顧客は「探す手間」を嫌う。問合せ物件数4.1件が示す仲介業者の役割変化

「提案者」から「確認者」へ―データが示す不動産仲介の新時代

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2024年に発表した調査結果が、業界に静かな衝撃を与えている。物件契約者が検討時に問合せた物件数は平均わずか4.1件――。この数字は直近10年で最少であり、前年比でも0.7件減少した。

この事実が意味するのは、顧客がすでにオンラインで徹底的に絞り込みを完了させているという現実だ。賃貸では平均3.5件、売買では5.3件と、いずれも過去最低を記録している。「5物件以上」に問合せる顧客の割合も最低水準となり、売買では「1物件のみ」に問合せる割合が過去最高となった。

不動産賃貸仲介業者にとって、この変化は何を意味するのか。そして、どう対応すべきなのか。業界の最前線で起きている構造変化を読み解く。


検索行動の進化が示す「決断型サーチャー」の台頭

オンライン検索の精度が劇的に向上した理由

かつて、不動産探しといえば「とりあえず複数の物件を見てから決める」のが常識だった。しかし、大手不動産ポータルサイトの検索機能は年々進化を遂げ、立地、賃料、間取り、設備、さらには周辺環境まで、細かな条件指定が可能になった。

顧客は問合せ前に、スマートフォン一つで数百件の物件情報を閲覧し、写真、間取り図、設備詳細、周辺地図を確認できる。動画による室内紹介やバーチャル内見機能を提供するサイトも増えており、実際に現地を訪れる前に物件の多くの情報を把握できる環境が整っている。

同調査によると、不動産会社を選ぶ際のポイントとして「写真の点数が多い」が72.1%でトップとなり、「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」も前年比で上昇している。これは、顧客がオンライン上での情報収集を重視し、徹底的に比較検討してから行動に移していることを裏付けている。

「探す手間」を嫌う現代の顧客心理

問合せ物件数の減少は、顧客が「無駄な手間を省きたい」と考えている証左でもある。複数の不動産会社に問合せをして返答を待ち、何度も内見に足を運ぶ――。こうした従来型の物件探しは、時間と労力がかかりすぎると感じる顧客が増えているのだ。

同調査では、問合せた不動産会社数も平均2.7社と前年比0.2社減少し、直近10年で最少となった。「1社のみ」に問合せる割合は賃貸で36.7%、売買で47.9%と高く、顧客は最初から絞り込んだ上で行動している。

この背景には、オンラインでの情報収集が十分に行えるようになったことに加え、時間的制約の強い現代人のライフスタイルがある。共働き世帯の増加、働き方の多様化により、物件探しに割ける時間は限られている。だからこそ、顧客は「これだ」と確信できる物件に絞って問合せをしているのだ。


仲介業者の役割は「提案」から「確認」へシフトした

従来型の営業手法が通用しなくなった背景

「希望条件をお聞きして、複数の物件を提案する」――。これは長年、不動産仲介業界で標準とされてきた営業スタイルだった。しかし、顧客がすでに物件を絞り込んでいる現状では、この手法は機能しにくい。

調査によると、不動産会社の対応で不満だったこととして、賃貸では「その物件はもう空いていないと言われた」が22.2%でトップ、次いで「問合せをしたら返答が遅かった」が17.4%となった。売買では「契約の意思決定を急かされた」が15.8%、「問合せをしたら返答が遅かった」が14.7%と続く。

ここから読み取れるのは、顧客が求めているのは「素早く正確な情報提供」と「自分のペースでの意思決定」だということだ。多くの物件を提案されることよりも、問合せた物件について迅速かつ的確に回答してもらい、最終確認のサポートを得たいと考えている。

新時代の仲介業者に求められる「最終確認者」としての役割

では、仲介業者はどのような役割を担うべきなのか。それは「最終確認者」としての機能だ。

顧客はオンラインで徹底的に情報を収集し、ほぼ決断を固めた状態で問合せをしてくる。仲介業者に求められるのは、その決断が正しいかどうかを最終確認するサポートである。具体的には以下のような対応が重要となる。

