【保存版】競合他社の強み・弱みを分析する方法|賃貸仲介で勝ち残るための競合調査テクニック

「最近、近隣に新しい不動産会社がオープンした」「競合店に顧客を奪われている気がする」――そんな危機感を抱いている賃貸仲介業者は少なくない。不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に発表した調査によると、物件を契約するまでに問い合わせた不動産会社数は平均3.5社。賃貸では過去11年間で最多の3.3社を記録した。つまり、1人の顧客をめぐって常に3〜4社が競争しているということだ。

この「比較検討時代」を勝ち抜くには、競合他社の強みと弱みを正確に把握し、自社の差別化ポイントを明確にする必要がある。本記事では、地域・物件タイプ別の競合状況を把握し、選ばれる店舗になるための実践的な競合分析手法を解説する。

1. なぜ今、競合分析が不可欠なのか

顧客の比較行動が激化している現実

不動産業界における競争環境は、かつてないほど激化している。RSCの「不動産情報サイト利用者意識アンケート」(2025年)によると、物件を契約するまでに顧客が問い合わせる不動産会社数は全体で平均3.5社にのぼる。前年比で0.7社増加しており、特に賃貸においては平均3.3社と、2015年以降で最も多い数値を記録した。

この数字が意味するところは明確だ。顧客は複数の不動産会社を「比較」してから契約先を決めているのである。さらに注目すべきは、「5社以上」に問い合わせる顧客の割合が21.0%に達している点だ。5人に1人以上が、5社以上の不動産会社を比較検討しているという事実は、競合分析の重要性を如実に物語っている。

問い合わせ物件数も増加傾向

同調査では、問い合わせた物件数についても興味深いデータが示されている。全体で平均5.5物件と前年から1.1物件増加。最も多かった回答は「6物件以上」で37.5%を占めた。賃貸に限定すると平均5.9物件と、2016年以降で最多となっている。

顧客が多くの物件を比較検討するということは、それだけ多くの不動産会社と接触する機会があるということだ。この「接触機会」において、いかに競合他社との差別化を図れるかが、成約率を左右する重要な要素となる。


2. 競合分析の基本フレームワーク

3C分析で市場を俯瞰する

競合分析を効果的に行うには、体系的なフレームワークを活用することが重要だ。最も基本的かつ効果的なのが「3C分析」である。

3C分析は「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点から市場を分析する手法だ。この3つの要素を相互に関連づけて分析することで、自社の立ち位置と差別化すべきポイントが明確になる。

Customer(顧客)分析のポイント

  • 商圏内の人口動態(単身者・ファミリー・高齢者の比率)
  • 主要な転居理由(転勤・進学・結婚など)
  • 重視する条件(家賃・駅距離・築年数・設備など)
  • 情報収集手段(大手不動産ポータルサイト・SNS・口コミなど)

Competitor(競合)分析のポイント

  • 商圏内の競合店舗数と立地
  • 各社の強み(物件数・対応スピード・専門性など)
  • 価格戦略(仲介手数料・初期費用割引の有無)
  • デジタル対応力(ウェブサイト・オンライン内見対応など)

Company(自社)分析のポイント

  • 保有物件の特徴と強み
  • スタッフの専門性・対応力
  • 顧客からの評価・口コミ
  • デジタル活用度

SWOT分析で戦略を導き出す

3C分析で現状を把握したら、次はSWOT分析を活用して具体的な戦略を立案する。SWOT分析は「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの要素を整理するフレームワークだ。

SWOT分析の真価は、4つの要素を掛け合わせる「クロスSWOT分析」にある。

機会(O)脅威(T)
強み(S)強みを活かして機会を最大化強みで脅威を克服
弱み(W)弱みを補って機会を活用弱みと脅威を回避

例えば、「地域密着型のきめ細かいサービス(強み)」と「大手不動産ポータルサイト経由の問い合わせ増加(機会)」を掛け合わせれば、「ポータルサイト経由の顧客に対して、地域情報を盛り込んだ丁寧な対応で差別化する」という戦略が導き出せる。


