「この人に任せたい」と思わせる物件提案力の磨き方――不動産賃貸仲介で成約率を劇的に変える”目利き力”の正体

顧客が不動産会社に問い合わせる会社数は、過去11年で最多を更新した。比較検討が当たり前の時代に、「この会社で決めたい」と思わせる営業パーソンと、比較の末に選ばれない営業パーソンの差はどこにあるのか。その分水嶺は、物件そのものの良し悪しだけでなく、”提案する力”にある。本記事では、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の最新調査データや業界の成功事例をもとに、不動産賃貸仲介業者が今すぐ実践できる「物件提案力」の高め方を徹底解説する。売買分野で特に重視される”最良の物件を見極めて紹介する力”を、賃貸仲介にどう活かすか。読み終わるころには、明日の接客から使える具体的なアクションが手に入るはずだ。


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消費者が不動産会社に本当に求めていること――最新データが示す”物件提案力”の重要性

不動産賃貸仲介業者にとって、顧客が何を求めているかを正確に把握することは経営の生命線だ。RSCが2025年に公表した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」(有効回答数948人)の調査結果は、業界関係者にとって示唆に富む内容となっている。

同調査のP13「不動産会社に求めるもの」によれば、賃貸・売買ともに「親切・丁寧な対応」がトップに立ち、続いて「正確な物件情報の提供」「問合せに対する迅速な対応」「物件に対する詳細な説明」が上位を占めた。特筆すべきは、提供する情報の”質”と”正確さ”が年々重視される傾向が鮮明になっている点だ。

とりわけ売買分野では、「問合せに対する迅速な対応」「購入後・入居後のアフターフォロー」「最良の物件情報の紹介」の3項目が前年比で10ポイント超の増加を記録し、さらに「特に重要なもの」として「物件に対する詳細な説明」も10.2ポイント増と大きく跳ね上がった。つまり、顧客は単に物件を見せてもらうだけでは満足せず、「自分に最適な物件を見極めて提案してくれるプロ」を求めている。

この傾向は賃貸にも波及している。賃貸の問い合わせ会社数は平均3.3社と過去11年で最多を記録し、問い合わせ物件数も平均5.9物件と前年比1.8物件増加した。顧客は「比べて選ぶ」行動を強めており、複数の不動産会社を天秤にかける中で、”提案の質”で勝る会社が選ばれる構造が確立されつつある。


なぜ”目利き力”が成約率を左右するのか?――比較検討時代のメカニズム

「物件の差」ではなく「提案の差」で決まる時代

大手不動産ポータルサイトの普及により、顧客は来店前に膨大な物件情報を閲覧できるようになった。全国に約13万社存在する宅地建物取引業者が、同じポータルサイトに同じ物件を掲載している以上、「物件そのもの」での差別化は極めて困難だ。

ここで問われるのが、営業パーソンの”目利き力”――すなわち、顧客が言語化できていない潜在ニーズを読み取り、膨大な物件情報の中から「この人にとっての最良」を見極めて提案する力である。

賃貸仲介の平均成約率は30〜60%程度とされているが、物件提案の質を徹底的に高めることで90%超の成約率を達成している事例も存在する。その差は、「物件を並べて見せる」のか、「顧客に最適な物件を選び抜いて提案する」のかという、アプローチの根本的な違いに起因している。

売買で求められる”最良物件紹介力”を賃貸に転用する発想

RSCの調査で売買分野において「最良の物件情報の紹介」への期待が急上昇している背景には、不動産購入という人生最大級の意思決定に対する顧客の慎重さがある。取引額が大きいからこそ、「プロの目利き」に対する信頼度が成約に直結する。

この構造は、賃貸においても本質的には同じだ。特に近年は賃貸の検討期間が長期化し、1カ月以上かけて物件を探す層が全体の4割を超えている。賃貸であっても「妥協したくない」と考える顧客が増加しており、丁寧な目利き力を発揮できる営業パーソンへの需要は確実に高まっている。


