成約後も関係を続けるフォロー術|賃貸仲介のリピート・紹介を生む顧客管理の極意

「契約が終わればそれで終わり」——そんな考え方が、あなたの店舗の成長を止めているかもしれない。
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に発表した調査によると、賃貸物件を契約するまでに問い合わせた不動産会社数は平均3.3社と、過去11年で最多を記録した。一方で、実際に訪問する不動産会社数は平均2.0社にとどまる。つまり、顧客は複数社を比較検討しながらも、最終的に足を運ぶ店舗を厳選しているのだ。
この競争環境の中で安定した経営を実現するカギ。それは、新規顧客の獲得だけでなく、**成約後の顧客との関係を維持し、リピートや紹介につなげる「長期的な関係構築」**にある。
本稿では、賃貸仲介業者が今すぐ実践できる成約後のフォロー術と、それを支える顧客管理の仕組みについて、最新の調査データと具体的なノウハウを交えて解説する。
1. なぜ「成約後」が勝負の分かれ目なのか
新規集客コストの高騰という現実
大手不動産ポータルサイトへの掲載費用、Web広告、チラシ配布——新規顧客を獲得するためのコストは年々上昇している。ある業界推計では、1件の成約を得るための広告コストは数万円から数十万円に達することもあるという。
一方、リピート顧客や紹介顧客の獲得コストは、新規顧客と比較して大幅に低い。すでに信頼関係が構築されているため、来店から成約までの期間も短く、営業効率は格段に向上する。
「忘れられる」ことの代償
RSCの調査では、住まい探しを開始してから契約までにかかる期間について、1カ月以上の割合が賃貸で約48%に達し、前年より増加傾向にある。顧客の検討期間が長期化する中、「あの時お世話になった不動産会社」を覚えていてもらうことは、想像以上に難しい。
賃貸契約の多くは2年更新。つまり、成約後に一切の接点がなければ、2年後の更新・転居時に「最初から探し直す」顧客がほとんどなのだ。これは、2年前に苦労して獲得した顧客を、みすみす競合に渡しているに等しい。
2. 顧客が不動産会社に求める「本当のこと」
調査データが示す「満足」と「不満」の境界線
RSCの2025年調査では、不動産会社の対応で満足だったことの上位に以下が並んだ。
- 問い合わせに対するレスポンスが早かった(賃貸:67.9%)
- こちらの都合を配慮してくれた(賃貸:49.4%)
- 言葉遣いや対応が丁寧だった(賃貸:39.5%)
一方、不満だったこととしては次のような声が多い。
- 問い合わせをしたら「その物件はもう無い」と言われた
- 言葉遣いや対応が気に障った
- 問い合わせへの回答が的を射ていなかった
興味深いのは、「感動的なサービス」を求めているわけではなく、**「当たり前のことを、当たり前にやってほしい」**という顧客心理だ。
「不満ゼロ」が最大の差別化
賃貸契約は顧客にとって人生の大きな節目における買い物。たとえ5つの「満足」があっても、たった1つの「不満」があれば、その契約への後悔や営業担当者への不信感につながってしまう。
つまり、リピートや紹介を獲得するための第一歩は、「大満足」を目指すことではなく、**「小さな不満を一切作らない」**ことにある。
3. リピート・紹介を生む5つのフォロー施策
施策①:入居後1週間以内の「困りごと確認」連絡
入居直後は、設備の使い方や近隣環境への不安など、顧客が最も困りやすいタイミング。このタイミングで「何かお困りのことはありませんか?」と一本連絡を入れるだけで、顧客の印象は大きく変わる。
実践ポイント
- 電話が難しければ、LINEやSMSでも可
- 「もし何かあればいつでもご連絡ください」と伝えることで、心理的な安心感を提供
- この時点でトラブルの芽を摘むことで、後のクレーム対応コストも削減
施策②:更新時期の「先回り連絡」
多くの賃貸契約は2年更新。更新時期が近づいたタイミングで連絡を入れることは、リピート獲得の最重要施策といえる。
効果的なタイミング設計
- 更新6カ月前:「お住まい環境はいかがですか?」と様子伺い
- 更新3カ月前:「更新手続きのご案内」と「転居のご検討有無」を確認
- 更新1カ月前:最終確認と、転居希望者への物件提案
業界の実例では、3カ月前に1回だけ連絡する店舗と、6カ月前から毎月1回連絡する店舗では、リピート獲得率に大きな差が生じているという。
施策③:季節の挨拶状・年賀状
デジタル全盛の時代だからこそ、手元に届く「紙」のコミュニケーションは差別化になる。
- 年賀状
- 暑中見舞い
- クリスマスカード
単なる定型文ではなく、「〇〇様のお部屋の近くに新しいカフェができたそうですよ」など、一言手書きのメッセージを添えると効果は倍増する。
施策④:顧客限定の特典・紹介制度
紹介特典の設計例
- 紹介者:商品券5,000円進呈
- 被紹介者:仲介手数料10%OFF
特典がなくてもリピート・紹介は発生するが、「背中を押す仕組み」があることで、顧客が友人に紹介するハードルは確実に下がる。
重要なのは、特典の存在を成約時にしっかり伝えておくこと。後から知っても「なぜ教えてくれなかったのか」という不満につながりかねない。
施策⑤:トラブル対応の「超」スピード対応
