2025年不動産市場を読む――比較社数は過去最多、IT化加速、省エネ義務化が示す「生き残る仲介業者」の条件

顧客は変わった。あなたの営業スタイルは変わったか?
不動産賃貸仲介業を取り巻く環境が、かつてないスピードで変化している。2025年、顧客は平均3.5社の不動産会社に問い合わせを行い――これは過去11年で最多の数字だ。賃貸に限れば3.3社と、2015年以降で最も多い。検討期間は長期化し、オンライン契約の利用意向は3年連続で上昇、そして4月からは新築住宅の省エネ基準適合が義務化された。
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した最新調査は、業界関係者にとって看過できないデータを突きつけている。変化の波は、もはや「対応を検討する」段階ではない。今すぐ舵を切らなければ、顧客から選ばれない業者として淘汰される――そんな厳しい現実が、数字の裏に潜んでいる。
本稿では、2025年の不動産市場を形作る3つの大きな変化――「顧客行動の変容」「IT化・デジタル化の本格普及」「法改正と社会的要請の高まり」を、最新データとともに読み解き、賃貸仲介業者が今すぐ実践すべき対応策を提示する。
1. 顧客行動の劇的変化――比較検討の時代が到来
問い合わせ社数3.5社、賃貸は過去11年で最多
2025年の調査で明らかになった最も象徴的な変化は、顧客が物件契約までに問い合わせる不動産会社の数が増加し続けている点だ。
全体の平均は3.5社で、前年から0.7社増加。特に賃貸では3.3社と、2015年の調査開始以来で最多を記録した。「5社以上」に問い合わせるユーザーの割合は21.0%に達し、顧客は複数の業者を徹底的に比較している。
この背景には、大手不動産ポータルサイトの普及により、物件情報へのアクセスが容易になったことがある。顧客は自宅にいながら、複数社の物件を比較検討できる環境に慣れ、「とりあえず1社に相談」という従来型の行動パターンは過去のものとなった。
検討期間の長期化――賃貸でも1カ月以上が49.3%
契約までの期間も長期化している。賃貸では「1カ月以上」かける顧客が49.3%と、前年から8.9ポイント増加。売買では「3カ月以上」が49%と、前年から14.4ポイントの大幅増加だ。
これは、顧客がより慎重に、より多くの選択肢を比較検討していることを示している。即決を促す営業手法は、もはや通用しない。顧客の検討ペースを尊重し、長期的な関係構築を前提とした営業スタイルへの転換が求められている。
問い合わせ物件数も増加――平均5.5物件、「6物件以上」が37.5%
問い合わせる物件数も増加傾向にある。全体の平均は5.5物件で、前年から1.1物件増加。「6物件以上」に問い合わせる顧客は37.5%に達する。
賃貸では平均5.9物件と、2019年以降で最多を記録。特に「5物件」「6物件以上」の割合を合計すると56.8%に達し、半数以上の顧客が多数の物件を比較している実態が浮かび上がる。
【実践ポイント①】初回接触で信頼を獲得する仕組みを構築せよ
顧客が複数社を比較する時代、初回接触での印象が決定的に重要になる。RSC調査によれば、不動産会社に対する満足度の1位は「問い合わせに対するレスポンスの早さ」(71.5%)だった。
今すぐ実践できる対策:
- 問い合わせから30分以内の初回レスポンス体制を構築する
顧客は複数社に同時問い合わせをしている。最初に返答した業者が、顧客の記憶に残る。営業時間外の問い合わせには、自動返信で「翌営業日〇時までに必ず返信します」と明示するだけでも印象は変わる。 - 顧客の検討ペースを尊重する姿勢を明示する
不満の上位には「契約の意思決定を急かされた」(17.0%)がランクイン。「ご検討のペースに合わせてサポートします」と最初に伝えるだけで、顧客の安心感は高まる。 - 物件以外の情報提供で差別化する
