10年前の常識は通用しない。顧客行動の10年間の変化を一挙公開

「物件を見てもらえない」「問い合わせが来ない」——。そんな悩みを抱える不動産賃貸仲介業者が増えている。実は、この10年で顧客の住まい探し行動は劇的に変化しており、従来の営業スタイルが通用しなくなっているのだ。業界最大規模の調査データが示す「顧客行動の不可逆的変化」を読み解き、これからの時代に求められる戦略を探る。
衝撃のデータ:問い合わせ社数・物件数が10年で最少に
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2024年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」は、不動産賃貸仲介業界に大きな衝撃を与えた。物件を実際に契約した顧客の行動を分析した結果、検討時に問い合わせた不動産会社数は平均2.4社と、前年比0.5社減少。直近10年間で最少の数値を記録したのである。
さらに注目すべきは、問い合わせた物件数も平均6.2物件と、前年比1.3物件減少し、こちらも10年間で最少となった点だ。
「複数社に問い合わせる」時代の終焉
賃貸物件の検討において、「1社のみに問い合わせた」と回答した顧客の割合は、10年間で最も高い水準に達している。一方、「6社以上に問い合わせた」割合は10年で最低となった。
売買物件でも同様の傾向が見られ、顧客は問い合わせ前に不動産会社を厳選する行動パターンが定着しつつあることが明らかになった。
物件数でも同じ傾向:「絞り込んでから動く」顧客
物件数のデータはさらに顕著だ。賃貸では平均5.0物件、売買では平均8.2物件と、いずれも直近10年で最少を記録。特に「11物件以上に問い合わせた」顧客の割合は過去最低となり、逆に「1物件のみに問い合わせた」割合は過去最高となった。
つまり、顧客は情報収集の段階で候補を大幅に絞り込み、ピンポイントで問い合わせる行動を取るようになっているのだ。
なぜ顧客行動は変化したのか?4つの構造的要因
1. 情報の透明化とオンライン化の加速
大手不動産ポータルサイトをはじめとする情報インフラの整備により、顧客は自宅にいながら大量の物件情報にアクセスできるようになった。間取り図、写真、動画、周辺環境情報まで、かつては店舗訪問が必要だった情報が、すべてスマートフォンで確認可能になっている。
2. 検索精度の向上と「比較疲れ」
情報過多の時代において、顧客は効率的な意思決定を求めている。検索機能の高度化により、条件にマッチする物件が瞬時に抽出できる一方で、「比較検討する労力」を避けたいという心理も働く。結果として、事前に徹底的に絞り込んでから行動する顧客が増加した。
3. 口コミと評判の重視
不動産会社を選ぶ際のポイントとして、「不動産会社に対する口コミ情報」が重要視されるようになっている。顧客は事前にネット上で不動産会社の評判をリサーチし、信頼できる会社にのみ問い合わせる傾向が強まっている。
4. 時間効率を最優先する価値観の浸透
働き方改革やライフスタイルの多様化により、住まい探しにかける時間を最小化したいというニーズが高まっている。調査データによれば、契約までの期間が「1週間未満」の顧客割合も増加傾向にあり、スピーディーな意思決定が求められている。
従来型営業が通用しない理由
この顧客行動の変化は、不動産賃貸仲介業者にとって何を意味するのか。
「来店してもらえば何とかなる」思考の崩壊
10年前であれば、とりあえず来店してもらい、複数の物件を提案して成約につなげる手法が通用した。しかし現在は、顧客が来店する時点で既に物件を絞り込んでいるケースが大半だ。その場で別の物件を提案しても、顧客の反応は鈍い。
「物件数で勝負」戦略の限界
大量の物件情報を抱えることが競争優位につながるという考え方も、もはや通用しない。顧客は膨大な選択肢よりも、自分に最適な物件を効率的に見つけられるかどうかを重視している。
接客の質が問われる時代
調査データによれば、不動産会社に対する満足度で最も高かったのは「問い合わせに対するレスポンスが早かった」(69.5%)だった。一方、不満の1位は「その物件はもう無いと言われた」(22.2%)である。
つまり、情報の正確性とレスポンスの速さが、顧客満足度を左右する最重要要因となっているのだ。
変化する市場で生き残るために:3つの必須戦略
戦略1:オンライン上での「見つけてもらう力」を強化
顧客が問い合わせ前に絞り込みを行う以上、検索段階で選ばれる存在になる必要がある。物件写真の充実、動画コンテンツの活用、物件情報の詳細な記載——こうした基本が、今や生命線となっている。
調査では、不動産会社を選ぶポイントとして「写真の点数が多い」(72.1%)が最多となり、「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」(32.6%)も年々増加している。視覚的な情報充実度が、問い合わせ獲得の鍵を握る。
戦略2:「最新かつ正確な情報」の徹底管理