3. 地域別の競合状況を把握する方法

商圏分析の5つのステップ

地域ごとの競合状況を正確に把握するには、以下の5つのステップで商圏分析を行うことが効果的だ。

ステップ1:商圏の範囲を定義する

まず、自社店舗を中心とした商圏の範囲を明確にする。一般的に、賃貸仲介業の商圏は駅から徒歩圏内、または店舗から車で15〜20分程度の範囲とされることが多い。ただし、これは地域特性によって大きく異なるため、自社の過去の成約データから実際の顧客分布を確認することが重要だ。

ステップ2:競合店舗をリストアップする

商圏内に存在するすべての競合店舗をリストアップする。大手不動産ポータルサイトで物件掲載している業者を確認するほか、実際に街を歩いて店舗の存在を確認することも重要だ。リストには以下の情報を記録しておく。

  • 店舗名・運営会社名
  • 所在地・最寄り駅からの距離
  • 営業時間・定休日
  • 主な取扱物件タイプ
  • ウェブサイト・SNSの有無

ステップ3:各社の強みと弱みを調査する

リストアップした競合他社について、以下の観点から強みと弱みを調査する。

物件掲載状況については、大手不動産ポータルサイトでの掲載物件数、写真点数、更新頻度などを確認する。RSCの調査では、「写真の点数が多い」ことが不動産会社を選ぶポイントとしてトップに挙げられており、直近3年で最も高い数値を記録している。競合他社の写真掲載状況を把握することは、差別化を図る上で極めて重要だ。

口コミ評価についても、各種レビューサイトやGoogleマップの口コミを確認する。同調査では、「不動産会社に対する口コミ情報」が特に重視するポイントで2位にランクインしており、顧客の会社選びに大きな影響を与えていることがわかる。

ステップ4:エリアごとの競争環境を可視化する

調査結果を地図上にプロットし、エリアごとの競争環境を可視化する。これにより、競合が密集しているエリア、逆に競合が少ないエリアが一目でわかるようになる。競合が少ないエリアは、営業リソースを集中させる価値のある「ブルーオーシャン」となる可能性がある。

ステップ5:定期的に情報を更新する

不動産市場は常に変動している。新規参入や撤退、各社の戦略変更などを定期的にモニタリングし、分析結果を更新することが重要だ。少なくとも四半期に1回は競合情報を見直すことを推奨する。

人口動態データの活用法

地域分析を深めるには、人口動態データの活用が欠かせない。各自治体が公開している統計データや、民間企業が提供する商圏分析ツールを活用することで、より精度の高い分析が可能になる。

特に注目すべき指標は以下の通りだ。

  • 年齢別人口構成(ターゲット顧客層の規模把握)
  • 世帯数の推移(賃貸需要の予測)
  • 転入・転出者数(流動性の把握)
  • 昼夜間人口比率(エリア特性の理解)

これらのデータと競合情報を組み合わせることで、「どのエリアで、どのような顧客層に対して、どのような戦略で攻めるべきか」が明確になる。


4. 物件タイプ別の競合分析テクニック

単身者向け物件市場の分析ポイント

単身者向け物件市場は、賃貸仲介業において最も競争が激しいセグメントの一つだ。大学や専門学校が集まるエリア、オフィス街へのアクセスが良いエリアでは、特に競合が多くなる傾向がある。

このセグメントで差別化を図るには、以下のポイントに着目して競合分析を行う。

設備面での差別化要因

インターネット無料、オートロック、宅配ボックスなど、単身者のニーズが高い設備の有無を競合物件と比較する。特に近年はテレワークの普及により、インターネット環境の充実度が重視される傾向にある。

初期費用の比較

敷金・礼金の相場、仲介手数料の設定、フリーレントの有無などを競合と比較する。単身者は初期費用を抑えたいニーズが強いため、この点での差別化は効果的だ。

対応スピード

RSCの調査では、不動産会社の対応について「問い合わせに対するレスポンスが早かった」ことが満足だった点のトップに挙げられている。競合他社の対応スピードを把握し、それを上回る対応を実現することが重要だ。

ファミリー向け物件市場の分析ポイント

ファミリー向け物件市場では、単身者向けとは異なる観点での競合分析が必要となる。

学区・教育環境

子育て世代にとって、学区は物件選びの重要な要素だ。競合他社が学区情報をどの程度詳しく提供しているかを確認し、より詳細で有益な情報を提供することで差別化を図れる。RSCの調査では、物件情報以外に必要だと思う情報として「周辺環境の情報」が上位に挙げられている。

