写真点数が成約を左右する時代―初めての一人暮らし客への新常識アプローチ術

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はじめに

賃貸仲介市場において、初めての一人暮らしを検討する若年層は最も重要な顧客セグメントの一つだ。新社会人や大学進学を控えた学生など、人生の転機を迎える彼らは、不動産取引の経験がないがゆえに独特の不安を抱えている。業界最新の調査データが明らかにしたのは、こうした顧客層の行動パターンが従来の常識から大きく変化しているという事実である。

不動産情報サイト事業者連絡協議会による2025年の調査では、賃貸契約者が問い合わせる不動産会社数は平均3.3社と、2015年以降で最多を記録した。さらに注目すべきは、不動産会社を選ぶ際に最も重視される要素が「写真の点数が多い」こと、そして「不動産会社に対する口コミ情報」が急上昇している点だ。

本稿では、こうした最新データを踏まえながら、初めての一人暮らし客が抱える不安の本質を解明し、信頼獲得につながる実践的なアプローチ術を提示する。

データで読み解く―初めての一人暮らし客の行動特性

比較検討の長期化と慎重化が顕著に

2025年の調査結果は、若年層を中心とした賃貸顧客の行動が著しく慎重化していることを示している。

住まい探しから契約までの期間は、1カ月以上が64.3%と前年比8ポイント増加。特に初めての一人暮らしを検討する層では、親や先輩への相談、インターネットでの情報収集などに時間をかける傾向が強い。

さらに、問い合わせた物件数は平均5.6物件、このうち「6物件以上」と回答した層は56.8%にのぼる。複数の選択肢を比較し、慎重に判断したいという心理が数字に表れている。

「写真点数」が選択基準のトップに

不動産会社を選ぶポイントとして「写真の点数が多い」が最上位にランクインした事実は、業界に大きな示唆を与える。

これは単なる視覚的な好みの問題ではない。初めての一人暮らしを検討する若年層にとって、豊富な写真情報は「実際に住む自分をイメージできる」という心理的安心材料なのだ。間取り図だけでは把握しにくい室内の雰囲気、収納スペースの実用性、日当たりの具合—こうした生活実感を伴う情報が、意思決定の重要な判断材料となっている。

従来、不動産仲介の現場では「まず来店してもらう」ことが第一歩とされてきた。しかし現在の若年層は、来店前の段階で十分な情報を得ることを求めている。

口コミ情報への信頼度が急上昇

「不動産会社に対する口コミ情報」が、特に重視するポイントで2位にランクインしたことも見逃せない。

初めての不動産取引では「騙されないか」「不利な契約をさせられないか」という不安が常につきまとう。そうした中、実際にその会社を利用した先輩や同世代の評価は、極めて強い説得力を持つ。

興味深いのは、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という従来重視されてきた要素が2年連続で減少している点だ。立地の利便性よりも、情報の質と信頼性が優先される時代に突入したと言える。

初めての一人暮らし客が抱える「5つの不安」

若年層特有の不安を理解することが、効果的なアプローチの第一歩となる。

不安1:適正な家賃・初期費用の判断ができない

初めての一人暮らしでは、自分の収入に対してどの程度の家賃が妥当なのか、初期費用として何にいくら必要なのかが分からない。

「手取り収入の3分の1」という目安は知っていても、実際の生活費や貯蓄の必要性を考慮した場合の現実的なバランスが見えていない。また、敷金・礼金・仲介手数料・前家賃など、初期費用の内訳や相場観も持ち合わせていない。

不安2:物件の良し悪しを見極める基準がない

調査では、契約の際に気にするポイントとして「家賃・価格」に次いで「交通の利便性」「部屋数・間取り」「建物・設備の広さ」が上位に入っている。

しかし初心者は、これらの要素をどう優先順位づけるべきか、何を妥協できて何を譲れないのかが判断できない。6畳と8畳の実際の広さの違い、鉄筋コンクリートと木造の住み心地の差、築10年と築20年の設備面の違いなど、経験がなければ分からない要素が多すぎるのだ。

