顧客の問合せ行動に激変-平均2.4社時代が不動産業界にもたらす衝撃

不動産賃貸仲介業界に、静かだが確実な地殻変動が起きている。2024年10月に発表された不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の最新調査が、業界関係者に衝撃を与えた。物件を契約した顧客が検討時に問合せた不動産会社数は平均わずか2.4社。これは過去10年間で最少の数字だ。

かつて顧客は複数の不動産会社を渡り歩き、より多くの選択肢から最良の物件を探すのが常識だった。しかし今、その行動パターンは根底から覆されている。

問合せ前に「勝負」は決まっている

データが示す顧客行動の先鋭化

調査結果をさらに詳しく見ていくと、驚くべき事実が浮かび上がる。賃貸・売買ともに「1社のみに問合せ」という顧客の割合が、直近10年で最高値を記録。特に賃貸では36.7%と、実に3人に1人以上が最初の1社で決めているのだ。

「4社以上に問合せ」する顧客の割合も、賃貸では過去最低水準まで落ち込んだ。これは単なる数字の変化ではない。顧客の意思決定プロセスそのものが、根本的に変わったことを示している。

デジタルネイティブ世代が牽引する「決断型サーチャー」の台頭

この現象の背景には、大手不動産ポータルサイトの情報充実度の飛躍的向上がある。物件写真の点数増加、360度ビューの導入、動画コンテンツの充実。顧客は問合せる前から、かなりの精度で物件を絞り込めるようになった。

特に注目すべきは、顧客が不動産会社を選ぶポイントの変化だ。「写真の点数が多い」が選定理由のトップとなり、72.1%の顧客がこれを重視している。さらに「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」も32.6%と高い支持を得ており、前年から順位を上げた。

つまり、顧客は問合せボタンを押す前に、すでに相当な情報収集と比較検討を終えているのだ。彼らは「とりあえず聞いてみる」のではなく、「ここで決める」つもりで問合せてくる。まさに「決断型サーチャー」と呼ぶべき新しい顧客像が生まれている。

「選ばれる1社」になるための新常識

情報の質と量で差をつける戦略

この新しい顧客行動パターンに対応するため、不動産会社は根本的な戦略転換を迫られている。広く浅く多くの物件を扱うのではなく、深く狭く、しかし確実に顧客の心を掴む必要がある。

RSCの調査では、顧客が不動産会社に求めるものの上位に「最新の物件情報の提供」が急浮上。賃貸・売買ともに前年比5ポイント以上の増加を見せた。さらに「豊富な物件情報の提供」も依然として高い支持を得ている。

重要なのは、単に情報を羅列することではない。顧客が本当に知りたい情報を、適切なタイミングで、分かりやすい形で提供することだ。物件のウィークポイントまで正直に開示する企業姿勢も、38.2%の顧客から評価されている。

スピードとクオリティの両立が生死を分ける

顧客満足度の調査結果も興味深い。「問合せに対するレスポンスが早かった」が満足理由の第1位(69.5%)となる一方、「問合せをしたら返答が遅かった」は不満理由の第2位(17.4%)に挙げられている。

平均2.4社という限られた接触機会の中で、初動のスピードは決定的に重要だ。しかし同時に、「言葉遣いや対応が丁寧だった」も満足理由の上位に入っており、単なるスピード勝負ではないことも明らかだ。

FC加盟が開く「選ばれる不動産会社」への道

ブランド力とシステム力の融合

このような環境下で、個人経営や中小規模の不動産会社が生き残るには、もはや個別の努力だけでは限界がある。大手不動産ポータルサイトでの露出競争、最新システムの導入、人材育成、すべてにおいて規模の経済が働く時代になった。

フランチャイズへの加盟は、この課題に対する現実的な解答の一つだ。例えばハウスコムのような200店舗規模のネットワークに参画することで、個店では実現困難な集客力とシステム力を手に入れることができる。

特に注目すべきは、基幹システムやコンバータ、顧客管理システムなどの業務支援ツールがロイヤリティに含まれる点だ。これらは単独で導入すれば月額数十万円規模のコストがかかるが、FC加盟によって初期投資を抑えながら最新のテクノロジーを活用できる。

データ共有とノウハウの横展開

さらに重要なのは、加盟店間でのデータとノウハウの共有だ。平均2.4社という限られたチャンスを確実にものにするためには、成功事例の迅速な横展開が欠かせない。定期的な加盟店会合やベンチマークセミナーを通じて、他店の成功パターンを自店に取り入れることができる。

本部主導による大手企業との業務提携も見逃せない。反響送客による支援や法人営業向けの施策など、個店では交渉すら困難な大型提携の恩恵を受けられる。

生き残りではなく、成長への転換点

変化を恐れず、変化を味方につける

不動産賃貸仲介業界は今、大きな転換点に立っている。顧客が平均2.4社にしか問合せしない時代は、弱者にとっては脅威だが、準備した者にとっては大きなチャンスでもある。

問合せ前に勝負が決まるなら、その段階で圧倒的な存在感を示せばいい。限られた接触機会しかないなら、その一回一回の質を極限まで高めればいい。個店の力だけでは難しいなら、ネットワークの力を借りればいい。

「選ばれる1社」になるための第一歩

RSCの調査結果は、単なる統計データではない。それは顧客からの明確なメッセージだ。「私たちはもう、たくさんの不動産会社を回る時間も気力もない。だから最初から、信頼できる会社を選んで問合せている」と。

このメッセージに真摯に応えることができる不動産会社だけが、次の10年を生き抜き、成長することができるだろう。フランチャイズへの加盟は、その第一歩となる選択肢の一つ。しかし最も重要なのは、変化を直視し、行動を起こす決断力だ。

顧客が「決断型サーチャー」に進化したように、不動産会社も「選ばれる存在」へと進化する時が来ている。平均2.4社時代の到来は、その変革への最後の警鐘かもしれない。