生活利便施設

スーパー、病院、公園など、生活利便施設へのアクセス情報を競合がどの程度提供しているかを確認する。地図を活用した視覚的な情報提供ができれば、差別化につながる。

駐車場情報

ファミリー層は車を所有しているケースが多い。駐車場の有無、料金、距離などの情報が充実しているかどうかも競合比較のポイントとなる。

法人向け・社宅需要の分析ポイント

法人向けの社宅需要を取り込むことは、安定した収益確保につながる。このセグメントでは、以下の観点で競合分析を行う。

法人対応力

一括借り上げ、複数物件の同時契約、契約手続きの効率化など、法人特有のニーズに対応できる体制が整っているかを競合と比較する。

エリアカバー範囲

法人顧客は複数拠点の社宅を一元管理したいニーズがある。広いエリアをカバーできるネットワークがあるかどうかは、競争優位性につながる。


5. 競合との差別化を実現する5つの戦略

戦略1:物件情報の質で差をつける

RSCの調査で「不動産会社を選ぶポイント」のトップに挙げられた「写真の点数が多い」という結果は、物件情報の質がいかに重要かを示している。

具体的には、以下の点で競合との差別化を図る。

  • 物件写真の点数を競合より多く掲載する(外観、共用部、室内各所、周辺環境など)
  • 360度パノラマ写真や動画を活用する
  • 間取り図を見やすく、正確に作成する
  • 設備情報を詳細に記載する
  • 物件の特徴やメリットを具体的に伝える

仕入れた物件を当日中に大手不動産ポータルサイトへ出稿し、反響の少ない物件は写真や情報を随時更新するという取り組みで、賃貸仲介件数を大幅に伸ばした事例もある。スピードと質の両面で競合を上回ることが重要だ。

戦略2:対応品質を徹底的に高める

RSCの調査では、不動産会社に求めるものとして「礼儀・接客対応」「正確な物件情報の提供」「問い合わせに対する迅速対応」「物件に対する詳細説明」などが上位に挙げられている。

これらはすべて、人的サービスの質に関わる要素だ。競合分析の結果、自社の対応品質に改善の余地があることがわかれば、以下のような施策を検討する。

  • 接客マニュアルの整備と研修の実施
  • 問い合わせ対応のスピード目標設定(例:1時間以内に初回連絡)
  • 物件説明の標準化とスクリプト作成
  • 顧客満足度調査の定期実施とフィードバック

戦略3:デジタル対応力を強化する

RSCの調査では、非対面型サービスの利用意向も明らかになっている。「IT重説」の活用意向は調査開始以来最高の49.9%を記録し、「オンライン契約」の利用意向も3年連続で増加している。

競合他社のデジタル対応状況を調査し、以下の点で優位性を確保することが重要だ。

  • オンライン内見への対応
  • IT重説(IT重要事項説明)の体制整備
  • 電子契約の導入
  • 自社ウェブサイトの充実
  • SNSを活用した情報発信

特に賃貸では、非対面対応へのニーズが高まっている。この流れに乗り遅れないことが、競争力維持の鍵となる。

戦略4:地域情報の専門家になる

RSCの調査で「店舗がアクセスしやすい場所にある」が2年連続で減少傾向にあることは、立地よりも情報の質が重視されるようになっていることを示唆している。

この傾向を踏まえ、地域情報の専門家としてのポジションを確立することが差別化につながる。

  • 地域の治安情報、騒音状況など、物件情報だけではわからない情報の提供
  • 地元の飲食店、商店、医療機関などの口コミ情報の蓄積
  • 学校や保育施設の評判、入学・入園の難易度などの情報
  • ハザードマップに基づく災害リスク情報

