不動産賃貸仲介の新常識─広告費ゼロでも反響が生まれる「口コミ×SNS集客」の実践法

大手不動産ポータルサイトへの広告出稿費が年々上昇する中、多くの賃貸仲介業者が収益圧迫に悩んでいる。月額数十万円の広告費を投じても反響数は横ばい、問い合わせ単価は右肩上がり──。この構造的な課題に対し、今、業界で注目されているのが「ローコストマーケティング」だ。口コミとSNSを戦略的に活用することで、広告費を大幅に削減しながら安定した集客を実現する事業者が増えている。2025年の最新調査データが示す消費者行動の変化を踏まえ、実践的な手法を徹底解説する。
1. 深刻化する広告費問題─業界を取り巻く現実
1-1. ポータルサイト依存がもたらす収益悪化
不動産賃貸仲介業界において、大手不動産ポータルサイトへの広告出稿は長年、集客の要とされてきた。しかし、この「ポータルサイト依存」が今、多くの事業者の経営を圧迫している。
掲載プランの価格は年々上昇し、月額20万円から50万円以上の広告費を投じる事業者も珍しくない。複数のポータルサイトに出稿すれば、広告費だけで月間100万円を超えるケースもある。問題は、広告費の増加に反響数が比例しない点だ。同じ物件情報が複数のサイトに掲載される中、差別化は困難を極め、問い合わせ単価は上昇の一途をたどっている。
1-2. 消費者行動の変化が示す「脱ポータルサイト」の兆し
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した調査結果は、消費者行動の明確な変化を示している。物件契約までに問い合わせる不動産会社数は、賃貸で平均3.3社と2015年以降で最多を記録。問い合わせ物件数も平均5.6物件に達し、検討期間の長期化と情報収集の多様化が進んでいる。
注目すべきは、消費者が不動産会社を選ぶ際の判断基準だ。調査では「不動産会社に対する口コミ情報」が重要なポイントとして上位にランクインし、前年比でも増加傾向を示した。また、住まい探しの際に不動産情報サイト以外で利用している情報源として、「不動産会社の自社ホームページ」がトップ、次いで「SNS(YouTube、Instagram等)」、「インターネットの口コミ」が上位を占めた。
この結果が意味するのは、消費者が大手不動産ポータルサイトだけに頼らず、多様な情報源から能動的に情報を収集し、比較検討するようになったという事実だ。
2. データで読み解く─消費者が本当に求めている情報
2-1. 口コミが購買決定に与える影響力
同調査によると、不動産物件情報の鮮度や正確性が信頼できる情報源として、「不動産情報サイト」に次いで「不動産会社の自社ホームページ」が高い信頼を獲得している。特に売買検討者においては、自社ホームページの信頼度が30%に達し、賃貸検討者の11.3%を大きく上回った。
さらに、不動産会社を選ぶポイントとして「写真の点数が多い」がトップに立つ一方、「不動産会社に対する口コミ情報」が2位にランクインし、特に重視するポイントとして前年比で増加している。消費者は物件情報だけでなく、その不動産会社の対応や信頼性を事前に確認したいと考えているのだ。
2-2. SNSが担う新たな役割─YouTubeとInstagramの台頭
調査では、住まい探しの際にSNSを利用する消費者の割合が増加している。その内訳を見ると、YouTubeが45.0%、Instagramが43.4%とツートップを形成し、賃貸より売買でその傾向が顕著だ。
従来、SNSは若年層向けのツールと見なされがちだったが、今や幅広い年齢層が物件探しの情報源として活用している。動画や画像を通じた視覚的な情報提供が、消費者の意思決定プロセスに大きな影響を与えているのである。
2-3. 店舗立地よりも情報の質─変わる選択基準
興味深いのは、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という項目の割合が2年連続で減少している点だ。これは、消費者が店舗の立地条件よりも、提供される物件情報の質や量、そして不動産会社の対応力を重視するようになったことを示唆している。
