不動産会社選びの新基準──口コミが選定要素の第2位に躍進、評判管理が集客を左右する時代

2025年調査が明かす「口コミ重視」の実態と、賃貸仲介業者が今すぐ取り組むべき評判向上施策


口コミが決める、顧客の「問い合わせボタン」

「この不動産会社、口コミはどうだろう?」

物件探しの最終局面で、スマートフォンを片手にGoogle マップを開く――。いま、こうした行動は特別なものではなくなった。気に入った物件を見つけ、不動産会社へ問い合わせようとした瞬間、多くの消費者が目にするのは星の数とレビューの言葉だ。その数秒間の判断が、問い合わせにつながるか、それとも別の会社へと流れてしまうかを分ける。

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年10月に発表した最新調査は、この現実を数字で裏付けている。不動産会社を選ぶ際に「特に重視するポイント」として、「不動産会社に対する口コミ情報」が13.9%で第2位にランクインしたのだ。トップの「写真の点数が多い」(15.3%)に僅差で続く結果であり、前年比でも増加傾向を示している。

賃貸物件の契約に至った144名を対象としたこの調査は、不動産業界に一つの明確なメッセージを突きつけた。口コミは、もはやオプションではなく、必須の経営資源である――と。


データが示す「口コミ重視」の本質

問い合わせ前の最終チェックポイント

調査結果を詳しく見ていくと、口コミが消費者行動に与える影響の大きさが浮き彫りになる。

不動産会社を選ぶポイント(複数回答可)では、**「不動産会社に対する口コミ情報」が44.4%**で上位に位置している。これは物件情報そのものではなく、「その会社に任せて大丈夫か」という信頼性の判断材料として、口コミが機能していることを意味する。

特筆すべきは、賃貸と売買で傾向が異なる点だ。賃貸では口コミを重視する割合がやや低めだが、それでも相当数の消費者が参照している。一方、売買では高額な取引ゆえに、より慎重な業者選定が行われており、口コミの重要性は一層高まる。

検討期間の長期化と情報収集の活発化

同じ調査では、住まい探しから契約までの期間が前年より長期化していることも明らかになった。賃貸では1カ月以上かけて検討する人が64.3%(前年比9pt増)、売買では3カ月以上が68.0%(同14.4pt増)と、いずれも増加傾向にある。

検討期間が長いということは、それだけ多くの情報に触れ、比較検討を重ねているということだ。実際、問い合わせた不動産会社数は賃貸で平均3.3社(過去11年で最多)、物件数は平均5.6物件と、いずれも増加している。

つまり現代の消費者は、より多くの選択肢を比較し、より慎重に判断している。その過程で、口コミという「実際の利用者の声」が、判断材料として重視されているのである。


なぜ今、口コミが重視されるのか

デジタルシフトが加速させた「透明性の時代」

口コミが重視される背景には、不動産業界全体のデジタル化がある。かつては店舗を訪れなければ得られなかった情報が、今やスマートフォン一つで手に入る。大手不動産ポータルサイトには膨大な物件情報が掲載され、消費者は自宅にいながら比較検討できる。

こうした環境下で、差別化のポイントは「物件の数」から「サービスの質」へとシフトした。同じような物件を扱う会社が複数ある中で、「どの会社に頼むか」という選択において、実際の利用者の体験談=口コミが決定的な判断材料となっているのだ。

「不安」を解消する唯一の手がかり

不動産取引は、多くの人にとって人生で数回しか経験しない大きな意思決定だ。特に初めて賃貸契約をする若年層や、初めて住まいを購入する層にとって、不動産会社選びは不安との戦いでもある。

「この会社は信頼できるのか」「強引な営業をされないか」「契約後のトラブルはないか」――こうした不安を解消してくれるのが、先人たちの口コミである。

NTTレゾナント株式会社が実施した調査では、購買行動において81.6%の消費者が口コミを参考にしているという結果が出ている。女性では88.9%と、約9割に達する。口コミは単なる「参考情報」ではなく、購買の意思決定を左右する「決定要因」なのだ。


