写真点数73.2%の衝撃。物件写真が営業マンより雄弁に語る時代

「あの物件、写真が少ないから問い合わせるのをやめた」──不動産賃貸仲介業界に激震が走るデータが明らかになった。2024年、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が実施した調査によると、物件契約者が不動産会社を選ぶ際の最重要ポイントは「写真の点数が多い」ことであり、その割合は73.2%に達した。さらに注目すべきは、「特にポイントとなる点」においても39.8%で1位を獲得し、前年比で増加傾向にあることだ。立地、店舗のアクセス、営業担当者の対応力──これまで不動産業界で重視されてきた要素を差し置いて、なぜ今「写真」なのか。デジタルショールーム時代の到来を告げるこのデータが示す、不動産賃貸仲介業者の生き残り戦略を徹底解剖する。
データが証明する「写真ファースト」時代の幕開け
店舗立地より物件写真──顧客の行動が変わった
2024年の調査結果は、不動産賃貸仲介業界における顧客行動の劇的な変化を浮き彫りにした。物件契約者が不動産会社を選ぶ際のポイントとして「写真の点数が多い」と回答した割合は、全体で73.2%(賃貸73.2%、売買70.4%)に達し、2位以下を大きく引き離している。
さらに興味深いのは、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という項目が、賃貸で前年比5.5ポイント減、売買で同8.4ポイント減と大幅に下落したことだ。つまり、顧客は「駅前の便利な店舗」よりも「物件情報の質と量」を重視する時代に突入したのである。
問い合わせ前の「絞り込み」が加速
同調査では、物件契約者が検討時に問い合わせた不動産会社数が平均2.7社(前年比0.4社減)、問い合わせた物件数が平均6.4物件(前年比1.0物件減)と、いずれも直近10年で最少となった。これは何を意味するのか。
顧客は問い合わせる前に、大手不動産ポータルサイトや不動産会社のウェブサイトで徹底的に情報を精査し、候補を絞り込んでいる。その際の判断基準こそが「写真の充実度」なのだ。写真が少ない、または質が低い物件は、問い合わせ段階にすら到達できない──これが現実である。
なぜ「写真」が営業マンを超えたのか
スマートフォン検索が変えた顧客心理
現代の顧客は、通勤電車の中、カフェでの休憩時間、自宅のソファで寝転びながら物件を探す。スマートフォンで大手不動産ポータルサイトを閲覧し、数百、数千の物件を指先一つでスクロールしていく。この環境下では、文字情報よりも視覚情報が圧倒的に優位となる。
間取り図だけでは想像できない「生活のリアル」を、写真は雄弁に語る。リビングに差し込む自然光の明るさ、キッチンの使い勝手、バスルームの清潔感──こうした要素は、営業担当者の説明よりも1枚の写真のほうが正確に、そして迅速に伝達できる。
「部屋の雰囲気が分かる動画」の台頭
調査では「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」という項目が、全体で前年8位から6位に上昇し、売買においては3年連続で7ポイント以上増加している。静止画だけでなく、動画による没入体験を求める顧客が急増しているのだ。
これは、コロナ禍を経て定着した非対面型接客の影響も大きい。オンライン内見やIT重説が一般化した今、顧客は「実際に足を運ぶ前にできる限り情報を得たい」という欲求を強めている。
写真撮影への投資が最優先事項である理由
問い合わせ数に直結する「第一印象」
不動産ビジネスにおいて、問い合わせ数は売上の生命線である。73.2%という数字が示すのは、写真の質と量が問い合わせ数に直結するという厳然たる事実だ。
例えば、同じ条件の物件が2つあったとしよう。一方は5枚の写真、もう一方は20枚の充実した写真。どちらが問い合わせを獲得するかは明白である。写真撮影への投資は、広告宣伝費ではなく「営業機会創出費」として捉えるべきなのだ。
競合との差別化を実現する具体策
では、どのような写真が効果的なのか。調査結果から読み解くと、以下の要素が重要となる:
1. 網羅性:全室を撮影する リビング、キッチン、バスルーム、トイレ、洗面所、バルコニー、玄関、収納──顧客は「見えない部分」に不安を感じる。すべての空間を撮影し、透明性を確保することが信頼につながる。
2. 多角的視点:1室につき複数アングル 1つの部屋を異なるアングルから撮影することで、空間の広がりや使い勝手を立体的に伝えられる。特にリビングは、窓からの眺望、家具配置のイメージができる複数ショットが効果的だ。
3. 時間帯の考慮:自然光の魅力 自然光が差し込む時間帯に撮影することで、部屋の明るさと開放感を最大限にアピールできる。同じ部屋でも、撮影時刻によって印象は大きく変わる。
4. ディテールへのこだわり:設備の詳細 システムキッチンの機能、バスルームの追い焚き機能、収納の奥行き──こうした設備の詳細写真は、顧客の「知りたい」に応える。
5. 動画の活用:没入体験を提供 玄関から各部屋へのウォークスルー動画は、顧客に「実際に住む」イメージを鮮明に与える。スマートフォンでも十分なクオリティの動画が撮影できる時代だ。
デジタルショールーム時代の勝者となるために
