【賃貸仲介の勝敗は最初の3分で決まる】顧客が「この人に任せたい」と思う第一印象トークの全技法

「問い合わせをしたら、その物件はもうないと言われた」「言葉遣いや対応が気に障った」——不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が発表した2025年の利用者意識調査では、賃貸物件を契約した顧客の18.8%がこうした不満を抱えていることが明らかになった。
一方で、同調査によれば賃貸契約者が問い合わせる不動産会社数は平均3.3社と過去11年間で最多を記録。顧客は複数社を比較検討するのが当たり前になり、「どの会社に任せるか」を厳しく見定めている。
この競争激化の時代において、成約率を左右するのは物件力だけではない。初回接触のわずか3分間で顧客の心を掴めるかどうか——ここに勝敗の分岐点がある。本稿では、調査データを読み解きながら、第一印象で競合を圧倒するための具体的なトークスクリプトと実践テクニックを詳解する。
なぜ「最初の3分」が成約率を決定づけるのか
顧客は平均3.3社に問い合わせる時代
2025年の調査結果は、賃貸仲介業界の競争環境がかつてないほど厳しくなっていることを示している。契約者が問い合わせた不動産会社数は平均3.3社に達し、2015年以降で最も多い数値となった。特筆すべきは「5社以上」に問い合わせた顧客の割合が21.0%にも上る点だ。
つまり、5人に1人以上の顧客が複数社を徹底比較している。彼らは各社の対応を横並びで評価し、最も信頼できると感じた会社を選んでいる。
顧客満足度71.5%を支える「迅速なレスポンス」
では、顧客は何を基準に不動産会社を評価しているのか。
同調査で「不動産会社に求めるもの」として最も多かった回答は「礼儀・接客対応」で76.4%。続いて「正確な物件情報の提供」(73.5%)、「問合せに対する迅速対応」(60.3%)がランクインした。
さらに印象的なのは、実際に契約した顧客が「満足だったこと」として挙げた項目だ。トップは「問合せに対するレスポンスが早かった」で71.5%。実に7割以上の顧客が、返答の速さに好印象を持っている。
この数字は何を意味するか。顧客は問い合わせた瞬間から、あなたの会社を「査定」し始めている。そして最初の対応が遅れた時点で、選考から脱落するリスクを抱えているのだ。
「物件がない」と言われた瞬間、顧客の心は離れる
調査では不満だったこととして「問合せをしたら、その物件はもうないと言われた」が賃貸で24.7%、「言葉遣いや対応が気に障った」が14.3%という結果も出ている。
興味深いのは、「問合せへの回答が的を射ていなかった」という不満が20.6%に達している点だ。顧客は「ただ返事が来ればいい」とは思っていない。自分の質問や希望に対して、的確に応えてくれるかどうかを見ている。
これらのデータが示すのは、初回接触における「質」と「速度」の両立が不可欠だという事実である。
第一印象で差をつける3つの基本原則
原則1:30秒以内の「認知・感謝・確認」フレーム
顧客からの問い合わせに対する最初の30秒で、以下の3要素を必ず伝える。
フレーム構成
- 認知:問い合わせ内容を正確に把握していることを示す
- 感謝:数ある会社の中から選んでいただいたことへの謝意
- 確認:次のアクションに向けた簡潔な質問
電話対応の場合
「〇〇様、お問い合わせいただきありがとうございます。〇〇駅エリアで△△万円台のお部屋をお探しとのこと、承知いたしました。ご希望に合う物件をご紹介させていただきたいのですが、お引越しのご予定時期はお決まりでしょうか?」
メール対応の場合
件名:【ご連絡ありがとうございます】〇〇駅エリアのお部屋探しについて
〇〇様
このたびはお問い合わせいただき、誠にありがとうございます。 〇〇駅周辺で△△万円台、□LDKのお部屋をご検討とのこと、承知いたしました。
お問い合わせいただいた物件につきまして、現在の空室状況を確認のうえ、本日中にご連絡差し上げます。
なお、ご希望条件に近い物件も複数ございますので、併せてご紹介させてください。 ご来店のご都合がよろしい日時がございましたら、お知らせいただけますと幸いです。