オンライン上での情報収集と比較検討が主流となった今、物理的な店舗の利便性は相対的に重要度を下げており、代わりにデジタル上での存在感が問われる時代になったと言えるだろう。
3. ローコストマーケティングの実践─5つの柱
広告費を抑えながら集客を実現するには、体系的なアプローチが必要だ。ここでは、実践可能な5つの戦略を提示する。
3-1. 【SNS戦略】YouTubeで物件紹介動画を発信する
なぜYouTubeなのか
調査データが示す通り、YouTubeは消費者が信頼する情報源として急速に台頭している。文字や写真だけでは伝わりにくい物件の雰囲気、周辺環境、間取りの使い勝手などを、動画なら直感的に伝えられる。
具体的な実践方法
- 物件紹介動画の制作: スマートフォン1台で十分。物件の外観、共用部、室内を順に撮影し、「日当たり」「収納」「駅からの距離」など、入居希望者が気にするポイントを明確に解説する。動画時間は3〜5分程度が理想的だ。
- エリア情報動画の配信: 「○○駅周辺の住みやすさ」「ファミリー向けエリアベスト3」など、地域に密着した情報を発信する。これにより、物件を探していない層にもリーチし、潜在顧客の獲得につながる。
- 投稿頻度とSEO対策: 週1回の定期投稿を目標に、動画タイトルには「渋谷 賃貸 1LDK」など検索されやすいキーワードを含める。サムネイル画像は明るく見やすいデザインを心がける。
期待できる効果
広告費ゼロで24時間365日集客が可能になる。動画は資産として蓄積され、過去の投稿からも継続的に問い合わせが発生する。さらに、動画を見た上で問い合わせる顧客は成約率が高い傾向にある。
3-2. 【Instagram戦略】ビジュアルで物件の魅力を最大化
Instagramの強み
Instagramは視覚的な訴求力に優れ、特に20代〜40代の利用者が多い。物件写真だけでなく、ライフスタイル提案型の投稿が効果的だ。
実践的な運用テクニック
- ハッシュタグ戦略: 「#東京賃貸」「#新築マンション」「#一人暮らし」など、検索ボリュームの多いハッシュタグを5〜10個程度付ける。地域名や駅名も必ず含める。
- ストーリーズ機能の活用: 日常的な情報発信にはストーリーズを使う。「本日公開の新着物件」「内見予約受付中」など、鮮度の高い情報を素早く届けられる。
- リール動画の制作: 15秒〜30秒の短尺動画で物件の魅力を凝縮。BGMとテキストを組み合わせ、スタイリッシュに仕上げる。リール動画はアルゴリズムで拡散されやすく、フォロワー以外にもリーチできる。
投稿内容の工夫
物件情報だけでなく、「この街で暮らす魅力」「おすすめカフェ」「ペット可物件の選び方」など、ライフスタイルに関する投稿を織り交ぜることで、フォロワーのエンゲージメントを高める。
3-3. 【口コミ戦略】Googleビジネスプロフィールを最大活用
Googleマイビジネスの重要性
「○○市 不動産」「△△駅 賃貸」などで検索された際、Googleマップと連動して店舗情報が表示される。口コミの数と評価は、検索順位や来店・問い合わせに直結する。
口コミを増やす実践的手法
- 契約者への依頼: 契約完了時や入居後のフォロー連絡の際、「今後のお客様のためにレビューをいただけると幸いです」と依頼する。QRコードを記載した案内を渡すと、投稿率が向上する。
- 悪い口コミへの対応: 低評価のレビューが付いた場合、速やかに返信し、誠実に対応する姿勢を示す。適切な対応は、他の閲覧者からの信頼を得る機会になる。
- 写真の充実: 店舗外観、内装、スタッフの様子など、複数の写真を登録することで、親しみやすさと信頼感を醸成する。
期待される成果
Googleビジネスプロフィールの最適化により、地域検索での露出が増加。口コミの星評価が4.0以上になると、問い合わせ率が大幅に向上するというデータもある。
3-4. 【自社ホームページ戦略】情報発信の中核拠点を構築
なぜ自社ホームページが必要か
調査では、消費者が不動産情報サイト以外で最も利用する情報源が「不動産会社の自社ホームページ」だった。大手不動産ポータルサイトとの差別化を図り、ブランド価値を高めるには、自社サイトの強化が不可欠だ。
