IT重説56.7%、オンライン契約51.0%——賃貸顧客の「来店不要」は、もはや希望ではなく前提になった

「できれば店に行かずに済ませたい」——賃貸物件を探す人の半数以上が、そう考えている。

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2025年に発表した利用者意識アンケートは、賃貸仲介の現場に突きつけられた「非対面シフト」の加速を鮮明に数値化した。賃貸検討者のうち、IT重説を「活用したい」と答えた割合は56.7%で調査開始以来最高。オンライン契約への意向は51.0%と、ついに過半数を超えた。3年連続の増加だ。

注目すべきは、この数字が売買検討者のそれを大きく上回っている点だ。賃貸と売買で、非対面への志向にはっきりとした温度差がある。なぜ賃貸でここまで非対面化が進むのか。そして、この流れに不動産会社はどう対応すべきなのか。データの背景にある顧客心理を読み解きながら、具体的な打ち手を考える。


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4つの非対面サービス——賃貸はすべてで売買を上回った

数字が描く「賃貸の非対面シフト」全体像

RSCの調査は、非対面型サービスについて4つの項目で活用意向を聞いている。オンライン接客、オンライン内見、IT重説、オンライン契約だ。2025年の賃貸検討者の結果を整理すると、次のような姿が浮かぶ。

IT重説が56.7%でトップ。次にオンライン契約が51.0%、オンライン接客が49.0%、オンライン内見が40.9%。4項目のうち3つが5割前後に達しており、オンライン内見も4割を超えている。

売買検討者と比較すると、差は歴然だ。売買のIT重説は41.2%、オンライン契約は30.9%にとどまる。賃貸の非対面志向が売買を15〜20ポイント上回る構図は、単なる偶然ではない。賃貸という取引の性質そのものが、非対面化との親和性を持っている。

3年間の推移が示す「不可逆」のトレンド

もう一つ押さえておきたいのは、この傾向が一過性のものではないという点だ。賃貸のオンライン契約活用意向は、2022年の39.5%から2023年に42.9%、2024年に47.4%、そして2025年に51.0%と、毎年着実に伸びている。IT重説も2022年の43.5%から56.7%まで、4年間で13ポイント以上の上昇だ。

コロナ禍の一時的なブームでは、ここまで持続的な右肩上がりにはならない。賃貸顧客の行動様式が構造的に変わったと見るべきだ。「対面が当たり前で、オンラインは代替手段」という認識は、もはや過去のものになりつつある。


なぜ賃貸で非対面志向が突出するのか

理由1:取引サイクルが短く、効率への感度が高い

賃貸と売買の最大の違いは、取引の重さだ。売買は人生で数回、場合によっては一度きりの大きな決断であり、数千万円が動く。慎重になるのは当然で、「対面で話を聞きたい」という心理が根強いのも無理はない。

一方、賃貸は数年おきに引っ越すことも珍しくない。検討から契約までの期間も短く、RSCの同調査では「1ヶ月〜3ヶ月未満」が最多だ。この短い検討サイクルの中で、仕事や学校の合間を縫って店舗に足を運ぶ負担は小さくない。「わざわざ来店しなくても同じことができるなら、そちらの方がいい」——これが賃貸顧客の素直な本音だ。

理由2:賃貸ユーザーは「デジタルネイティブ比率」が高い

賃貸検討者は売買検討者に比べて若い層が多い。単身の学生や20代〜30代の社会人が主要顧客であり、オンラインでの手続きに抵抗感が薄い。むしろ、銀行口座の開設もスマホで完結し、行政手続きもマイナポータルで済ませる世代にとっては、「なぜ不動産だけ店に行かなければならないのか」という疑問の方が自然だ。

RSCの調査で、賃貸のオンライン接客について「積極的に活用したい」と回答した割合は28.0%。「どちらかというと活用したい」の21.0%を合わせて49.0%だが、注目すべきは「積極的に」の比率の高さだ。売買の17.1%と比較すると、賃貸検討者のオンラインサービスに対する期待値は明らかに温度が違う。

理由3:遠方からの部屋探しが増えている

進学、就職、転勤——賃貸の引っ越し理由には、現住所から遠く離れた場所への移動が多い。東京の大学に合格した地方の高校生、大阪から東京に転勤が決まった会社員。こうした人たちにとって、物件探しのために何度も現地を訪れることは物理的にも経済的にも大きな負担だ。

