「平均5.5物件」を比較する顧客に”選ばれる1件”を届ける──データから逆算する最適物件提案数と成約率を高める提案戦略

物件を契約するまでに、顧客は平均何件の物件を比較しているかご存じだろうか。不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に実施した最新のアンケート調査によれば、その数は平均5.5物件。前年の4.4物件から1.1物件も増加し、賃貸に限れば5.8物件と2018年以降で最多を記録した。
この数字は、単なる統計上のトリビアではない。「顧客がどれだけ比較検討しているか」を正確に把握することは、不動産賃貸仲介業者にとって提案戦略の根幹を左右するデータだ。提案が少なすぎれば選択肢不足で離脱され、多すぎれば「選べない」という心理的負荷が成約を遠ざける。
本記事では、最新調査データを起点に、「平均比較物件数5.5」という数字から逆算して、成約率を最大化する物件提案の組み立て方を具体的に解説する。日々の接客に明日から活かせる実践的なノウハウを、惜しみなくお伝えしたい。
最新データが示す「比較物件数の増加」という現実
全体平均5.5物件──前年から1.1物件の大幅増
RSCが2025年1月〜5月に実施した調査(有効回答948人)では、物件を契約するまでに問い合わせた物件数の全体平均は5.5物件だった。最も多かった回答は「6物件以上」で全体の37.5%を占め、「5物件」の19.1%と合わせると、実に約6割の顧客が5物件以上を比較検討してから契約に至っている。
賃貸は5.8物件で過去最多水準
種目別に見ると、賃貸の平均物件数は前年比1.7物件増の5.8物件で、2018年以降の最多を更新した。「5物件」と「6物件以上」の合計が約6割を超えており、賃貸市場において「複数物件をじっくり比較してから決める」という行動が定着していることが読み取れる。
この傾向の背景には、大手不動産ポータルサイトの進化がある。物件情報の閲覧がスマートフォンで手軽にできるようになり、顧客はいつでもどこでも物件を比較できる環境を手にした。比較が容易になった結果、顧客の「もう少し見てから決めたい」という意識がかつてないほど強まっているのだ。
問い合わせ先の不動産会社数も増加
物件の比較数が増えれば、当然、問い合わせ先の不動産会社数も増える。同調査では、賃貸で問い合わせた不動産会社数の平均は3.3社で、2015年以降の最多となった。特に「5社以上」に問い合わせた割合が21.0%に達しており、顧客は複数の不動産会社を”天秤にかけている”のが実態だ。
つまり、仲介業者にとっての競争環境はかつてなく厳しくなっている。同時に、このデータは「適切な物件提案ができる会社が選ばれる」というチャンスの裏返しでもある。
「選択のパラドックス」が不動産仲介にもたらす落とし穴
提案数が多ければ良いわけではない
顧客が平均5.5物件を比較しているという事実を前に、「それなら10件でも20件でも提案すれば良いのでは」と考える方もいるかもしれない。しかし、心理学の知見はその直感に警鐘を鳴らす。
コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が行った有名な「ジャム実験」では、24種類のジャムを並べた場合より6種類に絞った場合のほうが、購入率が約10倍高かったことが示されている。これは「選択のパラドックス」と呼ばれる現象で、選択肢が増えすぎると人は意思決定が困難になり、結果として「選ばない」という行動に至りやすくなる。
不動産の物件提案でもこの原理は同じだ。条件の似た物件を大量に並べるだけでは、顧客は「どれも同じに見える」「もっと良い物件があるのでは」という心理に陥り、意思決定を先延ばしにしてしまう。
「迷わせる提案」と「導く提案」の分岐点
