顧客の約2割が不満──「的外れな回答」を解消し、成約率を劇的に高める質問理解力の磨き方

「なんでこの物件を勧めてくるんだろう…」
顧客がそう感じた瞬間、あなたの会社は選ばれなくなる。不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した調査によれば、不動産会社の対応で不満だったこととして「問合せへの回答が的を射ていなかった」と答えた人が、売買検討者で20.6%、全体でも17.4%に上った。5人に1人が「この営業担当は、私の話を理解していない」と感じているのだ。
一方で、「問合せへの回答が的を射ていた」ことに満足感を覚えた人は全体で8.3%にとどまる。この数字が示すのは、多くの不動産会社が「的を射た回答」を提供できていないという厳しい現実である。
本稿では、顧客の質問を正確に理解し、的確な回答で信頼を勝ち取るための具体的な手法を解説する。明日からの接客で即実践できるノウハウを、惜しみなく公開したい。
「的外れな回答」はなぜ起きるのか──3つの根本原因
顧客の質問に対して的外れな回答をしてしまう背景には、現場で見落とされがちな3つの構造的な問題が存在する。
原因1:「聞いているようで、聞いていない」傾聴力の欠如
不動産営業の現場では、顧客の言葉の「表面」だけを拾い、その奥にある「真意」を見逃すケースが多い。「駅近がいい」という要望の裏には、「通勤時間を減らして子供との時間を増やしたい」という本当のニーズが隠れているかもしれない。この真意を汲み取れなければ、いくら駅徒歩3分の物件を紹介しても「なんか違う」という印象を与えてしまう。
RSCの調査では、不動産会社に求めるものとして「礼儀・丁寧な対応」が全体の70.0%でトップに立っている。この「丁寧さ」には、単なる言葉遣いだけでなく、顧客の話に真摯に耳を傾ける姿勢も含まれている。
原因2:「分かったつもり」の確認不足
顧客の要望を聞いた後、「分かりました」と即座に物件検索に入っていないだろうか。この「分かったつもり」が的外れな提案を生む最大の原因である。
たとえば、「予算は月8万円くらいで」と言われた場合、それは上限なのか、目安なのか、それとも「できればもっと安く」という希望を含んでいるのか。この確認を怠ると、8万5千円の好条件物件を紹介したときに「予算オーバーですね」と一蹴されることになる。
原因3:業界用語と顧客言語のギャップ
「RC造」「管理費込み」「フリーレント」──不動産業界では当たり前の用語も、顧客にとっては馴染みのない言葉であることが多い。顧客が「静かな物件がいい」と言ったとき、防音性能の高いRC造を勧めるのは正しい。しかし、「こちらはRC造なので静かですよ」と説明しても、顧客には「なぜ静かなのか」が伝わらない。
相手の言葉で話し、相手が理解できる言葉で返す。このシンプルな原則が守られていないことが、「的外れ感」を生み出している。
質問の真意を見抜く「3層ヒアリング」の技術
的を射た回答をするためには、顧客の質問や要望を3つの層で捉える必要がある。
第1層:言葉の「表面」を正確に捉える
まずは、顧客が発した言葉そのものを正確に聞き取ることから始まる。ここで重要なのは、自分の解釈を加えずに「事実」として受け止めることだ。
実践テクニック:オウム返し確認法
顧客「2LDKで、できれば日当たりの良い部屋がいいんですけど…」
営業「2LDKで、日当たりの良いお部屋をお探しということですね」
このようにオウム返しで確認することで、聞き間違いを防ぎ、顧客に「ちゃんと聞いてくれている」という安心感を与えられる。RSCの調査で「問合せに対するレスポンスが早かった」ことが満足度71.5%でトップだったことからも分かるように、顧客は「自分の話を受け止めてもらえている」実感を求めている。
第2層:言葉の「背景」を探る
表面的な要望の背後には、必ず「なぜそれを求めるのか」という理由がある。この背景を理解することで、顧客自身も気づいていない最適解を提案できるようになる。
実践テクニック:「5W1H深掘り質問」
| 質問の種類 | 具体例 |
|---|---|
| Why(なぜ) | 「日当たりを重視されるのは、どんなご事情があるのでしょうか?」 |
| When(いつ) | 「お部屋で過ごされる時間帯は、主にいつ頃ですか?」 |
