成約率を劇的に変える「深掘りヒアリング」の技術──顧客が本当に求める物件を提案するための7つの質問法

「希望条件どおりの物件を紹介したのに、なぜか決まらない」「何件も内見に行くのに、契約に至らない」──そんな悩みを抱える不動産営業担当者は少なくない。実は、この問題の根本原因は物件の質ではなく、「ヒアリングの深さ」にある。顧客自身が言語化できていないニーズを引き出せるかどうかが、成約率を大きく左右するのだ。

本記事では、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が実施した最新の利用者意識調査のデータを基に、顧客満足度を高め、的確な物件提案を実現するための「深掘りヒアリング技術」を解説する。明日から使える具体的な質問フレーズや、顧客心理を踏まえたアプローチ方法を紹介していくので、ぜひ実務に役立てていただきたい。


顧客が不動産会社に求めるものとは?調査データが示す「期待値」

「丁寧な説明」と「正確な情報提供」への高い期待

RSCが2025年に実施した調査によると、顧客が不動産会社に求めるものとして上位に挙がったのは「礼儀・マナー対応」「正確な物件情報の提供」「問合せに対する迅速対応」「物件に対する丁寧説明」である。特に注目すべきは、賃貸・売買を問わず「物件に対する丁寧説明」へのニーズが高まっている点だ。

これは単に物件スペックを説明すればよいということではない。顧客が知りたいのは、「この物件が自分の生活にどうフィットするか」という情報である。そして、それを的確に説明するためには、まず顧客の生活スタイルや価値観を正確に把握するヒアリングが不可欠となる。

「周辺地域情報」「入居後のアドバイス」へのニーズも無視できない

同調査では、「周辺地域情報の提供」「入居に関するアドバイスや丁寧説明」も上位にランクインしている。これは、顧客が物件単体ではなく「その物件で始まる生活全体」をイメージしたいと考えていることを示唆している。

つまり、優れたヒアリングとは、物件の希望条件を聞き出すだけではなく、顧客の生活設計全体を理解しようとするコミュニケーションなのである。


「表面的なヒアリング」と「深掘りヒアリング」の決定的な違い

表面的なヒアリングの典型パターン

多くの営業担当者が行っているヒアリングは、次のようなものだ。

  • 希望エリア
  • 希望家賃・価格帯
  • 間取り(1K、2LDKなど)
  • 駅からの距離
  • 入居希望時期

これらは確かに物件検索に必要な情報だが、これだけでは「最適な物件」を提案することはできない。同じ「2LDK、駅徒歩10分以内、家賃12万円まで」という条件でも、新婚夫婦と単身のリモートワーカーでは求める物件の特性がまったく異なるはずだ。

深掘りヒアリングが生み出す価値

深掘りヒアリングとは、条件の「背景」や「理由」を掘り下げることで、顧客自身も明確に認識していなかったニーズを可視化するプロセスである。

たとえば「駅から近い物件がいい」という要望に対して、「通勤時間を短縮したい」のか「終電を気にせず飲みに行きたい」のか「車を持っていないから」なのかで、提案すべき物件は変わってくる。前者なら急行停車駅の物件、後者なら繁華街へのアクセスが良い路線沿いの物件、最後ならバス便が充実したエリアも選択肢に入る。


物件決定時に顧客が重視する10のポイント

調査データによると、顧客が契約を決める際に気にするポイントは以下のとおりである。

順位重視ポイント全体の割合
1位家賃・価格76.4%
2位駅の利便性65.3%
3位部屋数・間取り64.6%
4位建物・部屋の綺麗さ60.4%
5位近隣の商業施設等の利便性53.5%
6位建物のコンディション・管理状況48.6%
7位省エネ性能47.9%
8位建物の新しさ(築年数)45.1%
9位災害のリスクが少ない地域38.9%
10位キッチンやバスルームの仕様・グレード32.2%

ここで重要なのは、これらの優先順位は顧客によって大きく異なるということだ。たとえば「省エネ性能」は全体の約48%が気にすると回答しているが、賃貸と売買では重視度が異なり、売買検討者のほうが高い傾向にある。

