契約期間2週間未満が過去最高に。変わる顧客行動に不動産会社はどう対応すべきか


不動産賃貸仲介業界に、静かな地殻変動が起きている。2024年の調査データが示すのは、契約までのスピードが加速度的に短縮され、顧客が問い合わせる不動産会社の数も過去10年で最少となった現実だ。「じっくり比較検討する」時代は終わり、「最初の1社で決める」顧客が急増している。この変化に対応できなければ、せっかくの問い合わせも他社に流れてしまう。本記事では、最新の統計データを読み解きながら、スピード重視の顧客を確実に成約へ導くための実践的なプロセス改善策を提示する。

契約期間短期化の衝撃――データが示す業界の転換点

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2024年に実施した調査結果は、業界関係者に衝撃を与えている。住まい探しから契約までの期間で「2週間未満」と回答した割合が、賃貸・売買ともに過去10年で最も高くなったのだ。

賃貸では26.3%、売買でも16.5%が2週間未満で契約に至っている。特に注目すべきは売買の数字だ。従来、売買物件は慎重に検討する傾向が強く、数カ月かけて決断するのが一般的だった。それが6人に1人は2週間以内に契約を決めているという事実は、顧客の意思決定プロセスそのものが変容していることを物語る。

一方で、長期化の傾向も弱まっている。6カ月以上かけて契約した割合は、賃貸で前年比4.7ポイント減、売買で8.5ポイント減と大幅に減少した。つまり、極端に時間をかける層と短期で決める層の二極化ではなく、全体として検討期間が短縮される方向へシフトしているのだ。

「1社主義」の台頭――問い合わせ社数も過去最少に

契約期間の短期化と並行して、もう一つの重要な変化が起きている。顧客が問い合わせる不動産会社の数も、過去10年で最少となった。

契約に至った顧客が検討時に問い合わせた不動産会社数は平均2.3社。前年比で0.2社減少し、賃貸・売買ともに「1社のみ」と回答した割合が過去10年で最も高くなった。特に賃貸では36.7%が1社のみへの問い合わせで契約しており、3人に1人以上が最初に接触した不動産会社で決めている計算になる。

さらに興味深いのは、問い合わせた物件数も減少傾向にある点だ。平均7.5物件と前年比で1.4物件減少し、こちらも過去10年で最少を記録した。賃貸では5.4物件、売買では12.7物件と、いずれも直近10年で最も少ない。

これらのデータが意味するのは明確だ。顧客は事前にインターネットで十分に情報収集し、候補を絞り込んだ上で問い合わせている。大手不動産ポータルサイトの情報が充実し、物件の詳細や周辺環境まで事前に把握できるようになったことで、「とりあえず複数社に聞いてみる」という行動パターンが減少しているのである。

スピード対応が成約率を左右する時代

調査データからは、顧客が不動産会社に求めるものも鮮明になっている。問い合わせた不動産会社の対応で「満足だったこと」の第1位は「レスポンスが早かった」(69.5%)だ。一方、「不満だったこと」では賃貸で「その物件はもう無いと言われた」(22.2%)がトップだが、第2位には「問い合わせをしたら返答が遅かった」(17.4%)がランクインしている。

特筆すべきは、「問い合わせをしたら返答が遅かった」という不満が、前年は賃貸で5位、売買で4位だったのに対し、今年は賃貸・売買ともに2位へ上昇した点だ。顧客の期待水準が上がり、レスポンスの速さがより重視されるようになっている証左である。

また、不動産会社を選ぶ際の特にポイントとなる点として「豊富な物件情報の提供」が3年連続で増加し、1位にランクインした。さらに不動産会社に求めるもので「最新の物件情報の提供」が賃貸・売買ともに前年比5ポイント超の増加となっている。鮮度の高い情報を、迅速に提供できるかどうかが、顧客獲得の鍵を握っているのだ。

業務プロセス改善の3つの柱

では、スピード重視の顧客を逃さないために、不動産会社はどのような改善を行うべきか。具体的な施策を3つの視点から整理する。

1. 情報共有システムの刷新――リアルタイム性の確保

最も重要なのは、物件情報の鮮度管理だ。「その物件はもう無い」という回答が顧客満足度を大きく下げる要因になっている以上、在庫情報のリアルタイム更新は必須である。

具体的には、物件管理システムと顧客対応システムを連携させ、成約済み物件を即座に非公開にする仕組みの構築が求められる。また、新着物件情報も速やかに全スタッフが共有できる体制が必要だ。朝礼での口頭共有や紙ベースの資料配布では、もはや対応しきれない。

