不動産広告でやってはいけない表現とは?景品表示法違反を防ぐ「宣伝NG用語」完全ガイド

「日当たり抜群」「業界最安値」「完全リフォーム済み」──こうした表現は、顧客の目を引く広告コピーとして魅力的に映るかもしれない。しかし、不動産賃貸仲介業者にとって、これらの表現は法令違反のリスクを孕む「危険なワード」であることをご存知だろうか。

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」では、物件契約者が不動産会社に最も求めるものとして「正確な物件情報の提供」(71.5%)が上位にランクインした。一方で、不満だったことの上位には「情報に虚偽があり信頼性に欠けた」という声も挙がっている。顧客は広告の「誠実さ」にかつてないほど敏感になっているのだ。

本記事では、不動産広告における景品表示法の基礎知識から、絶対に避けるべきNG表現、そして実務で使える言い換え例まで、現場で即活用できる情報を網羅的に解説する。


なぜ今、不動産広告の「表現」が問われているのか

顧客が求める「正確さ」と「信頼性」

前述のRSCアンケートによると、不動産会社を選ぶポイントとして「写真の点数が多い」が最も重視される項目となり、「不動産会社に対する口コミ情報」も上位にランクインしている。特筆すべきは、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という従来重視されていた項目の割合が2年連続で減少している点だ。

これは何を意味するのか。顧客は店舗の立地よりも「物件情報の質」と「会社の評判」で不動産会社を選ぶ時代に入ったということだ。広告に記載される情報の正確性、そして口コミで形成される企業イメージが、集客の成否を分ける重要な要素になっている。

裏を返せば、誇大広告やおとり広告によって顧客の信頼を失えば、口コミを通じて悪評が広がり、長期的なビジネスに深刻なダメージを与えかねない。

規制強化の潮流

2024年10月には改正景品表示法が施行され、違反行為に対する課徴金の加算制度が導入された。過去10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者が再度違反した場合、課徴金額が1.5倍に増額される。また、2023年10月からはステルスマーケティング(ステマ)規制も導入され、口コミやSNS投稿に関する広告ルールも厳格化されている。

不動産広告を取り巻く法規制は年々厳しさを増しており、「知らなかった」では済まされない時代に突入している。


不動産広告を規制する3つの法令・規約

不動産広告を作成する際に遵守すべき主要なルールは、以下の3つだ。

1. 宅地建物取引業法(宅建業法)

宅建業法では、不動産広告に関して主に3つの規制を設けている。

誇大広告の禁止(第32条)
物件の所在、規模、形質、環境、交通の利便、価格などについて、著しく事実に相違する表示や、実際よりも著しく優良・有利であると誤認させる表示を禁じている。

広告開始時期の制限(第33条)
宅地の造成工事や建物の建築工事が完了する前に、これらの物件を販売するための広告を行うことには制限がある。

取引態様の明示(第34条)
広告には「売主」「代理」「媒介(仲介)」のいずれの立場で取引に関わるかを明示しなければならない。

違反した場合は、指示処分、業務停止処分、さらには免許取消処分に至る可能性がある。加えて、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることもある。

2. 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)

景品表示法は、商品やサービスの品質・内容・価格などを偽って表示することを禁じる法律だ。不動産取引も当然その対象となる。

優良誤認表示(第5条第1号)
商品・サービスの品質や内容について、実際よりも著しく優良であると消費者に誤認させる表示。

有利誤認表示(第5条第2号)
価格や取引条件について、実際よりも著しく有利であると消費者に誤認させる表示。

おとり広告
実際には取引できない物件を広告することは、景品表示法に基づく告示で不当表示として規定されている。

違反した場合、消費者庁から措置命令を受ける可能性があり、命令に従わなければ2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される。さらに、売上額の3%に相当する課徴金の支払いを命じられるケースもある。

3. 不動産の表示に関する公正競争規約

不動産業界が自主的に定めたルールで、全国9地区の不動産公正取引協議会が運用している。景品表示法の内容を不動産業界向けに具体化したもので、この規約を遵守すれば景品表示法も遵守できる設計になっている。

違反した場合、初回は50万円以下、2回目以降は500万円以下の違約金が課され、違反事業者名の公表や、大手不動産ポータルサイトへの広告掲載停止措置を受けることもある。