心理学者のバリー・シュワルツは、人が一度に処理できる情報量には限界があり、一般的に「7±2」が認知的に扱える選択肢の範囲だと指摘している(ミラーの法則)。不動産の物件選びは人生を左右する重要な意思決定であるだけに、このパラドックスの影響をより強く受けやすい。
ここで鍵となるのが、「顧客に物件を”並べる”のではなく、”導く”提案をする」という発想の転換だ。
「5.5物件」から逆算する最適な物件提案フレームワーク
提案物件数の”黄金バランス”は「5〜7件」
顧客が最終的に比較する物件数の平均が5.5物件であるならば、仲介業者としての最適な提案数は5〜7件が一つの目安となる。ただし、ここで重要なのは「ただ5〜7件を並べる」のではなく、それぞれの物件に明確な役割を持たせることだ。
具体的には、以下の3層構造で提案を組み立てることを推奨する。
第1層:本命物件(1〜2件) 顧客のヒアリング結果から、最も条件に合致する物件。家賃・立地・間取りの希望をバランス良く満たし、「これなら住みたい」と直感的に思える物件を筆頭に置く。
第2層:比較検討物件(2〜3件) 本命物件と同等の水準だが、それぞれ異なる強みを持つ物件。たとえば、本命より駅に近いが築年数が古い物件、広さは劣るが設備が充実した物件など、「何を優先するか」を顧客自身に考えてもらうための比較材料となる。
第3層:視野拡大物件(1〜2件) 顧客が当初の希望条件では想定していなかったが、潜在ニーズに刺さる可能性がある物件。希望エリアの隣駅で家賃が1万円下がる物件や、1DKでもリビングが広くて2人暮らしに対応できる物件など、「こういう選択肢もあるんだ」という発見を提供する。
なぜ「3層構造」が効果的なのか
この3層構造が成約率を高める理由は、顧客の意思決定プロセスと合致しているからだ。
人は物件を選ぶとき、まず「自分の希望に合うか」を確認し(第1層)、次に「他の選択肢と比べてどうか」を検討し(第2層)、最後に「見落としている可能性はないか」を探索する(第3層)。この心理的プロセスに沿った提案は、顧客に「この会社は自分のことをよく理解してくれている」という信頼感を与える。
RSCの調査でも、不動産会社に求めるものとして「正確な物件情報の提供」「物件に対する詳しい説明力」が上位にランクインしている。やみくもに物件数を増やすのではなく、1件1件に説得力のある提案理由を添えることが、他社との差別化につながる。
「比較する顧客」の心理を味方につける実践テクニック
テクニック1:最初の提案で「基準点」をつくる
人の判断は、最初に提示された情報に強く影響を受ける。これは心理学で「アンカリング効果」と呼ばれる現象だ。物件提案でも、最初に見せる物件が以降の比較基準となる。
実践としては、最初に本命物件(第1層)を提示し、その物件の具体的な魅力を丁寧に説明する。その後に比較検討物件を見せることで、「本命物件と比べてどうか」という軸で顧客の思考を整理しやすくなる。
テクニック2:物件ごとに「推薦理由」を一文で添える
全日本不動産協会が公開している成約率向上のポイントでは、物件情報を頭に入れ、自分の言葉で語れる営業担当者ほど案内率・成約率が高いと指摘されている。
5〜7件の提案物件それぞれに、「この物件をお見せする理由」を一文で添えよう。たとえば「ご希望の沿線から一駅離れますが、その分お家賃が8,000円お安くなり、月々の生活費に余裕が出ます」といった具体的な理由だ。このひと手間が、「たくさん物件を見せられた」ではなく「自分のために選んでくれた」という印象を生む。
テクニック3:内見は3件に絞り込む
提案段階では5〜7件を見せつつも、実際の内見に連れ出すのは3件程度に絞るのがベストプラクティスだ。5.5物件という平均比較数はあくまで「問い合わせ段階」の数字であり、内見まで至る物件はそれより少ない。
顧客と一緒に、提案した物件を「ぜひ見たい」「保留」「今回は見送り」の3つに分類し、内見対象を絞り込むプロセス自体を共同作業として行う。このとき、顧客に「なぜこの物件を見たいのか」を言語化してもらうことで、ぼんやりとした希望条件が明確な判断基準へと変わっていく。