顧客が必要とする情報は物件情報だけではない。「周辺情報」(67.3%)、「学校の通学情報」(55.3%)、「地域の安全性(治安)」(55%)など、生活に直結する情報提供が差別化につながる。
2. デジタル化の本格普及――IT重説・オンライン契約が当たり前に
IT重説の利用意向49.9%、調査開始以来の最高値
2025年、非対面型サービスへの顧客ニーズは明確な上昇トレンドを示している。
IT重説(リモートでの重要事項説明)の利用意向は49.9%と、調査開始以来の最高値を記録。賃貸では56.7%と過半数を超えた。「積極的に活用したい」と答えた層だけでも26.6%に達する。
オンライン契約は3年連続増加――賃貸では51.0%が利用意向
オンライン契約の利用意向も3年連続で増加し、全体で42.2%に到達。賃貸に限れば51.0%と、ついに過半数を超えた。
コロナ禍をきっかけに普及した非対面サービスは、もはや「緊急時の代替手段」ではなく、「顧客が積極的に選択する標準オプション」へと進化している。
写真点数が会社選びの決定打――68.1%が重視
デジタル時代を象徴するもう一つのデータが、不動産会社選びのポイントだ。
「写真の点数が多い」が68.1%で1位となり、「特に重視するポイント」でも18.8%でトップ。直近3年で最多の割合だ。顧客は物件を訪問する前に、オンラインで徹底的に情報収集する。写真が少ない、画質が悪い物件は、比較検討の段階で候補から外される。
【実践ポイント②】デジタル対応を「オプション」から「標準」へ
IT重説やオンライン契約を「できれば対応したい」ではなく、「標準サービス」として位置づけるべき時期が来ている。
今すぐ実践できる対策:
- IT重説・オンライン契約の対応体制を整備する
機材やシステムへの初期投資は必要だが、顧客の半数が希望するサービスを提供できないことは、機会損失に直結する。すでに対応している競合他社との差が開く前に、体制を整えるべきだ。 - 物件写真は最低20枚以上、4K画質で撮影する
写真点数で勝負が決まる時代に、5〜10枚程度の掲載では勝負にならない。外観、室内各部屋、水回り、収納、眺望、共用部、周辺環境――顧客が知りたい情報を網羅的に撮影する。スマートフォンでも4K撮影は可能だ。 - 360度パノラマ写真や動画を積極活用する
静止画だけでなく、室内をぐるりと見渡せる360度写真や、実際に歩いているような動画は、顧客の意思決定を大きく後押しする。撮影アプリも無料で利用できるものが増えている。 - オンライン内見の体制も整備する
物理的に訪問が難しい遠方の顧客や、時間的制約がある顧客向けに、ビデオ通話を使ったオンライン内見を提供する。担当者がスマートフォンを持って物件を案内すれば、特別な機材は不要だ。
3. 法改正と社会的要請――省エネ基準適合義務化が業界を変える
新築住宅の省エネ基準適合義務化が2025年4月スタート
2025年4月、新築住宅の省エネ基準適合が法的に義務化された。これは1980年に省エネ基準が制定されて以来、約45年ぶりの大きな転換点だ。
同時に、「建築物の省エネ性能表示制度」も2024年から開始されており、新築賃貸住宅・売買物件では省エネ性能の表示が標準化されつつある。
顧客の78.6%が「省エネ性能は重要」と回答
法改正を待つまでもなく、顧客の意識はすでに変化している。
RSC調査では、住まいを選ぶ上で省エネ性能が「重要」または「どちらかというと重要」と答えた顧客が78.6%に達した。売買では83.7%、賃貸でも74.6%と高い割合だ。
特に賃貸では、前年から10.3ポイント増加しており、従来は「売買物件で重視される項目」と考えられていた省エネ性能が、賃貸市場でも急速に関心を集めている。
エネルギー価格高騰が顧客心理を変えた
この背景には、電気・ガス料金の高騰がある。2022年以降、エネルギー価格は上昇を続け、家計への影響は無視できない水準に達している。顧客は「初期費用の安さ」だけでなく、「住み続けるコスト」を重視するようになった。