| Who(誰と) | 「ご一緒にお住まいになる方はいらっしゃいますか?」 |
| What(何を) | 「日当たりが良いと、具体的にどんなことを期待されていますか?」 |
| Where(どこで) | 「リビングと寝室、どちらの日当たりを優先されますか?」 |
| How(どのように) | 「朝型のライフスタイルですか、夜型ですか?」 |
たとえば、「日当たりが良い部屋」という要望の背景を探ると、「洗濯物を室内干ししたいから」「観葉植物を育てたいから」「朝日で自然に目覚めたいから」など、実に多様な理由が出てくる。この真意を把握できれば、南向きにこだわらず、浴室乾燥機付きの物件や、植物を置けるバルコニー付き物件など、より本質的な提案ができるようになる。
第3層:言葉にならない「期待」を察知する
顧客が言葉にしない期待やニーズも存在する。これは、顧客自身が明確に認識していないことも多い。
RSCの調査によれば、物件を決める際に特に重視するポイントとして「価格・家賃」が62.5%でトップ、次いで「沿線の利便性」が16.0%となっている。しかし、この数字の裏には「コストパフォーマンス」「生活の質」といった抽象的な価値観が隠れている。
実践テクニック:「理想の一日」ヒアリング
「この物件に住んだら、休日はどんな風に過ごしたいですか?」 「平日の朝、家を出るまでの流れを教えていただけますか?」
このような質問を投げかけることで、顧客の頭の中にある「理想の暮らし」のイメージを引き出せる。そのイメージに合った物件を提案できれば、顧客は「この人は私のことを分かってくれている」と感じるはずだ。
的を射た回答を可能にする「PREP法」の活用
顧客の質問を正確に理解できたとしても、回答の仕方が不適切であれば、やはり「的外れ」と受け取られてしまう。ここで有効なのが、ビジネスコミュニケーションで広く使われている「PREP法」である。
PREP法とは
| 要素 | 内容 | 不動産接客での例 |
|---|---|---|
| Point(結論) | 質問への端的な回答 | 「はい、ペット可の物件はございます」 |
| Reason(理由) | 結論の根拠 | 「このエリアは単身者向けマンションが多く、ペット不可が主流ですが、最近は需要増加で可能物件も増えています」 |
| Example(具体例) | 説得力を高める事例 | 「実際に先週も、猫2匹と暮らせる物件にご入居されたお客様がいらっしゃいます」 |
| Point(結論の再確認) | まとめと次のアクション | 「ペット可物件を3件ほどリストアップしましたので、ご一緒に見てみましょうか」 |
この順番で回答することで、顧客は「結論→理由→具体例」という論理的な流れで情報を受け取れるため、理解しやすく、納得感も高まる。
「質問の意図」に合わせた回答の調整
顧客の質問には、大きく分けて4つのタイプがある。それぞれに適した回答スタイルを使い分けることで、的確さが格段に向上する。
タイプ1:事実確認型 「この物件、駐車場はありますか?」 → 即答が求められる。「はい、敷地内に月額1万円の駐車場がございます」
タイプ2:比較検討型 「AマンションとBマンションで迷っているんですが…」 → 客観的な比較情報が求められる。表やリストを用いて、メリット・デメリットを整理して提示する。
タイプ3:不安解消型 「初期費用ってどのくらいかかるんですか?」 → 安心感を与える回答が求められる。内訳を明確にし、減額の可能性があればそれも伝える。
タイプ4:意思決定支援型 「この物件、決めていいでしょうか…」 → 背中を押す回答と、冷静な判断材料の両方が求められる。焦らせず、しかし決断をサポートする。
現場で即使える「的を射た回答」チェックリスト
日々の接客で意識すべきポイントを、チェックリスト形式でまとめた。
ヒアリング時のチェックリスト
- [ ] 顧客の言葉を遮らずに最後まで聞いたか
- [ ] オウム返しで要望を確認したか
- [ ] 「なぜ」を少なくとも1回は質問したか
- [ ] 専門用語を使わず、平易な言葉で会話しているか
- [ ] メモを取りながら聞いているか(顧客に真剣さが伝わる)
- [ ] 曖昧な表現(「だいたい」「くらい」)を具体化したか
回答時のチェックリスト
- [ ] 結論から先に述べたか
- [ ] 理由を添えて説明したか