不安3:契約内容の理解と不利益の回避

賃貸契約書には専門用語が並び、重要事項説明では大量の情報が提供される。

「原状回復」「善管注意義務」「更新料」といった言葉の意味が分からないまま契約を進めることへの不安、退去時に高額な費用を請求されるのではないかという懸念—これらは初めての契約者に共通する心理だ。

不安4:一人で決断することへのプレッシャー

調査結果によれば、不動産会社の対応で不満だったこととして「契約の意思決定を急かされた」が上位に入っている。

初めての一人暮らしを検討する若年層の多くは、親や友人に相談しながら決めたいと考えている。その場での即断を求められることは、大きなストレス要因となる。

不安5:入居後の生活イメージが湧かない

「この物件で本当に快適に暮らせるのか」という根本的な不安がある。

周辺の生活利便施設、騒音の程度、近隣住民の様子、女性の場合は特に防犯面での安全性など、実際に住んでみないと分からない要素が多い。調査でも「物件情報以外に必要だと思う情報」として、周辺情報や交通の便、地域の暮らしやすさへの関心が高いことが示されている。

信頼獲得につながる7つの実践アプローチ

アプローチ1:豊富な写真と動画で「住む自分」をイメージさせる

調査で明確になったように、写真点数の充実は最優先事項だ。

ただし、ただ多ければいいわけではない。重要なのは「生活動線」が分かる写真だ。玄関から居室への流れ、キッチンと居室の位置関係、収納スペースの実用性、窓からの眺望と日当たり—初めての一人暮らしをする人が実際に知りたい情報を視覚的に提供する。

さらに有効なのが、360度パノラマ写真や短い動画だ。平面的な写真では伝わりにくい空間の広がりや、実際の明るさを体感してもらえる。大手不動産ポータルサイトへの物件掲載時には、こうしたビジュアル要素を最大限活用することで、問い合わせ率が大きく向上する。

アプローチ2:初期費用の「見える化」で不安を解消

初めての顧客が最も知りたいのは「結局いくら必要なのか」という明確な答えだ。

問い合わせの段階から、敷金・礼金・仲介手数料・前家賃・鍵交換費用・火災保険料など、項目ごとに分かりやすく提示する。さらに踏み込んで、「手取り18万円の場合、初期費用○○万円、月々の家賃○万円で、残りの生活費は○万円程度になります」といったシミュレーションを提示できれば理想的だ。

透明性の高い情報提供は、「この会社は隠し事をしない」という信頼感につながる。

アプローチ3:比較表で物件の特徴を客観的に整理

複数物件を検討している顧客に対して、条件を一覧で比較できる表を提供する。

家賃、初期費用、駅徒歩分数、築年数、設備(バストイレ別・オートロック・宅配ボックスなど)を横並びで見られるようにすることで、顧客自身が納得して選択できる環境を整える。

「この物件がおすすめです」と押し付けるのではなく、「これらの条件を比較して、ご自身の優先順位に合わせて選んでください」というスタンスが、若年層には好まれる。

アプローチ4:周辺環境の「生活密着情報」を積極提供

調査では、物件情報以外に必要な情報として「周辺情報」がトップにランクインしている。

単に「駅まで徒歩10分」という情報だけでなく、「駅までの道にコンビニ2軒とスーパー1軒あり」「夜間も街灯が多く人通りあり」「最寄りのドラッグストアは徒歩3分」といった具体的な生活情報を提供する。

女性の一人暮らし客には、実際に夜間の周辺を歩いた印象や、女性入居者の割合、オートロックの有無といった防犯関連情報も重要だ。Googleマップのストリートビューを一緒に見ながら周辺を確認するのも効果的である。

アプローチ5:契約前の「不安点チェックリスト」活用

契約を急かすのではなく、むしろ立ち止まって考える機会を提供する。

「契約前に確認しておきたいポイント」として、以下のようなチェックリストを渡す:

  • 家賃は収入に対して無理のない範囲か
  • 初期費用の準備は大丈夫か
  • 通勤・通学時間は許容範囲か
  • 近隣の生活施設は十分か
  • 設備面で妥協できない点はないか
  • 契約内容で不明な点は残っていないか
  • ご家族に相談・報告したか

このリストを使うことで、「この会社は私の立場で考えてくれている」という信頼が生まれる。調査でも、満足度の高い対応として「こちらの都合を配慮してくれた」「契約の意思決定をこちらのペースに合わせてくれた」が上位に入っている。

アプローチ6:入居後のフォロー体制を事前に明示

「困ったときに相談できる」という安心感は、初めての一人暮らしにとって非常に重要だ。

入居後に設備トラブルが起きた場合の連絡先、生活上の相談ができる窓口、近隣トラブルへの対応方法など、サポート体制を明確に伝える。

「入居後1カ月後にフォローアップの連絡をします」といったアフターケアの約束も、安心材料となる。

アプローチ7:口コミ評価を積極的に活用・蓄積

調査で口コミ情報の重要性が浮き彫りになった今、自社の評価を可視化する取り組みが不可欠だ。

Googleマイビジネスのレビュー、大手不動産ポータルサイトの店舗評価、SNSでの言及など、既存顧客からの声を大切にする。特に「初めての一人暮らしでしたが、丁寧に説明してもらえて安心できました」といった同じ立場の人からのコメントは、強力な説得材料となる。

満足度の高かった顧客には、適切なタイミングで口コミ投稿をお願いする。その際、無理強いではなく「今後同じように初めての一人暮らしをされる方の参考になれば」という社会貢献的な文脈で依頼すると協力が得られやすい。

接客現場で使える具体的トーク例

理論だけでなく、実際の接客場面で使えるトーク例を紹介する。

初回問い合わせ時

良くない例:
「ご来店いただければ詳しくご案内します」

推奨例:
「初めての一人暮らしですと、分からないことも多いかと思います。まずはお電話やメールで、ご予算や希望条件を詳しくお聞かせください。その上で、いくつか候補物件の写真や詳細情報をお送りしますので、ご家族とも相談されてから来店日を決めていただければと思います」

物件案内時

良くない例:
「この物件は人気なので早めに決めないと埋まってしまいますよ」

推奨例:
「この広さで一人暮らしをする場合、ベッドはこのあたり、テレビはこちらに置くイメージになります。収納はここで、季節外の衣類も十分入りますね。実際に歩いてみて、生活動線を確認してみてください。駅までの帰り道、コンビニやスーパーの場所も一緒に確認しましょうか」

契約検討時

良くない例:
「今日中に決めていただければ、この条件で確保できます」

推奨例:
「初期費用の内訳を改めて確認しましょう。敷金が1カ月分で○万円、礼金が1カ月分で○万円…合計で○万円になります。また、退去時の原状回復については、通常の生活でできる汚れや傷は請求されませんが、故意の破損は対象になります。この契約書のこの部分に書かれています。ご不明な点はありませんか? ご家族にも一度確認していただいて、納得された上で進めましょう」

ハウスコムFCだからできる若年層顧客へのアプローチ

ここまで述べてきた実践的アプローチを、個店単独で実現するのは容易ではない。しかし、ハウスコムフランチャイズに加盟することで、これらの施策を効率的に展開できる環境が整う。

充実した業務システムによる情報提供力の強化

ハウスコムFCでは、大手不動産テック企業の基幹システムを標準装備している。このシステムにより、物件情報の管理、顧客対応履歴の記録、物件比較表の作成などが効率化される。

特に若年層顧客が重視する写真の充実については、システムを通じて効率的に管理・更新できる体制が整っている。

ブランド力による信頼性の向上

関東・東海・近畿の三大都市圏で約200店舗を展開するハウスコムのブランド力は、初めての一人暮らしを検討する若年層に安心感を与える。

「知らない小さな店より、聞いたことのある会社の方が安心」という心理は、不動産取引の経験がない層ほど強く働く。口コミ情報の蓄積も、大手ブランドであるがゆえに豊富だ。