オンライン内見の活用意向が40.9%に達しているのは、こうした「現地に行けない」ニーズの反映だ。スマートフォンの画面越しに部屋を見て、IT重説をオンラインで受け、電子契約で手続きを完了する。この一連のフローが実現すれば、顧客は入居日まで一度も店舗を訪れる必要がない。遠方からの部屋探しにおいて、非対面サービスは「便利」のレベルを超え「必須」に近づいている。

理由4:「来店しない」ことへの抵抗感が消えた

2022年の調査時点では、賃貸のオンライン契約に対して「どちらかというと使いたくない」「絶対に使いたくない」の合計が約36%あった。2025年にはこれが約27%まで縮小している。拒否層が明確に減っているのだ。

これは「積極派が増えた」だけでなく、「消極派が溶けた」ことを意味する。一度でもオンラインでの手続きを経験した人が周囲に増え、「やってみたら問題なかった」という体験談が口コミやSNSで広がることで、未経験者の不安が徐々に解消されている。非対面サービスの普及は、供給側(不動産会社)の体制整備と需要側(顧客)の心理的障壁の低下が同時に進むことで加速する。今、その両輪が回り始めている。


「オンライン内見」だけ伸び悩む理由を読む

唯一40%台にとどまるサービス

賃貸の4つの非対面サービスの中で、オンライン内見だけが40.9%と、やや出遅れている。IT重説56.7%、オンライン契約51.0%、オンライン接客49.0%と比べると、10〜16ポイントの開きがある。

この差はなぜ生まれるのか。答えは「五感の問題」にある。接客も重説も契約も、本質的には「情報のやりとり」だ。画面越しであっても、説明を聞き、書面を確認し、署名するという行為の質は大きく変わらない。

だが内見は違う。部屋の広さの体感、日当たりの具合、周辺の音、建物全体の雰囲気——これらは画面では伝わりきらない。「この部屋に住むかどうか」を決める最終判断に、身体的な感覚が強く関わるからこそ、内見だけは対面への志向が残っている。

「内見のハイブリッド」が現実解になる

ここに不動産会社が取り得る戦略がある。オンライン内見を「対面内見の完全な代替」として位置づけるのではなく、「候補を絞るための一次フィルター」として提案するのだ。

大手不動産ポータルサイトで5〜6物件に興味を持った顧客に、まずオンラインで3物件を見せる。そこで候補を2物件に絞り、最終判断として対面での内見に来てもらう。このハイブリッド型のアプローチなら、顧客の来店負荷を半減させつつ、「やっぱり実際に見たい」という心理にも応えられる。

顧客にとっても不動産会社にとっても、無駄な内見が減る。結果として、対面で案内する物件は「本命候補」だけになるため、成約率も上がる。内見のオンライン化は、全部をリモートに置き換えることが正解ではない。対面とオンラインの適切な使い分けこそが、賃貸仲介の次の標準形になる。


IT重説とオンライン契約——賃貸の「ラストワンマイル」が消える

IT重説56.7%の意味

重要事項説明は、不動産取引における最後の関門の一つだ。賃貸検討者の56.7%がIT重説を「活用したい」と回答している事実は、顧客が「説明の場所」にこだわらなくなったことを示している。

IT重説の利点は、顧客側からすると明快だ。自宅で落ち着いて聞ける、録画して後から見返せる、通勤時間の節約になる。特に「自宅で落ち着いて聞ける」というメリットは大きい。店舗で初めて会う担当者を前に、緊張した状態で30分以上の説明を聞くのは、冷静に考えると理想的な環境とは言いがたい。自宅のリラックスした状態であれば、質問も出やすくなる。

不動産会社にとっても、IT重説は業務効率化の切り札になる。物理的な来店が不要になれば、1日の重説対応件数を増やせる。繁忙期の午前中に3件のIT重説をこなし、午後は内見の同行に充てるといった時間配分が可能になる。

オンライン契約51.0%——「過半数の壁」を超えた

もう一つの重要な数字が、オンライン契約の51.0%だ。「活用したい」が過半数を超えたことの意味は大きい。マーケティングの世界でいう「キャズム越え」——新しい技術やサービスが初期ユーザーから一般層に広がる転換点に相当する。

賃貸のオンライン契約は、2022年の39.5%から毎年約4ポイントずつ上昇し、ついに50%の壁を突破した。この推移は、「様子を見ていた層」が順次「使ってみたい層」に移行していることを示唆する。2〜3年後には6割に届く可能性は十分にある。

不動産会社にとっての問いはもはや「オンライン契約を導入すべきか」ではなく、「いつ導入するか」だ。顧客の過半数が望んでいるサービスを提供しないことは、競合に問い合わせを奪われるリスクと同義になりつつある。