テクニック4:「他社で見た物件」を必ずヒアリングする
問い合わせ先の不動産会社数が平均3.3社という現実を踏まえれば、来店した顧客がすでに他社で物件を見ている可能性は極めて高い。
来店時のヒアリングで「これまでにどんな物件をご覧になりましたか?」「どの点が決め手に欠けましたか?」を確認することは、提案精度を飛躍的に高める。他社で見た物件と同じタイプを提案しても意味がない。むしろ、他社提案の”穴”を埋める物件を用意できれば、「この会社に来て良かった」という決定的な差別化になる。
テクニック5:「問い合わせ物件以外」の提案で付加価値を生む
RSCの調査において、不動産会社に求めるものの中に「問合せた物件以外の物件情報の提供」が含まれている点は見逃せない。顧客は、大手不動産ポータルサイトで自分なりに物件を絞り込んで問い合わせるが、その物件だけで満足しているわけではない。
「お問い合わせいただいた物件に加えて、似た条件で新着の物件が2件ございます」「少し条件を広げると、こんな物件も候補に入ります」といった追加提案こそ、仲介業者の存在価値が発揮される瞬間だ。
提案力を底上げする「物件知識」の磨き方
提案の質は「頭の中の物件データベース」で決まる
成約率の高い営業担当者に共通する特徴は、担当エリアの物件情報を深く、幅広く把握していることだ。業界で「物件確認」と呼ばれるこの作業は、新人に任せがちな業務と思われることもあるが、実はトップ営業担当者ほど積極的に取り組んでいる。
販売図面だけではわからない周辺環境、日当たり、共用部の管理状況、住民の属性。こうした「五感でしか得られない情報」を持っているかどうかが、提案時の説得力を根本から左右する。
「仕入れタイム」を組織のルーティンにする
物件確認を個人の裁量に任せると、繁忙期には後回しになりがちだ。店舗全体で「毎朝30分は物件確認の時間」といったルーティンを設けることで、チーム全体の物件知識が底上げされる。
具体的なお客様を想定しながら物件を見ると記憶に残りやすい。たとえば「2LDK希望の新婚夫婦」を頭に描きながら物件を回れば、実際にそのような顧客が来店した際に、即座に最適な物件を提案できるようになる。
検討期間の長期化にどう対応するか
賃貸でも「1ヶ月以上」が約5割に
RSCの同調査では、賃貸における検討期間(住まい探しから契約まで)で「1ヶ月以上」の割合が合計で約5割に達し、前年より増加している。検討期間の長期化は、顧客が1回の来店で決めず、時間をかけて慎重に判断する傾向が強まっていることを示している。
「追客」の質が勝敗を分ける
検討期間が長期化する中で重要になるのが、初回来店後のフォローアップだ。最初の提案で即決に至らなかった顧客に対して、新着物件の情報や、条件変更に応じた再提案を適切なタイミングで届けることが、最終的な成約につながる。
ここで気をつけたいのは、「しつこい営業」と「丁寧なフォロー」の線引きだ。RSCの調査では、不動産会社への不満として「問合せ後の営業がしつこかった」が上位に入っている一方、満足だったこととして「物件の提案や追加の連絡をしてくれた」も挙げられている。
この矛盾を解くカギは、「顧客にとって価値のある情報を届けているか」にある。顧客の条件に合った新着物件の紹介や、相場の変動に関する情報提供など、受け取る側にメリットがある連絡であれば、それは営業ではなくサービスとして受け取られる。
「写真の点数」と「口コミ」──選ばれる不動産会社の新条件
物件写真の充実度が会社選びの決め手に
最新調査で注目すべきもう一つのトレンドが、顧客が不動産会社を選ぶポイントとして「写真の点数が多い」がトップになったことだ。しかも、特に重視するポイントでも1位を獲得しており、いずれも直近3年で最多となっている。