口コミがもたらす3つの経営インパクト

1. 集客力の向上──検索順位とクリック率の両面で効果

口コミが増えることの第一のメリットは、オンライン上での可視性が向上することだ。

Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)において、口コミの数と評価はローカル検索(「○○市 不動産」などの地域名を含む検索)の掲載順位に大きく影響する。アメリカのMOZ社の調査によれば、ローカル検索における順位決定要因の中で、口コミ・評価は2番目に重要な要素とされている。

実際のデータも、この効果を裏付ける。ある不動産仲介会社では、Googleマイビジネス対策と口コミ促進施策を並行実施した結果、「○○市 不動産」というキーワードで21位から1位へ、「○○市 不動産会社」で30位から1位へと大幅に順位が上昇。同時に、口コミ数も施策前の8件から30件へと約4倍に増加した。

検索上位に表示されれば、それだけ多くの潜在顧客の目に触れる機会が増える。そして表示された際に、星評価が高く、口コミ数が多い会社は、クリック率(来店率・問い合わせ率)が飛躍的に高まるのである。

2. 成約率の改善──「最後の一押し」としての機能

口コミは集客だけでなく、成約率の向上にも寄与する。

消費者が不動産会社を訪れる(または問い合わせる)までのプロセスには、いくつもの意思決定のポイントがある。物件を見つける→会社を調べる→問い合わせる→来店する→契約する――という一連の流れの中で、口コミは特に「問い合わせる」「来店する」という行動を後押しする。

良質な口コミが複数ある会社は、「この会社なら安心して任せられそうだ」という心理的な安心感を与える。逆に、口コミがまったくない会社や、低評価の口コミが目立つ会社は、その時点で選択肢から外れてしまう可能性が高い。

3. ブランド力の構築──長期的な資産としての価値

口コミは一過性の広告とは異なり、蓄積型の資産である。

一度投稿された口コミは(削除されない限り)半永久的にオンライン上に残り、将来の顧客に対しても情報を提供し続ける。つまり、今日獲得した1件の良い口コミは、来月も、来年も、企業の信頼性を証明し続けるのだ。

さらに、口コミが多く評価の高い企業は、地域における「評判の良い不動産会社」として認知されやすい。これは紹介客の増加や、リピーター獲得にもつながる。顧客満足度の高いサービスを提供し、それが口コミとして可視化されることで、好循環が生まれるのである。


評判管理の実践──今すぐ始められる5つのステップ

口コミの重要性を理解したところで、具体的にどう取り組むべきか。以下、実践的なステップを紹介する。

ステップ1:Googleビジネスプロフィールの最適化

まず基本となるのが、Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)の登録と最適化だ。

多くの消費者は、「地域名+不動産」「地域名+賃貸」といったキーワードでGoogle検索やGoogleマップを利用する。この際に表示されるビジネスプロフィールが充実していなければ、口コミ以前の問題となる。

必須の対応項目:

  • 正確な営業時間、住所、電話番号の登録
  • 事業内容の詳細な説明文(キーワードを自然に含める)
  • 店舗外観・内観の写真掲載(清潔感と親しみやすさを重視)
  • 定期的な投稿(最新物件情報、お客様の声、スタッフ紹介など)

これらの基本情報が整っていることで、口コミの効果が最大化される。

ステップ2:口コミ投稿を促す仕組みづくり

口コミは「自然発生」を待つだけでは、なかなか増えない。積極的に依頼する仕組みが必要だ。

効果的な依頼方法:

対面での依頼 契約成立後や鍵の引き渡し時など、お客様が満足している瞬間に、口コミ投稿を依頼する。「他のお客様の参考になりますので、ぜひご協力ください」と丁寧にお願いすることで、多くの方が快く応じてくれる。

メール・LINE・SMSでの依頼 契約後のフォローアップメールに、口コミ投稿へのリンクと簡単な依頼文を添える。QRコードを作成し、契約書類と一緒に渡すのも有効だ。

店舗内での呼びかけ 待合スペースや商談テーブルに、「お客様の声を聞かせてください」というPOPやカードを設置する。

ただし注意すべきは、決して強制しないこと、報酬と引き換えにしないことである。Googleのポリシーに違反する行為は、逆効果になる可能性がある。

ステップ3:すべての口コミに真摯に返信する

口コミが投稿されたら、必ず返信する。これは必須のルールだ。

良い口コミには感謝を伝え、今後も期待に応えたい旨を述べる。悪い口コミには、まず謝罪し、改善への取り組みを示す。どちらの場合も、誠実さと具体性が重要だ。

良い口コミへの返信例:

