なぜあなたの会社は「問合せリスト」から外されるのか?──顧客の事前選別プロセスを解剖する

問合せの電話が鳴らない。メールの返信もない。「物件は掲載しているのに、なぜ反応がないのか」──多くの不動産賃貸仲介業者が直面するこの課題の背景には、顧客の劇的な行動変化がある。
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の最新調査によれば、物件を契約した顧客が検討時に問合せた不動産会社数は平均2.1社。これは前年比0.7社減、直近10年で最少の数字だ。問合せた物件数も平均5.6物件と、同じく10年で最少を記録している。
この数字が意味するのは明白だ。顧客は「問合せる前」に、すでに大半の不動産会社を選別し、ふるい落としている。あなたの会社がその「問合せリスト」に入れなければ、ビジネスチャンスは永遠に訪れない。
本記事では、顧客が水面下で行っている事前選別プロセスを徹底解剖し、選別を通過するための実践的チェックリストを提供する。
静かに進行する「事前選別」の実態
問合せ数の減少が示す厳しい現実
不動産仲介業界に静かな地殻変動が起きている。顧客の行動パターンが、従来の「とりあえず複数社に問合せる」スタイルから、「厳選した少数の会社にだけ問合せる」スタイルへと大きく変化しているのだ。
調査データは、この変化を如実に示している。物件を契約した顧客が検討時に問合せた不動産会社数は、賃貸で平均1.9社、売買で2.5社。さらに注目すべきは、賃貸では「1社のみ」に問合せた顧客が36.7%と最も多く、「6社以上」はわずか5.3%に留まっている点だ。
つまり、顧客の約4割は、最初に選んだ1社で住まい探しを完結させている。複数の会社を比較検討する余地さえ、与えられていないのだ。
オンライン上の「無音の選別」
では、顧客はどこで、どのように不動産会社を選別しているのか。
答えは明確だ。大手不動産ポータルサイト上での物件閲覧時、そして不動産会社の情報を確認する瞬間に、すでに選別は始まっている。顧客は画面越しに、あなたの会社を値踏みし、問合せる価値があるかを判断している。この「無音の選別」を通過できなければ、電話が鳴ることも、メールが届くこともない。
この選別プロセスは、従来の対面営業とは根本的に異なる。店舗に足を運んでもらえば、営業スキルで挽回できた時代は終わった。オンライン上では、顧客と対話する機会すら得られずに、一方的に評価され、除外されていく。
「問合せリスト」から外される5つの理由
調査データから浮かび上がる、顧客が不動産会社を選別する際の具体的な判断基準を分析しよう。
理由1:物件情報の「量」と「質」の不足
不動産会社を選ぶ際のポイントとして、最も重視されているのが「写真の点数が多い」(72.1%)だ。これは3年連続でトップに位置し、特にポイントとなる点でも39.8%と圧倒的な支持を集めている。
顧客が求めているのは、物件の詳細を隅々まで把握できる情報量だ。リビング、キッチン、バス、トイレ、バルコニー、玄関──あらゆる角度からの写真が揃っていなければ、「情報が不十分」と判断され、リストから除外される。
さらに、「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」という項目も32.6%と高い数値を示し、特に売買では3年連続で増加傾向にある。静止画だけでは伝わらない空間の広がりや雰囲気を、顧客は動画で確認したいと考えているのだ。
理由2:物件掲載数の少なさ
「他にもたくさんの物件を掲載している」(34.8%)という項目も、顧客が重視する選択基準の一つだ。
これは単純な物量の話ではない。「この会社は選択肢が豊富だ」「希望に合う物件を提案してくれそうだ」という期待感を、顧客が抱けるかどうかの問題だ。掲載物件数が少なければ、「この会社に問合せても、良い物件は紹介してもらえないだろう」と判断され、候補から外される。