ポイントは「条件を復唱する」ことだ。顧客は自分の要望がきちんと伝わっているか不安を感じている。それを解消するだけで、信頼度は大きく向上する。
原則2:「物件がない」をチャンスに変える転換話法
調査で最も多い不満のひとつが「問合せをしたら、その物件はもうないと言われた」だった。しかし、これは言い方次第でチャンスに転換できる。
NGパターン
「あー、その物件ですか。すみません、もう決まっちゃいました」
改善パターン
「お問い合わせありがとうございます。実は、この物件は大変人気がありまして、つい先日お申し込みが入ってしまいました。ただ、同じエリアで似た条件の物件が複数ございます。もしよろしければ、いくつかご紹介させていただけますでしょうか?」
このトークには3つの仕掛けがある。
- 人気物件だったという価値付け:顧客の選択眼を肯定する
- 代替案の即時提示:「ない」で終わらせない姿勢を示す
- 許可を求める言い回し:押し付けではなく、顧客主導の関係を構築する
原則3:「詳しさ」で専門性を印象づける
調査では「物件に対する詳細説明」を求める顧客が賃貸で60.5%に達している。単に物件スペックを読み上げるのではなく、地域情報や生活利便性まで踏み込んだ説明ができるかどうかが、専門家としての信頼を左右する。
差がつく情報提供の例
「この物件、駅から徒歩6分なんですが、実は駅とマンションの間にスーパーとコンビニがあるので、帰り道に買い物を済ませられるんです。駅前よりむしろ便利かもしれません」
「このエリア、夜は静かなんですが、大通り沿いなので街灯が多くて、女性の一人暮らしでも安心だと言われる方が多いですね」
調査ではP5の67.6%が「治安情報」を求めているというデータも出ている。こうした生活に直結する情報を自然に織り込むことで、「この担当者は詳しい」という印象を与えられる。
来店時の最初の3分間で実践する信頼構築術
入店から着席までの60秒で決まる空気づくり
来店時の第一印象は、言葉以前の「非言語コミュニケーション」で8割が決まると言われる。
実践チェックリスト
- 顧客が入店したら、作業の手を止めて立ち上がる
- 目を合わせて、笑顔で「いらっしゃいませ」と声をかける
- 席に案内する際、「本日はお越しいただきありがとうございます」と歩きながら伝える
- 着席を促すとき、「どうぞ、こちらへ」と手で席を示す
これらは当たり前に思えるかもしれない。しかし、調査で「言葉遣いや対応が気に障った」という不満が14.3%あることを考えれば、この「当たり前」ができていない店舗が少なくないことがわかる。
最初の質問で顧客の「本音」を引き出す
着席後、いきなり条件をヒアリングするのは得策ではない。まずは顧客の緊張を解きほぐし、話しやすい雰囲気をつくることが先決だ。
アイスブレイクの例
「本日は暑い中お越しいただき、ありがとうございます。お飲み物、冷たいお茶とコーヒーがございますが、いかがですか?」
飲み物を出しながら、簡単な質問を投げかける。
「今回のお引越し、お仕事の関係でしょうか?」
この質問には意図がある。引越しの「理由」を聞くことで、顧客が重視するポイント(通勤距離、環境の変化、家賃の見直しなど)を自然に把握できるからだ。
条件ヒアリングの「順序」が信頼感を生む
顧客から条件を聞く際、多くの営業担当者は「エリア→家賃→間取り」の順で質問する。しかし、より効果的なのは「生活スタイル→優先順位→条件」という順序だ。
推奨ヒアリングフロー
- 生活スタイルの確認
「お仕事は何時頃に終わられることが多いですか?」
「休日はお出かけされることが多いですか、それともご自宅でゆっくりされますか?」 - 優先順位の明確化
「たとえば、駅からの近さと広さ、どちらをより重視されますか?」
「築年数と設備の充実度、どちらが気になりますか?」 - 具体的条件の確認
「ご希望のエリアはございますか?」
「ご予算はどのくらいでお考えですか?」
この順序で聞くことで、顧客は「自分のことをちゃんと理解しようとしてくれている」と感じる。単なる条件マッチングではなく、生活提案をしてくれる専門家という印象を与えられる。
競合を出し抜く「フォローアップ」の設計
来店後24時間以内のアクションが成約率を左右する