効果的なホームページの要素
- 物件検索機能の充実: 大手不動産ポータルサイトと同様、地域・沿線・家賃・間取りなどの条件で絞り込める検索機能を実装する。
- コンテンツマーケティング: 「初めての一人暮らしガイド」「賃貸契約の流れ」「退去時の注意点」など、ユーザーに役立つ情報を継続的に発信。SEO効果も期待できる。
- スタッフ紹介ページ: 顔写真と自己紹介を掲載し、親近感と安心感を与える。「どんな人が対応してくれるのか」は、問い合わせのハードルを下げる重要な要素だ。
- 問い合わせ導線の最適化: 電話番号、メールフォーム、LINE公式アカウントなど、複数の問い合わせ手段を用意し、ユーザーが好む方法で連絡できるようにする。
SEO対策の基本
地域名を含むキーワード(「新宿 賃貸 ペット可」など)でページを作成し、Googleで上位表示を狙う。継続的なコンテンツ更新がSEO評価を高める。
3-5. 【LINE公式アカウント戦略】顧客との接点を強化
LINEの圧倒的な利用率
日本国内でのLINE利用率は90%を超える。顧客が日常的に使うツールで接点を持つことで、メールよりも開封率・反応率が高まる。
活用方法
- 友だち登録特典: 「友だち追加で初期費用割引」「限定物件情報の配信」など、登録メリットを明確にする。
- プッシュ通知で新着物件を配信: 週1回程度、登録者の希望条件に合った物件情報を配信。頻度が高すぎるとブロックされるリスクがあるため、配信は週1〜2回程度に抑える。
- チャット機能で問い合わせ対応: 電話やメールよりも気軽に連絡できるため、問い合わせのハードルが下がる。迅速な返信を心がけることで、顧客満足度が向上する。
4. 成功事例に学ぶ─中小事業者でもできる実践知
4-1. 事例1: 地方都市の独立系仲介店(店舗数1)
背景: 大手チェーンとの競争激化で、大手不動産ポータルサイトへの広告費が経営を圧迫。
実施施策:
- YouTubeで週2回の物件紹介動画を配信
- Googleビジネスプロフィールの口コミ獲得に注力(契約時に依頼)
- Instagramでエリア情報とライフスタイル提案を発信
成果:
- 6ヶ月で大手不動産ポータルサイトからの広告費を50%削減
- YouTube経由の問い合わせが月間20件発生
- Google検索での「地域名+賃貸」での上位表示を達成
4-2. 事例2: 都市部の賃貸専門仲介店(店舗数3)
背景: 複数の大手不動産ポータルサイトに月間80万円を投じていたが、反響の頭打ちを実感。
実施施策:
- 自社ホームページをリニューアルし、物件検索機能を強化
- ブログ形式で「エリアガイド」「賃貸お役立ち情報」を週3回更新
- LINE公式アカウントで物件情報を配信、チャット対応を開始
成果:
- 自社サイト経由の問い合わせが3倍に増加
- 大手不動産ポータルサイト広告費を月40万円まで削減
- 顧客対応の効率化により、成約率が15%向上
4-3. 共通する成功要因
これらの事例に共通するのは、「継続的な情報発信」と「顧客視点」だ。一度の投稿で劇的な効果が出ることは稀だが、3ヶ月〜6ヶ月の継続により、着実に認知度と信頼が蓄積されていく。
また、物件情報だけでなく、エリアの魅力や住まい探しのノウハウなど、顧客にとって有益な情報を提供することで、「この会社に相談したい」という感情を醸成している点も重要だ。
5. 陥りやすい失敗パターンと対策
5-1. 失敗パターン①: 投稿が続かない
原因: 成果が見えにくい初期段階でモチベーションが低下し、更新が途絶える。
対策: 週1回など、無理のない投稿頻度を設定する。外部ライターやデザイナーに一部業務を委託するのも有効だ。また、投稿スケジュールを事前に決め、ルーティン化することで継続しやすくなる。
5-2. 失敗パターン②: 自己満足なコンテンツになる
原因: 会社の宣伝ばかりで、顧客にとって価値のある情報が不足している。