オーナーへの説得材料としての「写真戦略」
「うちの物件は写真を増やす必要がない」と考える物件オーナーも少なくない。しかし、73.2%というデータは、オーナーを説得する最強の武器となる。
問い合わせ数が増えれば、内見数が増え、成約率が向上する。空室期間が短縮され、オーナーの収益も改善する──この論理構造を、データを示しながら丁寧に説明することで、写真撮影への理解と協力を得られるはずだ。
システム投資とノウハウ蓄積の重要性
写真撮影は一度きりの作業ではない。継続的に高品質な写真を提供するには、撮影技術の標準化、機材の整備、画像管理システムの構築が必要となる。
また、大手不動産ポータルサイトへの物件掲載においても、写真の質と量は検索結果での表示順位に影響を与える可能性がある。SEO対策と同様に、「ビジュアルSEO」の概念が不動産業界でも重要性を増している。
FC加盟という選択肢──システムとノウハウの即時獲得
こうした写真戦略を自社で一から構築するには、時間とコストがかかる。そこで注目されているのが、フランチャイズ(FC)加盟という選択肢だ。
実績のあるFCチェーンに加盟することで、すでに確立された写真撮影ガイドライン、専用機材の提供、撮影技術研修、画像管理システムなどを即座に活用できる。さらに、本部が大手不動産ポータルサイトとの交渉力を持っているため、物件情報の露出機会も最大化される。
「デジタルショールーム」としての店舗運営ノウハウ、オンライン接客のシステム、IT重説のサポートなど、写真戦略を含めた包括的なデジタル対応が、FC加盟の大きなメリットとなっている。
**顧客が求める「透明性」と「情報量」
「ウィークポイントも書かれている」が評価される時代
調査では「物件のウィークポイントも書かれている」が不動産会社選択のポイントとして38.7%(全体)に達し、第2位となった。これは、顧客が「都合の良い情報だけを見せられる」ことへの警戒感を持っていることを示している。
写真においても同様だ。良い角度からの撮影だけでなく、デメリットとなり得る要素(隣接建物との距離、日当たりの限界など)も正直に見せることが、逆に信頼を獲得する。透明性こそが、デジタル時代の顧客との信頼関係構築の鍵なのだ。
レスポンスの速さと情報の鮮度
調査結果では、不動産会社の対応で満足した点として「レスポンスが早かった」が69.5%(賃貸)でトップとなった。一方、不満だった点では「問い合わせをしたら返答が遅かった」が17.4%(賃貸)で第2位にランクインしている。
写真の充実度に加え、問い合わせへの迅速な対応、最新の物件情報の提供──これらが三位一体となって初めて、顧客満足度は最大化される。写真で興味を引き、スピード対応で信頼を得て、成約につなげるというフローの確立が不可欠だ。
2025年、写真戦略なくして生き残れない
競合との差は「今日の行動」で決まる
不動産賃貸仲介業界は、これまで以上に厳しい競争環境に突入している。問い合わせ前の絞り込みが加速する中、顧客の目に留まらなければ、どれだけ優秀な営業担当者がいても意味がない。
73.2%という数字は、業界全体に対する明確なメッセージである。写真撮影への投資を最優先事項と位置づけ、今日から行動を起こした企業だけが、2025年以降も顧客から選ばれ続けるのだ。
実践的アクションプラン
明日から実行できる具体的なアクションを以下に示す:
1. 自社物件の写真棚卸し 現在掲載中の物件写真を見直し、10枚以下の物件をリストアップする。これらを優先的に再撮影する。
2. 撮影マニュアルの作成 必須撮影箇所、推奨アングル、時間帯、画像サイズなどを標準化したマニュアルを作成し、全スタッフで共有する。
3. 機材への投資 スマートフォンでも十分だが、広角レンズ、三脚、照明などの基本機材を揃えることで、品質が飛躍的に向上する。
4. オーナーへの提案書作成 73.2%のデータを盛り込んだ提案書を作成し、写真撮影協力の依頼に活用する。
5. 動画撮影のトライアル まずは1物件からでも動画撮影に挑戦し、反応を検証する。
6. FC加盟の検討 自社でのシステム構築が困難な場合は、すでに写真戦略を確立しているFCチェーンへの加盟を選択肢として検討する。
まとめ:写真が語る時代、営業マンの役割は変わる
写真点数73.2%という数字は、単なる統計ではない。これは、不動産賃貸仲介業界における顧客行動の根本的な変化を示す、時代の分岐点である。
しかし、これは営業担当者の役割が消失することを意味しない。むしろ、写真で顧客の興味を最大限に引き出した上で、問い合わせ対応や内見時のコンサルティング、契約交渉といった「人間にしかできない価値提供」に集中できるようになる。
デジタルショールームとしての物件情報の充実と、人的サービスの質的向上──この両輪を回すことができる企業だけが、これからの不動産賃貸仲介業界で勝者となる。
写真は、もはや「あれば良い」ものではない。73.2%の顧客が求める、ビジネス成功のための必須要件なのだ。今日から、あなたの会社の写真戦略を見直してほしい。その一歩が、明日の問い合わせ、来月の契約、来年の売上を変えていく。
【記事執筆にあたって参照したデータ】 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート調査結果」(2024年10月)