断熱性能が高く、光熱費を抑えられる物件は、長期的な住居費削減につながる。省エネ性能は、もはや「環境に優しい」という抽象的な価値ではなく、「家計に優しい」という具体的な経済メリットとして認識されている。
【実践ポイント③】省エネ性能を「売り」に変える営業力を磨け
省エネ基準適合義務化により、新築物件の省エネ性能は標準化される。しかし、既存物件を扱う仲介業者にとっても、これはチャンスだ。
今すぐ実践できる対策:
- 物件の省エネ性能を正確に把握し、説明できるようにする
断熱等級、一次エネルギー消費量等級、BELSマークの有無など、省エネ性能を示す指標を理解し、顧客に分かりやすく説明できる知識を身につける。「この物件は断熱等級4で、光熱費が月額〇〇円程度抑えられます」と具体的に説明できれば、顧客の意思決定を後押しできる。 - 省エネリフォーム済み物件を積極的にアピールする
既存物件でも、窓の二重サッシ化、断熱材の追加、LED照明の導入など、省エネリフォームが施されている場合は、大きなセールスポイントだ。オーナーに対して「省エネリフォームで賃料アップが可能」と提案するのも一つの戦略だ。 - 光熱費シミュレーションを提供する
「この物件に住んだ場合、光熱費は月額いくらになるか」を試算して提示すれば、顧客は具体的なイメージを持ちやすい。国土交通省のウェブサイトでは、住宅性能評価に基づく光熱費試算ツールが公開されている。 - 周辺環境の災害リスク情報も併せて提供する
省エネ性能と同様に、顧客が重視しているのが「災害リスクが少ない地域であること」だ。契約決定時の重視ポイントで33.3%、必要な情報として「地域の安全性(治安)」は55%と上位にランクインしている。ハザードマップ情報を物件資料に添付するだけでも、顧客の信頼は高まる。
4. 口コミ・評判の影響力拡大――デジタル時代の信頼構築
不動産会社選びで「口コミ情報」が2位に浮上
見逃せないもう一つのトレンドが、口コミ・評判の影響力拡大だ。
不動産会社選びで「特に重視するポイント」として、「不動産会社に対する口コミ情報」が17.0%で2位にランクイン。前年の11.6%から大きく上昇した。
顧客は物件を探すだけでなく、不動産会社そのものの評判をインターネットで調べている。Googleマップのレビュー、SNS上の口コミ、不動産ポータルサイトの会社評価――あらゆるチャネルで、あなたの会社は評価されている。
【実践ポイント④】オンライン評判管理を経営課題として位置づける
デジタル時代、顧客との接点の多くはオンラインから始まる。オンライン上の評判管理は、もはや「広報部門の仕事」ではなく、「経営の根幹に関わる課題」だ。
今すぐ実践できる対策:
- Googleマイビジネスを最適化する
店舗情報、営業時間、写真、サービス内容を正確に登録し、定期的に更新する。顧客からのレビューには必ず返信し、ポジティブな評価には感謝を、ネガティブな評価には真摯な改善姿勢を示す。 - 顧客満足度調査を実施し、改善に活かす
契約後の顧客にアンケートを実施し、満足点・不満点を把握する。不満点は速やかに改善し、満足いただいた顧客には、Googleレビューや不動産ポータルサイトへの評価投稿を(無理のない範囲で)お願いする。 - SNSでの情報発信を強化する
物件情報だけでなく、地域情報、不動産に関する豆知識、スタッフの日常など、親しみやすい情報を発信する。顧客は「信頼できる地域の専門家」に相談したいと考えている。 - 社内教育で接客品質を底上げする
口コミで最も多く言及されるのは「スタッフの対応」だ。言葉遣い、レスポンスの速さ、知識の正確性、顧客への配慮――すべてが評価の対象となる。定期的な社内研修とロールプレイングで、接客品質を標準化する。
5. 不動産仲介業者が今すぐ取り組むべき5つの変革
2025年の不動産市場を取り巻く環境変化を踏まえ、賃貸仲介業者が生き残り、成長するために取り組むべき変革をまとめる。
変革①:スピード重視の初期対応体制
