成約顧客の4割以上が「1ヶ月以内」に契約する理由――決断型サーチャーを逃さない営業戦略

不動産賃貸仲介業に携わる方なら、こんな経験はないでしょうか。「問い合わせはあるのに、返答する前に他社で決められてしまう」「内見の予約をとってから実際の来店まで長く待てない」。近年、こうした短時間で意思決定する顧客層が急速に増えています。2024年最新の業界調査によれば、成約に至った賃貸顧客の実に4割以上が、住まい探しをはじめてから1ヶ月以内に契約を決めているのです。この事実は、従来の営業ノウハウを一新する必要があることを強く示唆しています。
急速に高まる「即決力」――最新データが示す現実
住まい探しの意思決定スピードは、ここ数年で劇的に変わりました。
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2024年に実施した調査結果によれば、賃貸で契約に至った顧客の37.6%が「1週間~1ヶ月未満」で契約を決定。さらに「1週間未満」の割合は31.2%に達し、直近10年で最も高い水準となっています。つまり、賃貸顧客全体の約7割近くが、1ヶ月以内という短期間で意思決定を完結させているのです。
特に注目すべきは、この傾向が年々強まっていることです。「4ヶ月以上」かかる顧客の割合は、前年比で9ポイント減少。かつての「時間をかけて慎重に検討する」というイメージは、もはや主流ではなくなりつつあります。
では、なぜこのような変化が起きているのでしょうか。その背景には、顧客の行動パターンそのものの大きな転換があります。
検索段階で9割が「絞り込み」を完了――決断型サーチャーの正体
実は、今日の賃貸顧客の多くは、不動産会社に問い合わせをする前に、ほぼ全ての検討を終えているのです。
同調査によると、契約に至った顧客が問い合わせした不動産会社の平均数は2.3社。わずか2~3社です。さらに驚くべきことに、問い合わせした物件数の平均はたったの4物件。これは直近10年で最少の数字です。
言い換えれば、現代の顧客は大手不動産ポータルサイトで徹底的に物件を比較検討した後、「ここなら間違いない」と確信した限定的な物件について、絞られた数社に問い合わせをしているということです。
この顧客層を「決断型サーチャー」と呼ぶことができます。彼らの特徴は以下の通りです。
決断型サーチャーの3つの行動特性
1. 事前リサーチが徹底している
大手不動産ポータルサイトで行った徹底的な事前調査により、エリア、間取り、予算、駅までの距離など、譲れない条件はほぼ固まっている状態で問い合わせをしてきます。
2. 物件情報の充実度で企業を選別している
「写真の点数が多い」(73.2%)、「物件のウィークポイントも記載されている」(38.7%)といった情報の充実度が、問い合わせ先企業の選定基準になっています。店舗の立地よりも、物件情報そのものに重きを置く傾向が強いのです。
3. レスポンスの速さが成約を左右する
問い合わせ後の「返答の遅さ」に対する不満は、賃貸で17.4%。一方、「問い合わせに対するレスポンスが早かった」という満足度は69.5%に達しています。決断型サーチャーにとって、応答速度は信頼性の証なのです。
短期決戦型営業のポイント――「準備」と「機動力」の融合
では、決断型サーチャーとの契約をつかみ取るために、不動産仲介業者は何をすべきなのでしょうか。従来の長期的な顧客フォローアップでは太刀打ちできません。求められるのは、戦略的な「短期決戦型アプローチ」です。
【第一段階】物件情報の「充実」と「視認性」
決断型サーチャーは、既に90%の検討を終えて問い合わせてきます。そこで最も有効な施策は、競合他社との情報格差を作ることです。
具体的には:
- 写真は「点数」だけでなく「質」にこだわる。リビング、キッチン、各部屋の採光具合はもちろん、エントランス、共用部、外観、周辺環境など、360度の情報を提供する
- 「駅まで徒歩15分、大通りに面しているため夜でも明るい」といった、ウィークポイントも率直に記載する透明性
- 屋内の動画撮影を検討する。写真だけでは伝わらない「その物件の空気感」を顧客に届ける
これらの情報充実は、大手不動産ポータルサイトへの掲載時点で実行する必要があります。ここが「第一の勝負所」なのです。
【第二段階】問い合わせから内見まで「24時間以内」の対応
決断型サーチャーは、興味を持った瞬間が「最も購買欲が高い状態」です。その時間帯を逃してはなりません。
実践的なポイント:
- 問い合わせへの第一次返答は、可能な限り1時間以内を目指す。深夜の問い合わせにも、翌朝営業開始時刻に即座に対応する体制を整える
- 内見の日時設定は、顧客の希望を最大限に尊重し、「◯日の14時と20時からお選びいただけます」といった複数選肢を提示する
- LINE、メール、電話など、顧客が選んだ連絡手段での追加フォローアップを徹底する
【第三段階】内見時の「説得力」と「信頼構築」
ここまで来れば、決断型サーチャーは「契約を前提」に内見に訪れています。この段階での失敗は致命的です。
満足度が高い対応例から学べること:
- 「内見をさせてくれた」という当たり前のことに加え、物件までの同行(42.1%の満足度)で顧客の不安を払拭する
- 言葉遣いや態度(47.9%の満足度)での配慮。決断型サーチャーは情報リテラシーが高い傾向があるため、曖昧な説明や押し付けがましい提案は避ける
- 「契約のペースを顧客に合わせる」(27.5%の満足度)。急かされることで、即座に別の物件へ流れてしまうリスクが高い
【第四段階】事後フォローで「次の紹介」につなげる
成約後の対応が、長期的な顧客資産になります。
- 契約後、入居前のトラブルや不明な点への迅速な対応(入居に関するアドバイスや説明が39.8%の重視項目)
- 入居後3ヶ月、半年といった区切り目での軽微なフォロー。これが「口コミ紹介」や「次の転居時の再利用」につながる
決断型サーチャー対応が、加盟店ビジネスの拡大を加速させる理由
これらの対応全てを、個別の加盟店が単独で実行するのは、実務上大きな負担です。特に、深夜の問い合わせへの即座対応、複数物件の最新情報管理、顧客対応の一元化といった業務量は、限られた人員では対応困難になります。
しかし、フランチャイズチェーン型の事業体であれば話が変わります。本部のサポート体制、システム基盤、ノウハウの共有といったリソースを活用することで、個別加盟店でも「大手に勝る対応」を実現できるのです。
結果として:
- 大手不動産ポータルサイトでの物件情報充実は、本部の統一ルールとテンプレート活用で効率化
- 問い合わせ管理システムの共有により、営業時間外の自動返信やスケジュール一元化が可能
- 研修制度を通じた「決断型サーチャー対応」の標準化で、ロスの少ない営業スタイルを確立
- 顧客満足度の向上は、自動的に紹介率やリピート率の上昇につながり、新規集客コストの削減に
まとめ――「準備の質」が全てを決める時代へ
かつて不動産仲介業は、「いかに多くの顧客とコンタクトを取るか」という数量主義で成功を収めてきました。しかし、決断型サーチャーの急増は、その成功パターンの終焉を告げています。
今求められるのは、「限定された顧客からの信頼をいかに確実に勝ち取るか」という質への転換です。
問い合わせが来た瞬間、顧客の決断は75~80%完成しています。残る20~25%を埋める手段が、物件情報の充実、レスポンスの速さ、現地での安心感といった、地道で当たり前のような施策なのです。
決断型サーチャーの時代では、「準備の質」が全てを決めます。そして、この準備を組織的に実行できるビジネスプラットフォームこそが、これからの賃貸仲介業の勝ち組を生み出す最大の要因になるでしょう。