今日から使える”目利き力”を鍛える5つの実践メソッド

1. ヒアリングの深度を変える――「条件」の奥にある「暮らし」を聴く

多くの営業パーソンは「間取り」「家賃」「駅からの距離」といった条件をヒアリングし、それに合致する物件を検索して提案する。しかし、目利き力の高い営業パーソンは、条件のさらに奥にある「なぜその条件なのか」を掘り下げる。

たとえば、顧客が「2LDK希望」と言った場合、その理由が「在宅勤務用の部屋が必要」であれば、リビングが広い1LDKにワークスペースを設ける提案も成立する。「駅近」が「通勤時間の短縮」ではなく「終電を気にしたくない」という意図であれば、タクシーでもワンメーターで帰れる立地という代替案が浮かぶ。

具体的なヒアリングの深掘りポイントは次の通りだ。

  • 「休日はどのように過ごされますか?」――生活動線と周辺環境の提案に直結する
  • 「お引っ越しのきっかけは何でしたか?」――現在の住まいへの不満から、避けるべきポイントが見える
  • 「前のお住まいで気に入っていた点は?」――顧客自身も気づいていない優先事項が浮かび上がる
  • 「この街に決めた理由はありますか?」――エリアへのこだわりの強さと柔軟性が測れる

2. 「提案する3件」の組み立て方を戦略化する

物件を提案する際、数を出せばよいというものではない。むしろ、厳選した3件の組み合わせ方にこそ目利き力が表れる。

効果的な3件の構成は、以下のような「松竹梅」の戦略思考に基づく。

“本命”の1件 は、ヒアリングで把握した顕在ニーズと潜在ニーズの両方を満たす物件。条件面では多少の妥協があっても、暮らし全体として最も満足度が高いと判断できるもの。

“比較対象”の1件 は、条件面では本命を上回るが、暮らしの観点では少し劣る物件。これにより、本命の価値が相対的に際立つ。

“視野を広げる”1件 は、顧客の想定外のエリアや間取りで、意外性のある提案。これが決まることも少なくなく、何より「この営業パーソンは自分のことをよく考えてくれている」という信頼感につながる。

3. 物件情報の”翻訳力”を身につける

RSCの調査では、不動産会社に求めるものとして「正確な物件情報の提供」と「物件に対する詳細な説明」が一貫して上位に入っている。しかし、ここでいう「詳細な説明」とは、スペック情報の羅列ではない。

求められているのは、物件情報を顧客の生活シーンに”翻訳”して伝える力だ。

たとえば、「南向き・角部屋」という情報を「午後の在宅勤務中も照明なしで十分な明るさが確保でき、お隣との壁が片面だけなので音のストレスも軽減できます」と伝えるだけで、顧客の受け取り方は劇的に変わる。

「築15年」を「2010年築なので、追い焚き機能やモニター付きインターフォンなどの標準設備はひと通り揃っています。建築基準法の改正後の物件なので耐震性能もご安心いただけます」と補足するのも同様だ。

この”翻訳力”こそが、ポータルサイトの物件情報と、プロの提案を分ける決定的な違いになる。

4. エリアの”一次情報”を蓄積する

大手不動産ポータルサイトには掲載されない、現地でしか得られない一次情報の蓄積は、最も模倣されにくい差別化要素だ。

実践的な一次情報の収集法として、以下を習慣化したい。

  • 朝・昼・夜の3回、管轄エリアを歩く ――同じ道でも時間帯で雰囲気がまったく異なる。通勤時間帯の駅の混雑度、夜間の街灯の明るさ、昼間の公園の人出など、体感した情報は顧客に伝わる熱量が違う
  • 地元の飲食店や商店の店主と関係を築く ――「最近このエリアに引っ越してくる人が増えている」「来年スーパーができるらしい」といったリアルタイムの情報は、顧客にとって物件情報以上に価値がある
  • 自治体の都市計画や再開発情報を定期的にチェックする ――道路拡張や新駅計画など、将来の資産価値や利便性に直結する情報は、省エネ性能への関心が高まる昨今の顧客にとって特に響く
  • 実際に物件を内見し、写真では伝わらないポイントをメモする ――収納の奥行き、コンセントの位置、窓からの眺望の実感値など、細部の情報がプロの説得力を裏付ける

