だ。

  • 業務の標準化による残業時間の削減
  • デジタルツール活用による事務作業の効率化
  • 研修制度の充実による成長機会の提供
  • 加盟店間での人材交流・研修機会
  • 成功事例の共有によるモチベーション向上

メンター制度とオンボーディングの重要性

入社後それぞれメンターを選定し、分からないことはいつでも質問ができる仕組みを整えました。結果的に早期離職率が30%から15%に減少し、定着率向上に繋げることができましたという事例が示すように、新人のサポート体制は定着率に直結する。

FC本部が提供する標準化された研修プログラムと、加盟店独自のメンター制度を組み合わせることで、より効果的な人材育成が可能になる。

キャリアパスの明確化

営業担当者が将来のキャリアを描けることは、定着率向上の重要な要素だ。FC加盟により、以下のようなキャリアパスが明確になる。

  1. 営業スペシャリストとしての成長(トップセールス表彰制度など)
  2. 店舗管理者・エリアマネージャーへの昇進
  3. 独立開業支援(のれん分けなど)
  4. FC本部での研修講師・コンサルタント

成功への道筋:FC加盟を検討する際のポイント

投資対効果の見極め

FC加盟には加盟料は300万円前後で、ロイヤリティは定額制(月30万円前後)と定率制(売上の10%前後)に分けられます。これらのコストと、得られるメリットを慎重に比較検討する必要がある。

重要なのは、単なるコスト比較ではなく、ブランド力による集客効果、研修による人材育成コストの削減、システム導入費用の節約など、総合的な視点での評価だ。

自社の強みとFC本部の相性

すべてのFC本部が同じサービスを提供しているわけではない。賃貸仲介に強いFC、売買仲介に特化したFC、投資用不動産を得意とするFCなど、それぞれに特徴がある。自社の事業戦略と合致するFC本部を選択することが成功の鍵となる。

地域特性との適合性

フランチャイズでは、加盟店間で売り上げの取り合いにならないように、開業エリアを規制している場合があります。希望するエリアでの開業が可能か、既存加盟店との競合はないか、事前の確認が必要だ。

また、地域の市場特性(賃貸需要が高い、ファミリー層が多い、投資用物件が活発など)と、FC本部の強みがマッチしているかも重要な検討ポイントとなる。

不動産業界の未来を見据えて

日本不動産研究所によると、不動産の年間取引金額は4.6兆円前後で推移しています。この巨大市場において、人材不足という構造的課題を抱えながらも、業界は着実に成長を続けている。

FC加盟は、この課題に対する一つの解決策だ。ブランド力、教育システム、デジタルツール、ネットワークなど、FC本部が提供する総合的なサポートは、中小不動産業者が競争力を維持・向上させるための強力な武器となる。

ただし、FC加盟は万能薬ではない。加盟後も、地域に根ざした独自のサービス提供、顧客との信頼関係構築、従業員のモチベーション管理など、経営者としての努力は不可欠だ。

不動産営業の人材課題は、業界全体で取り組むべき重要テーマだ。FC加盟という選択肢を含め、各社が創意工夫を重ねることで、より魅力的な業界へと進化していくことが期待される。デジタル化の波、働き方改革の推進、そして新たなビジネスモデルの創出。これらの変革の中で、FC加盟は一つの有力な成長戦略として、今後も注目を集め続けるだろう。


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