1. 即応性の徹底 問合せに対する迅速な対応は、顧客満足度に直結する。調査でも「問合せに対するレスポンスが早かった」が満足度の第1位(全体で71.4%)となっている。物件の空室状況、内見可能日時、契約条件などを素早く正確に伝えることが、信頼獲得の第一歩だ。

2. 物件情報の透明性と正確性 調査では、不動産会社に求めるものとして「豊富な物件情報の提供」が前年比で大幅に上昇し、特に「最新の物件情報の提供」は賃貸・売買ともに5ポイント超の増加となった。顧客は情報の鮮度と正確性を重視している。「空いていると思ったのに空いていなかった」という事態を避けるため、リアルタイムでの情報更新が不可欠だ。

3. 顧客ペースでの意思決定支援 「契約の意思決定をこちらのペースに合わせてくれた」という項目が満足度で高評価を得ている。急かさず、しかし必要な情報は的確に提供し、顧客自身が納得して決断できる環境を整えることが重要だ。

4. プロとしての付加価値提供 オンラインでは得られない情報――周辺環境の詳細、物件の細かな特徴、入居後の注意点など――をプロの視点から提供することで、顧客の最終確認をサポートする。「物件や不動産に詳しかった」という項目が満足度で評価されているのは、こうした専門知識への期待の表れだ。


業務効率化とシステム投資が勝敗を分ける時代

少ない問合せ数で成約率を高めるための戦略

問合せ物件数が減少している現状では、1件1件の問合せの質が極めて重要になる。顧客はすでに絞り込んでいるため、適切に対応すれば成約率は高まる。逆に、対応を誤れば即座に他社に流れてしまう。

この環境で求められるのは、以下のような業務体制の構築だ。

迅速な対応を可能にするシステム整備 問合せ対応の速度を上げるには、物件情報のリアルタイム管理システム、顧客管理(CRM)システム、自動応答機能などのデジタルツールが不可欠だ。しかし、中小規模の仲介業者が独自にこうしたシステムを構築・運用するのは、コスト面でもノウハウ面でも容易ではない。

情報更新の迅速化 大手不動産ポータルサイトへの物件情報掲載において、情報の鮮度を保つことが競争力の源泉となる。空室情報の即時更新、写真や動画の充実、物件詳細情報の正確な記載――。これらを日常的に実施できる体制が求められる。

スタッフの教育と知識向上 「最終確認者」としての役割を果たすには、スタッフの専門知識とコミュニケーション能力が重要だ。地域情報、法規制、設備の詳細など、顧客の疑問に即座に答えられる体制を整える必要がある。

フランチャイズ加盟がもたらす競争優位性

こうした課題に対し、多くの中小仲介業者が注目しているのがフランチャイズ加盟という選択肢だ。

フランチャイズ本部が提供する統一されたシステムインフラ、ブランド力、運営ノウハウは、個店では実現困難な水準のサービス提供を可能にする。特に以下の点で優位性を発揮する。

最新システムの活用 物件管理システム、顧客管理システム、ポータルサイト連携システムなど、高額な初期投資が必要なITインフラを、フランチャイズパッケージとして利用できる。これにより、問合せへの迅速な対応、正確な情報提供が可能となる。

ブランド認知度の活用 大手不動産ポータルサイト上で顧客が物件を検索する際、知名度のある企業名は信頼感を与える。調査でも「地元で知名度のある会社である」が不動産会社選びのポイントとして挙げられており、ブランド力は集客に直結する。

継続的な教育・研修体制 フランチャイズ本部が提供する定期的な研修やノウハウ共有により、スタッフの専門性を継続的に向上させられる。業界トレンドや法改正への対応も、本部のサポートによってスムーズに行える。

情報共有とベストプラクティスの展開 全国のフランチャイズ加盟店間での成功事例や課題解決策の共有により、効率的な業務改善が可能になる。他店の取り組みを参考にしながら、自店の運営を最適化できる。


