顧客満足度71.5%を実現する不動産営業の秘密──トップ営業が毎日実践する「10の習慣」

賃貸仲介の世界では、同じ物件を扱っていながら成約率に大きな差が生まれる。ある営業担当者は月に20件以上の契約を積み上げる一方、別の担当者は5件にも届かない──この違いは一体どこから生まれるのか。不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した消費者調査によると、不動産会社の対応で「満足だった」と答えた顧客の71.5%が「問合せに対するレスポンスの早さ」を挙げている。この数字が示すのは、成約率を左右するのは物件の良し悪しだけではなく、営業担当者の「行動習慣」そのものだという事実だ。本稿では、現場で高い成果を出し続けるトップ営業パーソンに共通する10の習慣を、最新の調査データとともに紐解いていく。


顧客の期待値は過去最高水準に──データが示す「選ばれる営業」の条件

賃貸物件を契約した顧客が問合せた不動産会社数は平均3.3社で、2015年以降で最多となった。問合せた物件数も平均5.8件と過去11年で最も多く、「5物件」「6物件以上」を比較検討した顧客が6割を超えている。

この数字は何を意味するのか。顧客は以前にも増して「比較」を重視し、複数の不動産会社・複数の物件を天秤にかけて最終決定を下しているということだ。裏を返せば、ほんのわずかな対応の差が「選ばれるか、選ばれないか」を分ける時代に突入している。

一方で、不動産会社に対する不満として最も多かったのは「問合せをしたら、『その物件はもうない』と言われた」という回答だった。情報の鮮度管理という基本動作の欠如が、顧客離れの最大要因となっている現実がここにある。

では、こうした厳しい環境下で成果を出し続けるトップ営業は、具体的に何を実践しているのか。以下、10の習慣として整理していく。


習慣1:「即レス」を仕組み化している

調査で顧客満足度トップとなったのは「問合せに対するレスポンスの早さ」だった。満足と回答した顧客の71.5%がこの項目を選んでいる。

トップ営業は「なるべく早く返す」という曖昧な目標ではなく、「30分以内に一次回答を返す」といった具体的なルールを自らに課している。たとえ詳細な情報がすぐに揃わなくても、「お問合せありがとうございます。○時までに詳細をご連絡いたします」という一報を入れることで、顧客の不安を払拭する。

さらに、スマートフォンの通知設定やCRMツールのアラート機能を活用し、問合せが入った瞬間に気づける環境を整えている。レスポンスの速さは「気持ち」ではなく「仕組み」でつくるものだと心得ているのだ。


習慣2:物件情報の「鮮度」を毎朝チェックする

顧客の不満で最上位に挙がった「その物件はもうない」という回答は、賃貸で24.7%、売買で20.6%にも達している。この数字は、情報管理の不備がいかに顧客の信頼を損ねているかを如実に示している。

トップ営業の多くは、毎朝の業務開始時に掲載物件の空き状況を確認することをルーティンにしている。管理会社への電話確認、基幹システムでの状況更新、大手不動産ポータルサイトへの反映──この一連の作業を「朝の儀式」として組み込むことで、顧客に「ない物件」を案内するリスクを最小化している。

物件がすでに成約済みであれば、類似物件を即座に提案できる準備も怠らない。「ないです」で終わらせず、「代わりにこちらはいかがでしょうか」と切り返せるかどうかが、成約率の分水嶺となる。


習慣3:顧客の「都合」を最優先にスケジュールを組む

満足度調査で2位となったのは「こちらの都合を配慮してくれた」(51.4%)という項目だった。

平日は仕事で忙しい顧客、土日しか時間が取れない顧客、夜間にしか連絡が取れない顧客──顧客の生活リズムは千差万別だ。トップ営業は自分の予定を押し付けるのではなく、まず顧客の希望を聞き出し、それに合わせて動く。

「いつでも結構ですよ」と言われても、そこで思考停止しない。「平日と週末、どちらがご都合よろしいですか?」「午前と午後ではどちらがお時間取りやすいですか?」と選択肢を提示し、顧客が答えやすい形で確認を進める。こうした細やかな配慮が、「この営業担当は自分のことを考えてくれている」という信頼感につながっていく。


習慣4:物件の「詳細説明」に時間を惜しまない

不動産会社に求めるものとして、「物件に対する詳細説明力」は全体で66.3%、売買に限れば71.4%の顧客が挙げている。特に重視するポイントとしても上位にランクインしており、説明の質が成約を左右することは明らかだ。

トップ営業は、物件案内時に「この部屋は南向きで日当たりが良いです」といった一般的な説明で終わらせない。「午前10時から午後3時頃まで日光が入り、冬場でも暖房費が抑えられます」「上階は単身の方がお住まいで、足音が気になることは少ないと聞いています」といった具体的な生活イメージを伝える。

また、設備や仕様についても、カタログ的な説明ではなく「このエアコンは○年製で、フィルター清掃機能がついているので、お手入れが楽です」といった実用的な情報を添える。こうした「一歩踏み込んだ説明」が、顧客の意思決定を後押しする。


習慣5:「周辺地域情報」を自らの足で収集する

物件情報以外に必要だと思う情報として、「治安情報」が67.6%でトップとなった。続いて「周辺の騒音情報」(56.8%)、「地域の雰囲気」(55.6%)がランクインしている。

