消費者の選択を左右する「1分ルームツアー」——スマートフォンで今すぐ始める動画物件紹介

賃貸・売買を問わず、消費者が不動産会社を選ぶ際の判断基準が変わっている。最新の不動産情報サイト利用者意識調査では、物件情報を探す際に「必要な情報」として、「屋の雰囲気が分かる動画」を挙げる人が32.6%に達した。特に売買では「物件の内の動画」が2年連続で重要性を増し、前年の7位から4位へと上昇している。つまり、今、消費者は静止画の物件情報だけでは満足していない。短尺で、リアルな物件の雰囲気を伝える動画—「1分ルームツアー」こそが、競争力の源になる時代がやってきたのだ。本講座では、スマートフォン一つで撮影・編集できる、インパクトのある物件紹介動画の作り方を、実践的なアプリの活用法とともに解説する。
不動産業界で動画が急速に重要化している理由
写真だけでは消費者の期待に応えられない
大手不動産ポータルサイトを日々チェックしている消費者は、同じような物件写真を何百と目にしている。キッチンの写真、バスルームの写真、リビングダイニングの写真——こうした定番カットは、もはや「必須項目」に過ぎない。消費者が本当に知りたいのは、その物件に実際に住んだときの空間のつながり方、光の入り方、生活の流れだ。
実際のアンケート調査からは、物件を契約した人が不動産会社を選ぶ際に最も重視する要素として「屋の雰囲気が分かる動画が付いている」が年々ポイントを上げていることが分かる。写真の点数や見栄えよりも、「動画」という動き・時間軸を持った情報が、決定的な役割を果たし始めているのだ。
スマートフォン時代に最適な「1分動画」の威力
では、なぜ「1分」なのか。消費者がスマートフォンで物件情報を検索する時間帯は限られている。移動中、休憩時間、就寝前——数秒から数分の短い時間で情報を取捨選択する。3分以上の長編動画よりも、要点をまとめた1分程度のルームツアーの方が、消費者の視聴完了率は飛躍的に高くなる。
さらに、SNSでのシェアやメッセージアプリでの送付を想定しても、1分の動画は最適な尺だ。「短い」ことそのものが、拡散力を高める要因になるのだ。
スマートフォン一つで始める「1分ルームツアー」撮影のコツ
撮影前の準備が7割
動画制作のプロは、編集よりも撮影準備に時間をかける。同じことは不動産業界の動画制作でも当てはまる。まず、撮影対象となる物件の空間を把握することから始めよう。
玄関から始まるストーリーを構成する
1分ルームツアーは、必ず玄関から始まり、物件の主要な空間を順番に紹介し、最後に物件の特徴的なポイント(眺望、採光、共用施設など)で締める流れが基本だ。これは、実際に物件を内見する時の動線と同じである。消費者の心理状態に寄り添った構成にすることで、動画を見た人が「実際に見に行きたい」という欲求に繋がりやすくなる。
照明と時間帯の選択が大きく影響する
物件の印象は、光で決まると言っても過言ではない。雨の日の薄暗い照明よりも、晴天の昼間に撮影する方が、同じ物件でも3割増しの魅力に見える。また、南向きの窓からの採光を引き出したいなら、午前中の撮影が効果的。西向きなら午後という具合に、物件の特性に合わせた撮影時間帯を選ぶことが重要だ。
スマートフォンの安定性を確保する
スマートフォンで動画を撮影する際、最大の課題は手ブレである。小型の三脚(1,000~3,000円程度)やスマートフォンホルダー、あるいは自撮り棒を活用することで、プロ並みの安定した映像が得られる。このひと手間が、動画の品質を劇的に向上させる。
編集を簡単にする「無料・低価格アプリ」の活用
初心者向け:InShot
InShotは、世界中で数億ダウンロードされている編集アプリだ。不動産業界での利用実績も多く、インターフェースが直感的で、初心者でも5分程度で基本操作をマスターできる。
特に、ルームツアー動画に向いた機能として、「速度調整」と「トランジション」が挙げられる。撮影時にやや速足で歩いた映像は、InShot内で再生速度を調整することで、ちょうど良いペースに修正可能。シーンの切り替わりに「フェードイン」「スライド」といったエフェクトを加えるだけで、編集動画らしい洗練された表現になる。
BGMはアプリ内の著作権フリーの楽曲ライブラリから選択できるため、別途ライセンスを気にする必要がない。
中級者向け:CapCut
CapCutは、中国発のアプリだが、日本での知名度が急速に高まっている。InShotより高度な編集機能を備えながら、依然として使いやすさを保っている。
ルームツアーの制作では、複数の動画クリップを組み合わせ、テキストや効果音を加える作業が必要になることがある。CapCutはこうした複雑な編集作業にも対応でき、結果として映像のクオリティが一段上がる。特に、キーフレームアニメーションを活用すれば、テキストやロゴが動く演出も可能だ。