大手不動産テック企業が提供する基幹システムの活用も一つの解決策となる。コンバータ、顧客管理、契約管理が一体化したシステムを導入することで、情報の一元管理とリアルタイム共有が実現できる。

2. 意思決定プロセスの迅速化――権限委譲と判断基準の明確化

顧客からの問い合わせに対し、「上司に確認します」「本部に照会が必要です」といった回答が頻発すると、レスポンス速度は低下する。意思決定プロセスの見直しが不可欠だ。

まず、現場スタッフへの権限委譲を進めるべきである。値引き交渉の可否、内見日程の調整、申込受付の判断など、一定のルール内であれば現場で即決できる体制を整える。その際、判断基準を明文化し、全スタッフに共有することが重要だ。

また、上司や管理職への相談が必要な案件については、オンラインコミュニケーションツールを活用し、迅速な意思決定を可能にする。メールでの往復よりも、チャットでの即時相談の方が圧倒的に早い。

3. 顧客対応の標準化――初動24時間以内のルール策定

問い合わせから初回対応までの時間を標準化することも効果的だ。例えば「問い合わせから24時間以内に必ず初回連絡を行う」といったルールを設定し、組織全体で遵守する。

この際、単に「早く返信する」だけでなく、初回対応の質も担保する必要がある。物件の詳細情報、周辺環境の説明、内見可能日時の提示など、顧客が次のアクションを起こせる情報を盛り込むことが重要だ。

また、問い合わせ対応の優先順位付けも検討に値する。反響の鮮度が高いほど成約率が高いというデータもあり、新規問い合わせへの対応を最優先に位置づけるべきだろう。

フランチャイズ本部のサポート活用という選択肢

こうしたプロセス改善を自社単独で実現するのは、人的リソースやノウハウの面で困難を伴う場合も多い。そこで有効な選択肢となるのが、実績あるフランチャイズ本部のサポートを活用することだ。

例えば、25年以上の歴史を持つ賃貸仲介企業が展開するフランチャイズシステムでは、直営店約200店舗で培ったノウハウを加盟店に提供している。三大都市圏で築き上げたブランド力により、大手不動産ポータルサイトからの集客支援や、物件仕入れのサポートが受けられる。

特に注目すべきは、業務システムの提供だ。大手不動産テック企業の基幹システムを採用し、コンバータ・顧客管理・契約管理の3点セットをロイヤリティに含めて利用できる仕組みは、初期投資を抑えながら業務効率化を実現できる。

また、定期的な加盟店会合を通じて、他店舗の成功事例や課題解決のヒントを得られる点も大きなメリットだ。自社だけでは気づかないプロセス改善の視点を、ネットワークを通じて獲得できる。

本部スタッフによる定期巡回(リアル・オンライン)では、個別の課題に対して具体的なアドバイスを受けられる。経営者だけでなく、従業員レベルでの相談にも対応しており、現場の実務改善に直結する支援が期待できる。

顧客の期待値上昇に応える組織づくりを

不動産賃貸仲介業界は、顧客行動の変化という大きな転換点を迎えている。契約期間の短期化、問い合わせ社数の減少、そしてレスポンス速度への期待値上昇。これらは一過性のトレンドではなく、デジタル化が進む社会における構造的な変化だ。

「最初に問い合わせた1社」で契約を決める顧客が増えている今、その1社に選ばれるかどうかは、情報提供の速さと質にかかっている。社内の情報共有体制を見直し、意思決定プロセスを迅速化し、顧客対応を標準化する。これらの改善を着実に実行できる組織だけが、変化する市場で生き残ることができる。

単独での改革が困難であれば、実績あるフランチャイズ本部のサポートを活用するのも賢明な選択だ。重要なのは、現状維持ではなく、変化に対応するための一歩を踏み出すことである。顧客は既に変わった。次に変わるべきは、不動産会社の側なのだ。


※本記事で引用したデータは、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2024年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(有効回答数1,642人)に基づいています。