○○様、この度は当店をご利用いただき、また嬉しいお言葉をいただき誠にありがとうございます。担当させていただいた△△も大変喜んでおります。○○様の新生活が素晴らしいものとなりますよう、スタッフ一同心よりお祈り申し上げます。今後も地域の皆様に信頼される不動産会社を目指してまいります。

悪い口コミへの返信例:

○○様、この度はご期待に添えず、大変申し訳ございませんでした。頂戴したご指摘を真摯に受け止め、スタッフ一同でサービス改善に努めてまいります。貴重なご意見をありがとうございました。もしよろしければ、店長の△△まで直接ご連絡いただけますと幸いです。(電話番号)

口コミへの返信は、投稿者本人だけでなく、それを読む他の潜在顧客に向けたメッセージでもある。真摯な対応は、企業姿勢を示す重要な機会なのだ。

ステップ4:ネガティブな口コミへの戦略的対処

どんなに優れたサービスを提供していても、ネガティブな口コミが投稿される可能性はゼロではない。重要なのは、そこでどう対応するかだ。

4つの対処原則:

即座に対応する 悪い口コミを放置すると、「この会社は顧客の声を無視している」という印象を与えてしまう。できるだけ早く、24時間以内に返信することを目指す。

感情的にならず、事実を確認する たとえ理不尽な内容であっても、感情的な反論は避ける。まずは事実関係を確認し、冷静に対応する。

改善姿勢を示す 具体的にどう改善するかを伝えることで、「この会社は成長しようとしている」というポジティブな印象に転換できる。

明らかな規約違反は削除申請を 誹謗中傷、虚偽の内容、競合他社による嫌がらせなど、Googleのポリシーに違反する口コミは、削除申請が可能だ。ただし、単に「気に入らない」という理由では削除されないので注意が必要。

実は、適度にネガティブな口コミが混在している方が、信憑性が高まるというデータもある。すべてが5つ星の評価では、逆に「サクラではないか」と疑われるリスクがあるのだ。重要なのは、ネガティブな口コミにどう対応するかで、企業の姿勢を示すことである。

ステップ5:継続的なモニタリングと改善サイクル

口コミ管理は一度やれば終わりではなく、継続的な取り組みが必要だ。

月次でチェックすべき指標:

  • 口コミの総件数と増加ペース
  • 平均評価(星の数)
  • 新規口コミの内容(ポジティブ/ネガティブの比率)
  • よく指摘される点(良い点・悪い点)
  • 返信率と返信速度

これらのデータを定期的に分析し、サービス改善につなげる。例えば「対応が遅い」という指摘が多ければ、問い合わせ対応の体制を見直す。「物件の説明が丁寧だった」という評価が多ければ、それを強みとして社内で共有し、さらに磨く。

口コミは単なる評価ではなく、顧客からの貴重なフィードバックである。この声に耳を傾け、継続的に改善を重ねることで、サービス品質が向上し、さらに良い口コミが増えるという好循環が生まれる。


口コミ時代の差別化戦略──FC加盟という選択肢

ここまで、口コミ管理の重要性と具体的な施策を見てきた。しかし現実には、日々の業務に追われる中で、口コミ管理まで手が回らないという声も多い。

特に中小規模の不動産仲介会社にとって、Googleビジネスプロフィールの最適化、口コミ促進施策の実施、返信対応、データ分析といった一連の業務を、すべて自社で完結させるのは容易ではない。

そこで一つの選択肢となるのが、実績あるフランチャイズへの加盟である。

ブランド力が口コミに与える影響

消費者が不動産会社を選ぶ際、知名度のあるブランドであることは、それだけで一定の信頼感を与える。

大手不動産ポータルサイトで物件を見つけた際、「聞いたことのあるブランド」と「初めて聞く会社名」では、前者の方が問い合わせのハードルは低い。これは、ブランドそのものが持つ「信頼の蓄積」によるものだ。

フランチャイズ加盟により、本部が長年築き上げてきたブランドイメージを活用できる。三大都市圏で約200店舗を展開し、25年以上の実績を持つブランドであれば、初めての顧客に対しても「この会社なら安心」という第一印象を与えることができる。