対策: 「顧客が知りたいことは何か」を常に考える。物件探しの悩み、契約時の不安、引っ越しの準備など、顧客目線のコンテンツを心がける。
5-3. 失敗パターン③: 効果測定をしない
原因: どの施策がどれだけの成果を生んでいるか把握できず、改善につながらない。
対策: Google Analytics、SNSのインサイト機能などを活用し、アクセス数や問い合わせ経路を定期的に分析する。数値を見ながら、効果の高い施策に注力する。
6. ローコストマーケティングを加速させる─ハウスコムFC加盟という選択肢
ここまで紹介してきたローコストマーケティングは、個店でも実践可能な手法だ。しかし、さらに効率的かつ効果的に集客を強化したいなら、フランチャイズへの加盟という選択肢も検討に値する。
6-1. ブランド力による信頼獲得
消費者が不動産会社を選ぶ際、「聞いたことのあるブランド」は大きなアドバンテージになる。ハウスコムFCのような知名度のあるブランドに加盟することで、初めて問い合わせる顧客に対する安心感を提供できる。
口コミやSNSでの評価を高める取り組みと並行して、ブランド力を活用することで、問い合わせ率の向上が期待できる。
6-2. 本部提供のマーケティングツール
多くのフランチャイズ本部は、加盟店向けにSNS用のテンプレート、動画制作ガイド、SEO対策済みのホームページなど、マーケティングツールを提供している。これにより、専門知識がなくてもプロレベルの情報発信が可能になる。
個店で一から構築するには時間とコストがかかるが、本部のサポートを活用すれば、短期間で効果的な施策を展開できる。
6-3. 研修・ノウハウの共有
フランチャイズ本部は、加盟店間で成功事例やノウハウを共有する場を提供している。他店の取り組みから学び、自店に応用することで、試行錯誤の時間を短縮できる。
また、デジタルマーケティングに関する研修プログラムが用意されている場合も多く、スタッフのスキルアップにつながる。
6-4. コスト削減とのバランス
フランチャイズ加盟には加盟金やロイヤリティが発生するが、ブランド力とサポート体制を活用することで、大手不動産ポータルサイトへの広告依存度を下げられる。結果的に、トータルコストの削減につながるケースも少なくない。
独立経営とフランチャイズ加盟、それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、自社の状況に最適な選択をすることが重要だ。
7. まとめ─広告費に頼らない集客の未来
不動産賃貸仲介業界における集客手法は、大きな転換期を迎えている。大手不動産ポータルサイトへの高額な広告出稿だけが唯一の答えではない。消費者行動の変化、デジタルツールの進化により、中小事業者でも工夫次第で十分な集客を実現できる時代になった。
本記事で紹介した5つの戦略:
- YouTubeでの物件紹介動画配信
- Instagramでのビジュアル訴求とライフスタイル提案
- Googleビジネスプロフィールでの口コミ獲得
- 自社ホームページの強化とコンテンツマーケティング
- LINE公式アカウントでの顧客接点強化
これらは、いずれも初期費用を抑えて始められ、継続的な取り組みにより着実に成果を積み上げられる手法だ。
重要なのは、「顧客に選ばれる理由」を明確にすることである。物件情報はどの会社でも提供できる。差別化のポイントは、情報の見せ方、顧客への寄り添い方、そして信頼の構築にある。口コミとSNSは、その信頼を可視化し、広く伝えるための強力なツールなのだ。
2025年の調査データが示す通り、消費者は多様な情報源から比較検討し、自分に合った不動産会社を選ぶ時代になった。この変化を好機と捉え、ローコストマーケティングに取り組む事業者こそが、これからの市場で優位に立てるだろう。
広告費削減と集客力向上の両立──。それは決して夢物語ではなく、戦略的なアプローチで実現可能な目標である。今日から、できることから始めてみてはいかがだろうか。
【参考データ】
- 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート 2025年調査結果」