問い合わせから30分以内の初回レスポンスを実現する体制を構築する。複数社を比較する顧客時代、初回接触の印象が全てを決める。
変革②:デジタルサービスの標準装備
IT重説、オンライン契約、オンライン内見を「できれば対応」から「標準サービス」へ。顧客の半数が希望するサービスを提供できない業者は、選ばれない。
変革③:写真・動画コンテンツの圧倒的充実
物件写真20枚以上、4K画質、360度パノラマ、動画案内を標準化する。視覚情報の質と量が、比較検討段階での勝敗を分ける。
変革④:省エネ性能・災害リスクの説明力強化
法改正と顧客意識の変化に対応し、省エネ性能や災害リスクを正確に説明できる専門知識を習得する。これらは新たな差別化ポイントだ。
変革⑤:オンライン評判の戦略的管理
Googleレビュー、SNS、不動産ポータルサイトでの評価を経営指標として管理し、継続的な改善サイクルを回す。デジタル時代の信頼は、オンライン上で構築される。
フランチャイズ加盟という選択肢――変化への最短ルート
ここまで述べてきた変革は、決して容易ではない。IT投資、社内教育、業務フロー再構築――すべてに時間とコストがかかる。
そこで検討すべき選択肢の一つが、確立されたブランド力とノウハウを持つフランチャイズへの加盟だ。
全国200店舗以上を展開する大手賃貸仲介ブランドのフランチャイズ本部では、加盟店向けに以下のような支援を提供している:
- 大手不動産テック企業の基幹システム(コンバータ・顧客管理・契約管理)を標準装備
IT投資の負担を軽減し、業務効率化を即座に実現できる。ロイヤリティに含まれるため、追加コストも発生しない。 - IT重説・オンライン契約のノウハウとツールを提供
自社で一から構築する必要がなく、実績のあるシステムとオペレーションをそのまま導入できる。 - 業務提携企業からの反響送客
本部が主体となって行う大手企業との業務提携により、安定的な顧客送客を受けられる。集客コストを抑えながら、成約機会を拡大できる。 - 定期的なベンチマークセミナーと情報共有
他の加盟店や直営店の成功事例、最新トレンド、実践的ノウハウを定期的に共有する場が設けられ、孤軍奮闘する必要がない。 - 法務・会計・労務の士業支援
省エネ基準適合義務化をはじめとする法改正への対応、税務処理、労務管理など、専門家のサポートを受けられる体制が整っている。
独立経営の強みを保ちながら、大手ブランドの集客力とシステム、ノウハウを活用できる――これがフランチャイズモデルの最大の魅力だ。
まとめ――変化は脅威ではなく、チャンスだ
2025年の不動産市場は、確かに大きく変化している。しかし、この変化は脅威であると同時に、チャンスでもある。
顧客が複数社を比較するということは、適切な対応をすれば、自社が選ばれる可能性が広がるということだ。IT化が進むということは、地理的制約を超えて広域の顧客にリーチできるということだ。省エネ基準適合義務化は、新たな専門性で差別化できる機会だ。
変化に適応できない業者は淘汰されるが、変化を先取りする業者は成長する。その分岐点は、「今」だ。
問い合わせへの即座の対応、デジタルサービスの標準化、圧倒的な情報量の提供、省エネ性能の説明力、オンライン評判の管理――これらは、明日から実践できる施策だ。
そして、もし自社だけでの変革に限界を感じているなら、実績あるフランチャイズ本部のサポートを検討する価値は十分にある。
2025年、不動産賃貸仲介業界は大きな転換点を迎えている。この変化の波を乗りこなし、顧客から選ばれ続ける業者となるために、今すぐ行動を起こすべきだ。
【参考資料】
- 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」2025年調査結果
- 国土交通省「建築物の省エネ性能表示制度」関連資料
- 国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律」関連資料