- [ ] 具体的な事例や数字を入れたか
- [ ] 顧客の質問タイプに合った回答スタイルか
- [ ] 次のアクションを提示したか
- [ ] 顧客の表情や反応を確認しながら話したか
接客後の振り返りチェックリスト
- [ ] 顧客の本当のニーズを把握できたか
- [ ] 「的外れ」と感じさせる瞬間がなかったか
- [ ] 追加でヒアリングすべきことはなかったか
- [ ] 次回の連絡時に活かせる情報をメモしたか
「質問理解力」を組織で底上げする3つの仕組み
個人のスキルアップだけでなく、組織として質問理解力を高める仕組みを構築することで、会社全体の顧客満足度が向上する。
仕組み1:ロールプレイング研修の定例化
月に1回、30分程度のロールプレイング研修を実施する。ベテラン社員が顧客役を演じ、若手社員がヒアリングと提案を行う。終了後は、「的を射ていた点」「外れていた点」を具体的にフィードバックする。
効果的なロールプレイングのテーマ例:
- 予算と希望条件が合わない顧客への対応
- 複数の要望が矛盾している場合の優先順位付け
- 「なんとなく」で物件を探している顧客へのヒアリング
仕組み2:成功事例・失敗事例の共有
「的を射た回答ができて成約につながった事例」と「的外れな回答で失注した事例」を、匿名で社内共有する仕組みを作る。他者の経験から学ぶことで、個人では気づけない視点が得られる。
仕組み3:顧客アンケートの活用
成約後、または接客後に簡単なアンケートを実施し、「担当者は質問の意図を理解してくれましたか?」という項目を設ける。数値化することで、改善の進捗を客観的に測定できる。
業界の「当たり前」を超えるために
RSCの調査では、不動産会社の対応で満足だったこととして「問合せに対するレスポンスが早かった」が71.5%でトップとなっている。迅速な対応は重要だが、それだけでは差別化にならない時代になっている。
問い合わせた不動産会社数は平均3.5社、賃貸では過去11年で最多の3.3社に達している。顧客は複数の会社を比較検討しており、「レスポンスが早い」だけでは選ばれる理由にならない。
差別化のカギは、「この人は私のことを理解してくれている」という実感を顧客に与えられるかどうかだ。それは、質問の真意を正確に把握し、的を射た回答を積み重ねることでしか実現できない。
成長を加速させるフランチャイズという選択肢
ここまで解説してきた「質問理解力の向上」は、一朝一夕で身につくものではない。日々の実践と、振り返り、そして継続的な学習が必要だ。
しかし、中小規模の不動産会社が独自に研修体制を整え、ノウハウを蓄積していくのは容易ではない。ここで検討に値するのが、フランチャイズへの加盟という選択肢である。
大手フランチャイズ本部では、接客スキル向上のための研修プログラムや、成功事例の共有、ベンチマークセミナーの開催など、加盟店の成長を支援する仕組みが整っている。単独では得られないノウハウやネットワークを活用することで、組織としての競争力を高められる可能性がある。
もちろん、フランチャイズ加盟にはコストや制約も伴う。自社の状況や将来のビジョンに照らし合わせて、慎重に検討すべきテーマだ。しかし、「質問理解力」をはじめとする接客スキルの底上げを組織的に実現したいのであれば、有力な選択肢の一つとして情報収集しておく価値はあるだろう。
まとめ──「的を射た回答」が生む好循環
顧客の質問に的を射た回答をすること。それは単なるテクニックではなく、顧客との信頼関係を築くための本質的なコミュニケーションである。
的を射た回答ができれば、顧客は「この人になら任せられる」と感じる。信頼が生まれれば、顧客は本音を話してくれるようになる。本音が分かれば、より的確な提案ができる。そして、その提案が成約につながり、紹介や口コミを生む。
この好循環を生み出せるかどうかが、これからの不動産仲介会社の明暗を分ける。顧客の約2割が「的外れな回答」に不満を抱いている今、ここを改善できる会社には大きなチャンスがある。
本稿で紹介した手法を、まずは明日の接客から1つだけ試してみてほしい。小さな一歩が、やがて大きな変化を生むはずだ。
参考資料:
- 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年10月27日発表)