また、「災害のリスクが少ない地域」については、売買検討者の間で特に意識されている。ハザード情報への関心が年々高まっていることは、ヒアリング時に必ず押さえておきたいポイントである。


成約率を高める7つの深掘り質問テクニック

1. 「なぜ」を3回繰り返す

顧客の要望に対して「なぜ」を深掘りすることで、真のニーズが見えてくる。

実践例:

  • 顧客「2LDK以上がいいです」
  • 営業「どのようなお部屋の使い方をイメージされていますか?」
  • 顧客「寝室と仕事部屋を分けたくて」
  • 営業「在宅でお仕事をされているのですね。オンライン会議なども多いですか?」
  • 顧客「はい、毎日のようにあります」
  • 営業「でしたら、防音性の高い物件や、仕事部屋が玄関から離れた間取りのほうが快適かもしれませんね」

このように、3回程度深掘りすることで「2LDK以上」という条件の本質が「在宅勤務に適した環境」であることが判明する。

2. 「理想の1日」を聞く

物件条件を直接聞くのではなく、「新しいお部屋での理想の1日を教えてください」と尋ねることで、顧客の生活イメージを具体化できる。

得られる情報の例:

  • 朝の出勤時間から逆算した起床時間 → 通勤時間の許容範囲
  • 帰宅後の過ごし方 → 必要な設備や周辺環境
  • 休日の過ごし方 → 周辺施設や街の雰囲気へのニーズ

3. 「前の住まいの不満」を具体化する

現在または以前の住まいへの不満は、次の物件選びにおける最重要ポイントとなる。

効果的な質問フレーズ:

  • 「今のお住まいで、これだけは改善したいという点はありますか?」
  • 「以前のお部屋で後悔された経験はありますか?」
  • 「住んでみて初めて気づいた不便さはありましたか?」

不満を聞き出すことで、顧客が妥協できないポイントが明確になる。

4. 「優先順位」を数字で確認する

「すべて叶う物件」は存在しないことが多い。だからこそ、何を優先し、何なら妥協できるかを明確にすることが重要だ。

実践例:

  • 「家賃、広さ、駅からの距離、築年数の4項目に1〜4位の順位をつけるとしたら、どうなりますか?」
  • 「駅から5分遠くなる代わりに、1万円安くなる物件と、駅近だけど予算オーバーの物件、どちらが魅力的ですか?」

このようなトレードオフの質問により、顧客自身も意識していなかった優先順位が可視化される。

5. 「ライフイベント」を確認する

住み替えの背景には、何らかのライフイベントがあることが多い。転職、結婚、出産、子どもの進学、親の介護など、将来の変化を視野に入れたヒアリングが求められる。

効果的な質問フレーズ:

  • 「向こう2〜3年で、生活が大きく変わるご予定はありますか?」
  • 「今回のお引越しのきっかけを教えていただけますか?」

将来の変化を見据えた提案ができれば、顧客からの信頼度は格段に上がる。

6. 「譲れない条件」と「あったら嬉しい条件」を分ける

顧客が挙げる希望条件には、「絶対に必要なもの」と「あれば嬉しいもの」が混在している。これを明確に分けることで、物件選択の幅が広がる。

実践例:

  • 「今おっしゃった条件の中で、これだけは絶対に外せないというものを3つ選ぶとしたら?」
  • 「予算をあと1万円上げてでも欲しい設備はありますか?」

7. 「決め手」を過去形で聞く

過去に物件を決めた経験がある顧客には、「以前お部屋を決めたときの決め手は何でしたか?」と聞くことで、その人特有の判断基準が見えてくる。

初めての一人暮らしや初めての住宅購入の場合は、「友人や知人が物件を決めたときの話で、印象に残っているエピソードはありますか?」と聞くことで、間接的に価値観を把握できる。


