「その物件はもうありません」で顧客を逃していませんか?誤情報・虚偽情報を防ぐダブルチェック体制の構築法

賃貸仲介の現場で、こんな経験はないだろうか。お客様が「この物件を見たい」と来店したのに、調べてみるとすでに成約済み。「申し訳ございません、その物件はもうないのですが…」と切り出した瞬間、お客様の表情が曇る。せっかくの来店機会が、情報の鮮度管理ひとつで水の泡と消えてしまう。

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した調査によると、賃貸契約者の24.7%が「問い合わせをしたら『その物件はもうない』と言われた」ことを不満点として挙げている。さらに「情報に虚偽があり信頼性に欠けた」という回答も13.6%に上る。物件情報の正確性は、顧客満足度を左右するだけでなく、会社の信頼そのものを揺るがす重大な経営課題なのだ。

本記事では、誤情報・虚偽情報がなぜ発生するのか、その原因を掘り下げながら、明日から実践できるダブルチェック体制の構築法を徹底解説する。


物件情報の誤りが招く3つの深刻な損失

1. 顧客の離脱と機会損失

いえらぶGROUPが2024年に実施した調査では、エンドユーザーの91.7%が「おとり物件で住まい探しのタイパ(タイムパフォーマンス)が下がる」と回答している。都内で住まい探しをした人の81.7%が実際におとり物件に遭遇した経験があるというデータも見逃せない。

問い合わせた物件が契約済みだった場合、同じ店舗で住まい探しを続けるユーザーは賃貸で41.3%、売買では24.0%にとどまる。つまり、情報の誤りがあった時点で半数以上の顧客が離脱するリスクを抱えているのだ。

2. 会社への信頼失墜

RSCの調査では、不動産会社に求めるものとして「正確な物件情報の提供」が全体の2位にランクインしている。「丁寧・親切な対応」に次いで重視されるのが、情報の正確性であることは明白だ。

特に注目すべきは、満足だったこととして「情報正確で誠実な対応だった」が上位に入っている点である。正確な情報提供は、単なる「当たり前」ではなく、顧客から評価される差別化要因になり得る。

3. 法令違反のリスク

宅地建物取引業法および不動産公正取引協議会の規約では、おとり広告は明確に禁止されている。故意でなくとも、結果として虚偽の情報を掲載し続ければ、行政処分の対象となる可能性がある。2022年9月には「不動産の公正競争規約」が改正され、より厳格な情報管理が求められるようになった。


なぜ誤情報は発生するのか?現場が抱える5つの構造的課題

課題1:物件確認業務の煩雑さ

物件の空室状況を確認する「物確(ぶっかく)」作業は、多くの不動産会社にとって大きな負担となっている。調査によると、売買仲介会社の90.8%、賃貸仲介会社でも多くが電話での物件確認を行っている。1日に数十件、繁忙期には100件を超える物確が必要になることも珍しくない。

電話でのやり取りにはタイムラグが生じる。朝に確認した物件が、夕方には成約していることもある。このタイムラグが「意図しないおとり物件」を生み出す原因となっている。

課題2:情報更新の遅れ

不動産公正取引協議会のガイドラインでは、最低でも2週間に1度は物件情報を更新することが義務付けられている。しかし現実には、日々変動する空室情報をリアルタイムで反映させることは容易ではない。

特に繁忙期の1〜3月、9〜10月は物件の動きが激しく、朝の時点で「空室」だった物件が昼には「申込中」、夕方には「成約」というケースも頻発する。こうした状況下で、複数のポータルサイトに掲載している情報を漏れなく更新するのは至難の業だ。

課題3:人手不足と業務過多

不動産業界全体が深刻な人材不足に直面している。いえらぶGROUPの調査でも、97.3%の不動産会社が「おとり物件の掲載は避けたい」と回答しながらも、人材不足・業務過多・予算不足が対策を阻んでいる実態が浮き彫りになった。

接客、内見、契約業務に追われる中で、情報更新は後回しになりがちだ。「時間があるときにまとめて更新しよう」という運用が、情報の鮮度低下を招いている。

課題4:複数媒体への重複入力

自社ホームページ、大手不動産ポータルサイト、業者間流通サイトなど、物件情報を掲載する媒体は多岐にわたる。それぞれのサイトに手動で入力・更新していると、どうしてもミスや更新漏れが発生しやすい。