理由3:透明性の欠如
意外に思えるかもしれないが、「物件のウィークポイントも書かれている(鉄塔が近い、大通りに面している等)」という項目が、特にポイントとなる点で8.5%と上位に位置している。
これは顧客の成熟度を示す重要なシグナルだ。完璧な物件など存在しないことを、顧客は理解している。だからこそ、デメリットも含めて正直に情報開示する会社に、信頼を寄せるのだ。
良い情報だけを並べ立てる会社は、逆に「何か隠しているのではないか」と疑われる。透明性の欠如は、問合せを遠ざける。
理由4:ビジュアルの貧弱さ
「写真の見栄えがよい」(24.1%)という項目も、見逃せない選択基準だ。
これは単なる「きれいな写真」という表層的な話ではない。プロフェッショナルな撮影技術、適切な照明、丁寧な編集──こうした細部への配慮が、会社全体の仕事の質を象徴すると、顧客は感じ取っている。
暗くて見づらい写真、歪んだ構図、汚れた部屋を撮影した画像──これらは物件の魅力を損なうだけでなく、「この会社は細部にまで気を配れない」というメッセージを発信してしまう。
理由5:実店舗への過度な依存
興味深いことに、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という項目は、賃貸で前年比8.7ポイント減の24.8%、売買で同9.1ポイント減の24.0%と、大幅に減少している。
これは、顧客の意識が「店舗の立地」から「オンライン上の情報充実度」へとシフトしていることを示唆している。駅前の一等地に店舗を構えていても、オンライン上の情報が貧弱であれば、問合せリストには入れてもらえない時代になったのだ。
顧客の思考プロセス:選別の3ステップ
顧客が不動産会社を選別する際の思考プロセスを、より詳細に見ていこう。
ステップ1:情報収集フェーズ(第一印象の形成)
顧客は大手不動産ポータルサイトで物件を検索し、気になる物件を見つけると、まず物件情報の詳細をチェックする。この段階で判断されるのは:
- 写真の量と質:部屋の隅々まで確認できるか
- 動画の有無:空間の雰囲気を感じ取れるか
- 情報の透明性:デメリットも正直に開示しているか
ここで「情報不足」と判断されれば、顧客は次の物件へと移っていく。問合せという行動には至らない。
ステップ2:比較検討フェーズ(選択肢の絞り込み)
複数の物件情報を閲覧した後、顧客は掲載している不動産会社の情報を比較検討し始める。この段階で判断されるのは:
- 掲載物件数:選択肢の豊富さ
- 会社の専門性:地域への精通度、取扱い物件の傾向
- 口コミや評判:他の利用者の満足度
調査によれば、2024年度に新設された「不動産会社に対する口コミ情報」という項目も、顧客が気にする点として認識されている。他者の評価が、選別の判断材料になっているのだ。
ステップ3:最終決定フェーズ(問合せ先の確定)
ここまで来て初めて、顧客は問合せる会社を決定する。平均2.1社という数字が示すように、この段階で選ばれるのは、ごく少数の企業だけだ。
選ばれる会社の共通点は明確だ:
- 情報が充実している:写真、動画、物件詳細が完備
- 信頼できる:透明性があり、正直な情報開示
- プロフェッショナル:ビジュアルの質が高く、細部への配慮が感じられる
選別を通過するための実践チェックリスト
では、どうすれば顧客の「問合せリスト」に入ることができるのか。以下、具体的かつ実践的なチェックリストを提供する。
【必須項目】写真・動画の充実化
□ 各物件に最低15枚以上の写真を掲載
- リビング:複数アングルから3〜4枚
- キッチン:全体と収納部分で2〜3枚
- バス・トイレ:各2枚
- バルコニー・玄関:各1〜2枚
- その他の部屋:各2枚
□ 動画コンテンツの制作
- 30秒〜1分程度の物件紹介動画