本部による継続的なノウハウ共有

ハウスコムFCでは、定期的に加盟店が集う会合を実施し、効果的な接客事例やトラブル対応のノウハウを共有している。

初めての一人暮らし客への対応で成功した事例、よくある質問への回答例、クレームの未然防止策など、実践知が蓄積・共有される環境がある。ベンチマークセミナーでは、直営店のノウハウだけでなく、他の加盟店の成功事例も学べる。

業務提携による反響送客の支援

ハウスコムFC本部が主体となって行う大手不動産ポータルサイトとの業務提携により、若年層が多く利用するオンラインチャネルからの集客を強化できる。

初めての一人暮らしを検討する層は、まず大手不動産ポータルサイトで情報収集を始めるケースが大半だ。そこで目に留まる露出機会を、本部の取り組みによって確保できる。

法務・会計・労務の士業支援

若年層顧客への対応では、契約面での正確性と透明性が特に重要になる。ハウスコムビジネスパックに含まれる士業支援により、契約書のチェック、法令遵守の確認、トラブル時の相談など、専門家のバックアップを受けられる。

これにより、「この会社は法的にもしっかりしている」という信頼性を提供できる。

変化する賃貸市場で生き残るために

賃貸仲介市場における顧客行動の変化は、今後さらに加速すると予想される。

問い合わせ社数の増加、比較検討期間の長期化、情報の質への要求の高まり—これらは一時的なトレンドではなく、デジタルネイティブ世代が主要顧客となる時代の必然的な流れだ。

調査データが示すように、店舗の立地という物理的な優位性よりも、提供する情報の質と信頼性が選択基準となる時代に突入している。特に初めての一人暮らしを検討する若年層は、この傾向が最も顕著に表れる顧客セグメントだ。

この変化に対応できない事業者は、問い合わせすら得られなくなる可能性がある。逆に、顧客の不安に寄り添い、適切な情報提供と丁寧なサポートを提供できる事業者には、大きなチャンスが広がっている。

成約率向上だけでない、長期的な関係構築へ

初めての一人暮らしで良い経験をした顧客は、次の住み替え時にも同じ会社を選ぶ可能性が高い。さらに、友人や後輩に推薦してくれる貴重な「アンバサダー」となる。

目先の成約だけでなく、長期的な顧客関係の構築という視点で、若年層への対応を見直すべき時期に来ている。

まとめ:データに基づく戦略的アプローチの実践を

本稿では、最新の業界調査データを基に、初めての一人暮らし客へのアプローチ方法を体系的に整理してきた。

重要なポイントを改めて整理すると:

  1. 写真と視覚情報の充実が最優先の差別化要素
  2. 口コミ評価の蓄積と活用が信頼獲得の鍵
  3. 初期費用の透明性が若年層の不安解消に直結
  4. 周辺生活情報の提供が物件以外の価値提供となる
  5. 急かさず、寄り添う姿勢が満足度を高める
  6. 契約後のフォロー体制が長期的信頼を生む
  7. 組織的なノウハウ共有が個人スキルを底上げする

これらの施策は、個店の努力だけでは実現が難しい部分も多い。しかし、ハウスコムフランチャイズのような組織的なバックアップ体制を活用することで、効率的に実践できる環境が整う。

賃貸仲介業界は今、大きな転換点を迎えている。従来の「物件を紹介する」だけのビジネスモデルから、「顧客の不安に寄り添い、最適な住まい選びをサポートする」コンサルティング型のビジネスモデルへの進化が求められている。

特に初めての一人暮らし客は、この新しいアプローチが最も効果を発揮する顧客層だ。彼らの期待に応え、信頼を獲得できた事業者こそが、これからの賃貸仲介市場で持続的な成長を実現できるだろう。

データに裏打ちされた戦略的アプローチを、今日から実践してみてはいかがだろうか。


参考資料
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年)