「3社以上」の比較が当たり前の時代――選ばれる不動産会社の”伝え方”戦略

顧客は今、かつてないほど多くの不動産会社に問い合わせをしている。不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に公表した調査によると、物件契約までに問い合わせた不動産会社数は全体平均で3.5社。前年の2.8社から大幅に増加した。賃貸に絞れば平均3.3社と2015年以降で最多を記録し、売買も3.8社と前年比0.8社増。「5社以上」に問い合わせた賃貸ユーザーは実に21.0%に達している。
つまり、あなたの会社は常に2社以上の競合と”比較されている”。しかも顧客はネットで事前に情報を集め、ある程度の判断軸を持った状態で問い合わせてくる。この状況下で「うちは対応が丁寧です」と言うだけでは、他社との区別がつかない。では、比較の土俵で勝つために何が必要か。本稿では、複数社比較が常態化した市場で自社を際立たせる「話法」の技術を掘り下げる。
なぜ「比較社数の増加」が起きているのか
まず背景を押さえておきたい。比較社数が増えた要因は、単に情報が増えたからではない。
大手不動産ポータルサイトの充実により、顧客が物件情報を横断的に閲覧できる環境が整った。同時に、SNSや口コミサイトの普及で「不動産会社そのものの評判」も事前に調べられるようになった。RSCの調査でも、不動産会社を選ぶポイントとして「口コミ情報」が特に重視する項目の2位にランクインしている。
加えて、検討期間そのものが長期化している。賃貸では契約まで1ヶ月以上かかった割合が前年比で増加し、売買では3ヶ月以上の割合が4.4ポイント上昇した。時間をかけて比較検討する顧客が増えているのだ。
この流れは不可逆的だろう。となれば、不動産会社がとるべきは「比較されること」を前提にした営業戦略への転換だ。
比較される場面で「負ける」会社の共通点
競合と比較された結果、選ばれない会社にはいくつかの共通パターンがある。
一つは、自社の強みを「抽象語」で語ってしまうケースだ。「地域密着」「お客様第一」「丁寧な対応」――どれも間違いではないが、競合も同じことを言っている。顧客の耳には「どこも同じ」と聞こえる。
もう一つは、物件情報だけで勝負しようとするパターン。確かに物件の良し悪しは契約の決め手になる。しかし、大手不動産ポータルサイトに同じ物件が複数社から掲載されている現在、「この物件を紹介できます」はもはや差別化にならない。
RSCの調査が示す不満の上位には「問い合わせへの回答が的を射ていなかった」「物件や不動産に詳しくなかった」が並ぶ。顧客は物件そのものだけでなく、「この担当者に任せて大丈夫か」を見ている。
「比較フレーム」を自らつくる話法
ここからが本題だ。3社以上の比較を勝ち抜くために有効な話法を、具体的に解説する。
比較軸を先に提示する
顧客が複数社を比較するとき、多くの場合は「なんとなく」の印象で判断している。対応が早かった、感じが良かった、といった曖昧な基準だ。ここに商機がある。
営業担当者が先に「不動産会社を比較する際に見るべきポイント」を提示すれば、顧客はその軸で各社を評価するようになる。たとえば、初回の面談で次のように伝える。
「不動産会社を選ぶ際は、物件情報の正確さ、周辺環境の知識、契約後のフォロー体制の3点を比較されることをおすすめします」
自社が強みを発揮できる領域を比較軸に据える。これは「フレーミング」と呼ばれる心理技法の応用だ。比較のルールを自社で設計すれば、そのルール上では必然的に自社が有利になる。
「他社との違い」ではなく「顧客にとっての意味」を語る
「うちは創業30年です」と言っても、顧客にとっては「だから何?」だ。これを変換する。
「創業30年ということは、このエリアで3,000件以上の取引実績があります。過去の取引データから、このマンションの適正価格帯や、周辺で過去にあったトラブル事例もお伝えできます」
スペックを「顧客が受け取る価値」に翻訳する作業が不可欠だ。自社の特徴を列挙するのではなく、その特徴が顧客の意思決定にどう役立つかを言語化する。RSCの調査で「物件に対する詳細説明力」が不動産会社に求めるもの上位に入っている事実は、まさにこの点を裏付けている。
「弱み」をあえて開示する
