「あの街の不動産屋さん」と呼ばれるために ― 地域密着型不動産会社が今すぐ始めるべきブランド構築術

全国に約13万社が存在する不動産業界。その中で「選ばれる会社」になるために、地域密着型の不動産会社が持つ最大の武器とは何か。最新の消費者調査データをもとに、エリア専門家としての信頼を構築するブランド戦略を徹底解説する。

「店舗立地」より「情報の質」で選ばれる時代へ

かつて不動産会社選びの決め手は「駅前にあるから」「看板をよく見かけるから」といった立地や認知度だった。しかし、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」は、消費者行動の明確な変化を示している。

注目すべきは、不動産会社を選ぶ際に「店舗がアクセスしやすい場所にある」という項目が2年連続で減少傾向にあるという事実だ。一方で「写真の点数が多い」がトップに躍り出て、「不動産会社に対する口コミ情報」が特に重視するポイントで2位にランクインしている。

この結果が意味するところは明確だ。消費者は「どこにあるか」ではなく「何を提供してくれるか」「信頼できるか」で不動産会社を選んでいる。地域密着型の不動産会社にとって、これは大きなチャンスである。立地でハンデを負っていると思っていた会社も、情報発信と信頼構築次第で十分に戦える土俵が整ったのだ。


消費者が本当に求めているもの ― データが示す5つの真実

1. 物件情報の「量」と「質」が決め手

同調査によると、契約までに問い合わせた不動産会社数は平均3.5社、問い合わせた物件数は平均5.5物件と、いずれも前年から増加している。特に賃貸では平均問い合わせ社数が3.3社と、2015年以降で最多を記録した。消費者は複数社を比較検討することが当たり前になっている。

この「比較される時代」に勝ち残るためには、豊富な物件情報と詳細な写真が不可欠だ。「写真の点数が多い」が選択基準のトップになっている事実は、物件の魅力を視覚的に伝えることの重要性を物語っている。

2. 自社ホームページの価値が再評価されている

物件情報の鮮度や正確性について「最も信頼できる情報源」を尋ねた設問では、大手不動産ポータルサイトに次いで「不動産会社の自社ホームページ」が2位となった。特に売買検討者では30%がこれを重視しており、賃貸の13%と比較して倍以上の数値を示している。

大手ポータルサイトに掲載するだけでは差別化にならない。自社ホームページこそが、他社との違いを示す「ブランドの顔」として機能するのだ。

3. 口コミが意思決定を左右する

「不動産会社に対する口コミ情報」を特に重視するポイントとして挙げる消費者が増加傾向にある。インターネット上の口コミは、来店前の第一印象を形成する重要な要素となっている。

地域密着型の会社にとって、これは追い風だ。大手にはない「顔の見える対応」「地域に根差したサービス」を口コミで広めてもらえれば、それが最強の広告になる。

4. SNS活用は「YouTube」と「Instagram」が主戦場

住まい探しで利用するSNSの内訳では、「YouTube」が45.0%でトップ、「Instagram」が43.4%で2位となった。動画や写真による情報発信への消費者ニーズは確実に高まっている。

物件紹介動画やルームツアー、地域の魅力を伝えるコンテンツなど、視覚的な情報発信ができる会社とそうでない会社の差は、今後さらに開いていくだろう。

5. 「地域情報」への関心が高まっている

物件情報以外に必要だと思う情報として、「ハザード情報」「周辺環境の詳細情報」「地域の治安(安全さ)」が上位を占めた。特に売買では「地域の治安」が「ハザード情報」と並んでトップとなり、消費者がその地域で安心して暮らせるかどうかを重視していることがわかる。

地域のことを知り尽くしているはずの地域密着型不動産会社こそ、この情報ニーズに応えられる立場にある。


エリア専門家として信頼を構築する5つの戦略

戦略1:自社ホームページを「地域の情報ポータル」に進化させる

自社ホームページは単なる会社案内や物件一覧ではない。「このエリアのことなら、まずあの会社のサイトを見る」と思われる存在を目指すべきだ。

具体的な施策:

  • エリア別の詳細な生活情報ページを作成する(学校区、病院、スーパー、公園など)
  • 地域のハザードマップへのリンクと独自の解説を掲載する
  • 周辺相場や過去の取引事例をわかりやすくまとめる
  • 「〇〇駅周辺の住みやすさ」「〇〇エリアの子育て環境」といったテーマ別コンテンツを充実させる

これらのコンテンツは検索エンジン対策としても有効だ。「〇〇市 賃貸」「〇〇駅 一人暮らし」といった検索キーワードで上位表示を狙える。

戦略2:写真と動画で「見せる力」を最大化する

「写真の点数が多い」が不動産会社選びのトップ基準である以上、ここに投資しない手はない。

写真撮影のポイント:

  • 広角レンズを使い、部屋の広さを正確に伝える
  • 自然光を活かし、明るく清潔感のある印象を与える
  • 収納内部、設備のアップ、眺望など細部も漏らさず撮影する
  • 周辺環境(最寄り駅からの道のり、近隣施設)も記録する

さらに一歩進んで、YouTube での物件紹介動画やルームツアー動画の制作にも取り組みたい。「間取り図だけではわからない生活動線」「実際に住んだときの雰囲気」を伝えられる動画コンテンツは、消費者の意思決定を後押しする強力なツールだ。

戦略3:口コミマネジメントを経営課題として捉える

Googleの口コミ評価は、もはや無視できない集客チャネルである。「〇〇市 不動産」と検索したときに表示されるGoogleマップの評価は、来店前の第一印象を決定づける。

口コミ対策の基本:

  • 契約後のお客様にレビュー投稿を依頼する仕組みを作る
  • ネガティブな口コミには真摯に返信し、改善姿勢を見せる
  • 社内で口コミ内容を共有し、サービス改善に活かす
  • スタッフ全員が「すべての接客が評価される」という意識を持つ

口コミで高評価を得るための本質は、シンプルだ。一人ひとりのお客様に対して、期待を超える対応をすること。「問い合わせに対するレスポンスが早かった」「都合を配慮してくれた」「物件に対する詳細な説明があった」といった項目は、調査でも満足度に直結する要素として挙げられている。

戦略4:SNSで「中の人」の顔を見せる

企業アカウントでサービス紹介ばかり投稿しても、ほとんど反応は得られない。SNSで成果を出している不動産会社に共通するのは、「中の人」の存在感だ。

効果的なSNS運用のコツ:

  • スタッフの日常や人柄が伝わる投稿を心がける
  • 地域イベントへの参加レポートを発信する
  • 「〇〇エリアで話題の新店舗」など地域ネタを積極的に取り上げる
  • 物件紹介は「広告っぽさ」を抑え、暮らしのイメージが湧く見せ方を工夫する

InstagramやYouTubeでは、地域密着ならではの情報発信が差別化につながる。大手にはできない「この街のことなら誰にも負けない」という専門性を、コンテンツで証明していくのだ。

戦略5:オフラインでの「接触頻度」を高める

デジタル施策と並行して、地域での存在感を高めるオフライン活動も重要だ。地域密着型企業が大手に勝てる最大のポイントは「小回りの効きやすさ」にある。

地域との接点を増やす施策:

  • 地元のお祭りやイベントへのスポンサー参加
  • 地域の清掃活動やボランティアへの参加
  • オーナー向け・入居者向けのセミナー開催
  • 地域情報誌やフリーペーパーへの情報提供

こうした活動は即座に売上につながるものではない。しかし、「地域に貢献している会社」というイメージは、長期的なブランド価値として蓄積されていく。困ったときに「まずあの会社に相談してみよう」と思い出してもらえる存在になることが、地域密着型ブランディングの最終目標だ。


