【2026年最新データ】年次比較で読み解く賃貸市場トレンド──前年比の変化から次の一手を見つける実践的データ活用術

顧客の問い合わせ社数が過去11年で最多、検討期間は長期化傾向──。2025年に発表された最新の消費者調査が、不動産賃貸仲介市場の地殻変動を如実に物語っている。本記事では、年次比較データから浮かび上がる市場変化のシグナルを捉え、それを具体的な営業施策へと落とし込む実践手法を解説する。「なんとなくの感覚」で経営判断を下す時代は終わった。データを味方につけた店舗だけが、激化する競争を勝ち抜ける。
なぜ「年次比較」が不動産仲介の武器になるのか
不動産賃貸仲介業において、市場の変化を正確に読み取ることは経営の根幹を成す。しかし、多くの経営者が「体感」や「過去の成功体験」に依存し、データに基づく意思決定ができていない現状がある。
年次比較データの真価は、単なる数値の上下を確認することではない。前年との差分を詳細に分析することで、顧客行動の変容パターンを発見し、競合他社よりも一歩先んじた施策を打てる点にある。
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年10月に発表した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果は、948人の有効回答を基に、物件契約に至ったユーザーの行動・特徴を浮き彫りにしている。この貴重なデータから、2026年に向けた打ち手を探っていこう。
検討期間の長期化──「即決」から「吟味」の時代へ
最新調査で最も注目すべき変化の一つが、物件検討から契約までの期間の長期化だ。
賃貸物件の契約者において、住まい探しから契約まで「1ヶ月以上」かかった人の割合は合計で49.3%に達し、前年から9.8ポイントも増加した。これは直近5年間で2021年に次ぐ高水準である。
売買においても同様の傾向が見られ、「3ヶ月以上」を要した人の割合は49.9%と、前年比4.4ポイントの増加を記録している。
この変化が示唆する顧客心理
検討期間の長期化は、顧客がより慎重に物件を比較検討していることを意味する。インターネット上で容易に情報収集ができるようになった今、「とりあえず近くの不動産会社に行く」という行動様式は過去のものとなりつつある。
この変化に対応するための実践ポイントは3つある。
1. 長期フォロー体制の構築 一度問い合わせがあった顧客に対して、1週間、2週間、1ヶ月と段階的にフォロー連絡を入れる仕組みを整えることが重要だ。検討期間が長いということは、裏を返せば「継続的な接点を持てるチャンスがある」ということでもある。
2. 情報提供の質の向上 長期検討する顧客は、より多くの情報を必要としている。物件情報だけでなく、周辺環境、将来の開発計画、相場推移など、判断材料となる情報を積極的に提供することで、顧客の意思決定をサポートできる。
3. 決断を後押しする提案力 検討期間が長いからといって、ただ待つだけでは競合に顧客を奪われる。適切なタイミングで「この物件は人気が高く、早めの決断をお勧めします」といった、事実に基づいた後押しができる提案力を磨くべきだ。
問い合わせ社数・物件数の増加──「比較される」前提の営業を
検討期間の長期化と密接に関連するのが、顧客が問い合わせる不動産会社数と物件数の増加だ。
調査によれば、物件契約までに問い合わせた不動産会社数は全体平均で3.5社となり、前年比で0.9社増加した。特に賃貸においては平均3.3社と、2015年以降で最多を記録している。「5社以上」に問い合わせた人の割合も21.0%に達し、複数社を徹底比較する傾向が顕著になっている。
問い合わせた物件数についても、全体平均は5.5物件と前年から1.1物件増加。賃貸では5.9物件と2019年以降で最多となり、「5物件以上」「6物件以上」を検討した人の割合が約6割を超えている。
「選ばれる側」としての自覚
この数字が意味するところは明確だ。顧客は必ず複数の不動産会社を比較している。つまり、自社の対応は常に他社と比べられているという前提で営業活動を行わなければならない。
初回対応のスピード 問い合わせへのレスポンス速度は、比較される中で差がつきやすいポイントだ。調査では、不動産会社への満足点として「問合せに対するレスポンスが早かった」が71.5%でトップに挙げられている。一方、不満点では「問合せをしたら返答が遅かった」「問合せへの回答が的を射ていなかった」が上位に入っており、対応の遅さや的外れな回答が致命傷になりうることを示している。
他社との差別化ポイントの明確化 3社以上に問い合わせる顧客に対して、「なぜ当社を選ぶべきか」を明確に伝えられているだろうか。地域の専門性、独自の物件情報、サービスの質など、自社の強みを言語化し、営業トークに落とし込むことが求められる。
「写真の点数が多い」がトップに──物件情報の見せ方革命
不動産会社を選ぶポイントとして、2025年調査で最も注目すべき変化が「写真の点数が多い」のトップランクインだ。
不動産会社を選ぶポイント、および特に重視するポイントの両方で「写真の点数が多い」が1位となり、いずれも直近3年で最高値を記録した。
これは単なる一時的なトレンドではない。スマートフォンでの物件検索が当たり前となり、視覚情報の重要性が飛躍的に高まっていることの証左だ。
写真戦略の具体的改善ポイント
枚数の目安 最低でも15枚以上、可能であれば20枚以上の写真を掲載することを推奨する。外観、エントランス、各居室、キッチン、浴室、トイレ、収納、ベランダ、眺望、周辺環境など、顧客が気にするポイントを網羅的に撮影すべきだ。
