知名度と信頼、どちらで勝負する?―不動産仲介業の「オンライン・ブランディング戦略」

問合せ前の選別が加速。消費者は「会社の顔」をどう見ているのか
物件検索から契約までのプロセスが、着実にデジタル化している。不動産情報サイト事業者連絡協議会の最新調査によると、物件を契約した人が問合せた不動産会社数は平均2.3社と、直近10年で最少を記録した。問合せ前にあらかじめ絞り込む傾向が一層強まっているのだ。
この数字が示すのは、消費者が「最初の接点」で会社を厳選しているという現実である。大手不動産ポータルサイトに並ぶ物件情報の中で、いかに自社の存在感を示すか。ブランド力が試される時代に突入している。
では、不動産会社は何をもって選ばれているのか。同調査の「不動産会社を選ぶポイント」に関する回答を見ると、興味深い傾向が浮かび上がる。賃貸では「地元で知名度のある会社」が重視される一方、売買では「全国展開している会社」が上位にランクインした。つまり、全国規模の認知度を求める層と、地域密着の安心感を重視する層が、明確に分かれているのである。
自社がどちらのタイプに属するのか。そして、その強みをオンライン上でどう可視化するか。この戦略的判断が、今後の集客力を左右する鍵となる。
「全国展開型」の戦い方―規模と信頼を武器にする
全国に拠点を持つ企業、あるいはフランチャイズ加盟により全国ブランドを活用できる企業には、明確なアドバンテージがある。消費者調査では、売買物件を検討する層の40.0%が「全国展開している会社である」ことを選択のポイントに挙げた。特にポイントとなる点でも上位に位置しており、規模の大きさが信頼の証として機能していることがわかる。
オンラインで「全国規模」を伝える5つの視点
1. 店舗ネットワークの可視化
全国200店舗、三大都市圏に集中出店といった具体的な数字を、企業サイトやポータルサイトのプロフィール欄に明記する。数字は信頼性の裏付けとなり、初見の消費者に対して「大手である」という安心感を与える。
2. 実績データの積極的な開示
年間仲介件数、顧客満足度、リピート率など、定量的な実績を示すことで、規模の大きさが単なる見栄えではなく、実際の成果に結びついていることを証明できる。
3. 統一されたビジュアルアイデンティティ
ロゴ、カラー、写真のトーンを統一し、どのプラットフォームで見ても「同じブランド」だと認識できる状態を作る。大手企業としての一貫性は、プロフェッショナリズムの象徴となる。
4. 豊富な物件掲載数の訴求
調査では「他にもたくさんの物件を掲載している」が不動産会社選びのポイントとして上位にランクインした。全国ネットワークを活かした豊富な物件情報を持つことは、大きな競争優位性となる。ポータルサイト上での掲載物件数を増やし、選択肢の広さをアピールすることが重要だ。
5. 動画コンテンツによる信頼構築
同調査では「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」が不動産会社選びのポイントとして注目を集めており、賃貸では前年比で大幅に増加、売買では3年連続で7ポイント以上増加している。物件動画だけでなく、本部や各店舗の紹介動画、スタッフインタビュー動画なども効果的だ。企業の「顔」が見えることで、規模の大きさと人間味が両立する。
全国展開型企業がオンラインで訴求すべきは、「どこでも安心して任せられる」という包括的な信頼感である。規模を活かした物件提案力、システム基盤の堅牢性、ノウハウの蓄積といった要素を、視覚的かつ定量的に伝えることが求められる。
「地元密着型」の戦い方―地域特化の価値を最大化する
一方、地元密着型の不動産会社には、大手にはない独自の強みがある。調査によると、賃貸物件を検討する層の70.4%が「地元で知名度のある会社である」ことを不動産会社選びのポイントに挙げている。地域における存在感は、依然として大きな競争力なのだ。