「問い合わせ対応」がブランドの真価を問う

調査結果で見逃せないのは、不動産会社の対応で満足だったこととして「問い合わせに対するレスポンスが早かった」がトップに挙げられている点だ。一方、不満だったこととしては「問い合わせをしたら、その物件はもうないと言われた」「言葉遣いや対応が気に障った」「問い合わせへの回答が的を射ていなかった」が上位を占めている。

どれだけ優れたブランド戦略を立てても、実際の対応が伴わなければ意味がない。むしろ、期待値が高まった分だけ失望も大きくなる。

問い合わせ対応の品質を高めるポイント:

  • レスポンスの目標時間を設定し、管理する(可能であれば1時間以内の初期対応)
  • 掲載物件情報の鮮度を常に最新に保つ
  • 問い合わせ内容をしっかり読み込み、的確な回答を心がける
  • 敬語や言葉遣いの研修を定期的に実施する
  • 契約を急かさず、顧客のペースに合わせる

特に「その物件はもうない」という回答への不満が高いことは要注意だ。これは物件情報の鮮度管理ができていないことを意味する。消費者は「おとり物件なのでは」と疑念を抱き、その会社への信頼を一気に失う。情報管理の仕組みを整備することは、ブランド価値を守るための投資である。


ブランド構築を加速させる選択肢 ― フランチャイズという戦略

地域密着型のブランディングを独力で進めるのは、決して容易ではない。自社ホームページの充実、写真・動画制作、SNS運用、口コミ対策、物件情報の鮮度管理――やるべきことは山積みで、日常業務をこなしながらこれらすべてに取り組むには、相当なリソースが必要だ。

そこで検討したいのが、フランチャイズへの加盟という選択肢である。

大手チェーンのブランド力を活用しながら、地域密着型の強みを活かすことができれば、理想的な組み合わせが実現する。たとえば、全国約200店舗を展開するハウスコムのフランチャイズでは、加盟店に対して以下のような支援を提供している。

集客面での支援:

  • 大手不動産ポータルサイトへの反響送客
  • ブランド認知による集客力の向上
  • 法人営業向けの支援

業務効率化の支援:

  • 基幹システム(コンバータ・顧客管理・契約管理)の提供
  • システム利用料がロイヤリティに含まれるため、コスト削減にも貢献

経営サポート:

  • 定期的な本部スタッフによる巡回とコンサルティング
  • ベンチマークセミナーによるノウハウ共有
  • 法務・会計・労務といった士業支援
  • 加盟店同士のネットワーク構築

「地域の専門家」としてのポジションを維持しながら、大手のブランド力と支援体制を活用する。この「ハイブリッド型」のブランド構築は、限られたリソースで最大の効果を狙う中小不動産会社にとって、有力な選択肢となり得る。


継続こそがブランドをつくる

ブランディングは一度やれば終わりではない。継続的な情報発信、一貫したメッセージ、変わらない品質のサービス提供があってこそ、「〇〇エリアといえばあの会社」というブランドイメージが形成される。

消費者調査が示すように、不動産会社選びの基準は「立地」から「情報の質」と「信頼性」へと確実にシフトしている。この変化は、地域を知り尽くした地域密着型不動産会社にとって追い風だ。

自社の強みを明確にし、一貫したメッセージを発信し続ける。写真や動画で物件の魅力を伝え、地域情報で付加価値を提供する。一つひとつの問い合わせに丁寧に対応し、お客様の期待を超えるサービスを積み重ねる。その結果として得られる口コミと評判こそが、何よりも強力なブランド資産となる。

「あの街の不動産屋さん」と呼ばれる存在になるための道は、今日から始められる。まずは自社のホームページを見直すことから、あるいは明日の問い合わせ対応を少しだけ早くすることから。小さな一歩の積み重ねが、やがて揺るぎないブランドを築き上げる。



本記事は、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」(2025年)の調査結果を参照しています。