画質とアングルの統一 暗い写真、傾いた写真、乱雑な状態での撮影は論外だ。可能な限り自然光を活用し、広角レンズで空間を広く見せる工夫をする。また、同一物件の写真のトーンを統一することで、プロフェッショナルな印象を与えられる。
動画・360度ビューの活用 写真だけでなく、動画や360度パノラマ画像を導入する店舗も増えている。特に遠方からの引っ越しを検討する顧客に対しては、内見に近い体験を提供できるこれらのコンテンツが差別化要因となる。
口コミ情報への対応も必須
同調査では「不動産会社に対する口コミ情報」が、特に重視するポイントの2位にランクインしている。これは前年からの上昇傾向が続いており、顧客が物件情報だけでなく、不動産会社そのものの評判を重視していることを示している。
Googleビジネスプロフィールでの口コミ管理、SNSでの情報発信、顧客満足度向上による良い口コミの獲得など、レピュテーション管理が経営課題として浮上してきている。
店舗立地の重要度低下──オンライン時代の新・出店戦略
興味深い変化として、「店舗がアクセスしやすい場所にある」の選択率が2年連続で低下している点が挙げられる。
従来、不動産仲介店舗は「駅前の一等地」に出店することが常識とされてきた。しかし、オンラインでの情報収集が主流となり、物件情報の質や対応の良さで会社を選ぶ傾向が強まる中、立地の重要性は相対的に低下している。
この変化は、出店戦略や店舗運営の見直しを促すシグナルだ。
固定費の最適化 駅前一等地の高額な賃料を支払い続ける必要があるのか、再検討の余地がある。二等立地でも、オンライン対応の充実と物件情報の質で勝負できる時代になりつつある。
オンライン接客の強化 訪問した不動産会社数は全体平均で2.5社にとどまっている。賃貸では1社しか訪問しない顧客が45.6%と半数近くを占める。つまり、来店前のオンラインでのコミュニケーションで勝負が決まるケースが増えているのだ。
オンライン契約ニーズ3年連続増加──デジタル対応は必須条件へ
非対面型サービスの利用意向においても、明確なトレンドが見えている。
IT重説(リモートで重要事項説明を受ける)の活用意向は49.9%と調査史上最高を記録。オンライン契約の活用意向も3年連続で増加し、42.2%に達した。
特に賃貸においては、オンライン契約の利用ニーズが顕著に伸びており、「非対面でも構わない」という顧客層が確実に拡大している。
デジタル化への投資判断
オンライン対応ができない店舗は、約4割の顧客から「選択肢から外される」リスクを負っていることになる。IT重説やオンライン契約の環境整備は、もはや「あれば便利」ではなく「なければ不利」の段階に入っている。
導入にあたっては、初期投資と運用コストを考慮しつつ、段階的に対応を進めることが現実的だ。まずはビデオ通話でのオンライン接客から始め、IT重説の導入、そしてオンライン契約システムへと段階的に拡充していくロードマップを描くことを推奨する。
前年比データを施策に変える3つのステップ
ここまで見てきた年次比較データを、実際の営業施策に落とし込むための実践的なステップを整理しよう。
ステップ1:自社データとの突き合わせ
業界全体のデータはあくまで参考値だ。重要なのは、自社のデータと突き合わせて、乖離があるのかどうかを確認することである。
自社の顧客における平均検討期間、問い合わせから来店への転換率、契約までに接した物件数などを計測し、業界平均と比較する。業界平均より良い数値であれば強みとして伸ばし、悪い数値であれば改善の優先課題として設定する。
ステップ2:変化の方向性を読む
単年の数値だけでなく、複数年の推移を見ることで、一時的な変動なのか構造的な変化なのかを判断できる。
例えば、検討期間の長期化は2021年から継続的に見られる傾向であり、構造的な変化と捉えるべきだ。一方で、特定の項目が単年だけ突出して変化している場合は、その年特有の要因(コロナ禍の影響など)を考慮する必要がある。
ステップ3:小さく試して、効果を測定する
データから得られた仮説は、すべてを一度に実行するのではなく、優先順位をつけて小さく試すことが重要だ。
例えば「写真枚数の増加」を施策として実行する場合、まず一部の物件で写真を大幅に増やし、反響数や問い合わせ率の変化を測定する。効果が確認できれば全物件に展開し、効果が薄ければ別のアプローチを試す。このPDCAサイクルを回すことで、データドリブンな改善が実現できる。
まとめ:データを読み解く力が競争優位を生む
2025年の最新調査データは、不動産賃貸仲介市場における顧客行動の変容を鮮明に映し出している。
検討期間は長期化し、問い合わせ社数・物件数は増加。顧客は「写真の点数」や「口コミ情報」で不動産会社を選び、店舗の立地よりもオンライン対応の充実を重視する時代が到来している。
これらの変化に対応できる店舗とできない店舗の差は、今後ますます広がっていくだろう。
重要なのは、データを「見る」だけでなく「読み解く」ことだ。前年との比較から変化のシグナルを捉え、自社の状況と照らし合わせ、具体的な施策に落とし込む。この一連のプロセスを経営に組み込むことで、市場の変化に先手を打てる組織が実現できる。
年次比較データの活用は、特別なスキルを必要としない。必要なのは、定期的にデータをチェックする習慣と、変化を見逃さない姿勢だ。その小さな積み重ねが、やがて大きな競争優位へとつながっていく。
出典:不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年10月発表)