本部サポートによる評判管理の効率化

多くのフランチャイズ本部は、加盟店の集客力向上のため、デジタルマーケティング支援を提供している。

  • 業務システムの提供:顧客管理、物件管理、反響管理などを一元化し、業務効率を高める
  • ノウハウの共有:定期的な研修やセミナーで、最新のマーケティング手法や接客技術を学べる
  • 広告・プロモーション支援:本部が主導する広告展開により、ブランド認知度が向上
  • 法務・労務サポート:専門家によるバックアップで、安心して本業に集中できる

これらのサポートにより、限られたリソースでも高品質なサービスを提供でき、結果として良い口コミにつながりやすくなる。

加盟店ネットワークという資産

フランチャイズ加盟のもう一つのメリットは、他の加盟店とのネットワークである。

定期的な加盟店会合では、成功事例の共有や課題の相談ができる。「この地域ではこんな施策が効果的だった」「口コミ対応でこう工夫した」といった生の情報交換は、書籍やセミナーでは得られない実践的な学びとなる。

また、困難な案件に直面した際には、同じブランドの他店舗に相談したり、本部のサポートを受けたりすることで、早期解決が可能になる。こうしたチーム体制は、単独経営では得られない大きな強みだ。


未来を見据えた評判投資

口コミ管理は、短期的には地道な作業の積み重ねだ。一件一件の口コミに丁寧に返信し、お客様に投稿を依頼し、サービスを改善し続ける――。

しかし、この地道な努力こそが、長期的な競争優位性を生み出す

10年後、20年後を見据えたとき、オンライン上に蓄積された数百件の良質な口コミは、何にも代えがたい資産となる。新規顧客は、その口コミの山を見て「ここに任せよう」と決断する。スタッフは、顧客からの感謝の言葉に触れてモチベーションを高める。採用活動においても、「評判の良い会社」は求職者にとって魅力的だ。

2025年のRSC調査が示したデータは、単なる数字ではない。それは、消費者が不動産会社に何を求めているかを明確に示す羅針盤だ。

口コミが選定基準の第2位――この事実を前に、私たちは問わねばならない。「自社は、顧客から選ばれる会社になっているだろうか?」と。

評判管理は、もはや「やった方がいい施策」ではなく、生き残るための必須戦略である。今日から、一歩ずつ、始めてみてはいかがだろうか。


まとめ:評判管理のチェックリスト

最後に、実践的なチェックリストを示す。以下の項目を定期的に確認し、改善を続けることが、口コミ時代の競争力強化につながる。

基本設定

□ Googleビジネスプロフィールに登録・認証済みか
□ 営業時間、住所、電話番号などの基本情報は最新か
□ 事業内容の説明文は充実しているか
□ 店舗の写真を複数枚掲載しているか

口コミ促進

□ 契約時に口コミ投稿を依頼しているか
□ メールやSMSで投稿リンクを送っているか
□ 店舗内に口コミ依頼のPOPやカードを設置しているか
□ スタッフ全員が口コミの重要性を理解しているか

返信・対応

□ すべての口コミに24時間以内に返信しているか
□ 良い口コミに感謝を伝えているか
□ 悪い口コミに誠実に対応しているか
□ 規約違反の口コミは適切に削除申請しているか

分析・改善

□ 月次で口コミ数と平均評価をチェックしているか
□ よく指摘される点を記録・分析しているか
□ 口コミのフィードバックをサービス改善に活かしているか
□ スタッフ間で良い口コミの内容を共有しているか

長期戦略

□ ブランド力強化のための施策を講じているか
□ フランチャイズ加盟など、外部リソース活用を検討しているか
□ 地域での認知度向上に取り組んでいるか
□ 継続的な改善サイクルが機能しているか

口コミは、顧客との対話である。そして対話を通じて、企業は成長する。評判管理の本質は、顧客の声に真摯に耳を傾け、より良いサービスを提供し続けることにある。

この記事が、貴社の評判向上と事業成長の一助となれば幸いである。


【参考資料】

  • 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート調査結果」(2025年10月27日発表)
  • NTTレゾナント株式会社「購買行動においてクチコミが与える影響について」調査
  • MOZ社「State of Local SEO Industry Report 2020」