絶対に使ってはいけない「禁止用語」一覧と言い換え例

公正競争規約では、消費者に誤認を与える恐れのある用語の使用を原則として禁止している。以下に代表的な禁止用語とその言い換え例を示す。

欠点がないことを示す用語

禁止用語
完全、完璧、絶対、万全、申し分なし、文句なし

NGの具体例
「完全防音で音漏れなし」「万全のセキュリティ」

言い換え例
「遮音性の高い二重サッシを採用」「オートロック・防犯カメラ完備」

競争優位を示す用語

禁止用語
日本一、日本初、業界一、地域一番、当社だけ、唯一、他に類を見ない、抜群、超、随一

NGの具体例
「日当たり抜群」「地域一番の物件数」

言い換え例
「南向きバルコニーで採光良好」「〇〇エリアで△△件の物件を取り扱い」

選別されたことを示す用語

禁止用語
特選、厳選、選び抜かれた

NGの具体例
「特選物件のご紹介」「厳選した優良物件」

言い換え例
「経験豊富なスタッフが自信をもってご案内する物件」「お客様のご要望に合わせてお探しした物件」

最上級を示す用語

禁止用語
最高、最高級、極、特級、一流、一級、屈指、絶品、絶景

NGの具体例
「最高の眺望」「一級の住環境」

言い換え例
「〇〇山を望む開放的な眺め」「緑豊かで閑静な住宅街に立地」

著しく安いことを示す用語

禁止用語
格安、激安、破格、特安、安値、掘出し、土地値、バーゲンセール、投売り

NGの具体例
「激安!駅近1K」「破格のお家賃」

言い換え例
「周辺相場〇万円のエリアで△万円」「敷金・礼金ゼロでお得にご入居」

人気が高いことを示す用語

禁止用語
完売間近、早い者勝ち、人気爆発、見逃せない、必見、二度とない

NGの具体例
「人気物件につき早い者勝ち!」「必見!駅前の希少物件」

言い換え例
「お問い合わせの多い物件です」「駅徒歩3分の好立地」


見落としがちな「表示ルール」の落とし穴

禁止用語だけでなく、表示方法についても細かなルールが存在する。うっかり違反しやすいポイントを確認しておこう。

交通アクセスの表示

徒歩所要時間は道路距離80mにつき1分として算出し、端数は切り上げる。「駅から徒歩3分」と表示する場合、駅から物件までの距離は161m〜240mでなければならない。

バスを利用する場合は、「〇〇駅からバス△分、□□停留所下車徒歩◇分」のように、駅からバス停までの所要時間、バス停から物件までの徒歩時間を併記する必要がある。

写真の使用

取引する物件の写真を使用するのが原則だ。建物が未完成で写真がない場合は、同一の施工会社による類似物件の写真を使用できるが、その際は「施工例」などと明記し、取引物件との違いを説明しなければならない。

CGやイメージ画像を使用する場合も同様に、実際の物件との違いが生じる可能性があることを明示する必要がある。

築年数と「新築」の定義

「新築」と表示できるのは、建築後1年未満かつ居住の用に供されたことがない物件に限られる。築1年を超えた物件や、たとえ短期間でも入居実績のある物件は「新築」と表示できない。

リフォームの表示

「リフォーム済み」と表示する場合は、リフォームの内容(キッチン交換、壁紙張替えなど)とリフォームを実施した時期を明記しなければならない。

二重価格表示

「4,000万円→3,500万円」のような二重価格表示は原則禁止されている。例外的に認められるのは、比較価格が値下げ前に2か月以上公表されていた場合、値下げから6か月以内である場合など、厳格な要件を満たした場合に限られる。


おとり広告と物件情報管理の重要性

おとり広告の3つの類型

おとり広告とは、以下の3つに該当する広告を指す。

  1. 架空物件:実際には存在しない物件を広告に掲載
  2. 成約済み物件:すでに契約が決まっている物件をそのまま掲載
  3. 取引意思のない物件:実際には取引する意思がない物件を集客目的で掲載

首都圏不動産公正取引協議会が2024年5〜6月に実施した調査では、大手不動産ポータルサイトに掲載された賃貸住宅広告のうち、「おとり広告」と認定された物件が28件あり、違反事業者は調査対象72社中16社(22.2%)に上った。