心理学の研究で繰り返し実証されてきたことがある。長所だけを並べるより、短所を一つ正直に認めたうえで長所を語るほうが、信頼性が高まるという現象だ。
たとえば、「当社は全国展開の大手ではないので、他県の物件情報には限りがあります。ただし、このエリアに関しては自社管理物件を含め、ポータルサイトに出る前の情報をご紹介できます」。
こうした話法は「両面提示」と呼ばれる。競合が良いことばかり言う中で、一つだけ正直にデメリットを認めると、「この人は信頼できる」という印象が生まれる。比較検討中の顧客は情報を取捨選択する目が鋭くなっている。そこに誠実さが刺されば、印象は一気に変わる。
初回対応の「最初の5分」で差がつく
RSCの調査で満足度トップだった項目は「問い合わせに対するレスポンスの早さ」だ。一方、不満トップには「その物件はもう無いと言われた」が入っている。
ここから読み取れる教訓は明快だ。初回対応で顧客が求めているのは、スピードと誠実さの両立である。
具体的には、問い合わせから30分以内に一次返信を送る。その際、問い合わせ物件が成約済みであっても、「申し訳ございません」で終わらせない。「ご希望の条件に近い物件を3件ピックアップしましたので、あわせてご覧ください」と代替案を即座に提示する。
この「物件の提案や追加の連絡頻度」はRSCの調査でも満足項目の上位に入っている。最初の接点で「この会社は期待以上の対応をする」と感じさせれば、3社比較のうち1社は早々に脱落し、実質2社の競争になる。
「数字」と「事例」で記憶に残す
人は抽象的な説明よりも、具体的な数字やエピソードを記憶する。比較検討中の顧客は複数社の営業トークを頭の中で並べて評価している。そこで覚えてもらえるかどうかが分かれ道になる。
「当社の入居者満足度は92%です」「先月、同じ条件で探されていたお客様が最終的にこのエリアに決められた理由は――」
数字には客観性があり、事例にはリアリティがある。両者を組み合わせることで、競合の「ふんわりした営業トーク」との差が鮮明になる。自社の実績データを営業ツールとして体系化していない会社は多い。ここに着手するだけで、他社と明確に差別化できる。
「比較していただいて構いません」と言い切る余裕
ある営業成績トップの担当者は、初回面談の最後に必ずこう言うという。
「ぜひ他社さんとも比較してください。そのうえで当社を選んでいただけたら、全力でサポートします」
一見すると顧客を手放すリスクがある発言に思える。しかし、この一言が生む効果は大きい。比較を歓迎する姿勢は、自社のサービスに対する自信の表れと受け取られる。同時に、顧客に「押し売りされない」という安心感を与える。
RSCの調査で「契約の意思決定を急かされた」が不満項目の上位に入っていることを考えれば、この話法の有効性は明らかだ。顧客のペースを尊重する姿勢そのものが、比較検討においてプラスの評価材料になる。
比較後の「最後の一押し」をどう設計するか
比較検討の終盤、顧客が2社に絞り込んだ段階で効くのは「追加情報の提供力」だ。
物件の周辺環境、将来の開発計画、管理組合の運営状況、ハザードマップの詳細解説――こうした「物件情報の一歩先」を提供できるかが最終判断を左右する。RSCの調査では物件情報以外に必要な情報として「治安情報」「災害時の避難情報」「地盤の強さ」が上位を占めた。これらの情報を自発的に提供できる会社は、まだ少数派だ。
最終局面で競合にはない情報を出せる会社は、「ここまで調べてくれるなら信頼できる」という決定打を得る。
まとめ:「選ばれる話法」は仕組みで再現する
比較社数の増加は、不動産業界にとって脅威であると同時に機会でもある。3社以上の比較に晒されるからこそ、「伝え方」を磨いた会社が確実に頭一つ抜ける。
本稿で紹介した話法のポイントを整理する。比較軸を先に提示して自社有利のフレームをつくること。スペックではなく顧客にとっての価値を語ること。弱みの開示で信頼を獲得すること。初回対応のスピードと提案力で第一印象を勝ち取ること。数字と事例で記憶に残すこと。比較を歓迎する余裕を見せること。最終局面で「情報の深さ」で差をつけること。
これらは属人的なセンスではなく、仕組みとしてチーム全体に実装できる。トークスクリプトへの落とし込み、社内データベースの整備、初回対応フローの標準化。できることから着手してほしい。比較される時代だからこそ、比較されて勝てる会社が市場を制する。

