比較社数「過去最多」の時代に勝つ──他社がやっていないサービスを見つける差別化戦略の全貌

顧客は平均3.3社を比較する時代になった。不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年10月に発表した最新調査によると、賃貸契約者が問い合わせた不動産会社数は過去11年間で最多を記録した。立地や価格だけでは選ばれない。では、何が「選ばれる理由」になるのか。本記事では、競合他社がまだ手をつけていない領域で独自性を発揮する差別化戦略を、最新データと実践的なアプローチから徹底解説する。


顧客の比較行動が激化している──最新調査が示す「選ばれにくさ」の実態

問い合わせ会社数3.3社、検討期間の長期化という二重の試練

2025年のRSC調査では、賃貸契約者が問い合わせた不動産会社数は平均3.3社を記録した。これは2015年以降の11年間で最多の数字である。特に注目すべきは「5社以上」に問い合わせた層が全体の21.0%に達している点だ。

検討期間も長期化の一途をたどっている。賃貸では契約までに1ヶ月以上を要した割合が46.3%と、前年から7.7ポイント増加した。顧客は以前にも増して慎重に、そして徹底的に比較検討を行うようになっている。

この傾向が意味するのは明白だ。「とりあえず近くの不動産屋に行く」という時代は終わった。顧客はスマートフォンで情報を収集し、複数社を天秤にかけ、最も信頼できると感じた会社にのみ足を運ぶ。選ばれる側にとって、これは歓迎すべき変化でもある。明確な差別化ができていれば、比較されるほど自社の強みが際立つからだ。

「店舗立地」の優位性が崩れ始めた

同調査で見逃せないのは、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という項目が2年連続で減少していることだ。かつては駅前一等地に店舗を構えることが集客の王道とされてきた。しかし、大手不動産ポータルサイトの普及により、顧客の第一接点は店舗からオンラインへと完全に移行した。

代わりに重視されているのが「写真の点数が多い」という要素だ。不動産会社を選ぶポイントとして、この項目は直近3年間で最も高い支持を集めている。物件の魅力を視覚的に伝える情報発信力が、店舗立地よりも重要な差別化要因になりつつある。


差別化の着眼点──競合が手薄な領域を見極める3つの視点

視点1:顧客の「不満」から逆算する

差別化戦略を考える際、最も確実なアプローチは顧客の不満を起点にすることだ。RSC調査では、不動産会社への不満として以下の項目が上位に挙がっている。

  • 「その物件はもうない」と言われた
  • 言葉遣いや対応が気に障った
  • 問い合わせへの回答が的を射ていなかった

これらの不満を裏返せば、そのまま差別化ポイントになる。物件情報の鮮度管理を徹底する、接客品質を均一化するトレーニングを導入する、問い合わせ内容を正確に把握して的確に回答する仕組みを整える──いずれも当たり前のことに見えるが、実際にはこれらを高いレベルで実現している会社は少ない。

視点2:顧客が「求めているのに提供されていない」情報を探す

同調査によると、物件情報以外に必要だと思う情報として「治安情報」が67.6%でトップを占めた。続いて「災害の危険情報」「地域の騒がしさ(静かさ)」が上位に並ぶ。

興味深いのは、これらの情報を積極的に提供している不動産会社がまだ少ないという点だ。地域の治安データや過去の災害履歴、騒音レベルの実測値などを物件紹介に組み込めば、それだけで強力な差別化になる。顧客は「この会社は他と違う」と感じ、信頼を寄せる。

視点3:「満足」の上位項目を徹底強化する

不動産会社への満足点として最も高いスコアを得たのは「問い合わせに対するレスポンスの早さ」で71.5%に達した。2位は「こちらの都合を配慮してくれた」、3位は「言葉遣いや対応が丁寧だった」だ。

これらは一見すると基本中の基本に見える。しかし、71.5%という数字は、逆に言えば28.5%の顧客がレスポンスの早さに満足していないことを意味する。基本を極めることは、実は最も困難で、最も効果的な差別化戦略でもある。


他社がやっていない具体的サービス──実践的な差別化アイデア7選

1. 360度VR内見とオンライン契約のワンストップ化

IT重説の活用意向は調査開始以来最高の56.7%を記録した。オンライン契約への関心も3年連続で上昇している。しかし、これらのサービスを「単体で」提供している会社は増えても、物件検索からVR内見、オンライン商談、IT重説、電子契約までを一気通貫で完結できる体制を整えている会社は限られる。

顧客は忙しい。来店回数を減らし、自宅にいながら契約まで完了できるサービスは、特に転勤者や遠方からの引っ越し層に強く支持される。

2. 地域密着型の治安・生活情報データベースの公開

治安情報へのニーズは高いが、具体的なデータを提供している会社は少ない。警察署の犯罪統計、自治体のハザードマップ、地元住民へのヒアリング結果などを独自に収集・整理し、物件情報と紐づけて公開すれば、他社にない付加価値となる。

さらに踏み込んで、「朝の通勤時間帯の駅の混雑度」「夜間の街灯の明るさ」「近隣スーパーの品揃えと価格帯」といった生活者視点の情報まで網羅すれば、競合との明確な差異化が可能になる。

3. 口コミ・レビューの積極的な収集と公開

「不動産会社に対する口コミ情報」は、顧客が特に重視するポイントとして2位にランクインした。にもかかわらず、自社サイトで顧客レビューを積極的に収集・公開している不動産会社は多くない。

契約後のアンケートを定型化し、許可を得た上でウェブサイトに掲載する。ネガティブな意見にも真摯に対応し、改善プロセスを可視化する。この透明性が、新規顧客の信頼獲得につながる。