これらの情報は、大手不動産ポータルサイトでは得られない「現場ならでは」の付加価値となる。

戦略5:口コミ・評判を戦略的に管理する

「不動産会社に対する口コミ情報」が会社選びの重視ポイントで2位にランクインしている現状を踏まえ、口コミ・評判の管理を戦略的に行うことが重要だ。

  • Googleマップ、各種レビューサイトでの口コミ状況を定期的にモニタリング
  • 良い口コミを書いていただいた顧客への感謝の伝達
  • ネガティブな口コミへの真摯で丁寧な対応
  • 顧客に口コミ投稿を依頼する仕組みの構築

競合他社の口コミ状況も定期的に確認し、自社との比較を行うことで、改善すべきポイントが明確になる。


6. 競合分析を継続するための仕組みづくり

情報収集の習慣化

競合分析は一度行えば終わりというものではない。継続的に情報を収集・更新することで、市場の変化にいち早く対応できるようになる。

以下のような情報収集を習慣化することを推奨する。

毎日の情報収集

  • 大手不動産ポータルサイトでの競合掲載状況確認
  • 自社・競合の口コミ状況チェック

毎週の情報収集

  • 競合ウェブサイトの更新状況確認
  • 業界ニュースのチェック

毎月の情報収集

  • 商圏内の新規開店・閉店情報
  • 賃料相場の変動確認

四半期ごとの分析

  • 3C分析・SWOT分析の見直し
  • 競合分析レポートの作成

チームでの情報共有

競合分析の結果は、経営層だけでなく、現場のスタッフにも共有することが重要だ。日々の接客の中で得られる競合情報も、チームで共有することで分析の精度が高まる。

  • 定期的なミーティングでの競合情報共有
  • 競合情報を記録するフォーマットの統一
  • 現場スタッフからの情報収集の仕組み化

7. フランチャイズ加盟という選択肢

個店経営の限界と解決策

ここまで解説してきた競合分析を、すべて自社で行うには相当なリソースが必要となる。特に中小規模の不動産会社にとって、競合分析に割ける時間や人員は限られている。

また、競合分析の結果、自社の弱みとして「ブランド力の不足」「集客力の弱さ」「業務システムの未整備」などが浮かび上がることも多い。これらの弱みを自社単独で克服することは、容易ではない。

このような課題を抱える不動産会社にとって、フランチャイズへの加盟は有効な選択肢となりうる。

フランチャイズ加盟のメリット

フランチャイズ本部のサポートを受けることで、以下のようなメリットが期待できる。

ブランド力の獲得

認知度の高いブランドを冠することで、顧客からの信頼を得やすくなる。特に三大都市圏では、大手ブランドの看板が集客に大きく寄与する。

反響送客による支援

フランチャイズ本部が提携企業と連携し、反響送客による支援を行うケースもある。これにより、自社単独では獲得できない顧客層へのアプローチが可能になる。

業務システムの活用

大手不動産テック企業の基幹システムを活用できるフランチャイズもある。コンバータ・顧客管理・契約管理といった業務支援ツールを活用することで、業務効率化とコスト削減を同時に実現できる。

ノウハウの共有

フランチャイズ本部が蓄積してきた営業ノウハウ、他の加盟店の成功事例などを共有してもらえる。競合分析の方法や差別化戦略についても、本部からのアドバイスを受けられる。

ネットワークの活用

定期的な加盟店会合などを通じて、他の加盟店との情報交換が可能になる。地域は異なっても、同じ課題を抱える仲間との交流は、経営の大きな支えとなる。


まとめ:競合分析から始まる勝ち残り戦略

賃貸仲介業界において、競合分析はもはや「やったほうがいい」ではなく「やらなければならない」必須の取り組みとなっている。顧客が平均3.5社を比較検討する時代、競合を知らずして勝ち残ることは不可能に近い。

本記事で解説した競合分析の手法を実践することで、自社の強みと弱み、そして差別化すべきポイントが明確になるはずだ。そして、その分析結果を基に、物件情報の質向上、対応品質の改善、デジタル対応力の強化、地域情報の専門化、口コミ管理といった具体的なアクションにつなげていただきたい。

競合分析は、決して競合を「敵」として見るためのものではない。市場全体を俯瞰し、顧客に選ばれる存在になるための「羅針盤」なのだ。

変化の激しい不動産市場において、生き残り、成長していくために。まずは今日から、身近な競合の分析を始めてみてはいかがだろうか。


出典・参考

  • 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年10月27日発表)