5. 提案後の”振り返り”を仕組み化する

目利き力は、経験の蓄積だけでは磨かれない。提案の結果を分析し、改善するサイクルを回すことが不可欠だ。

成約に至ったケースと至らなかったケースの両方について、次の3点を記録・分析する仕組みを持ちたい。

  • 顧客が最終的に重視した判断基準は何だったか ――価格なのか、立地なのか、設備なのか、あるいは「営業パーソンの説明に納得したから」なのか
  • 提案した3件のうち、どの物件が最も反応が良かったか、そしてなぜか ――提案の精度を測る最も直接的な指標
  • 自分が”本命”と考えた物件と、顧客の選択にズレがあった場合、その原因は何か ――ヒアリングの不足か、翻訳力の未熟さか、エリア知識の欠如か

この振り返りを月に1回でもチーム内で共有すれば、組織全体の提案力が底上げされる。


デジタル時代の物件提案力――テクノロジーを味方につける

物件情報の鮮度管理がもたらす信頼感

RSCの調査では、不動産会社を選ぶポイントとして「写真の点数が多い」が一貫してトップに立ち、2025年も直近3年で最多の割合を記録している。さらに「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」の重要度も上昇傾向にある。

一方で、顧客の不満として根強いのが「問い合わせた物件がすでに成約済みだった」というケースだ。物件情報の鮮度管理ができていない不動産会社は、最初の接点で信頼を失ってしまう。

基幹システムを活用して物件情報の入力・更新・削除を迅速に行える体制を構築することは、デジタル時代の物件提案力の土台である。ここで重要なのは、システムの導入自体が目的ではなく、「正確で最新の情報をベースにプロとしての提案を重ねる」という本来の営業活動を加速するための手段として位置づけることだ。

CRMを活用した「先回り提案」の実現

顧客管理システム(CRM)に蓄積された過去の問い合わせ履歴、内見履歴、成約データを活用すれば、「この条件の顧客にはこの物件が響きやすい」というパターンが見えてくる。

特に注目したいのが、「問い合わせたが来店に至らなかった層」へのアプローチだ。RSCの調査では、問い合わせた会社数と訪問した会社数の差が大きく、来店前の段階での物件提案の質がその後の行動を左右していることが示唆されている。

来店前にメールや電話で送る物件提案の段階から、前述の「翻訳力」を活かした提案文を作成できれば、来店率そのものを引き上げることが可能になる。


組織として物件提案力を高める――属人化させない仕組みづくり

ベテランの暗黙知を形式知に変える

「あのベテラン営業がいるから成約が取れる」という状態は、企業経営として極めてリスクが高い。物件提案力を個人のセンスに依存するのではなく、組織の資産として蓄積していく仕組みが必要だ。

有効な方法の一つは、成約事例のデータベース化だ。「どのような顧客に、どのような提案を行い、何が決め手で成約に至ったか」を体系的に記録し、チーム内で共有する。これにより、新人でもベテランの提案パターンを学び、実践に活かすことができる。

もう一つの方法は、ロールプレイング研修だ。ヒアリングから物件選定、プレゼンテーションまでの一連の流れを実践形式でトレーニングし、上司やベテランからフィードバックを受ける。頭で理解するだけでなく、体で覚えることで提案力は着実に向上する。

フランチャイズネットワークを活用した情報共有

物件提案力を高めるうえで、自社だけで完結しないネットワークの力は大きい。特にフランチャイズに加盟している場合、他の加盟店が持つエリア情報や成約ノウハウ、さらには本部が蓄積してきたベンチマークデータを活用できるメリットは計り知れない。

たとえば、ハウスコムフランチャイズでは本部主催のベンチマークセミナーを定期的に開催しており、直営約200店舗で蓄積されたノウハウに加え、各加盟店のリアルな営業実態を共有する場が設けられている。また、大手不動産テック企業の基幹システムをFC加盟店向けに提供しており、物件情報のコンバータ、顧客管理、契約管理が一体となった業務支援体制が整えられている。

