問合せは平均2.3社のみ——不動産仲介業の勝敗を分ける「決断型サーチャー」の実態

変わりゆく顧客の行動様式が、あなたのビジネスを左右する

「最近、来店する顧客の様子が変わった」——そう感じている不動産仲介業者は少なくないだろう。実際、データがそれを裏付けている。2024年10月に発表された不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の調査によると、物件を契約した人が検討時に問合せた不動産会社数は平均わずか2.3社。前年比0.3社減少し、直近10年で最少を記録した。

この数字が意味するものは何か。それは、顧客の住まい探しにおける意思決定プロセスが根本的に変化しているという事実だ。問合せた物件数も平均8.3物件と過去最少、訪問した不動産会社数も平均1.7社と減少傾向にある。

彼らを「決断型サーチャー」と呼ぼう。従来の「じっくり比較検討型」の顧客とは明らかに異なる、新しい顧客像である。

決断型サーチャーとは何者か——3つの行動特性

決断型サーチャーには、従来の顧客とは一線を画す3つの明確な行動特性がある。

1. 徹底した事前絞り込み

調査データによれば、問合せ前に「1社」のみに連絡する割合が、賃貸で36.7%、売買で47.9%と、いずれも直近10年で最高を記録している。これは偶然ではない。彼らは大手不動産ポータルサイトを駆使し、物件の立地、間取り、設備、周辺環境まで徹底的にリサーチ。問合せる段階では、すでに候補を2〜3件に絞り込んでいるのだ。

「6社以上」に問合せる割合は賃貸でわずか5.3%と過去最低。かつてのように「とりあえず複数社に問合せて比較する」という行動パターンは、もはや主流ではない。

2. 意思決定のスピード重視

住まい探しから契約までの期間も短縮傾向にある。賃貸では「2週間未満」が最多となり、売買においても慎重な検討が必要にもかかわらず、短期決断が増加している。

この背景にあるのは、効率性への強い志向だ。決断型サーチャーは、無駄な時間や労力を極力削減したいと考えている。だからこそ、レスポンスの速さが何より重視される。調査でも「問合せに対するレスポンスが早かった」が満足度の第1位(69.5%)を獲得。一方で、「問合せをしたら返答が遅かった」は不満の第2位(17.4%)に挙げられている。

3. 情報の質と確実性への執着

決断型サーチャーが不動産会社を選ぶ際、最も重視するのは「写真の点数が多い」(72.1%)こと。さらに「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」(32.6%)という項目も、賃貸で前年比6.7ポイント増、売買では2年連続で7ポイント以上増加している。

彼らが求めているのは、物件の実態を正確に把握できる豊富な情報だ。そして、「その物件はもう埋まっている」という回答が不満の第1位(22.2%)である事実は、情報の正確性と確実性がいかに重要かを物語っている。

従来型営業スタイルが通用しない理由

この新しい顧客像の台頭は、不動産仲介業界に大きな課題を突きつけている。

「来店前勝負」の時代へ

従来、不動産仲介業は来店後の接客力で差別化を図ってきた。しかし決断型サーチャーは、問合せる時点ですでに8割方の意思決定を終えている。つまり、勝負は来店前、オンライン上での情報提供と初期対応で決まる。

「店舗がアクセスしやすい場所にある」という項目が、賃貸で前年比5.6ポイント減、売買で8.4ポイント減となったのは象徴的だ。店舗立地よりも物件情報の質が選択基準になっているのである。

量より質への転換

「他にもたくさんの物件を掲載している」という項目も、依然として重要視されているものの(34.8%)、それ以上に「物件のウィークポイントも書かれている」(38.2%)や「写真の見栄えが良い」(24.1%)といった、情報の質に関する項目が上位に来ている。

大量の物件を紹介する「数打てば当たる」式の営業は、もはや効果的ではない。むしろ、顧客のニーズを正確に把握し、厳選した少数の物件を高品質な情報とともに提示する能力が求められている。

決断型サーチャーを獲得する5つの実践戦略

では、不動産仲介業者は決断型サーチャーにどう対応すべきか。具体的な戦略を5つ提示する。

戦略1:情報の即時更新体制を構築する

「最新の物件情報の提供」が不動産会社に求められるものの第6位(30.1%)にランクイン。前年比で11ポイント超の大幅増加を記録している。

実践TIPS:

  • 物件情報の更新を1日3回以上の頻度で実施
  • 成約済み物件は即座に掲載停止
  • 在庫状況をリアルタイムで把握できるシステム導入
  • 問合せ時に「本日時点で内見可能」と明言できる体制

戦略2:デジタルコンテンツへの投資を惜しまない

「写真の点数」「動画」「VR内見」など、ビジュアルコンテンツの重要性が年々高まっている。非対面型接客の「IT重説」や「オンライン接客」も、使ってみたいという回答が3年連続で増加傾向にある。

実践TIPS:

  • 1物件あたり最低20枚以上の高品質写真を掲載
  • スマートフォンでも見やすい縦型動画の制作
  • 部屋の雰囲気が伝わる短尺動画(30〜60秒)の活用
  • 周辺環境の写真・動画も積極的に掲載
  • VR内見ツールの導入検討

戦略3:レスポンス速度を競争力の核にする

「問合せに対するレスポンスが早かった」が満足度トップ。逆に返答の遅さは致命的な不満要因となる。

実践TIPS:

  • 問合せへの初回返信は1時間以内を目標に
  • 営業時間外の自動返信システムの設置
  • 問合せ対応の優先順位付けルールの明確化
  • チャットボットによる簡易質問への即答体制
  • 社内の情報共有を迅速化し、担当者不在でも対応可能に