顧客が知りたいのは物件のスペックだけではない。「夜道は安全か」「隣人トラブルはないか」「スーパーまでの実際の距離感」──こうした生活に密着した情報を求めている。

トップ営業は、担当エリアを定期的に歩き回り、自らの五感で情報を収集している。最寄り駅から物件までのルートを実際に歩き、街灯の数や人通りを確認する。近隣のスーパーやコンビニの品揃え、飲食店の雰囲気、公園の清潔さ──こうした「足で稼いだ情報」は、ネット検索では得られない付加価値となり、顧客の信頼を勝ち取る武器になる。


習慣6:問合せ物件「以外」の提案を必ず用意する

不動産会社に求めるものとして、「問合せた物件以外の物件情報の提供」を挙げた顧客は全体で27.1%だった。一見すると多数派ではないが、ここにトップ営業の差別化ポイントがある。

顧客が問合せた物件は、あくまで「きっかけ」に過ぎない。希望条件を丁寧にヒアリングし、問合せ物件よりも条件に合う物件を提案できれば、「この営業担当はよく分かっている」という評価につながる。

トップ営業は、来店前の段階で顧客の希望条件を整理し、問合せ物件と類似した物件を最低3件は準備しておく。「ご希望の物件に加えて、こちらもご覧いただければと思います」という一言が、選択肢を広げ、成約率を高める。


習慣7:意思決定を「急がせない」

顧客の不満として「契約の意思決定を急かされた」という回答が賃貸で14.8%、売買で11.1%あった。一方、満足した点として「契約の意思決定をこちらのペースに合わせてくれた」が挙がっており、この対比は示唆に富んでいる。

トップ営業は、成約を急ぐあまり顧客にプレッシャーをかけることを避ける。「人気物件なのでお早めに」といった煽り文句は、短期的には効果があっても、長期的な信頼関係を損なうリスクがある。

むしろ、「ご不明な点があれば、何度でもご説明いたします」「ご家族とご相談されてからで構いません」といった姿勢を示すことで、顧客の心理的安全性を確保する。この余裕が、結果的に「この営業担当なら安心」という信頼につながり、成約率を押し上げる。


習慣8:言葉遣いと身だしなみを「商品」として扱う

満足度調査で「言葉遣いや対応が良かった」と回答した顧客は44.4%、逆に「言葉遣いや対応が気に障った」と不満を示した顧客も一定数存在する。

トップ営業は、言葉遣いや身だしなみを「自分の商品力」として捉えている。敬語の正しい使い方、声のトーン、メールの文面、名刺の渡し方──こうした細部にまで意識を向け、常に洗練された印象を与える努力を惜しまない。

特に賃貸仲介では、若年層の顧客も多い。だからこそ、馴れ馴れしい対応ではなく、適切な距離感を保った丁寧な接客が求められる。「フレンドリー」と「馴れ馴れしい」の境界線を見極める感覚を、日々の実践の中で磨いている。


習慣9:追客を「しつこく」ではなく「価値ある形で」行う

顧客の不満として「問合せ後の営業がしつこかった」という声が一定数あった。一方で、「物件の提案や追加の連絡等をしてくれた」は満足点として43.8%の支持を得ている。

この違いは何か。それは、連絡の「内容」にある。

トップ営業の追客は、「その後いかがですか?」という漠然とした催促ではない。「ご希望に近い新着物件が出ましたのでお知らせします」「以前ご覧いただいた物件の家賃が改定されました」といった、顧客にとって価値のある情報を添えて連絡を入れる。

追客は「自分のために連絡する」のではなく、「顧客のために連絡する」というスタンスで行う。この意識の違いが、「しつこい」と「ありがたい」の分かれ目となる。


習慣10:口コミを意識した「一歩先の対応」を心がける

不動産会社を選ぶポイントとして、「不動産会社に対する口コミ情報」が上位にランクインしている。特に重視するポイントとしても2位に入っており、口コミの影響力は年々高まっている。

トップ営業は、目の前の顧客だけでなく、その先にいる「まだ見ぬ顧客」を意識して行動している。良い口コミを書いてもらうことを目的にするのではなく、「この対応なら、誰かに紹介したくなるはず」という基準で自らの行動をチェックする。

契約後のフォロー連絡、入居後の困りごとへの対応、退去時の丁寧な説明──契約書にサインをもらった後の対応こそが、口コミを左右する。この「一歩先」の視点を持てるかどうかが、継続的に成果を出し続ける営業とそうでない営業を分けている。


習慣を変えれば、成果は変わる

10の習慣を振り返ると、いずれも特別なスキルや才能を必要とするものではないことに気づく。即レスの仕組み化、物件情報の鮮度管理、顧客都合への配慮、詳細な説明、周辺情報の収集、代替提案の準備、余裕ある対応、言葉遣いへの意識、価値ある追客、口コミを意識した姿勢──どれも「やろうと思えばできること」ばかりだ。

しかし、「できること」と「やり続けること」は異なる。トップ営業が他の営業と違うのは、これらを「習慣」として日常に組み込み、意識せずとも実践できるレベルにまで昇華させている点にある。

顧客の比較検討がますます厳しくなる中、勝ち残るのは「当たり前のことを、当たり前に、継続できる」営業パーソンだ。本稿で紹介した10の習慣のうち、まずは1つでも自らの行動に取り入れてみてほしい。小さな変化の積み重ねが、やがて大きな成果の差となって現れるはずだ。


出典:不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年10月)