4. 写真・動画コンテンツの圧倒的な質と量

「写真の点数が多い」が不動産会社選びのトップ要因になっている現実を直視すべきだ。物件1件あたりの掲載写真数を業界平均の1.5倍から2倍に増やす。室内だけでなく、共用部、周辺環境、最寄り駅からの道のりまでを網羅する。

動画コンテンツも有効だ。プロ品質でなくとも、スマートフォンで撮影した「部屋の広さが実感できるウォークスルー動画」は、静止画だけでは伝わらない空間の雰囲気を伝える。

5. 専門特化型サービスの展開

万人に向けたサービスではなく、特定のニーズに深く応えるアプローチも有効だ。たとえば以下のような特化型サービスが考えられる。

  • ペット可物件専門:獣医師監修の「ペットが暮らしやすい物件チェックリスト」を提供
  • 楽器演奏可物件専門:防音性能の実測値や演奏可能時間帯の詳細情報を明示
  • 高齢者向け物件専門:バリアフリー度合いのスコア化や近隣医療機関の情報を充実
  • テレワーク対応物件専門:通信速度の実測値やワークスペースの有無を明記

特定の分野で「この会社に聞けば間違いない」というポジションを確立できれば、その領域では圧倒的な優位性を持てる。

6. 契約後フォローの体系化

多くの不動産会社は契約完了をもって顧客との関係が途切れる。しかし、入居後1週間、1ヶ月、3ヶ月のタイミングでフォロー連絡を入れ、困りごとがないかを確認する仕組みを設ければ、リピートや紹介につながる可能性が高まる。

契約時に「更新時期の3ヶ月前にご連絡します」と伝えておけば、更新仲介や住み替え相談の機会も生まれる。顧客生涯価値を最大化する発想が、長期的な収益基盤を支える。

7. AIチャットボットによる24時間対応

「問い合わせに対するレスポンスの早さ」が最重要視されている現状において、24時間対応可能な問い合わせ窓口は大きなアドバンテージになる。AIチャットボットを導入し、営業時間外の問い合わせにも即時対応できる体制を整える。

ただし、チャットボットはあくまで初期対応に留め、具体的な商談は必ず人間が引き継ぐ設計にすることが重要だ。「機械的に対応された」という印象を与えては逆効果になる。


差別化戦略を実行に移すための体制づくり

単独で全てを実現する必要はない

ここまで挙げた差別化施策の多くは、中小規模の不動産会社が単独で実現するにはハードルが高い。IT投資、人材育成、情報収集体制の構築には相応のコストと時間がかかる。

この課題を解決する選択肢の一つがフランチャイズへの加盟だ。本部が構築したシステムやノウハウを活用することで、自社だけでは実現困難なサービスレベルを短期間で達成できる可能性がある。

フランチャイズ本部が提供する差別化支援

たとえば、ハウスコムフランチャイズでは、以下のような支援体制を整えている。

  • 大手不動産テック企業の基幹システム(コンバータ・顧客管理・契約管理)をロイヤリティに含んで提供
  • 業務提携による反響送客支援
  • ベンチマークセミナーを通じたノウハウ共有
  • 本部スタッフによる定期巡回と経営相談

重要なのは、これらの支援を受けながらも、地域に根差した独自のサービスを追加できる余地があることだ。本部のブランド力とシステムを活用しつつ、自社ならではの付加価値を上乗せすれば、競合との差別化はより鮮明になる。


差別化戦略の成否を分ける「継続性」という視点

一過性の施策では差別化にならない

差別化施策を導入しても、それが一過性のものに終われば効果は限定的だ。競合もすぐに追随してくる。重要なのは、差別化を「仕組み」として組織に定着させることだ。

具体的には、以下のようなサイクルを回し続ける体制を構築する。

  1. 顧客の声(満足・不満)を定期的に収集する
  2. 収集したデータを分析し、改善点を特定する
  3. 改善施策を実行する
  4. 効果を測定し、次の施策に反映する

このPDCAサイクルを回し続ける会社と、そうでない会社の差は、時間とともに拡大していく。

差別化は「引き算」でもある

差別化を考える際、「何を加えるか」だけでなく「何をやめるか」も重要な視点だ。全ての顧客に全てのサービスを提供しようとすれば、リソースは分散し、どの領域でも中途半端な結果に終わる。

自社の強みが発揮できる領域を見極め、そこにリソースを集中投下する。逆に、自社が勝てない領域からは潔く撤退する。この「選択と集中」が、限られた経営資源で最大の差別化効果を生む。


まとめ:「選ばれる理由」を自ら創り出す

顧客の比較行動が激化する中、差別化なき不動産会社は淘汰の波に飲み込まれる。一方で、明確な独自性を持つ会社にとっては、これほど勝ちやすい時代もない。比較されればされるほど、自社の強みが際立つからだ。

差別化の第一歩は、顧客の声に真摯に耳を傾けることだ。何に満足し、何に不満を感じているのか。どんな情報を求めているのか。その答えは、顧客自身が持っている。

そして、特定された差別化ポイントを継続的に強化し続ける仕組みを構築する。フランチャイズ本部の支援を活用するのも一つの選択肢だ。重要なのは、「選ばれる理由」を自ら創り出し、それを磨き続けることである。

顧客が3.3社を比較する時代。その3.3社の中で、最終的に選ばれる1社になれるかどうか。勝敗を分けるのは、他社がまだやっていない領域に踏み込む勇気と、それを継続する仕組みだ。