- 部屋の広がりや動線が分かる内容
- スマートフォンでも視聴しやすい縦型フォーマットも検討
□ 写真撮影の品質向上
- 明るく、鮮明な撮影(必要に応じて照明機材を使用)
- 水平・垂直を意識した構図
- 広角レンズの活用(歪みに注意)
- 撮影前の清掃・整理整頓の徹底
【重要項目】情報の透明性確保
□ 物件のデメリットも正直に記載
- 交通量の多い道路に面している
- 日当たりがやや限られる
- 築年数が経過している
- 近隣に商業施設がある(騒音の可能性)
□ 周辺環境情報の充実
- 最寄り駅までの実測距離・所要時間
- スーパー、コンビニ、病院などの生活施設情報
- 学校区情報(ファミリー向け物件の場合)
□ 費用の明確化
- 賃料以外の諸費用(敷金、礼金、仲介手数料等)
- 更新料、保証料など将来発生する費用
- 「別途相談」などの曖昧な表現を避ける
【差別化項目】掲載物件数の拡大
□ 自社管理物件の完全掲載
- 全物件を大手不動産ポータルサイトに掲載
- 物件情報の定期的な更新(最低週1回)
□ 他社物件の積極的掲載
- レインズ等を活用した物件情報の拡充
- エリア内の競合物件も含めた幅広い選択肢の提供
□ 「おとり物件」の徹底排除
- 既に契約済みの物件情報の即時削除
- 架空物件の掲載禁止の社内徹底
【プロ意識項目】ビジュアル品質の向上
□ プロカメラマンの活用検討
- 重要物件や高額物件は専門家に撮影依頼
- 社内に撮影スキルのある人材を育成
□ 画像編集の基本習得
- 明るさ・コントラストの調整
- 不要な映り込みの除去
- ウォーターマークの適切な配置
□ 統一感のあるビジュアルスタイル確立
- 会社全体で写真の雰囲気を統一
- ブランドイメージに合致した表現方法
【信頼構築項目】レスポンス体制の整備
調査データによれば、不動産会社の対応で満足だったこととして「レスポンスが早かった」が69.5%(賃貸)、74.7%(売買)とトップに位置している。一方、不満だったこととして「問合せをしたら返答が遅かった」が賃貸で17.4%、売買で14.7%と上位にランクインしている。
□ 問合せへの迅速な対応体制
- 営業時間内の問合せには2時間以内に初回レスポンス
- 営業時間外の問合せには翌営業日の午前中に対応
- 自動返信機能の活用で「受領確認」を即座に送信
□ 対応品質の標準化
- 問合せ対応マニュアルの整備
- 定型文の用意(状況に応じてカスタマイズ)
- 社内研修の定期実施
【付加価値項目】オンライン対応の強化
調査によれば、非対面型の接客で今後使ってみたいものとして、賃貸では「IT重説」、売買では「オンライン接客」が最多となっている。
□ オンライン内見の導入
- ビデオ通話を活用したリアルタイム内見
- 事前録画動画と組み合わせた効率的な案内
□ IT重説への対応
- 必要な機材・システムの整備
- スタッフの操作トレーニング
□ オンライン契約手続きの検討
- 電子契約システムの導入検討
- 顧客の利便性向上と業務効率化の両立
「最新情報」と「正確性」への要求
調査データからは、もう一つ重要なトレンドが読み取れる。不動産会社に求めるものとして、「最新の物件情報の提供」が賃貸・売買ともに大幅に増加し、賃貸で前年比11.4ポイント増、売買で同10.5ポイント増となっている。
さらに、特に重要なものとして「正確な物件情報の提供」が3年連続で増加し、2024年には賃貸で45.2%、売買で56.5%を記録している。
これが意味するのは、顧客が「情報の鮮度」と「情報の正確性」に極めて敏感になっているということだ。
情報管理の徹底が生死を分ける
「問合せをしたら、『その物件はもう埋まっている』と言われた」という不満が、賃貸で22.2%と最も多い不満として挙げられている。これは、いわゆる「おとり物件」や情報更新の遅れに対する、顧客の強い不信感を表している。
