平均3.3社を比較する時代——「問い合わせ5社」から選ばれた不動産会社の共通点とは

賃貸ユーザーの比較行動が過去最高水準に達している。業界調査によれば、契約までに問い合わせる不動産会社数は平均3.3社。しかも「5社以上」に問い合わせるユーザーが全体の2割を超えた。競合がひしめく中で「選ばれる1社」になるために、成約を勝ち取った事例から学ぶべきことは何か。現場の声と最新データを交えながら、激しい競争を勝ち抜くための実践的な戦略を解き明かす。


「比較される」ことが当たり前になった賃貸市場

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に発表した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」によると、賃貸物件を契約するまでに問い合わせた不動産会社数は平均3.3社で、2015年以降で最多を記録した。

特筆すべきは、「5社」「6社以上」に問い合わせたユーザーの割合が合計21.0%に達した点だ。5人に1人以上が5社以上を比較検討している計算になる。

この数字が意味するのは明確だ。顧客が最初に問い合わせた会社にそのまま決めるケースは減少し、複数社を比較して「最も信頼できる」「対応が良い」と判断した会社に決める傾向が強まっている。

問い合わせた物件数も平均5.8件と過去最高水準。検討期間も長期化傾向にあり、1ヶ月以上かけて物件を探すユーザーが4割を超えている。つまり、顧客は時間をかけて慎重に比較し、納得のいく選択をしようとしているのだ。


「選ばれなかった4社」に共通する失敗パターン

5社に問い合わせて1社を選ぶということは、4社は「選ばれなかった」ということになる。その差はどこにあるのか。

同調査では、不動産会社の対応で「不満だったこと」として以下が上位に挙がっている。

不満の上位3項目(賃貸)

  1. 「その物件はもう無い」と言われた(24.7%)
  2. 契約の意思決定を急かされた(23.5%)
  3. 言葉遣いや対応が気に障った(22.2%)

1位の「物件がもう無い」という回答は、物件情報の鮮度管理ができていない会社が多いことを示している。大手不動産ポータルサイトで見つけた物件に問い合わせたのに、実際には募集が終了していた——このがっかり体験は、顧客の信頼を一瞬で失わせる。

2位の「意思決定を急かされた」も深刻だ。検討期間が長期化している今、顧客は自分のペースで納得して決めたいと考えている。「今日中に決めないと他の人に取られますよ」という昔ながらの営業トークは、もはや逆効果になりつつある。

3位の「言葉遣いや対応」は基本中の基本だが、忙しい繁忙期ほどおろそかになりがちだ。電話やメールでの第一印象が悪ければ、顧客は来店すらしない。


【ケーススタディ】5社比較で成約を勝ち取った3つの事例

では、実際に複数社比較の中から選ばれた不動産会社には、どのような共通点があるのか。現場で成果を上げている事例を見ていこう。

事例1:レスポンス速度で「最初の印象」を制した地方都市の仲介店

東北地方のある賃貸仲介店では、問い合わせから初回返信までの時間を「30分以内」と社内ルール化している。

「調査データを見ると、問い合わせに対するレスポンスの早さが満足度に直結していることがわかります。うちでは問い合わせが入った瞬間に通知が飛ぶ仕組みを導入し、担当者がすぐに対応できる体制を整えました」と同店の責任者は語る。

実際、RSCの調査でも「満足だったこと」の1位は「問合せに対するレスポンスが早かった」(67.9%)だ。この店舗では、レスポンス速度の改善後、来店率が約1.4倍に向上したという。

ポイントは単に早いだけでなく、最初の返信で「物件の空室状況」「類似物件の提案」「来店可能日時の候補」をセットで伝えていることだ。顧客が次に何をすべきか迷わない対応が、他社との差別化につながっている。

事例2:「写真の点数」と「周辺情報」で信頼を獲得した都市部の仲介店

関西圏のある仲介店は、物件写真の点数と質にこだわり抜くことで成約率を高めている。

RSCの調査では、不動産会社を選ぶポイントとして「写真の点数が多い」がトップとなり、直近3年で最多を記録した。同店では1物件あたり最低20枚以上の写真を掲載し、室内だけでなく共用部分、周辺環境、最寄り駅までの道のりまでカバーしている。

「お客様が知りたいのは部屋の中だけではありません。治安情報へのニーズが67.6%という調査結果もある通り、周辺環境への関心は非常に高い。写真と一緒に、スーパーや病院、学校までの距離、夜間の街灯の状況なども伝えるようにしています」

さらに同店では、物件情報以外に必要だと思う情報として最も多かった「治安情報」(67.6%)や「災害リスク情報」(55.6%)についても積極的に開示。ハザードマップの説明や、過去の浸水履歴なども正直に伝えることで、「誠実な会社」という評価を獲得している。

事例3:「都合への配慮」で競合に勝った郊外の仲介店

首都圏郊外の仲介店では、顧客の都合に徹底的に合わせる姿勢が成約につながっている。

「満足だったこと」の2位は「こちらの都合を配慮してくれた」(49.4%)だ。この店舗では、内見の日程調整において「お客様の第一希望に合わせる」ことを最優先にしている。