こうした仕組みを最大限に活用することで、個人の努力だけでは到達できないレベルの提案力を、組織として実現することが可能になる。


消費者の”不満”から学ぶ――物件提案で避けるべき3つの落とし穴

RSCの調査では、不動産会社に対する不満として「レスポンスが遅かった」「問い合わせ物件がすでに成約済みだった」「希望とは異なる物件を紹介された」といった声が挙がっている。これらを裏返せば、目利き力を発揮するうえで避けるべき行動が見えてくる。

落とし穴1:自社都合の物件を優先してしまう

手数料率の高い物件や管理物件を優先的に提案したくなる気持ちは理解できる。しかし、顧客はそのバイアスを敏感に察知する。「この物件を無理に勧められている」と感じた瞬間、信頼は崩壊する。自社にとって都合の良い物件であっても、それが顧客にとっても最良であることを客観的に説明できなければ、提案すべきではない。

落とし穴2:「条件に合う物件」を大量に提示する

「たくさん紹介したほうが誠意が伝わる」と考え、条件に合致する物件を10件、20件と送りつける営業パーソンは少なくない。しかし、これは目利き力の放棄に等しい。顧客は「自分に代わって選んでくれるプロ」を求めている。提案数を絞り、なぜその物件を選んだかを明確に説明できる提案のほうが、圧倒的に成約に近い。

落とし穴3:提案後のフォローが画一的

内見後のフォロー連絡が「いかがでしたか?」だけで終わるケースがある。目利き力のある営業パーソンは、内見時の顧客の表情や発言を細かく記録し、「リビングの広さを気に入られていたので、同じ広さで駅に近い物件を1件見つけました」といった具体的なフォローを入れる。この一手間が、他社との決定的な差になる。


省エネ性能への関心増――新たな”目利き”の視点を取り入れる

RSCの2025年調査では、住まいを選ぶうえで省エネ性能が「重要」と答えた回答者が78.6%に達した。賃貸・売買を問わず、省エネ性能の高い物件への関心が顕著に高まっている。

この流れは、物件提案力に新たなスキルセットを要求している。断熱等級や省エネラベルの見方、光熱費のシミュレーション、ペアガラスや高効率給湯器の有無など、これまで売買で重視されてきた知識が、賃貸の現場でも求められるようになってきた。

「この物件は断熱性能が高いので、冬場の光熱費が月額で2,000〜3,000円程度抑えられる可能性があります」といった具体的な情報を添えた提案は、家賃だけで物件を比較する他社の提案とは次元が異なる。こうした付加価値のある提案ができるかどうかが、今後の差別化の鍵になるだろう。


まとめ――物件提案力は”選ばれる不動産会社”の必須条件

消費者が不動産会社に問い合わせる数は増加し、検討期間は長期化し、求める対応の質は年々高まっている。この環境下で「選ばれる会社」であり続けるためには、物件を右から左に流す仲介ではなく、プロとしての目利き力を発揮した物件提案力が不可欠だ。

本記事で紹介した5つの実践メソッド――ヒアリングの深掘り、戦略的な3件の組み立て、情報の翻訳力、エリアの一次情報蓄積、提案後の振り返り――は、いずれも特別な設備投資や資格を必要とするものではない。明日の接客から実践できるものばかりだ。

ただし、個人の努力だけでは限界がある。組織としての仕組みづくり、テクノロジーの活用、そして業界ネットワークを通じた知見の共有が、持続的な競争力の源泉となる。

ハウスコムフランチャイズでは、約200店舗の直営店で培ったノウハウの共有、業務支援システムの提供、定期的なベンチマークセミナーの開催など、加盟店の物件提案力を底上げするための支援体制を構築している。「物件提案力を高めたいが、何から始めればいいかわからない」「組織的な仕組みづくりに課題を感じている」という方は、まず情報収集から始めてみてはいかがだろうか。


参考:不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年)