一度でもこうした経験をした顧客は、二度とその会社に問合せることはない。SNSや口コミサイトでネガティブな評価を拡散する可能性もある。情報管理の不徹底は、会社の信頼を一瞬で失墜させる。
実践すべき情報管理のルール
日次での物件情報確認
- 毎朝、全掲載物件の空室状況を確認
- 契約済み物件は即座に掲載停止
- 新規物件情報は当日中に掲載開始
週次での情報精査
- 掲載内容(賃料、条件等)の正確性を再確認
- 写真や説明文の更新が必要な物件をピックアップ
- 長期間動きのない物件の情報を刷新
月次での全体見直し
- 掲載物件のパフォーマンス分析
- 反応が薄い物件の情報改善
- 季節性を考慮した情報の追加(例:冬場の日当たり情報強化)
FC加盟で得られる競争優位性
ここまで読んで、「チェックリストを実践するのは現実的に難しい」と感じた方もいるかもしれない。特に小規模な不動産仲介業者にとって、写真撮影から情報管理、オンライン対応まで、すべてを自社で高水準に保つことは、人的リソース的にも技術的にも容易ではない。
そこで検討すべきなのが、ノウハウとシステムを持つフランチャイズへの加盟だ。
システムとブランド力の活用
大手FCに加盟することで得られる最大のメリットは、洗練されたシステムとブランド力の活用だ。
物件情報管理システム
- 大手不動産ポータルサイトとの自動連携
- 在庫情報のリアルタイム更新
- 複数サイトへの一括掲載機能
マーケティングサポート
- 効果的な物件撮影のノウハウ提供
- プロカメラマンの派遣サービス
- 動画制作のテンプレート・ツール提供
ブランド認知度
- 全国展開する知名度のあるブランド
- 顧客からの初期信頼の獲得
- 他の加盟店との情報共有・物件紹介ネットワーク
研修とサポート体制
FC本部が提供する研修プログラムやサポート体制も、競争力強化に直結する。
スタッフ教育
- 接客スキル研修
- 物件撮影・情報作成研修
- IT重説などオンライン対応研修
継続的な情報提供
- 業界トレンドの共有
- 法改正への対応サポート
- 成功事例の水平展開
経営サポート
- 集客戦略の立案支援
- データ分析に基づく改善提案
- 同規模加盟店とのベンチマーク比較
生き残るための選択
顧客の行動変化は、今後さらに加速していくだろう。問合せ前の事前選別は、より厳しく、より精緻になっていく。AIによる自動マッチングや、VR内見などの技術進化も、この流れを後押しする。
この環境変化の中で生き残るために必要なのは、「顧客がオンライン上で何を見て、何を判断しているのか」を正確に理解し、その期待に応える体制を構築することだ。
本記事で提示したチェックリストは、その第一歩となる。すべてを一度に実現する必要はない。まずは自社の現状を客観的に評価し、優先順位をつけて改善を進めていくことが重要だ。
そして、自社だけでは実現が難しいと感じたなら、フランチャイズ加盟という選択肢を真剣に検討する価値がある。システム、ノウハウ、ブランド力──これらを活用することで、顧客の「問合せリスト」に入る確率を大きく高めることができる。
静かに進行する選別の波に飲み込まれるか、それとも選ばれる企業として生き残るか。その分岐点に、あなたの会社は今、立っている。
【まとめ】
- 顧客が問合せる不動産会社数は平均2.1社と過去10年で最少。問合せ前の事前選別が厳格化している
- 選別を通過するには「写真・動画の充実」「情報の透明性」「掲載物件数」「ビジュアル品質」「レスポンス速度」が鍵
- 最新かつ正確な物件情報の提供が、信頼獲得の生命線となっている
- FC加盟によるシステム・ノウハウ・ブランド力の活用が、中小事業者の競争力強化の有効な選択肢
問合せが来ないのは、物件のせいではない。顧客があなたの会社を「選別」しているからだ。その選別を通過するための行動を、今すぐ始めよう。