地域密着を「デジタル上の武器」に変える戦略
1. 地域情報のコンテンツ化
街の歴史、おすすめの飲食店、子育て環境、交通アクセスの詳細など、地元だからこそ語れる情報を記事や動画で発信する。これは単なる物件紹介を超えた「地域ガイド」として機能し、SEO対策としても有効だ。「○○市 住みやすさ」「△△駅 周辺環境」といったローカル検索での上位表示を狙える。
2. 地域に根差した口コミ戦略
Googleマイビジネスや各種レビューサイトでの評価を積極的に集める。調査では「不動産会社に対する口コミ情報」が新たに選択肢として加わり、一定の注目を集めた。地域密着型企業にとって、リアルな顧客の声は最大の資産である。
3. 地元オーナーとの関係性の可視化
「地域の大家さんから直接預かった物件」「自主管理オーナー様との強固なネットワーク」といった要素は、地元密着型ならではの訴求ポイントだ。独自の仕入れルートを持つことで、大手ポータルサイトに掲載されていない物件情報を提供できる可能性もある。
4. 地域イベントやCSR活動の発信
地元の祭りへの協賛、清掃活動への参加、地域コミュニティとの連携など、事業活動以外での地域貢献をSNSやブログで発信する。単なる「商売」ではなく、地域の一員としての姿勢が伝わることで、信頼が深まる。
5. 写真と動画の質で差別化を図る
調査によると「写真の点数が多い」が不動産会社選びのポイントで全体トップとなり、特にポイントとなる点でも1位となった。前年より高い割合で、写真の重要性が増している。また「写真の見栄えがよい」も上位にランクインしており、視覚的な訴求力が問合せを左右する。
地元密着型企業は、物件情報に独自の付加価値を乗せることができる。プロのカメラマンによる撮影、ドローンを使った周辺環境の空撮、内見動画のクオリティ向上など、情報の「質」で勝負することが可能だ。これらの取り組みは、大手企業が標準化された情報提供に留まる中で、差別化要因となる。
地元密着型がオンラインで訴求すべきは、「この地域のことなら誰よりも詳しい」というスペシャリストとしての立ち位置である。地域特化型の情報発信を継続することで、エリア内での認知度とブランド力を構築できる。
どちらのタイプでも共通する「デジタル・ファースト」の視点
全国展開型と地元密着型、いずれの戦略を選択するにせよ、オンライン上での情報提示の質が問われる時代になった。調査結果が示すように、消費者は問合せ前に綿密な下調べを行い、候補を絞り込んでいる。その選別プロセスで生き残るためには、以下の要素が不可欠だ。
オンライン集客を成功させる3つの必須要素
1. 正確で豊富な物件情報の提供
調査では不動産会社に求めるものとして「正確な物件情報の提供」が最も重視されており、賃貸・売買ともにトップとなった。また「最新の物件情報の提供」も前年比で10ポイント超増加しており、情報の鮮度が問われている。
消費者は虚偽や誇張を嫌う。物件のウィークポイントも含めて正直に記載することで、長期的な信頼関係を築くことができる。実際、「物件のウィークポイントも書かれている」は不動産会社選びのポイントで高い割合を示しており、透明性の高い情報開示が評価されている。
2. レスポンスの速さと丁寧さ
調査の「不動産会社の対応で満足だったこと」では、「問合せに対するレスポンスが早かった」が賃貸で69.5%、売買で74.7%と圧倒的な1位となった。一方、不満だったこととして「問合せをしたら返答が遅かった」が賃貸2位、売買2位にランクインしている。
オンラインで接点を持った顧客に対して、いかに迅速かつ的確に対応できるかが、契約につながる決定的な要因となる。自動返信システムやチャットボットの導入、営業時間外の問合せへの対応体制など、デジタルツールを活用したスピード向上策が求められる。
3. 非対面型接客への対応
