賃貸で3.3社比較される時代──選ばれる仲介会社になるための7つの必須戦略

激化する比較検討、2015年以来最多の「平均3.3社」が示す業界の転換点

不動産賃貸仲介業界に、静かな地殻変動が起きている。不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した最新調査によれば、賃貸物件を契約するまでに顧客が問い合わせる不動産会社の数は平均3.3社。これは2015年以降で最も多い数字だ。

さらに注目すべきは、5社以上に問い合わせをする顧客の割合が21.0%に達している事実である。つまり、5人に1人は5社以上を比較検討しているということだ。売買に至っては平均3.8社と、前年から0.8社も増加している。

この数字が意味するのは何か。顧客は以前にも増して慎重になり、より多くの選択肢から最適な不動産会社を選ぼうとしている。そして、その選別の目は厳しさを増している。

なぜ比較社数は増加し続けるのか──変化する顧客行動の本質

情報過多時代の「決めきれない」顧客心理

検討期間も長期化している。賃貸では1ヶ月以上の検討期間を要する顧客が64.3%と、前年から8.8ポイント増加した。問い合わせる物件数も平均5.8物件と、2019年以降で最多を記録している。

この背景には、大手不動産ポータルサイトの普及がある。顧客は自宅にいながら、膨大な物件情報にアクセスできるようになった。しかし、選択肢が増えれば増えるほど、人は決断に時間がかかる。心理学で「選択のパラドックス」と呼ばれる現象だ。

情報が豊富になった一方で、顧客は「本当にこの会社で良いのか」「他にもっと良い条件はないか」という不安を抱えやすくなっている。

口コミ文化とSNSの影響力

調査では、不動産会社を選ぶ際に「不動産会社に対する口コミ情報」を重視する顧客が増加傾向にあることも明らかになった。特に重視するポイントとしては2位にランクインしている。

InstagramやYouTubeといったSNSで、実際の体験談や物件情報を確認する顧客も増えている。信頼できる情報源として、不動産情報サイトに次いでSNSが注目されているのだ。

つまり、従来の「駅前一等地に店舗があれば集客できる」という時代は終わりを告げている。店舗立地よりも、情報の質と量、そして評判が重視される時代に突入したのである。

顧客が本当に求めているもの──満足度71.5%の裏側にある真実

同調査によれば、不動産会社の対応に満足した顧客は71.5%に上る。一見高い数字に見えるが、裏を返せば、約3割の顧客は何らかの不満を抱えているということだ。

満足の要因──スピードと柔軟性

満足した顧客が最も多く挙げたのは「問い合わせに対するレスポンスの早さ」だった。次いで「こちらの都合を配慮してくれた」「言葉遣いや対応が丁寧だった」が続く。

つまり、顧客が求めているのは単なる物件紹介ではなく、迅速で丁寧、そして柔軟な対応なのである。

不満の要因──情報の鮮度と誠実さ

一方、不満の上位には「問い合わせをしたら『その物件はもうない』と言われた」「言葉遣いや対応が気に障った」「問い合わせへの回答が的を射ていなかった」が並ぶ。

特に深刻なのは、物件情報の鮮度の問題だ。大手不動産ポータルサイトに掲載されている物件が実際には既に成約済みというケースは、顧客の信頼を大きく損なう。情報の正確性は、もはや「あれば良い」ものではなく、「なければ生き残れない」必須条件となっている。

選ばれる会社になるための7つの必須戦略

それでは、平均3.3社と比較される時代に、どうすれば「選ばれる会社」になれるのか。具体的な戦略を7つ提示する。

戦略1:写真点数で勝負する──視覚情報が選択を左右する

調査で最も注目すべき結果の一つが、「写真の点数が多い」が不動産会社を選ぶポイントのトップになったことだ。これは直近3年で最多の割合となっている。

顧客は物件を「見て」判断したいのだ。室内写真はもちろん、周辺環境、共用部分、日当たりの様子など、多角的な写真を用意することで、顧客の不安を軽減できる。

実践アクション:

  • 1物件あたり最低20枚以上の写真を用意する
  • 時間帯や天候の異なる写真を撮影する
  • 360度カメラやドローン撮影を導入する
  • 周辺施設(スーパー、駅、学校など)の写真も含める

戦略2:情報鮮度管理を徹底する──「もうない」は致命傷

「その物件はもうない」という一言が、顧客との信頼関係を一瞬で破壊する。この不満は年々増加傾向にあり、看過できない問題となっている。

実践アクション:

  • 成約情報を1日3回以上更新する
  • 自動更新システムを導入し、リアルタイムで在庫管理を行う
  • 問い合わせ前に物件状況を再確認する社内フローを確立する
  • 「募集終了」物件には代替物件を3つ以上準備しておく

戦略3:レスポンス速度を最優先する──24時間以内が生命線

満足度調査のトップに挙がった「問い合わせに対するレスポンスの早さ」。これは単なる好印象を与えるだけでなく、競合他社との差別化要因となる。

顧客は複数社に同時に問い合わせをしている。最初に返信した会社が、最初に内見の機会を得る。この「一番手」になることの価値は計り知れない。

実践アクション:

  • 問い合わせから1時間以内に初回返信する体制を構築
  • 営業時間外の自動返信システムを導入
  • 担当者不在時のバックアップ体制を整備
  • モバイル対応で外出先からも即時対応できる環境を整える

戦略4:顧客の都合を最優先する──柔軟性が差別化の鍵

「こちらの都合を配慮してくれた」という満足ポイントは、単なるサービスの良さを超えた意味を持つ。顧客一人ひとりのライフスタイルや制約に寄り添う姿勢が、選ばれる理由になるのだ。

実践アクション:

  • 夜間・休日対応を積極的に行う
  • オンライン内見やIT重説を標準メニュー化する(調査では56.7%が活用意向)
  • 顧客の希望に応じて内見スケジュールを柔軟に調整
  • 複数物件を効率的に回れる内見ルートを提案

戦略5:口コミを戦略的に活用する──評判経営の時代

口コミの重要性が増している今、評判管理は経営の中核に据えるべき課題だ。Googleマイビジネスのレビュー、SNSでの言及、不動産ポータルサイトの評価──これらすべてが集客力に直結する。

実践アクション:

  • 成約後に必ず顧客満足度アンケートを実施
  • 良い評価を得た場合はレビュー投稿を依頼(押しつけがましくなく)
  • 否定的なフィードバックには真摯に対応し、改善策を公開
  • SNSで物件情報だけでなく、地域情報や住まい探しのTipsを発信
  • スタッフの人柄や専門性が伝わる情報発信を心がける

戦略6:専門性と誠実さで信頼を構築する──「この人に任せたい」を生み出す

調査では「物件や不動産に詳しかった」「情報が正確で誠実な対応だった」という満足ポイントも上位に入っている。知識と誠実さは、プロフェッショナルの基本だが、それが差別化要因になる時代なのだ。

実践アクション:

  • 地域の賃貸相場、入居審査の基準、初期費用の内訳を明確に説明できるようにする
  • 物件のメリットだけでなく、デメリットも正直に伝える
  • 顧客の予算や条件に合わない物件は無理に勧めない
  • 定期的な社内勉強会で最新の法改正や市場動向を共有
  • 専門資格(宅建士、賃貸不動産経営管理士など)の取得を奨励

戦略7:省エネ性能を訴求ポイントにする──新時代の差別化要素

調査では、住まいを選ぶ上で省エネ性能が「重要」と答えた人が78.6%に達した。2025年4月からは新築住宅の省エネ基準適合が義務化されており、この関心はさらに高まると予想される。

賃貸では74.1%が省エネ性能を重要視しており、特に「重要」と答えた割合は前年から4ポイント増の28.4%となっている。この流れは無視できない。

実践アクション:

  • 省エネ性能の高い物件を優先的に提案
  • 光熱費のシミュレーションを提示し、長期的なメリットを説明
  • 省エネ設備(LED照明、高断熱窓、エコキュートなど)の有無を物件情報に明記
  • オーナーに対して省エネリフォームの提案を行い、物件価値を向上させる

フランチャイズという選択肢──個店の限界を超える

ここまで7つの戦略を提示したが、個店単独でこれらすべてを実現するのは容易ではない。特に以下の課題は、多くの不動産仲介業者が直面している壁だろう。

  • 認知度の不足: 大手不動産ポータルサイトでの露出を高めるには相応の広告費が必要
  • システム投資の負担: 物件管理システム、顧客管理システムの導入・運用コストが重い
  • 人材育成の困難: 専門性の高いスタッフを採用・育成するノウハウと時間が不足
  • 情報収集の限界: 業界トレンドや成功事例を継続的に学ぶ機会が少ない

こうした課題を解決する一つの方法が、フランチャイズへの加盟である。

フランチャイズで得られる具体的な優位性

ブランド力による集客効果: 約200店舗を展開するハウスコムのような確立されたブランドを活用できれば、認知度ゼロからのスタートではなく、既に信頼を得ているブランドの下で営業できる。大手不動産ポータルサイトでの露出も、本部のサポートにより効率的に行える。

業務システムの一括導入: 大手不動産テック企業の基幹システムをロイヤリティに含んだ形で利用できる。物件管理、顧客管理、契約管理の3点セットを個別に契約するより、コスト効率が良い場合が多い。

ノウハウとベストプラクティスの共有: 本部が主催するベンチマークセミナーや、他の加盟店との情報交換会を通じて、成功事例を学べる。業界トレンドや最新の営業手法を、定期的にアップデートできる環境は、個店では得難い。

法人営業や業務提携の恩恵: 本部が企業と業務提携を結ぶことで、反響送客や法人顧客の紹介を受けられる。個店では接点を持ちにくい大手企業とのネットワークも活用できる。

士業支援による経営の安定化: 法務、会計、労務といった専門分野のサポートを受けられることで、本業に集中できる。コンプライアンス面でも安心して事業運営できる。

変化に適応できる者だけが生き残る

ダーウィンの進化論に、こんな言葉がある。「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」

不動産賃貸仲介業界は今、大きな変化の渦中にある。平均3.3社と比較される時代、検討期間が長期化する時代、口コミやSNSの影響力が増す時代。この変化を脅威と捉えるか、機会と捉えるかで、5年後、10年後の姿は大きく変わるだろう。

重要なのは、「今まで通り」が通用しなくなっていることを認識し、顧客視点で自社のサービスを見直すことだ。顧客が何を求め、何に不満を感じているのか。データはそれを明確に示している。

そして、自社単独では難しい変革も、適切なパートナーシップによって実現できる可能性がある。フランチャイズという選択肢は、その一つだ。

今、行動を起こすべき理由

不動産賃貸仲介市場は、今後も変化し続けるだろう。デジタル化の加速、顧客行動の変化、法規制の強化──これらの波に乗り遅れれば、生き残りは難しくなる。

しかし、変化は常にチャンスでもある。比較社数が増えているということは、それだけ「選ばれるチャンス」も増えているということだ。適切な戦略と実行力があれば、地域No.1の仲介会社になることも夢ではない。

問われているのは、「変わる勇気」と「行動する決断力」だ。この記事で紹介した7つの戦略は、今日からでも実践できるものばかりだ。まずは一つでも良い。顧客の声に耳を傾け、小さな改善から始めてみてはどうだろうか。

そして、もし自社単独では限界を感じているなら、フランチャイズという選択肢を検討する価値は十分にある。変化の時代だからこそ、成長のための新しいパートナーシップが必要なのかもしれない。

選ばれる会社になるか、選ばれない会社になるか。その分岐点は、今この瞬間の決断にある。


参考データ: 本記事は、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(有効回答数948人、調査期間2025年1月28日~5月30日)を基に作成しています。