アナログ負債から脱却へ 不動産賃貸仲介業が今すぐ始められる業務効率化の実践ガイド


売上は伸ばしたいが、人手不足で回らない。紙の書類に埋もれて本来の営業活動に時間を割けない――。不動産賃貸仲介業界が抱える慢性的な課題が、2025年の今、いよいよ限界点を迎えている。

厚生労働省が発表している「産業別入職者・離職者状況」の数値を見ると、2020年の不動産業・物品賃貸業の入職者数は約12万人。以前のデータでは、2019年は約12.3万人、2018年は約13.5万人だったため、年々入職者数が減少している状況だ。一方で、顧客の物件探しの手法は劇的に変化し、国土交通省の調査により「直近5年でインターネットによる情報収集が大きく増えている」ことが報告されている。

この二つの現実が示すのは明白だ。限られた人材で、より高度化する顧客ニーズに応える必要性。その答えが「業務効率化」にあることは、もはや議論の余地がない。

不動産賃貸仲介業の「時間泥棒」を見つけ出せ

紙文化という見えないコスト

ある賃貸仲介会社の営業担当者は、1日の業務時間の実に40%を書類作成や物件情報の転記作業に費やしている。物件情報を大手不動産ポータルサイトへ掲載する際、同じ内容を複数のプラットフォームに手入力。契約書類は紙ベースで作成し、FAXでやり取り。これらの作業に追われ、本来最も重要な顧客対応や追客活動が後回しになる。

内閣府の「仕事と生活の調和総括文書2007〜2020」によると、不動産業界における週労働時間が60時間以上の雇用者割合は4.2%。この数値は他業種と比較しても決して低くない水準にある。

デジタル化の遅れがもたらす機会損失

総務省の「令和元年通信利用動向調査報告書」のテレワーク導入状況の推移によると、2019年時点の不動産業のテレワーク導入状況は25.4%にとどまっており、情報通信業や金融・保険業と比べて半分程度の低水準となっている。

この数値が示すのは、単にリモートワークの導入率が低いということだけではない。業界全体のデジタル化、つまりDX(デジタル・トランスフォーメーション)への取り組みが遅れているという事実を物語っている。

業務効率化がもたらす3つの革新

1. コスト削減と利益率の改善

業務システムの導入といった効率化を進めることで、業務の専門性が高く特定の担当者しか進められなかった業務がシステム化されます。誰もが同じ時間で処理できるようになり、不要な人件費の削減が実現する。

具体例として、電子契約の導入により印刷費や郵送費が削減され、年間で数十万円のコスト削減を実現した事例も報告されている。

2. 顧客満足度の劇的な向上

業務効率化に取り組むことによって、従業員の時間にゆとりが生まれ新たなサービスの提案やビジネスモデルの立案といった顧客満足度に直結しやすい業務に注力できるようになる。

オンラインでの重要事項説明、VRを使った内見、各種SNSを使った情報発信など、顧客の期待を超えるサービス提供が可能となる。

3. 従業員満足度と定着率の向上

残業時間の抑制に繋がり、社員の満足度向上、引いては離職率の向上に役立てることができる。特に繁忙期における業務負担の平準化は、従業員のワークライフバランス改善に直結する。

今すぐ始められる業務効率化の実践手法

STEP1:業務の可視化と優先順位付け

まず取り組むべきは、現状の業務フローの棚卸しだ。日々の業務を「営業活動」「事務作業」「顧客対応」「社内連携」の4つに分類し、それぞれにかかる時間を計測する。多くの場合、事務作業が想定以上の時間を占めていることに気づくはずだ。

STEP2:デジタルツールの段階的導入

第一段階:基幹システムの導入

物件・顧客情報を一元管理するための賃貸管理システムの導入を検討するのがおすすめ。賃貸管理システムを導入して情報を一元化することで、一度入力した情報を何度も複数の部署で入力しなければならないといった無駄を省くことができる。

第二段階:顧客管理の高度化

CRM(顧客関係管理)システムの活用により、顧客の希望条件に合わせた物件情報の自動配信が可能になる。追客業務の自動化により、営業効率が飛躍的に向上する。

第三段階:契約業務のデジタル化

2022年5月から不動産取引における書面の電子化が全面解禁された。電子契約システムの導入により、契約プロセスの大幅な時間短縮が実現できる。

STEP3:組織全体での意識改革

DX化を決めたら、現場で混乱を招かないためにも、DX推進を進められる人材の確保・育成を優先的に行う必要がある。

重要なのは、トップダウンでの押し付けではなく、現場の声を聞きながら段階的に進めることだ。小さな成功体験を積み重ね、組織全体でデジタル化のメリットを実感することが、持続的な業務改革につながる。

成功企業に学ぶ業務効率化の実例

中小企業でも実現可能なDX推進

2020年5月に事業継承した社長は急速なDX化に取り組み、前年比130%の受注を獲得。取り組んだ内容は主に、書面の電子化、展示場のVR化、リモート接客、SNSを利用した採用活動など、中小企業でも実現可能な施策ばかりだ。

大手企業の先進事例

三井不動産では、DX本部を設置し、徹底的な顧客目線やリアルの価値向上のため、不動産事業や商業施設、ホテル・リゾート業や運送業など、手掛ける全事業においてDXを同時推進している。メタバースを活用したモデルハウスの見学やリモート打ち合わせの導入により、顧客体験価値の向上を実現した。

フランチャイズ加盟という選択肢

業務効率化を加速させるFC本部のサポート

独力での業務効率化に限界を感じている企業にとって、フランチャイズ加盟は有効な選択肢となる。特に注目すべきは、FC本部が提供する包括的な業務支援システムだ。

ハウスコムFCでは、大手不動産テック企業の基幹システムを採用し、コンバータ・顧客管理・契約管理の3点セットを提供。これらの利用料金はロイヤリティに含まれるため、初期投資を抑えながら最新のシステムを導入できる。

ネットワークの力で課題解決

定期的に開催される加盟店会合では、各店舗の成功事例や課題解決策が共有される。25年以上の賃貸仲介業のノウハウが凝縮された研修プログラムや、本部主催のベンチマークセミナーを通じて、最新の業界動向や効率化手法を学ぶことができる。

継続的な伴走支援

本部スタッフによる定期的な巡回(リアル/オンライン)により、導入したシステムの活用度向上や、新たな課題への対応策を継続的にサポート。「導入したけれど使いこなせない」という失敗を防ぐ仕組みが整っている。

まとめ:変化を恐れず、一歩踏み出す勇気

不動産賃貸仲介業界の業務効率化は、もはや「やった方がいい」レベルではなく、「やらなければ生き残れない」必須の経営課題となった。

しかし、すべてを一度に変える必要はない。まずは紙の書類を一つデジタル化する。物件情報の入力作業を自動化する。そんな小さな一歩から始めればいい。

重要なのは、現状維持の惰性から脱却し、変化を恐れずに前進することだ。業務効率化の先には、従業員が生き生きと働き、顧客により良いサービスを提供でき、そして企業が持続的に成長する未来が待っている。

フランチャイズ加盟という選択肢も含め、自社に最適な効率化の道筋を見つけることが、これからの不動産賃貸仲介業の成功への鍵となるだろう。