売買との「非対面温度差」から見えるもの

売買が慎重な理由は合理的だ

念のため確認しておくと、売買検討者の非対面サービスへの態度が「遅れている」わけではない。売買のオンライン契約活用意向が30.9%にとどまるのには、合理的な理由がある。

数千万円の取引で、書類のやりとりや契約条件の確認をすべてオンラインで済ませることに不安を覚えるのは、むしろ健全な感覚だ。住宅ローンの手続き、登記、引き渡しなど、売買には賃貸にはない複雑なプロセスが伴う。対面での丁寧な説明が求められる場面は、売買の方が格段に多い。

賃貸にこの温度差を「転用」する

この売買との対比から、賃貸仲介会社が汲み取るべきメッセージは明確だ。賃貸の顧客は、売買の顧客ほど対面を必要としていない。にもかかわらず、売買と同じ対面フローで対応を続けている賃貸仲介会社が少なくない。

「初回来店→条件ヒアリング→物件紹介→内見同行→重要事項説明→契約」——この従来のフルコースのうち、顧客が対面を望んでいるのはどこか。RSCのデータに基づけば、内見の一部を除き、ほぼすべてのプロセスで「非対面でもよい」と考える顧客が半数近くいる。フルコースの中から対面のステップを減らせば、顧客の満足度を下げることなく、業務の効率化が実現する。


非対面化に「消極的な4割」への向き合い方

拒否しているわけではない——「どちらでもいい層」の正体

IT重説の活用意向が56.7%と聞くと、残りの43.3%は「使いたくない」のだろうかと思いがちだ。だが、内訳を見ると景色が変わる。「どちらでもいい」と答えた層が21.8%存在する。明確に「使いたくない」と答えたのは約2割にすぎない。

「どちらでもいい」層は、不動産会社からの提案次第で動く。「IT重説もご利用いただけますが、いかがですか?」と選択肢として案内すれば、相当数がオンラインを選ぶ可能性がある。つまり、非対面サービスの利用率を上げるカギは、顧客の説得ではなく「案内の仕方」にある。

「来店してください」ではなく「どちらがよいですか?」

非対面対応の導入で最もよくある失敗は、オンラインか対面かの二者択一を迫ることだ。「うちはオンラインでも対応できます」と全面的にオンラインを押すのではなく、「ご来店とオンラインのどちらが都合よいですか?」とフラットに聞く。この一言で、顧客は「自分のペースで選べる」と感じる。

RSCの満足度調査でも、「こちらの都合を配慮してくれた」が顧客満足の上位に入っている。非対面サービスの案内も、まさにこの「配慮」の一部だ。顧客の状況に合わせて柔軟にチャネルを切り替えられる会社が、結果的に選ばれる。


非対面対応を導入する際の実務ポイント

IT重説の環境整備は最低限ここを押さえる

IT重説の実施にあたっては、通信環境と画面共有の品質が生命線になる。回線が不安定で音声が途切れたり、書面が画面上で読みにくかったりすれば、せっかくの非対面サービスが逆にストレスの原因になる。

最低限、以下の環境を整えたい。安定した有線インターネット接続(Wi-Fiだけに頼らない)、外付けマイクまたはヘッドセット(PCの内蔵マイクは音質が不安定)、高解像度で画面共有できるWeb会議ツール、事前に顧客へ送付する重要事項説明書のPDFデータ。「画面越しでも対面と同等の情報が伝わること」を基準に環境を設計する。

オンライン内見の質を決める「動画の撮り方」

オンライン内見は、ライブ中継型と録画型の2パターンがある。ライブ中継型は臨場感があるが、通信品質と担当者のカメラワークに左右される。録画型は安定した画質で提供できるが、顧客がリアルタイムで「あの角度を見せて」と言えない。

実務的には、録画型の動画を事前に用意しつつ、ライブ中継で補足するハイブリッドが効果的だ。まず3〜5分のウォークスルー動画を顧客に送り、その動画を見た上でオンライン接客時に質問に答える。「動画では分かりにくかった収納の奥行きを、今からカメラで映しますね」——こうした対応ができれば、オンラインでも十分な判断材料を提供できる。