物件写真は、来店前の段階で顧客が最も多く接する情報源だ。大手不動産ポータルサイト上での写真の質と量が、そのまま問い合わせ数に直結する。外観・室内はもちろん、収納内部、バルコニーからの眺望、共用部、周辺のスーパーや公園まで、顧客が「ここに住むイメージ」を描けるだけの写真を揃えることが、反響獲得の第一歩となる。
口コミ評価が「特に重視するポイント」の2位に
同調査では、「不動産会社に対する口コミ情報」が、特に重視するポイントで2位にランクインしている。Googleマップのレビューや各種口コミサイトでの評判が、来店する不動産会社の選定に直接影響を与える時代になった。
日頃の接客品質を高め、成約後のお客様に自然な形で口コミを依頼する仕組みをつくることが、中長期的な集客力の向上につながる。
フランチャイズ加盟という選択肢──提案力を組織的に高めるために
ここまで述べてきた「最適な物件提案数の設計」「3層構造フレームワーク」「追客の質の向上」「写真・口コミ対策」──これらを個人の努力だけで継続的に実行するのは、率直に言って容易ではない。特に中小規模の仲介業者にとっては、日々の業務に追われる中で提案品質の標準化や人材育成まで手が回らないというのが実情だろう。
こうした課題に対する一つの解決策として、フランチャイズへの加盟がある。たとえば、ハウスコムフランチャイズでは、約200店舗の直営店運営で培ったノウハウを加盟店に共有する体制が整っている。
ハウスコムFCが提供する具体的な支援には、以下のようなものがある。
ブランド力を活かした集客支援: 関東・東海・近畿の三大都市圏で知名度を持つ「ハウスコム」のブランドを活用することで、自社単独では難しい集客力を得られる。本部経由での反響送客支援も行われている。
業務システムの提供: 大手不動産テック企業の基幹システム(コンバータ・顧客管理・契約管理の3点セット)がロイヤリティに含まれており、追加費用なく利用可能。顧客対応の効率化と品質の標準化を同時に実現できる。
ノウハウ共有の仕組み: 本部主催のベンチマークセミナーや、加盟店同士のネットワーク構築を通じて、「他の成功している店舗がどのような提案をしているか」というリアルな情報を定期的に得られる。
定期巡回によるサポート: 本部スタッフが定期的に加盟店を巡回し、各店舗の課題に応じた改善提案を行う。「提案数の最適化」「追客フローの見直し」といった具体的な経営課題についても、豊富な引き出しからアドバイスを受けられる。
顧客の比較検討が激化する時代だからこそ、「提案の質」で勝負できる体制を整えることが、仲介業者の生存戦略として重要性を増している。
まとめ:5.5物件時代に求められる提案戦略の再設計
最後に、本記事の要点を振り返ろう。
顧客の平均比較物件数は5.5物件に増加し、賃貸では5.8物件と過去最多水準にある。問い合わせ先の不動産会社数も平均3.3社と増え、仲介業者間の競争は激しさを増している。
しかし、この環境変化は脅威であると同時にチャンスでもある。「選択のパラドックス」を理解し、5〜7件の提案を3層構造で設計すれば、顧客の意思決定を無理なく後押しできる。本命物件で基準をつくり、比較物件で判断軸を明確にし、視野拡大物件で「この会社ならでは」の付加価値を提供する。
そして、提案の質を継続的に高めるためには、物件確認の習慣化、追客フローの整備、写真・口コミ対策という日々の地道な取り組みが欠かせない。
「選ばれる不動産会社」になるために必要なのは、物件の数ではなく、提案の質。データに裏打ちされた戦略的な提案で、比較する顧客の”最後の1社”に選ばれる──。その第一歩として、ぜひ今日から自社の提案プロセスを見直してみてほしい。
本記事は、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」(2025年)の調査結果を基に作成しています。