「Aサイトは更新したがBサイトは忘れていた」「入力データにタイプミスがあった」といったヒューマンエラーは、完全にゼロにすることは難しい。

課題5:社内の情報共有不足

営業担当Aが成約した物件の情報が、営業担当Bに即座に共有されないケースも散見される。口頭での伝達やホワイトボードへの書き込みといったアナログな情報共有では、どうしても漏れが生じる。

特に複数店舗を展開している企業では、店舗間の情報連携が課題となる。自社管理物件の情報すら、リアルタイムで把握できていないケースも少なくない。


明日から実践できる「ダブルチェック体制」7つの構築ステップ

ステップ1:物件情報の「鮮度ランク」を設定する

すべての物件を同じ頻度で確認する必要はない。以下のように鮮度ランクを設定し、確認頻度を明確化することで、限られたリソースを有効活用できる。

  • Aランク(毎日確認):人気エリアの新築・築浅物件、反響の多い物件
  • Bランク(週2〜3回確認):標準的な物件、問い合わせがある物件
  • Cランク(週1回確認):長期空室物件、反響の少ない物件

このランク分けにより、重要な物件の情報鮮度を優先的に保つことができる。

ステップ2:「朝礼・終礼」での情報共有を徹底する

毎朝の朝礼で、前日の成約物件・申込物件を全員で共有する時間を設ける。終礼では、当日の動きをまとめて報告する。たった5分の時間投資で、情報共有の漏れを大幅に削減できる。

具体的なチェック項目は以下の通りだ。

  • 前日からの新規成約物件
  • 申込が入った物件と申込状況
  • 条件変更があった物件(賃料改定、設備追加など)
  • 新規掲載予定の物件

ステップ3:「担当者+確認者」の2名体制を構築する

物件情報の入力・更新は、必ず2名体制で行う。担当者が入力し、確認者がチェックするという流れを標準化することで、ヒューマンエラーを大幅に削減できる。

確認者のチェックポイントは以下の項目に絞ることで、効率的な運用が可能だ。

  • 物件の空室状況は最新か
  • 賃料・管理費・敷金・礼金に誤りはないか
  • 写真と実際の物件に相違はないか
  • 設備情報に漏れや誤りはないか
  • 入居可能日は正確か

ステップ4:「掲載前チェックリスト」を作成する

新規物件を掲載する際に必ず確認すべき項目をリスト化し、チェックシートとして運用する。感覚に頼らず、システマチックに確認することで、漏れを防ぐ。

推奨チェック項目は以下の通りだ。

チェック項目確認内容
物件名・所在地正式名称、番地まで正確か
賃料条件賃料、管理費、敷金、礼金、更新料
間取り・面積登記簿または図面との整合性
設備実際に確認した設備と一致しているか
写真現況を正確に反映しているか
入居条件ペット可否、楽器可否など特記事項
入居可能日退去予定日との整合性

ステップ5:「週次棚卸し」を実施する

毎週決まった曜日に、掲載中の全物件の状況を一斉に確認する「棚卸し作業」を実施する。おすすめは金曜日の午前中だ。週末の来店・問い合わせに備えて、最新の情報を整備できる。

棚卸しの手順は次の通りである。

  1. 掲載中物件の一覧をエクスポートする
  2. 管理会社・オーナーに一斉確認を行う(FAX、メール、または業者間システム)
  3. 成約・申込物件を即座に反映する
  4. 条件変更があれば更新する
  5. 長期間反響のない物件は掲載継続の可否を検討する

ステップ6:「反響時の即時確認」をルール化する

お客様から問い合わせが入った時点で、必ず物件の最新状況を確認するルールを設ける。「反響受信→即時物確→お客様へ回答」という流れを徹底することで、「その物件はもうない」という残念な回答を減らせる。

特にメールやポータルサイト経由の反響は、対応までに時間が空きやすい。30分以内の一次回答を目標に設定し、その中で物件状況の確認を完了させることが望ましい。

ステップ7:「削除・非公開」の即時対応フローを整備する

成約が決まった時点で、全媒体から即座に掲載を停止する運用フローを整備する。「成約→担当者が削除依頼→確認者が全媒体の削除を確認」という3ステップを、当日中に完了させることを目標とする。