「最新の物件情報の提供」を不動産会社に求める声は、賃貸・売買ともに5ポイント超の増加を記録している。既に成約済みの物件が掲載されていたり、情報が古かったりすれば、即座に信頼を失う時代だ。
物件情報の更新頻度を高め、リアルタイムで空室状況を管理できる体制構築が不可欠である。
戦略3:レスポンス速度とフォロー体制の最適化
顧客は効率的な住まい探しを求めている。問い合わせへの迅速な対応、内見調整のスムーズさ、顧客都合への柔軟な配慮——こうした「顧客体験の質」が、成約率を大きく左右する。
調査で満足度2位となった「内見をさせてくれた」(53.9%)という項目は、当たり前のようでいて、顧客の期待に確実に応えることの重要性を示している。
独立系仲介業者が直面する構造的課題
ここまで見てきた顧客行動の変化は、特に独立系の不動産賃貸仲介業者にとって深刻な課題を突きつけている。
物件情報の獲得競争
大手不動産ポータルサイトへの掲載費用は年々上昇傾向にあり、中小規模の業者にとって大きな負担となっている。一方で、掲載しなければ顧客の目に触れる機会すら失われる。
システム投資の重荷
物件情報のリアルタイム更新、顧客管理システム、オンライン接客ツール——これらへの投資が求められるが、独力で最新システムを導入・運用するのは容易ではない。
採用・教育コストの増大
レスポンス速度と接客品質を維持するには、優秀なスタッフの確保と継続的な教育が必要だ。しかし人材獲得競争は激化しており、給与水準の引き上げが経営を圧迫するケースも多い。
フランチャイズ加盟という選択肢:変化に対応する「仕組み」の力
こうした構造的課題を解決する手段として、不動産フランチャイズへの加盟を選択する事業者が増えている。
集客力の共有:ブランド力による検索優位性
確立されたブランドを持つフランチャイズ本部は、大手不動産ポータルサイトとの強固な関係を構築している。加盟することで、個店では実現困難な集客チャネルを獲得できる可能性がある。
顧客が「信頼できる不動産会社」を事前に絞り込む時代だからこそ、知名度とブランド力は問い合わせ獲得の重要な武器となる。
システム・ツールの一括提供
物件管理システム、顧客管理CRM、オンライン接客ツール——フランチャイズ本部が提供する各種システムを活用することで、個別投資の負担を大幅に軽減できる。常に最新のテクノロジーを利用できる環境は、変化の激しい市場での競争力維持に直結する。
ノウハウの共有と継続的な教育体制
成功事例の共有、接客研修、法令対応のサポート——本部から提供される知見とトレーニングプログラムは、スタッフの質の向上とサービスレベルの標準化に寄与する。
特に、顧客満足度を左右する「レスポンス速度」や「物件情報の正確性」といった要素は、組織的な仕組みとノウハウがあってこそ実現できる。
物件情報の相互活用
フランチャイズネットワーク内で物件情報を共有できる仕組みがあれば、自社で抱える物件数の限界を超えた提案が可能になる。顧客が求める「最適な物件」を提供できる確率が高まる。
今、決断すべき理由:市場変化は待ってくれない
顧客行動の変化は、一時的なトレンドではなく不可逆的な構造変化である。問い合わせ社数・物件数が10年で最少を記録した事実は、今後も従来型の営業手法が通用しないことを意味している。
「まだ大丈夫」と先送りすることは、市場からの退場リスクを高めるだけだ。変化に対応できる事業者と、できない事業者——その差は年々拡大している。
問い合わせ1件の重みが増している
問い合わせ件数が減少している現在、1件の問い合わせを確実に成約につなげる力がこれまで以上に重要となっている。そのためには、情報の質、レスポンスの速さ、接客の丁寧さ——すべてが高水準でなければならない。
フランチャイズ加盟は、こうした総合的な競争力を短期間で獲得するための現実的な選択肢の一つである。
データが示す明確な方向性
- 顧客は事前に徹底的に絞り込んでから行動する
- 不動産会社の信頼性と情報の質が選択の決め手となる
- レスポンスの速さが満足度を左右する
- オンライン上での存在感が集客の生命線となる
これらの要素を満たすには、個店の努力だけでは限界がある。仕組み、システム、ブランド力——それらを総合的に活用できる環境が、生き残りの条件となりつつあるのだ。
まとめ:10年前の常識を捨て、新しい戦略へ
顧客は変わった。市場は変わった。しかし、あなたのビジネスモデルは変わっているだろうか?
問い合わせ社数・物件数が10年で最少という客観的データは、業界全体に警鐘を鳴らしている。「もっと物件を増やせば」「もっと広告を出せば」——そうした発想では、もはや打開できないのだ。
求められているのは、顧客行動の変化に対応した抜本的な戦略転換である。
その手段が独自の努力であれ、フランチャイズ加盟であれ、重要なのは「今すぐ動き出すこと」だ。10年前の常識にしがみついている時間は、もう残されていない。
顧客は既に未来を生きている。あなたのビジネスも、今すぐ未来へ踏み出す時だ。