電子契約への移行ステップ

オンライン契約の導入は、システム選定だけでなく社内フローの見直しが伴う。いきなり全契約を電子化するのではなく、段階的に移行するのが現実的だ。

まずは、すでにIT重説を経験済みの顧客からオンライン契約を案内する。IT重説でオンラインへの抵抗感がなくなった顧客は、契約もオンラインで進めることに前向きなケースが多い。次に、遠方からの顧客(転勤、進学)を優先的にオンライン契約の対象にする。こうした顧客にとって電子契約は「便利」ではなく「助かる」レベルの価値がある。成功事例を社内で蓄積しながら、徐々に対象を広げていく。


非対面化は「コスト削減」だけではない——集客力の源泉になる

「来店不要」は商圏を広げる

非対面対応の最大の経営メリットは、商圏の物理的制約が外れることだ。従来の賃貸仲介は、店舗周辺のエリアで物件を探す顧客が主なターゲットだった。だが、問い合わせから契約まで全工程をオンラインで完結できるなら、日本全国どころか海外在住の顧客にも対応できる。

実際に、遠方からの転勤者や留学生をターゲットにした「来店不要の賃貸仲介」を打ち出している会社は、大手不動産ポータルサイト上で差別化に成功している。「来店不要」「オンライン完結」というキーワードは、物件検索時のフィルター条件にはならないが、問い合わせ先を選ぶ際の決め手になりうる。

「非対面で完結できます」が口コミを生む

顧客満足度の高い体験は口コミにつながる。「仕事が忙しくて一度も来店せずに契約できた」「転勤先の部屋を自宅からすべてオンラインで決められた」——こうした体験談は、従来の「対面で丁寧に対応してもらった」とは異なる新しい満足の形であり、SNSやGoogleの口コミで共有されやすい。

RSCの調査では口コミが不動産会社選びの重要な要素に浮上している。非対面対応の充実は、口コミの内容そのものを変え、「便利な会社」という新しい評価軸を生む。この評価軸は、立地や物件数では太刀打ちできない中小の不動産会社にとって、大きな競争力になりうる。


「非対面で失うもの」に正面から向き合う

雑談から生まれる信頼は対面の独壇場

ここまで非対面化の追い風を論じてきたが、対面にしかない価値があることも直視しなければならない。来店時のちょっとした雑談、担当者の人柄が伝わる何気ないやりとり、店舗の雰囲気——こうした「非効率な接点」が信頼の土台になるケースは、特に初めて部屋を借りる若年層に多い。

非対面化を進めるほど、残された対面の接点の価値は高まる。対面でしか提供できない体験——たとえば内見時に周辺の店を一緒に歩いて見せる、契約完了時に入居ガイドを手渡しで丁寧に説明する——に、より多くの時間と労力を集中させる。非対面と対面を「どちらかではなくどちらも」使い分けることが、これからの賃貸仲介に求められる姿勢だ。

非対面こそ「丁寧さ」の見せどころ

一つ、現場で見落とされがちな点がある。非対面だからといって、対応の質を落としていいわけではない。むしろ、画面越しのコミュニケーションでは、対面よりも意識的に丁寧さを演出する必要がある。

Web会議の冒頭で「画面は見えていますか? 音声は問題ないですか?」と確認する一手間、資料を共有する際に「今から画面に映しますね。見えにくい場合は遠慮なくおっしゃってください」と添える一言。こうした配慮の積み重ねが、「オンラインでもこの会社は丁寧だった」という評価につながる。

RSCの調査で不動産会社への不満の上位に「言葉遣いや対応が気に障った」が入っているのは、対面だけの話ではない。非対面においても、むしろ非対面だからこそ、一つひとつの言動が顧客の記憶に残る。


56.7%が発しているメッセージを受け取る

賃貸検討者の56.7%がIT重説を望み、51.0%がオンライン契約を望んでいる。この数字は、顧客からの静かだが明確なメッセージだ。「もう来店前提でなくていい」「オンラインで十分だと思っている」「むしろその方が助かる」——。

問題は、このメッセージに気づいていない不動産会社が、まだ少なくないことだ。「うちの顧客はオンラインを求めていない」と感じているとすれば、それは顧客が求めていないのではなく、選択肢として提示されていないだけかもしれない。

非対面対応は、最先端のIT企業だけが提供できる特別なサービスではない。Web会議ツールとPDFの共有、電子契約サービスの契約——技術的なハードルは年々下がっている。必要なのは、大規模なシステム投資ではなく、「来店してもらうのが当たり前」という前提を一度疑ってみることだ。

56.7%という数字は、今この瞬間も上昇を続けている。その波に乗るか、見送るか。判断を先延ばしにしている間にも、顧客の期待値は着実に上がり続けている。