顧客が「また連絡してほしい」と思える、フォローアップの秘訣

「営業がしつこい」——不動産賃貸仲介業を営む営業担当者なら、一度は耳にしたことのある言葉かもしれません。しかし、同じフォローアップでも、ある営業は信頼されるのに、別の営業は敬遠される。その差は何なのか。実は顧客満足度調査のデータに、その答えが隠されています。不動産情報サイト利用者の本音をひもとくと、顧客が求めるのは「営業的なセールス」ではなく、「自分たちの課題を解決する情報提供」なのです。営業がしつこいと思わせない、適切なフォローアップのタイミングと内容。その秘訣を、データと実践的なテクニックでお伝えします。


なぜ「営業がしつこい」と感じるのか——顧客の本音を読み解く

不動産会社の営業スタッフにとって、フォローアップはビジネスの根幹です。問い合わせをくれた顧客との関係を深める大切な機会。でも、その行為が逆効果になることもあります。

2024年の不動産情報サイト利用者意識アンケート調査によると、不動産会社に対する「不満だったこと」として、「問合せ後の営業がしつこかった」と回答した人は、賃貸で9%、売買で13.7%に上っています。一見すると小さな数字に思えるかもしれません。しかし、問い合わせという明確な興味を示してくれた顧客の1割以上が「しつこい」と感じているということは、決して無視できない課題です。

問題なのは、営業スタッフが「しつこくしよう」と意図しているわけではないということ。大多数の営業担当者は、「顧客のためになる情報を提供したい」「少しでも役に立ちたい」という善意でフォローアップを行っています。なのに、なぜ相手には「しつこい」と受け取られてしまうのか。

その理由は、顧客とのタイミングや意図がズレているからなのです。


満足と不満を分ける、たった3つの要素

では、顧客満足度の高い対応と低い対応は、具体的に何が違うのでしょうか。

同じアンケート調査で「満足だったこと」を見ると、トップは「問合せに対するレスポンスが早かった」(56.5〜59.8%)です。続いて「内見をさせてくれた」(46.3〜52.1%)、「言葉遣いや対応が丁寧だった」(45.2〜47.9%)と並びます。

注目すべきは、満足度の高い対応の共通点です。それは——

①スピード感がある
②顧客の要望に応えている
③顧客を尊重する姿勢が見える

の3つです。

一方、不満として挙げられる項目を見ると、「返答が遅かった」(14.7〜17.4%)、「契約の意思決定を急かされた」(13.8〜15.8%)、「物件の追加案や追加の連絡などが続かなかった」(8.4〜12.6%)というように、タイミング、ペース、内容のズレが浮き彫りになります。

つまり、「営業がしつこい」と感じさせるのは、営業の頻度そのものではなく、顧客のニーズとペースを無視した対応だということです。


最初の60分間が全てを決める

では、具体的に何をすべきか。ここで重要なのが、「最初の60分間」という概念です。

問い合わせから契約まで、業界では様々なステップがあります。しかし、顧客心理の観点から見ると、最初の1時間が極めて重要です。この時間帯に、顧客は「この営業スタッフは信頼できるか」「自分たちの条件を本当に理解しているか」を無意識に判断しています。

不動産会社を選ぶ際のポイントについて調査した結果から見えるのは、顧客は「写真の点数が多い」「物件のウィークポイントも書かれている」といった、詳細で誠実な情報提供を重視しているということです。言い換えれば、顧客は営業の「本気度」を、情報の質と丁寧さで測っているのです。

最初の60分間で顧客に与える印象は、その後のフォローアップの受け取られ方を大きく左右します。逆に言えば、ここで信頼関係を築いておけば、その後のフォローアップは「ありがたい」と受け取られやすくなるのです。


フォローアップの「タイミング」と「内容」の黄金比

では、信頼関係を損なわないフォローアップには、どのような工夫が必要でしょうか。ここでは、実践的なポイントを3つお伝えします。

タイミング①:初回連絡は内見前に

問い合わせをいただいた後、最初のフォローアップは「スピード」が命です。調査データでは、レスポンスの早さが最も重要な満足要因となっています。理想は、問い合わせから30分以内の初回連絡。遅くとも営業時間内の即日連絡が必須です。

ここで大切なのは、営業的なセールストークではなく、「顧客の質問に正確に答える」ことに徹することです。

タイミング②:内見後は顧客の反応を待つ

内見後、多くの営業スタッフは「いかがでしたか?」という確認連絡をすぐに入れたくなります。しかし、ここが落とし穴です。顧客が内見後、すぐに返答してほしいとは限りません。