プロ志向:Adobe Premiere Rush
Adobe Premiere Rushは、Adobe社の軽量版編集ソフト。月額600円程度のサブスクリプション費用がかかるが、機能と安定性は桁違いだ。
不動産会社が定期的に物件紹介動画を制作する場合、統一されたブランドイメージを保つことは競争力に直結する。Adobe Premiere Rushなら、カラーグレーディングやエフェクトの精度が高く、「信頼感」のある動画が制作できる。
実践的な「1分ルームツアー」の構成テンプレート
1分という制限時間を最大に活用するには、構成が勝負だ。以下のテンプレートを参考に、物件ごとにカスタマイズしてみよう。
0秒~10秒:玄関~リビング(オープニング)
玄関ドアを開いて、リビングへ進むまでの映像。最初の10秒で物件全体の第一印象を決める。暗い玄関なら照明を工夫し、広々としたリビングなら広がりを感じさせるカメラワークを心がける。
10秒~30秒:リビング・ダイニング・キッチン(メイン空間)
物件の最大の魅力である居住空間を丹念に紹介。採光や眺望がある場合は、窓を通した景色をしっかり映す。キッチンの動線や収納の充実度も、短尺の中で伝える工夫が必要だ。
30秒~45秒:個室・バスルーム・その他
寝室やベッドルーム、バスルーム、トイレなどを素早く紹介。各部屋の広さと採光を短編で伝える。建物が古い場合、最新型の設備があればそこを強調する。
45秒~60秒:物件の「推しポイント」
最後は、この物件ならではの特徴で締める。眺望の良さ、近隣のコンビニまでの動線、ベランダからの夜景、共用施設の充実度など。消費者の「内見に行きたい」という気持ちを高ぶらせる、クライマックスの演出が重要だ。
撮影・編集時の「よくある失敗」と対策
失敗例1:音声がノイズだらけ
スマートフォンのマイクは、風音や室外機の音を大きく拾ってしまう。解決策は、BGMを挿入する際に、元の音声をミュートしてしまうこと。完全な無音よりも、適切なBGMが入っていた方が、むしろ視聴者にはプロ感が伝わる。
失敗例2:色温度がおかしい
異なる照明環境が混在する部屋を撮影すると、シーンによって色が変わってしまう。編集アプリの「ホワイトバランス調整」機能で統一することで、安定した映像に修正できる。
失敗例3:動画がぼやけている
スマートフォンのカメラは、撮影時にフォーカスが自動で調整される。動きながら撮影する場合、途中でピントが外れることがある。最初にフォーカスをロックしてから撮影を開始することで、この問題は回避できる。
動画をマーケティング資産に変える工夫
大手不動産ポータルサイトへの活用
作成した1分ルームツアーは、単独でアップロードするだけでなく、大手不動産ポータルサイトの動画掲載機能と組み合わせて活用しよう。動画が付いた物件情報は、テキストと写真だけの情報より、問い合わせ件数が平均30~50%増加することが多くの不動産会社で報告されている。
SNSでの拡散を想定した編集
YouTubeだけでなく、InstagramのReels、TikTok、LINEのタイムラインなど、複数のプラットフォームでの共有を想定した編集を心がけよう。各プラットフォームで推奨される動画の解像度や尺は異なるが、1分という基本尺は、ほぼすべての主流プラットフォームに対応できる。
顧客からの「信頼」を構築する武器に
動画は、テキストや写真では伝えられない「透明性」と「信頼感」を生み出す。「物件紹介動画を丁寧に制作している」という姿勢そのものが、不動産会社のプロフェッショナルイメージを高める。消費者は、こうした細部への配慮を感じて、「この会社は信頼できる」と判断する。
動画制作を加盟店の差別化要因に
不動産賃貸仲介業界では、同じエリアで複数の不動産会社が同じ物件を取り扱うことが珍しくない。その中で、物件紹介の質で差がつく時代へシフトしている。
スマートフォン一つで制作できる1分ルームツアーは、大規模な設備投資なしに、消費者ニーズに応えられる強力なマーケティングツールだ。撮影から編集まで、各段階でのコツを押さえれば、初心者でも3~4本制作する頃には、プロ並みのクオリティに到達できる。
新しい物件を仲介する際、まずは試しに1本の1分ルームツアーを作成してみる。そうすることで、消費者からの反応の違いを実感することになるだろう。その小さな一歩が、加盟店としての競争力を確実に高める。
このような動画制作の実践から、デジタルマーケティングの最適化まで、加盟店のビジネス成長をサポートする体制が整っているハウスコムFC。不動産仲介事業の進化に対応するパートナーをお探しでしたら、まずはお気軽にご相談ください。