ヒアリングを成功に導く「環境づくり」の重要性

話しやすい雰囲気の構築

どんなに優れた質問技術を持っていても、顧客が本音を話せる雰囲気がなければ意味がない。調査データでも、顧客が不動産会社に求めるものとして「礼儀・マナー対応」がトップに挙がっている。

具体的には、以下のポイントを意識したい。

  • 傾聴の姿勢を見せる: メモを取りながら聞く、相槌を打つ、顧客の言葉を繰り返して確認する
  • 急かさない: 「検討されてからでも大丈夫ですよ」といった余裕のある対応
  • 専門用語を避ける: 「重説」「AD」などの業界用語は使わず、わかりやすい言葉で説明する

オンラインでのヒアリングへの対応

前述の調査によると、IT重説やオンライン接客への活用意向は年々高まっている。オンラインでのヒアリングでは、対面以上に「聞いている」というシグナルを意識的に発信する必要がある。

  • カメラ目線を心がける
  • リアクションを大きめにとる
  • 画面共有を活用して視覚的な情報を補う

「聞いた情報」を「物件提案」に変換するプロセス

情報の整理と優先順位づけ

ヒアリングで得た情報は、そのままでは物件検索に使いにくい。以下のように整理することで、的確な提案につなげられる。

整理のフレームワーク:

  1. Must(必須条件):これがないと契約しない条件
  2. Want(希望条件):あれば嬉しいが、妥協可能な条件
  3. Nice to Have(付加価値):提案時にプラス要素となる条件

「条件に合う物件」ではなく「顧客に合う物件」を提案する

このフレームワークで整理した情報を基に、単に「条件に合致する物件」ではなく、「この顧客の生活を豊かにする物件」という視点で提案を行う。

たとえば、「駅徒歩10分以内」という条件を出した顧客に対して、徒歩12分だが商店街を通るため買い物に便利な物件を「帰り道に夕食の買い物もできますよ」と提案すれば、条件を超えた価値提供ができる。


ヒアリング力を継続的に高めるために

チームでの振り返りと共有

個人のスキルに依存せず、組織としてヒアリング力を高めるためには、成功事例と失敗事例の共有が欠かせない。

  • 週次の営業ミーティングで「今週の良かったヒアリング」を共有する
  • 成約した案件について「決め手になった質問」を振り返る
  • お客様アンケートのコメントを分析し、改善点を抽出する

業界のトレンド把握

顧客のニーズは時代とともに変化する。たとえば、RSCの調査では省エネ性能への関心が年々高まっており、全体の約78.6%が「住まいを選ぶ上で省エネ性能は重要」と回答している。

このようなトレンドを把握しておくことで、先回りした質問ができるようになる。「省エネ性能や光熱費は気にされますか?」といった質問を自然に組み込めるかどうかで、顧客からの信頼度は大きく変わる。


まとめ:深掘りヒアリングは「選ばれる不動産会社」への第一歩

冒頭で紹介したRSCの調査データが示すように、顧客が不動産会社に求めているのは「丁寧な説明」と「正確な情報提供」である。そして、それを実現するための基盤となるのが、顧客ニーズを正確に把握する「深掘りヒアリング」の技術だ。

本記事で紹介した7つの質問テクニックは、いずれも明日から実践できるものばかりである。

  1. 「なぜ」を3回繰り返す
  2. 「理想の1日」を聞く
  3. 「前の住まいの不満」を具体化する
  4. 「優先順位」を数字で確認する
  5. 「ライフイベント」を確認する
  6. 「譲れない条件」と「あったら嬉しい条件」を分ける
  7. 「決め手」を過去形で聞く

これらを実践することで、顧客満足度の向上、成約率のアップ、そしてリピート・紹介による集客増加という好循環が生まれるはずだ。

顧客に「この担当者は自分のことをわかってくれている」と感じてもらえたとき、価格競争やポータルサイトの掲載順位といった外部要因に左右されない、本質的な競争力が手に入る。深掘りヒアリングの技術を磨くことは、変化の激しい不動産業界で生き残るための、最も確実な投資といえるだろう。


※本記事で引用したデータは、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」の調査結果に基づいています。