特に複数のポータルサイトに掲載している場合は、削除漏れが発生しやすい。掲載媒体のリストを作成し、チェックを入れながら削除作業を行うことで、漏れを防止できる。


システム活用で実現する「自動化」と「効率化」

業者間流通サービスの活用

近年、管理会社と仲介会社がリアルタイムで情報を共有できる業者間流通サービスが普及している。管理会社が空室情報を更新すると、仲介会社側にも即座に反映される仕組みだ。

このサービスを活用すれば、従来の電話やFAXによる物確作業が大幅に削減される。24時間・365日、最新の情報にアクセスできるため、タイムラグによる「意図しないおとり物件」を防ぐことができる。

物件管理システムの導入

一度入力した物件情報を、複数のポータルサイトに一括で連携できる物件管理システムを導入することで、入力の手間とミスを同時に削減できる。

システム選定時のポイントは以下の通りだ。

  • 主要ポータルサイトへの自動連携機能があるか
  • 物件情報の一元管理が可能か
  • 成約時の一括削除機能があるか
  • 顧客管理(CRM)との連携が可能か
  • サポート体制は充実しているか

自動物確システムの検討

FAXや電話に代わり、システム上で自動的に物件確認を行えるサービスも登場している。管理会社と仲介会社が同じプラットフォームを利用することで、人手を介さずに最新情報を共有できる。

導入コストはかかるが、人件費の削減と情報精度の向上を考えれば、投資対効果は高い。特に取扱物件数が多い企業にとっては、検討の価値がある。


フランチャイズ加盟で手に入る「本部のシステム基盤」

物件情報の正確性を担保するためには、システム導入と運用ノウハウの両方が必要だ。しかし、中小規模の不動産会社が単独でこれらを整備するのは、コスト面でもノウハウ面でも負担が大きい。

この課題を解決する選択肢のひとつが、フランチャイズへの加盟である。

大手不動産テック企業のシステムを活用できる

フランチャイズ本部によっては、大手不動産テック企業の基幹システムを加盟店向けに提供しているケースがある。コンバータ・顧客管理・契約管理といった業務システムをパッケージで利用でき、しかもシステム利用料がロイヤリティに含まれている場合もある。

単独で同等のシステムを導入・運用するよりも、はるかに低コストで最新のテクノロジーを活用できる点は大きなメリットだ。

業務ノウハウの共有

フランチャイズ本部は、加盟店が抱える課題に対して多くの「引き出し」を持っている。物件情報管理の運用フローも、直営店での実績に基づいたノウハウを共有してもらえる。

定期的な加盟店会合を通じて、他の加盟店の成功事例を学ぶ機会もある。「うちではこうやって情報更新を徹底している」「このツールを使ったら物確作業が半減した」といった現場の知見は、何物にも代えがたい財産だ。

本部によるサポート体制

加盟店へは本部スタッフが定期的に巡回し、相談窓口として対応してくれる。物件情報管理に限らず、経営課題全般について伴走型のサポートを受けられるのは、独立経営にはない安心感がある。


まとめ:情報の正確性は「選ばれる会社」の絶対条件

RSCの調査が示す通り、顧客は「正確な物件情報の提供」を不動産会社に強く求めている。「その物件はもうない」という一言が、せっかくの来店機会を失わせ、会社への信頼を損なう。

誤情報・虚偽情報を防ぐためには、人海戦術だけでは限界がある。ダブルチェック体制の構築、システムの活用、そして場合によってはフランチャイズ加盟による本部サポートの活用など、複合的なアプローチが求められる。

情報の正確性を担保できる会社は、顧客から「信頼できる」と評価され、結果として選ばれる。競争が激化する賃貸仲介市場において、物件情報管理の徹底は、もはや「やって当たり前」ではなく、「勝つための必須条件」なのだ。

まずは明日の朝礼から、情報共有の時間を設けてみてはいかがだろうか。小さな一歩が、会社の信頼を築く大きな第一歩となる。


※本記事で引用したデータは、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年)、いえらぶGROUP「おとり物件に関する調査レポート2024」等を参照しています。