なぜ「その物件はもうない」と言われると顧客は激怒するのか?心理的背景を解説

不動産の賃貸仲介営業をしていると、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。顧客からの「この物件について詳しく聞きたい」という問い合わせに対して「申し訳ございません、その物件はもう決まってしまいました」と返答した時の、顧客の激怒の矛先。

この一言が、信頼できるはずだった不動産会社への評価を一転させ、ネット上で悪評として拡散されることも珍しくありません。実は、この現象は単なる「物件が売れた」という事実だけでは説明できない、深い心理的メカニズムが働いているのです。

本記事では、顧客が「その物件はもうない」という言葉に激怒する心理的背景を解き明かし、賃貸仲介業者が今すぐ実践できる対策を紹介します。さらに、この課題にいち早く対応できる仲介業者の特徴についても探ってみましょう。

「その物件はもうない」がクレームの第1位に─データが示す深刻な現実

まず、現実のデータを見てみましょう。

不動産情報サイト事業者連絡協議会が2024年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」(1,642人を対象)によると、不動産会社への**不満の第1位は「問い合わせをしたら『その物件はもう無い』と言われた」で、賃貸では実に22.2%**に達しています。

これは決して小さな数字ではありません。5人中1人以上の顧客が、この対応に不満を感じているということです。さらに注目すべきは、この割合が前年も同じく第1位であり、継続的な課題として不動産業界に存在し続けているということ。

一般的に「レスポンスの遅さ」や「営業のしつこさ」といった接客面での不満は、対応策を講じやすいものです。しかし「その物件はもうない」というクレームは、多くの場合、タイミングの問題だと捉えられ、改善の優先度が後回しにされてきました。

この認識の甘さが、顧客満足度の低下につながっているのではないでしょうか。

なぜ顧客は激怒するのか─心理の奥底にある「裏切られた感覚」

では、なぜたった一言で顧客はここまで怒るのか。それは、この言葉の背後に複数の心理的メカニズムが同時に働いているからです。

期待値を高めてから一転、期待値を下げられる

顧客が物件に問い合わせをする行動自体が、すでに**「この物件なら契約できるかもしれない」という期待値を高めている状態**です。大手不動産ポータルサイトで物件を見つけ、詳細ページまで遷移し、問い合わせボタンを押す。この一連の行動には、「この物件を実現したい」という強い動機が隠れています。

そこへ返ってきた返答が「もう無い」では、顧客の心理状態は一転します。高まった期待値が、一気に底へ落とされるのです。心理学では、この現象を「期待値ギャップ」と呼びます。人間は、失った利益に対してネガティブな感情を強く抱く傾向があり、これを「損失回避性」と言います。

つまり、「その物件は無かった」という事実そのものより、「あるはずだと期待していた物件を失った」という心理的ダメージが、激怒の本当の原因なのです。

「情報提供者」への信頼の崩壊

不動産会社と顧客の関係は、一方的な商品購入とは異なります。顧客は、不動産会社を**「信頼できる情報提供者」として見ています**。大手不動産ポータルサイトに掲載されている情報は、その不動産会社が提供したものだと考えているのです。

ところが「その物件はもう無い」と言われると、顧客は無意識に疑問を抱きます。「なぜ掲載し続けているのか」「情報が古いのではないか」「最初から無いのに広告に載せていたのではないか」。

この一瞬の疑問は、その不動産会社全体への信頼へ波及します。掲載されている他の物件情報も信頼できるのか。営業担当者の説明は本当なのか。こうした不信感が次々と生まれていくのです。

「時間を無駄にされた」という怒り

もう一つ忘れてはいけません。顧客は、その物件に到達するまでに相応の時間を投資しているということです。

大手不動産ポータルサイトで複数の物件を検索し、条件を絞り込み、気になった物件の詳細ページを読み、写真を見て、内見のタイミングを考える。この一連のプロセスには、決して短くない時間が費やされています。

そうして一度問い合わせた物件が「もう無い」では、その時間投資はすべて無駄になります。人間は投資した時間が無駄になることに対して、金銭的な損失以上の怒りを感じるものです。これを心理学では「サンクコスト効果」と呼びます。