調査によれば、顧客が実際に訪問する不動産会社数は平均2.0社。つまり、来店した時点で選択肢はほぼ2社に絞られている。この2社の間で選ばれるためには、来店後のフォローが決定打となる。
24時間以内に送るべきメッセージの構成
- 来店のお礼
- 本日紹介した物件の要点整理
- 追加情報の提供(近隣の生活施設情報など)
- 次のステップの提案(内見日程の候補提示など)
メール文例
〇〇様
本日はご来店いただき、誠にありがとうございました。 担当の△△です。
本日ご紹介した物件について、改めて整理いたしましたのでご確認ください。
【物件A】〇〇駅徒歩5分・1LDK・8.5万円
・築5年、オートロック完備
・スーパーまで徒歩3分【物件B】〇〇駅徒歩8分・1LDK・7.8万円
・築10年、リノベーション済
・角部屋で日当たり良好ご検討いただけましたら、内見のご案内をさせていただきます。 今週末でしたら、土曜日の午前中と日曜日の午後にご案内可能です。
ご都合をお知らせいただければ幸いです。 何かご不明点がございましたら、お気軽にご連絡ください。
このメールの狙いは「検討しやすくする」ことだ。顧客は複数の物件を見て情報が混乱しがちである。整理して提示することで、検討のハードルを下げ、次のアクションを促す。
実践で使える第一印象トークスクリプト集
シーン1:電話での初回問い合わせ対応
顧客:「〇〇のサイトで見た△△マンションについて聞きたいんですけど」
営業:「お電話ありがとうございます。△△マンションでございますね。私、担当の□□と申します。よろしければ、お名前をお聞かせいただけますか?」
顧客:「〇〇です」
営業:「〇〇様、ありがとうございます。△△マンションは〇〇駅から徒歩6分、1LDKで8万5千円の物件でございますね。こちら、現在空室ございます。〇〇様、いつ頃のお引越しをご検討でしょうか?」
シーン2:物件がすでに成約済みだった場合
営業:「お問い合わせありがとうございます。大変申し訳ございません。△△マンションは昨日お申し込みが入りまして、ご紹介が難しい状況でございます」
(一呼吸置いて)
営業:「ただ、この物件をご検討されていたということは、〇〇駅エリアで1LDK、8万円台をお探しでいらっしゃいますか?」
顧客:「そうですね」
営業:「でしたら、同じエリアで似た条件の物件が3件ほどございます。よろしければ、ご紹介させていただけますでしょうか?いずれも、駅から10分以内、8万円台でご案内できる物件です」
シーン3:来店時のヒアリング開始
営業:「本日はお越しいただきありがとうございます。お飲み物、冷たいお茶かコーヒー、いかがですか?」
(飲み物を出しながら)
営業:「今回のお引越しは、お仕事のご関係ですか?」
顧客:「転職で、来月から〇〇に通うことになって」
営業:「そうでしたか。〇〇でしたら、△△線沿線が便利ですね。通勤時間はどのくらいまでなら許容範囲ですか?」
顧客:「30分くらいなら」
営業:「30分ですね。となると、〇〇駅から□□駅あたりまでがちょうどいいですね。ちなみに、休日はご自宅でゆっくりされる方ですか、それともお出かけになることが多いですか?」
まとめ:選ばれる仲介会社になるために
2025年の調査データが示すのは、顧客がこれまで以上に「接客の質」を重視しているという事実だ。問い合わせ先が平均3.3社に増えた今、初回接触で好印象を与えられなければ、その時点で選考から外れるリスクがある。
成約率を高めるために、今日から実践すべきことは明確だ。
- 問い合わせには即日対応し、顧客の条件を復唱して「わかってもらえている」安心感を与える
- 物件がない場合も代替案を即座に提示し、「ない」で終わらせない姿勢を見せる
- 地域情報や生活提案を織り交ぜ、専門家としての信頼を勝ち取る
- 来店後24時間以内にフォローメールを送り、検討しやすい環境を整える
最初の3分間に注力することで、競合との差は確実に広がる。顧客が「この人に任せたい」と思う瞬間は、あなたの一言一言の中にある。
出典:不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年10月発表)


