「比較される前に選ばれる」時代が来た――問い合わせ社数2.2社の衝撃と、これから勝ち残る不動産仲介店の条件

顧客は、あなたの店に問い合わせる前に、すでに”答え”を出している――。2024年の最新調査で明らかになったのは、不動産を契約した人が検討時に問い合わせた不動産会社数が平均わずか2.2社という衝撃的な事実だ。しかも「1社のみ」に問い合わせた人の割合は過去10年で最高を記録している。これは何を意味するのか。比較検討という名のプロセスが、店舗に足を運ぶ前、問い合わせボタンを押す前に、すでに完結しているということだ。顧客が最初から1社に絞る時代において、不動産仲介業者に求められるのは「比較される力」ではなく「比較される前に選ばれる力」である。本記事では、最新データから読み解く消費者行動の変化と、指名検索されるブランドになるための具体的戦略を提示する。

「5社以上に問い合わせる時代」は終わった――データが示す決定的な変化

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が2024年に実施した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」は、不動産業界に衝撃を与える結果を示した。物件を契約した人が検討時に問い合わせた不動産会社数は平均2.2社。これは前年比0.1社減であり、直近10年で最少の数字だ。

さらに注目すべきは、賃貸・売買ともに「1社」のみに問い合わせた人の割合が過去10年で最も高くなっている点である。賃貸では36.7%、売買では47.9%の人が、たった1社にしか問い合わせていない。一方で「5社以上」に問い合わせる人の割合は賃貸で最低となっており、問い合わせをする不動産会社をあらかじめ絞る傾向が鮮明になっている。

問い合わせた物件数についても同様の傾向が見られる。平均8.9物件と前年比1.0物件減少し、こちらも直近10年で最少を記録した。「候補物件を絞り込んでいる様子がうかがえる」と調査レポートは分析している。

これらのデータが物語るのは、明確な事実だ。顧客は、あなたに連絡する前に、すでに決めている。


比較検討はオンラインで完結している――見えない戦場で勝負は決まる

従来の不動産仲介ビジネスモデルでは、「まず問い合わせてもらい、来店してもらい、接客で差別化する」というプロセスが当たり前だった。しかし、デジタル時代の顧客行動は根本的に変化している。

顧客は大手不動産ポータルサイトや各社のホームページを通じて、膨大な情報を収集し、比較し、評価する。写真の枚数、動画の有無、物件のウィークポイントの開示状況、口コミ情報――すべてをスクリーン越しに精査し、「この会社なら信頼できる」と判断した1〜2社にだけ問い合わせる。

同調査によれば、不動産会社を選ぶ時のポイントとして「写真の点数が多い」がトップに挙げられ、「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」も賃貸で5位、売買で3位にランクインしている。一方で「店舗がアクセスしやすい場所にある」は賃貸で前年比7.5ポイント減、売買で同8.5ポイント減と大幅に減少した。

つまり、店舗立地よりも情報の質と量が重視される時代になったのだ。顧客は、あなたの店舗に足を運ぶ前に、オンライン上であなたを評価し、選別している。問い合わせや来店という「見える接点」の前に、「見えない戦場」が存在し、そこで勝負の大半は決まっている。


「指名検索される会社」だけが生き残る――ブランド構築の重要性

問い合わせ社数が2.2社という時代において、不動産仲介業者が直面している現実は厳しい。あなたの会社が選ばれる確率は、単純計算で2分の1以下だ。しかも、その2社に入れなければ、どれだけ優れた接客力を持っていても、勝負の土俵にすら立てない。

ここで重要になるのが「指名検索」の概念である。指名検索とは、顧客が特定のブランド名や会社名で検索する行動を指す。「渋谷 賃貸」ではなく「〇〇不動産 渋谷」と検索されること。これは、顧客があなたの会社を最初から選択肢に入れている証拠だ。

指名検索される会社になるためには、何が必要か。それは一朝一夕には構築できない「ブランド力」である。ブランド力とは、単なる知名度ではない。「この会社は信頼できる」「ここなら良い物件を紹介してくれる」「対応が丁寧だ」といった好意的な認知の蓄積である。

大手ブランドに加盟することは、この「ブランド力」を短期間で獲得する最も効率的な手段のひとつだ。特にフランチャイズモデルは、全国規模で認知された看板と、磨き上げられた仕組みを活用できる。


オンラインで選ばれるための5つの戦略

では、具体的にどうすれば「比較される前に選ばれる」会社になれるのか。以下、5つの戦略を提示する。

1. 情報の質と量で圧倒する

前述の通り、顧客は情報の充実度で会社を選ぶ。写真は最低でも20枚以上、できれば30枚以上掲載する。動画コンテンツも必須だ。室内動画、周辺環境動画、担当者による物件紹介動画など、多角的に情報を提供する。また、物件のウィークポイントも正直に開示することで、信頼性が高まる。「大通りに面しているため騒音があります」といった情報は、隠すよりも開示したほうが誠実さが伝わる。