特に問題になりやすいのが、成約後の広告削除忘れだ。意図的でなくても、情報更新が遅れればおとり広告と判断される可能性がある。

物件情報の更新管理

おとり広告を防ぐためには、以下の管理体制が不可欠だ。

定期的なステータス確認
掲載中の物件について、少なくとも週1回は成約状況を確認し、契約済み物件は速やかに広告を取り下げる。

複数ポータルサイトの一括管理
複数の広告媒体に出稿している場合、すべての媒体で情報を同期させる仕組みを構築する。

情報登録日・更新日の明示
広告には情報登録日、直前の更新日、次回の更新予定日などを明示し、情報の鮮度を顧客に伝える。


口コミとステマ規制──2023年10月からの新ルール

ステルスマーケティング規制とは

2023年10月1日から、ステルスマーケティング(ステマ)が景品表示法の不当表示に追加された。ステマとは、広告であることを隠して行う宣伝活動を指す。

具体的には、以下の2つの要件を満たす表示がステマとして規制対象となる。

  1. 事業者が自己の商品・サービスについて行う表示であること
  2. 一般消費者がそれを事業者の表示だと判別することが困難であること

不動産業界で問題になるケース

自作自演の口コミ投稿
不動産会社のスタッフが顧客を装って、自社に高評価の口コミを投稿する行為。

対価を支払っての口コミ依頼
顧客に金銭や特典を提供し、良い口コミの投稿を依頼する行為(「PR」などの表記なしの場合)。

低評価口コミの非表示
口コミの投稿可否を事業者が判断し、低評価のものを掲載させない行為。

RCSの調査では、不動産会社を選ぶ際に「不動産会社に対する口コミ情報」を重視する顧客が増加している。口コミは集客に有効なツールだが、その運用には細心の注意が必要だ。

適正な口コミ収集のポイント

投稿内容に関与しない
顧客に口コミ投稿を依頼する際は、内容を指定せず、自由な意見を書いてもらう。

対価提供時はPR表記を
何らかの対価(割引、特典など)を提供して投稿を依頼する場合は、投稿に「PR」「広告」などの表記が必要。

全ての口コミを公平に掲載
良い口コミだけを掲載し、悪い口コミを非表示にすることは避ける。


違反を防ぐ社内体制の構築

広告チェックリストの活用

広告出稿前にチェックすべき項目をリスト化し、複数名でダブルチェックする体制を整える。

確認項目の例

  • 禁止用語が含まれていないか
  • 物件情報(面積、築年数、設備など)に誤りはないか
  • 写真は実際の物件のものか、施工例の場合は明記されているか
  • 交通アクセスの表示方法は適切か
  • 取引態様は明示されているか
  • 物件のステータス(成約済みでないか)は確認したか

定期的な研修の実施

広告ルールは経営陣だけでなく、営業担当者、事務スタッフなど広告作成に関わる全員が理解しておく必要がある。定期的な研修を通じて、最新の法改正情報や違反事例を共有する機会を設けたい。

外部専門家の活用

不安がある場合は、不動産公正取引協議会への相談や、弁護士へのリーガルチェック依頼も有効だ。トラブルが発生してからでは遅いため、予防的な対応を心がけたい。


フランチャイズ加盟で得られるコンプライアンス支援

広告規制への対応は、中小規模の不動産会社にとって大きな負担となりうる。単独では法改正の情報収集や社内体制の整備が追いつかないケースも少なくない。

こうした課題に対し、フランチャイズへの加盟は有効な解決策の一つとなる。大手フランチャイズ本部では、加盟店向けに以下のような支援を提供しているケースが多い。

コンプライアンス研修
広告規制を含む法令遵守に関する定期的な研修プログラム。

広告テンプレートの提供
法令に準拠した広告テンプレートの提供により、違反リスクを低減。

物件管理システム
複数ポータルサイトへの出稿管理や物件ステータスの一元管理ができるシステムの提供。

法務相談窓口
広告表現に関する疑問や、トラブル発生時の相談窓口の設置。

単独では対応が難しい法令対応も、本部のサポートを活用することで効率的に実現できる。広告コンプライアンスに不安を感じている経営者は、フランチャイズ加盟も選択肢の一つとして検討してみてはいかがだろうか。


まとめ:信頼される広告が、選ばれる不動産会社をつくる

不動産広告における景品表示法対応は、単なる「罰則を避けるため」の消極的な取り組みではない。RSCの調査が示すように、顧客は「正確な情報」と「信頼できる会社」を求めている。誠実な広告表現は、長期的な企業価値の向上につながる積極的な投資と捉えるべきだ。

本記事で紹介した内容を実践することで、法令違反のリスクを回避しながら、顧客から選ばれる不動産会社としてのブランドを構築していただきたい。

本記事の要点

  • 顧客が不動産会社に求めるものの上位は「正確な物件情報の提供」
  • 不動産広告は宅建業法、景品表示法、公正競争規約の3つで規制される
  • 「完全」「最高」「抜群」「格安」などの禁止用語は具体的な事実に言い換える
  • おとり広告防止のため、物件情報の更新管理体制を構築する
  • 2023年10月からステマ規制が施行、口コミ運用にも注意が必要
  • 広告チェックリストと定期研修で社内のコンプライアンス体制を強化する

本記事は2025年12月時点の情報に基づいて作成しています。法令や規約の改正により内容が変更される可能性がありますので、最新の情報は各公的機関や業界団体の発表をご確認ください。