むしろ大切なのは、顧客からの連絡を待つ姿勢と、連絡がない場合の「適切なタイミング」を見極めることです。一般的には、内見から2〜3日経った後、「その後いかがでしょうか」という軽めのタッチで確認する方が、顧客の自発性を尊重した対応として受け取られます。

タイミング③:提案は顧客のニーズに基づいて

不動産会社に求めるものとして「物件の追加案や追加の連絡などをしてくれた」という項目が、満足要因として高い比率を占めています(売買で48.7%)。しかし同時に「物件の追加案や追加の連絡などが少ないと感じた」も不満要因として挙げられています。

この一見矛盾した結果が示すのは、「提案の内容と顧客の期待のマッチング」がいかに重要かということです。顧客のニーズを正確に把握できていれば、提案は「求められている」となり、ズレていれば「しつこい営業」と感じられてしまうのです。


顧客に喜ばれるフォローアップの具体例

では、実際にはどのようなフォローアップが「価値がある」と受け取られるのでしょうか。

例①:物件情報の深掘り型フォロー

「先ほど内見いただいた物件ですが、実は周辺に新しいカフェがオープンするという情報を得ました。駅までのルートなど、ご質問いただいた利便性についても、新しい情報があれば都度お知らせします」

このようなフォローは、単なる営業ではなく「顧客の生活を豊かにする情報提供」として受け取られます。

例②:選択肢を提供する型フォロー

「前回の内見から1週間経ちましたが、ご検討の進捗いかがでしょうか。もし条件を少し広げてもいいということであれば、追加で2物件ご紹介できるのですが、いかがですか?」

ここで大切なのは「提案を強制しない」ことです。顧客の判断を尊重する姿勢が、営業をしつこく感じさせないコツです。

例③:顧客の疑問に答える型フォロー

「先ほどのご質問いただいた『この物件の省エネ性能』について調査しました。〇〇というレベルで、光熱費は平均的な物件より月額〇円程度抑えられる見込みです」

顧客が「知りたい」と思ったことに、後から丁寧に答えるフォローは、決して営業的には見えません。むしろ「この人たちは本気で私たちのことを考えてくれている」という信頼感につながります。


営業がしつこくないフォローの3つの工夫

最後に、フォローアップ全般において意識すべきポイントをお伝えします。

工夫①:「締め切り」を明示する

「来週月曜日までにご決断いただけますか?」という期限を付けるのではなく、「ご不明な点があれば、いつでもお気軽にお声がけください」という open-ended な伝え方をしましょう。顧客のペースを尊重する姿勢が伝わります。

工夫②:複数の連絡手段を用意する

電話、メール、LINE など、顧客の都合に合わせた連絡手段を提供することも重要です。特に現代では、深夜の電話連絡よりもメールやメッセージの方が、顧客にとって「配慮された」と感じられます。

工夫③:「情報」と「営業」を分ける

フォローアップの際は、情報提供と営業トークを明確に分けましょう。「〇〇という情報を得ました」という純粋な情報提供の後に、「ご参考までに、弊社でしたら〇〇というサポートができます」という自社の提案を続ける、という流れです。顧客は、自分のニーズに基づいて判断できる余白を求めているのです。


最後に——不動産会社の競争力は、顧客対応の質で決まる

大手不動産ポータルサイトの登場により、顧客は簡単に複数の物件情報を比較できるようになりました。その結果、不動産会社の差別化要因は「物件の多さ」ではなく、「営業スタッフの対応品質」へシフトしています。

調査データが示す通り、顧客が評価する営業は——

  • レスポンスが速い
  • 顧客の都合を配慮している
  • 情報提供に誠実である
  • 無理な営業をしない

このような営業スタッフです。

逆に言えば、これらの要素を磨くことで、自社の不動産会社は大手との競争で確実に優位性を獲得できるのです。最初の60分間から、フォローアップの一つひとつまで、「顧客の視点」に立った対応を徹底すること。それが、「営業がしつこい」という負のイメージを払拭し、「また相談したい」という信頼感へ転換させる、唯一の方法なのです。

顧客満足度を高め、自店舗の営業成績を着実に伸ばすために。まずは、明日からのフォローアップの質を、今一度見直してみてはいかがでしょうか。