つまり、顧客の怒りは、物件が無いことへの怒りではなく、投資した時間が無駄になったことへの怒りなのです。

不動産会社に求められる姿勢─課題解決への3つのポイント

では、この「その物件はもうない」という状況を避けるために、賃貸仲介業者は何をすべきか。いくつかのポイントが見えてきます。

ポイント1:情報のリアルタイム性を確保する

最新の物件情報の鮮度が、ここ数年で顧客から求められる要件として急速に重要視されるようになりました。同アンケートでは「最新の物件情報の鮮度」が、不動産会社に求めるもので前年比で13ポイント超の増加を示しており、賃貸・売買ともに大きな伸びが見られています。

これは、顧客が旧情報による「ハズレ」を何度も経験しているからに他なりません。「もう無い」という返答を避けるためには、ポータルサイトへの情報更新スピードを、可能な限り高速化することが不可欠なのです。

ポイント2:「契約前の一言」を大切にする

万が一、物件が契約済みだったり、成約直前の状態だったりする場合、その旨を顧客に伝えるタイミングと言い方は、極めて重要です。

「その物件はもう決まってしまいました」という申し訳ない一言の後に、「しかし、ご希望の条件に合った別の物件がございます」と続ける。このわずかな時間差が、顧客の心理状態を大きく変えます。

期待値を下げられた直後に、新たな期待値を与えることで、顧客は「自分の希望を真摯に受け止めてくれた」と感じるようになるのです。

ポイント3:物件の担保性を明確に伝える

物件情報を顧客に提供する際に、「この物件は現在確保中です」「成約予定日が○月○日です」という、その物件の「確度」を明確に示すことも有効です。

顧客は、その情報の正確性に基づいて行動を判断しています。情報の確度が曖昧なまま、顧客の期待値だけが高まるのは、「その物件はもうない」という事態を招く温床となるのです。

多くの不動産会社が見落としている「顧客心理の専門知識」

興味深いことに、これらの対策は、決して難しい施策ではありません。むしろ、顧客心理の基礎を理解し、それに基づいて営業プロセスを組み立てられるかという、根本的な問題なのです。

ところが、多くの賃貸仲介業者では、こうした心理学的なアプローチを営業戦略に組み込んでいません。むしろ、「物件を多く掲載する」「レスポンスを速くする」といった表面的な対策に終始しているのが現状です。

その結果、「その物件はもうない」というクレームが、業界全体で改善されないまま、今年も第1位の不満項目として存在し続けているわけです。

課題解決の先にある「加盟店の競争優位性」とは

ハウスコムFC加盟店募集サイトで掲げられている加盟店の特徴を見ると、単なる「物件数」や「立地」だけでなく、「顧客満足度の向上」を実現するための支援体制が、重要な要素として位置付けられていることが注目されます。

顧客心理を理解し、データに基づいた営業戦略を実践できる加盟店は、確実に市場評価が上がります。「その物件はもうない」というクレームを最小化し、代わりに「最新で確実な情報が得られた」という顧客体験を提供できるのです。

これこそが、単なる「物件仲介」から一歩進んだ「顧客体験の提供」へのシフトであり、長期的な加盟店成功の鍵となるのです。

加盟店募集サイトが提供する研修プログラムや営業支援ツール、データ分析機能といった、これまで個別の不動産会社では構築しにくかった「顧客心理対応」のインフラを、複数の加盟店が共有することで、業界全体の顧客満足度向上に貢献することができます。

まとめ:心理的背景を理解することで、クレーム件数は大幅に減少する

「その物件はもうない」という一言がなぜ顧客を激怒させるのか。その背景には、期待値ギャップ、信頼の崩壊、時間的損失といった複数の心理メカニズムが働いていることが明らかになりました。

これは、不動産業界全体で22.2%の顧客が経験している不満であり、決して対岸の火事ではありません。むしろ、この課題に早期に対応できる賃貸仲介業者こそが、今後の市場で選ばれ続ける企業になるでしょう。

顧客心理を理解し、情報の鮮度を保ち、「契約前の一言」を大切にする。こうした基本的で、かつ戦略的な対応が、顧客満足度を大きく高め、結果的に契約数や顧客の口コミ評判の向上につながっていくのです。

不動産賃貸仲介業の競争は、今や「物件の多さ」ではなく、「顧客体験の質」で判断される時代へと移行しています。その認識を持つ加盟店こそが、長期的な成長を実現できるのではないでしょうか。