2. 口コミとレビューを積極的に活用する

同調査では「不動産会社に対する口コミ情報」が新設選択肢として追加され、全体で5.6%の人が会社選びのポイントとして挙げている。Googleマイビジネスや各種レビューサイトでの評価を高めることは、もはや必須だ。満足した顧客にレビュー投稿を依頼するプロセスを仕組み化しよう。

3. レスポンス速度を武器にする

調査結果では、不動産会社の対応で満足だったこととして「レスポンスが早かった」が賃貸69.5%、売買74.7%でトップとなっている。一方で、不満だったこととして「問合せをしたら返答が遅かった」が賃貸17.4%、売買14.7%で上位にランクインしている。問い合わせへの迅速な対応は、もはや差別化要因ではなく必須条件だ。理想は30分以内、遅くとも2時間以内の初回返信を目指したい。

4. デジタルマーケティングの強化

SEO対策、リスティング広告、SNS運用――デジタルマーケティングの手法は多岐にわたる。特に地域名×サービス名での検索上位表示は重要だ。「新宿 賃貸 仲介手数料無料」といった複合キーワードでの上位表示を目指す。また、Instagram や YouTube での情報発信も、若年層へのリーチに効果的だ。

5. 最新かつ正確な物件情報の提供

同調査によれば、不動産会社に求めるものとして「正確な物件情報の提供」が3年連続で増加し、「最新の物件情報の提供」も賃貸・売買ともに10ポイント超の増加となっている。情報の鮮度と正確性は、信頼の基盤だ。物件情報の更新頻度を高め、「おとり広告」と疑われるような古い情報は即座に削除する運用体制を整えよう。


フランチャイズ加盟という選択肢――仕組みとブランドを手に入れる

ここまで述べてきた戦略を、中小規模の不動産仲介業者が独力で実現するのは容易ではない。デジタルマーケティングの専門知識、高品質なコンテンツ制作、システム投資――すべてに時間とコストがかかる。

そこで注目すべきなのが、実績あるフランチャイズへの加盟だ。フランチャイズモデルの最大の利点は、「すでに確立されたブランド力」と「磨き上げられた仕組み」を活用できる点にある。

全国規模で展開するブランドに加盟すれば、そのブランド名での指名検索を獲得できる。テレビCMやWeb広告で認知されたブランド名は、それだけで顧客の信頼を得やすい。また、本部が開発した集客ツール、業務システム、研修プログラムなどを利用することで、効率的に事業を拡大できる。

特に、デジタル時代に対応した仕組みを持つフランチャイズ本部であれば、最新の集客手法やマーケティングノウハウを共有してもらえる。これは、独立店舗が独自に構築するよりも、はるかに短期間で成果を出せる。

加盟店オーナーは、本部の看板とシステムを活用しながら、地域密着の強みを発揮できる。全国ブランドの信頼性と、地元ならではのきめ細やかなサービスを両立させることが、現代の不動産仲介ビジネスにおける理想形と言えるだろう。


「選ばれる理由」を明確に持つ企業だけが未来を掴む

不動産情報サイトの充実、スマートフォンの普及、口コミ文化の定着――これらすべてが、顧客の意思決定プロセスを変えた。顧客は、あなたに会う前に、すでに多くのことを知っている。そして、多くのことを決めている。

平均問い合わせ社数2.2社という数字は、業界全体に突きつけられた現実だ。比較される時代から、比較される前に選ばれる時代へ。この転換点を理解し、適応できる企業だけが、今後も成長を続けられる。

情報の質、レスポンスの速さ、ブランドの信頼性、デジタル戦略――これらすべてを高いレベルで実現することが求められている。それは決して容易な道ではないが、正しい戦略と適切なパートナーシップがあれば、実現可能だ。

顧客が最初から1社に絞る時代において、あなたの会社は「その1社」に選ばれているだろうか。もし答えが「No」なら、今すぐ変革を始める時だ。待っているだけでは、顧客はやって来ない。オンラインという見えない戦場で、今日から戦いを始めよう。


【この記事のポイント】

  • 2024年調査:問い合わせ社数は平均2.2社、1社のみが過去10年で最高
  • 比較検討はオンラインで完結、問い合わせ前に勝負は決まっている
  • 指名検索されるブランド力が生き残りの鍵
  • 情報の質・量、レスポンス速度、口コミ評価が重要
  • フランチャイズ加盟で確立されたブランドと仕組みを活用する選択肢も