調査では非対面型の接客について「使ってみたい」という回答が3年連続で増加している。賃貸ではIT重説、売買ではオンライン接客が最も支持されている。特に売買では「部屋の雰囲気が分かる動画」へのニーズが3年連続で増加し、オンライン内見への関心も高まっている。
オンライン接客への対応力は、もはや特別なサービスではなく、標準装備として求められつつある。遠方からの引越し、多忙なビジネスパーソン、感染症対策を重視する層など、多様なニーズに応えるためにも、リモート対応の整備は不可欠だ。
ブランド力を「借りる」という選択肢―フランチャイズモデルの可能性
ここまで全国展開型と地元密着型の戦略を見てきたが、実は両方の強みを活用できる方法がある。それがフランチャイズモデルへの加盟だ。
全国的な知名度を持つブランドに加盟することで、地域に根差した事業者であっても「全国展開企業の一員」としての信頼性を獲得できる。調査データが示すように、売買層の約40%が全国展開企業を重視する中で、この看板は大きなアドバンテージとなる。
フランチャイズ加盟がもたらす4つの優位性
1. 即座に得られるブランド力
独力でブランドを構築するには、莫大な広告宣伝費と長い時間が必要だ。しかし加盟により、確立されたブランドイメージを即座に活用できる。三大都市圏で200店舗規模のネットワークを持つフランチャイズ本部であれば、そのブランド力は地域での集客に直結する。
2. 本部による反響送客システム
大手フランチャイズ本部は独自の集客チャネルを持ち、本部サイトや提携企業から加盟店への送客を行う仕組みを整えている。自社だけでは接点を持てなかった顧客層にリーチできるため、問合せ件数の底上げが期待できる。
3. 業務システムとノウハウの共有
大手不動産テック企業の基幹システム、顧客管理ツール、契約管理システムなど、高額な投資が必要なITインフラを、ロイヤリティの範囲内で利用できるケースが多い。また25年以上にわたり培われた接客ノウハウ、営業手法、トラブル対応のマニュアルなども共有される。
独立系の中小事業者が個別に開発・導入するには限界があるシステムやノウハウを、スケールメリットにより効率的に活用できる点は大きい。
4. 本部サポートによる経営安定化
定期的な巡回サポート、法務・会計・労務といった専門分野のバックアップ、加盟店同士のネットワーク構築など、経営面での支援体制が整っている。孤立しがちな中小事業者にとって、相談できる存在があることの安心感は計り知れない。
このモデルの本質は、「全国展開企業の信頼性」と「地元密着事業者の機動力」を両立させることにある。本部ブランドで集客し、地域に精通したスタッフが対応する。この組み合わせこそ、現代の不動産仲介業における理想形の一つといえるだろう。
オンライン時代の不動産仲介業―選ばれるための最終戦略
消費者の行動は明確だ。問合せ前に情報を精査し、候補を絞り込む。その過程で「この会社に任せたい」と思わせるかどうかが、すべてを決める。
全国展開型企業は、規模と実績を武器に、包括的な信頼感を訴求する。地元密着型企業は、地域特化の専門性と顧客との近さを前面に打ち出す。そしてフランチャイズ加盟により、両方の強みを手に入れるという選択肢もある。
重要なのは、自社の立ち位置を明確にし、その強みをオンライン上で徹底的に可視化することだ。写真、動画、口コミ、実績データ、地域情報―あらゆる手段を駆使して、企業の「顔」を作り上げる。
調査データが示すように、正確で豊富な情報提供、迅速な対応、透明性の高いコミュニケーションは、全タイプに共通して求められる要素だ。そこに自社独自の強みを掛け合わせることで、競合との差別化が実現する。
デジタルショールームとしてのオンライン展開は、もはや選択肢ではなく必須条件となった。問われているのは「やるか、やらないか」ではない。「どのような戦略で、どこまで徹底できるか」である。
消費者が最初に目にするのは、店舗ではなくスマートフォンの画面だ。そこで「選ばれる企業」になるために、今こそ自社のオンライン戦略を見直すべき時である。