実践的Tips:顧客の「最終確認者」として選ばれるために

ここからは、明日からでも実践できる具体的なアクションをご紹介する。

問合せ対応速度を上げる5つの工夫

  1. 問合せフォームの自動返信機能を活用 問合せ直後に「受付完了」の自動返信メールを送信し、「担当者から○時間以内にご連絡します」と明示する。これだけで顧客の不安は大きく軽減される。
  2. 物件情報の即時確認体制を整備 物件の空室状況を即座に確認できる社内体制を構築する。管理会社との連携を密にし、リアルタイムでの情報把握を心がける。
  3. テンプレート回答を用意しつつ個別対応を忘れない よくある質問への回答テンプレートを作成し、対応時間を短縮する。ただし、機械的な対応にならないよう、顧客の個別状況に応じたカスタマイズを加える。
  4. 営業時間外の問合せにも初動対応 深夜や早朝の問合せには、翌営業日に詳細回答する旨を自動返信で伝える。「放置されている」という印象を与えないことが重要だ。
  5. 社内での情報共有を徹底 担当者が不在でも他のスタッフが対応できるよう、顧客情報と対応履歴を社内で共有する仕組みを作る。

物件情報の充実度を高める実践策

  1. 写真は最低20枚、多角的に撮影 調査で「写真の点数が多い」が重視されていることを踏まえ、部屋の各角度、設備の詳細、共用部、周辺環境など、多様な写真を掲載する。
  2. 動画コンテンツの積極活用 「部屋の雰囲気が分かる動画」のニーズは年々高まっている。スマートフォンでも撮影できるため、気軽に取り入れてみる価値がある。
  3. 物件のウィークポイントも正直に記載 調査では「物件のウィークポイントも書かれている」が不動産会社選びのポイントで高評価を得ている。透明性が信頼につながる。
  4. 周辺環境情報を充実させる スーパー、駅、学校、病院などへの距離と所要時間を具体的に記載する。実際に歩いて確認した情報は説得力が増す。
  5. 定期的な情報更新の習慣化 週に一度は全掲載物件の情報をチェックし、空室状況、設備変更などを最新状態に保つルーティンを確立する。

顧客対応で差をつける7つのポイント

  1. 初回問合せは1時間以内の返信を目指す スピードが勝負の時代。特に初回対応の速さが印象を決定づける。
  2. 質問には具体的な数字で答える 「近いです」ではなく「徒歩5分、約350m」と答える。曖昧な表現は避け、客観的データを提示する。
  3. 顧客の意思決定を急かさない 「今日中に決めないと」といった営業トークは逆効果。顧客のペースを尊重する姿勢を示す。
  4. 内見時は物件の欠点も正直に伝える 長期的な信頼関係構築のため、メリットだけでなくデメリットも説明する誠実さが重要。
  5. 地域の生活情報を積極的に提供 オンラインでは得にくい、実際に住む際の生活情報(ゴミ出し、騒音、治安など)を提供する。
  6. 契約後のフォロー体制を明示 入居後の困りごとにも対応できる体制があることを伝え、長期的な関係性を示唆する。
  7. 言葉遣いと態度に細心の注意 調査で「言葉遣いや対応が丁寧だった」が高評価を得ている。基本的なビジネスマナーが信頼の土台となる。

変化への適応が生き残りの鍵

不動産賃貸仲介業界は、デジタル化と顧客行動の変化によって大きな転換点を迎えている。問合せ物件数4.1件という数字は、顧客がすでに「探す手間」を嫌い、徹底的に絞り込んでから行動に移す時代になったことを明確に示している。

この変化は、仲介業者にとって脅威ではなく、チャンスでもある。物件を提案する役割から、顧客の最終決断を支える「確認者」としての役割にシフトすることで、少ない問合せでも高い成約率を実現できる。

そのためには、迅速な対応体制、正確な情報提供、顧客ペースでの意思決定支援、そしてプロとしての付加価値提供が不可欠だ。これらを実現するには、システム投資、スタッフ教育、業務プロセスの見直しが必要となる。

独力でこれらすべてを実現するのは容易ではない。だからこそ、フランチャイズ加盟という選択肢が、多くの中小仲介業者にとって有力な戦略となっている。本部が提供するシステム、ブランド力、ノウハウを活用することで、急速に変化する市場環境に適応し、競争力を維持・向上させることができる。

重要なのは、変化を恐れず、新しい顧客行動パターンに合わせて自社の営業スタイルを進化させることだ。「最終確認者」としての役割を全うできる仲介業者こそが、これからの時代に選ばれ、成長していくことができるだろう。

顧客は既に変わった。次は、仲介業者が変わる番である。