設備故障や近隣トラブルなど、顧客からの相談を受けた際の対応スピードは、信頼関係を決定づける最大の要素といっても過言ではない。
鉄則
- トラブル対応は「最優先業務」として位置づける
- 第一報は可能な限り1時間以内に
- 解決に時間がかかる場合も、途中経過を必ず報告
- 対応完了後、「その後いかがですか?」とフォロー
トラブル発生時の対応次第で、顧客は「最悪の体験」にも「最高の体験」にもなり得る。むしろ、トラブルは信頼を深めるチャンスと捉えるべきだ。
4. 顧客管理システム(CRM)で実現する「仕組み化」
「属人化」から「仕組み化」へ
前述のフォロー施策は、いずれも効果が実証されたものだが、問題は**「続けられるかどうか」**にある。
繁忙期に入れば、どうしても新規顧客対応に追われる。結果、成約済み顧客へのフォローは後回しになり、せっかくの見込み客を取りこぼしてしまう——これは多くの店舗が陥る典型的なパターンだ。
この課題を解決するのが、顧客管理システム(CRM)の導入である。
CRMでできること
①顧客情報の一元管理
- 成約日、更新時期、誕生日などの基本情報
- 過去の対応履歴、担当者メモ
- 家族構成、ライフステージの変化
②自動リマインド・自動配信
- 更新6カ月前に自動でアラートを発信
- 誕生日に自動でお祝いメッセージを配信
- 一定期間接点がない顧客を自動抽出
③営業活動の可視化
- 担当者ごとの連絡頻度、リピート率を数値化
- 「ムラ」をなくし、組織全体の対応品質を標準化
ある導入事例では、CRMの活用により来店率が従来の1.6倍、成約率が2倍以上に向上したという報告もある。
5. 成功事例に学ぶ:来店率1.6倍を実現した店舗の取り組み
事例:LINE連携と自動追客の組み合わせ
ある賃貸仲介店舗では、顧客管理システムを導入し、以下の取り組みを実施した。
導入前の課題
- 反響があっても来店につながらない
- 担当者によってフォロー品質にバラつき
- 営業時間外の問い合わせへの対応が遅れがち
導入後の施策
- 約7割の顧客とLINEでやり取りを実施
- 反響があれば即座に自動返信、後から担当者がフォロー
- 物件マッチングメールを定期的に自動配信
成果
- 反響からの来店率:30%→40%に向上
- 担当者の対応品質が標準化
- 追客業務の工数が大幅削減
ポイントは、システムに任せるところは任せ、人がやるべきところに集中するという役割分担だ。
6. フランチャイズ加盟という選択肢
「仕組み」を一から作る負担
顧客管理システムの導入、フォロー施策のマニュアル化、スタッフ教育——これらを独力で構築するには、相当な時間とコストがかかる。特に中小規模の店舗にとっては、日々の営業活動と並行して「仕組みづくり」に取り組むことは容易ではない。
フランチャイズなら「仕組み」が手に入る
賃貸仲介のフランチャイズに加盟することで、長年の直営店運営で培われた顧客管理のノウハウや業務支援システムを、初日から活用できる環境が整う。
ハウスコムFCの場合
ハウスコムは1998年の設立以来、賃貸仲介業をコア事業として約200店舗の直営店を展開。三大都市圏を中心に築き上げたブランド力を、加盟店の営業活動に活かせる体制を整えている。
主なサポート内容
- 大手不動産テック企業の基幹システムを採用した業務システム(コンバータ・顧客管理・契約管理の3点セット)
- システム利用料はロイヤリティに含まれ、追加の運営費用負担を軽減
- 本部スタッフによる定期巡回と相談対応
- 加盟店同士のネットワークを通じた情報共有
- ベンチマークセミナーによる成功事例・ノウハウの提供
特に顧客管理においては、直営店で実証されたフォロー手法や、リピート・紹介獲得のためのベストプラクティスを、加盟店向けに体系化して提供している。
「売上支援」と「業務支援」の両輪
フランチャイズ本部に期待するのは、単なる看板の貸与ではない。反響送客による集客支援、業務システムによる効率化支援、そして経営課題に寄り添う伴走支援——これらが三位一体となってこそ、加盟の価値が最大化する。
ハウスコムFCでは、「加盟店の収益を上げていただくこと」を第一に掲げ、法務・会計・労務といった士業支援も含めた総合的なサポート体制を構築している。
まとめ:成約は「ゴール」ではなく「スタート」
不動産賃貸仲介業界は、人口減少やデジタル化の進展により、かつてない変革期を迎えている。新規顧客の獲得競争が激化する中、成約後の顧客との関係をいかに維持し、リピート・紹介につなげるか——この視点こそが、これからの時代に選ばれる店舗の条件となるだろう。
今日から始められる3つのアクション
- 過去1年間の成約顧客リストを整理し、更新時期が近い顧客を抽出する
- 入居後1週間以内の「困りごと確認」連絡を、業務フローに組み込む
- 顧客管理システムの導入、またはフランチャイズ加盟による「仕組み化」を検討する
成約は「ゴール」ではなく、顧客との関係における「スタート」——この発想の転換が、あなたの店舗を次のステージへと導く第一歩となるはずだ。
本記事で参照した調査データ:不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」2025年調査結果