「他社さんは『この日しか空いていません』という案内が多いようです。でも、うちではお客様が見たい日時に合わせて、必要であれば休日出勤や早朝対応もしています。結果として『他の会社は都合を聞いてくれなかったけど、御社は違った』という声をいただくことが増えました」

加えて、契約の意思決定を急かさないことも徹底している。「契約の意思決定をこちらのペースに合わせてくれた」という満足要因に応えるため、「じっくり検討してください」と明言。その姿勢が逆に信頼を生み、最終的に選ばれる結果につながっているという。


選ばれる不動産会社が実践している「7つの差別化ポイント」

事例から導き出された、競合の中で選ばれるための実践的なポイントを整理する。

1. 初回レスポンスは30分以内を目指す

問い合わせから時間が経つほど、顧客は他社に流れていく。「すぐに返信が来た会社」は第一印象で優位に立てる。自動返信だけでなく、具体的な情報を含んだ返信を心がけたい。

2. 物件情報の鮮度を毎日チェックする

「その物件はもう無い」は最大の不満要因。空室状況は毎日確認し、募集終了物件は即座に掲載を取り下げる。代わりに類似物件を提案できる準備も重要だ。

3. 写真は「枚数」と「多様性」で勝負する

室内写真だけでなく、共用部分、周辺環境、駅までの道のりなど、顧客が実際に見たい情報を網羅する。最低20枚以上を目安に。

4. 治安・災害リスク情報を正直に伝える

顧客が求める「物件情報以外の情報」として、治安情報(67.6%)、災害リスク情報(55.6%)、周辺施設情報(55.0%)が上位。これらを先回りして提供することで信頼度が上がる。

5. 顧客のペースを尊重する

検討期間が長期化している今、「急かさない営業」が効果的。「じっくり検討してください」と伝えることで、かえって成約率が上がるケースが増えている。

6. 問い合わせ物件以外の選択肢も提示する

問い合わせた物件だけでなく、条件に合う他の物件も積極的に提案する。「不動産会社に求めるもの」として「問合せた物件以外の物件情報の提供」(30.2%)が挙がっている点を見逃さない。

7. オンライン対応の選択肢を用意する

IT重説の活用意向は56.7%で過去最高。オンライン契約のニーズも42.2%に達している。非対面での対応を選べる体制を整えておくことが、競合との差別化につながる。


ブランド力と本部サポートがもたらす「見えない競争優位」

5社比較の中で選ばれるためには、個々の営業努力だけでなく、会社としての「信頼される基盤」が必要になる。

RSCの調査では、不動産物件情報の鮮度や正確性が最も信頼できる情報源として「不動産情報サイト」(42.8%)に次いで「不動産会社の自社ホームページ」(12.8%)が挙がっている。つまり、会社としての情報発信力やブランド認知が、顧客の信頼形成に影響しているのだ。

また、「不動産会社に対する口コミ情報」を重視するユーザーも増加傾向にある。「特に重視するポイント」として口コミが2位にランクインしており、前年比でも増加している。

こうした「会社としての信頼性」を高めるためには、個店の努力だけでは限界がある。ブランド力のある本部との連携や、業務システムの整備、継続的な研修体制など、組織的なサポートが不可欠だ。

フランチャイズという選択肢は、こうした課題に対する一つの解決策となる。知名度のあるブランドを活用できること、本部からの反響送客支援があること、業務システムがパッケージで提供されること——これらは、5社比較の中で選ばれるための「見えない競争優位」になりうる。

特に、物件情報の鮮度管理や顧客管理においては、基幹システムの整備が成約率に直結する。自社単独で構築するよりも、実績あるシステムを活用するほうが効率的なケースは多い。


まとめ:「選ばれる1社」になるための第一歩

賃貸ユーザーが平均3.3社、2割以上が5社以上に問い合わせる時代。この激しい競争の中で成約を勝ち取るためには、以下の視点が不可欠だ。

短期的に取り組むべきこと

  • 問い合わせへの初回レスポンスを高速化する
  • 物件情報の鮮度を毎日チェックする
  • 顧客を急かさない営業スタイルに切り替える

中長期的に整備すべきこと

  • 写真・周辺情報など、物件情報の質を高める
  • 治安・災害リスク情報の提供体制を構築する
  • IT重説・オンライン契約への対応を進める

組織として検討すべきこと

  • ブランド力・知名度の強化策
  • 業務システムの整備・刷新
  • 本部支援やネットワーク活用の可能性

顧客は「どの会社に頼んでも同じ」とは考えていない。だからこそ複数社を比較し、最も信頼できる会社を選ぼうとしている。その期待に応える準備ができている会社だけが、「選ばれる1社」になれる。

競合がひしめく市場で勝ち残るための第一歩は、まず自社の現状を客観的に見つめ直すこと。そして、改善のための具体的なアクションを起こすことだ。


※本記事で引用したデータは、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」(2025年)に基づいています。