戦略4:透明性と正確性を徹底する

「物件のウィークポイントも書かれている」という項目が、不動産会社選択のポイント第2位(38.2%)。決断型サーチャーは、良い面だけでなく懸念点も含めた正直な情報開示を求めている。

実践TIPS:

  • デメリット情報(騒音、日当たり、周辺環境など)も率直に記載
  • 過去の修繕履歴や設備の経年状態を明示
  • 「よくある質問」として懸念点を先回りして説明
  • 顧客の期待値コントロールで後のトラブルを防止
  • 誠実な対応が長期的な信頼獲得につながる

戦略5:ターゲティングの精度を上げる

決断型サーチャーは既に候補を絞り込んでいるため、的外れな提案は逆効果だ。「問合せをしていない(希望していない)物件を必要以上にすすめられた」は不満の第7位(8.4%)に入っている。

実践TIPS:

  • 初回ヒアリングで優先順位を明確化
  • 顧客の検索履歴や閲覧パターンの分析
  • 3件以内の厳選提案を心がける
  • 代替案を提示する際は明確な理由を添える
  • プッシュ型営業よりもプル型の情報提供に注力

FC加盟がもたらす決定的アドバンテージ

ここまで述べてきた戦略を個店で実現するには、相当の投資と時間を要する。そこで注目されているのが、フランチャイズ加盟という選択肢だ。

システムインフラの即時活用

大手FCチェーンは、すでに決断型サーチャーに対応した情報システムを構築済みだ。物件情報の自動更新、高品質な写真・動画撮影のサポート、VR内見システムなど、個店では導入が困難なツールを即座に利用できる。

初期投資を抑えながら、最新のデジタル環境を手に入れられることは、競争上の大きなアドバンテージとなる。

ブランド信頼性による「1社選択」の獲得

決断型サーチャーの約半数が1社のみに問合せる現状では、その「最初の1社」に選ばれることが死活問題だ。認知度の高いFCブランドは、顧客の信頼獲得において圧倒的に有利である。

「地元で知名度のある会社である」が不動産会社選択のポイント第3位(35.1%)に入っていることからも、ブランド力の重要性は明らかだ。全国展開しているFCであれば、転勤族や遠方からの引越し検討者にも訴求力がある。

継続的な研修とノウハウ共有

決断型サーチャーへの対応は、従来の営業スキルとは異なる新しい能力を要求する。FC本部が提供する定期研修や成功事例の共有は、個店では得られない貴重な学習機会となる。

特にデジタルツールの活用法、オンライン接客のテクニック、写真・動画コンテンツの作成ノウハウなど、実践的なスキルを体系的に習得できる点は大きい。

マーケティング支援による集客力強化

大手不動産ポータルサイトへの掲載最適化、SEO対策、SNS活用など、オンラインマーケティングの重要性は増す一方だ。FC本部による広告支援や集客ノウハウの提供は、個店の負担を大幅に軽減する。

また、FC本部が持つデータ分析機能を活用すれば、地域ごとの顧客動向や市場トレンドをリアルタイムで把握し、戦略に反映できる。

生き残りをかけた選択——今、動くべき理由

不動産仲介業界は、かつてない変革期を迎えている。決断型サーチャーの台頭は一時的なトレンドではなく、デジタル化とともに加速する構造的変化だ。

調査データが示すように、顧客の行動パターンは明確に変化している:

  • 問合せ社数:平均2.3社(直近10年で最少)
  • 問合せ物件数:平均8.3物件(直近10年で最少)
  • 訪問社数:平均1.7社(減少傾向)

この変化に対応できない業者は、確実に淘汰される。逆に言えば、今こそが競争優位を確立する絶好の機会でもある。

単独では限界がある現実

多くの中小仲介業者が直面しているのは、リソースの制約だ。システム投資、人材育成、マーケティング——すべてを自前で賄うには、時間もコストも足りない。

一方、決断型サーチャーは容赦なく効率的な業者を選択する。情報更新が遅い、レスポンスが悪い、写真が少ない——そうした業者は、問合せの「最初の1社」に選ばれることすらなくなる。

2025年以降の市場環境

省エネ性能表示制度の開始、IT重説のさらなる普及、AIによる物件マッチング——業界を取り巻く環境変化は加速している。調査でも、住まい選びにおける省エネ性能を「重要」とする回答が7割を超えた。

こうした変化に対応するには、個店の努力だけでは限界がある。業界標準のシステムやノウハウを持つFC本部とのパートナーシップが、現実的な選択肢となる。

まとめ——顧客の変化を機会に変える

決断型サーチャーは、不動産仲介業者に新しい能力を要求している:

  • 豊富で正確な物件情報のオンライン提供
  • 圧倒的なレスポンス速度
  • デジタルコンテンツの充実
  • 透明性の高い情報開示
  • 精緻なターゲティング

これらすべてを個店で実現するのは容易ではない。だが、適切なパートナーを選ぶことで、むしろこの変化を成長の機会に変えることができる。

問合せ社数が平均2.3社という現実——それは「選ばれる業者」と「選ばれない業者」の二極化を意味する。あなたの会社は、どちらになるだろうか。

答えは、今この瞬間の決断にかかっている。決断型サーチャーという新しい顧客を理解し、彼らが求める価値を提供できる体制を、一日でも早く構築すること。それが、これからの不動産仲介業で生き残るための絶対条件なのである。