同じ物件なのに選ばれる不動産会社・選ばれない会社。決定的な違いは「情報の見せ方」にあった

「あれ、この物件、別のサイトでも見た気がする」——。
物件を探すユーザーが、同じ物件情報を複数の不動産会社で目にする光景は、もはや日常となった。レインズやATBB、大手不動産ポータルサイトの普及により、物件情報の共有化が進む中、不動産賃貸仲介業界は新たな競争フェーズに突入している。
問題は、同じ物件を掲載しているにもかかわらず、問い合わせが集中する会社と、まったく反応がない会社に二極化していることだ。この差を生み出しているのは、立地でも価格でもない。「情報の見せ方」という、意外にもシンプルな要素なのである。
2024年10月に公表された不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の最新調査データは、この現象を裏付ける興味深い事実を明らかにした。本記事では、実際のデータに基づき、同じ物件でも選ばれるための具体的な差別化ポイントを解説する。
ユーザーの行動が変わった——「絞り込み」時代の到来
問い合わせ数は過去10年で最少に
不動産情報サイト事業者連絡協議会の調査によると、物件を契約した人が検討時に問い合わせた不動産会社数は平均2.4社で、前年比0.2社減少。問い合わせた物件数も平均7.0物件と前年比1.4物件減少し、いずれも直近10年で最少となった。
この数字が意味するのは、ユーザーが「とりあえず複数の会社に問い合わせてみよう」という行動から、「この会社なら信頼できそう」と判断してから問い合わせる行動へとシフトしていることだ。
賃貸では、問い合わせた不動産会社が「1社」だけという回答が36.7%に達し、過去最高の割合となった。売買でも「1社」は19.8%で増加傾向にある。つまり、ユーザーは事前に情報を十分に吟味し、候補を絞り込んでから行動しているのだ。
検討期間の短縮化も進行
さらに注目すべきは、住まい探しから契約までの期間だ。賃貸・売買ともに2週間未満の割合が直近10年で最も高くなった。特に、慎重に検討する傾向が強い売買でも22.5%と高い割合に達している。
これらのデータが示すのは、「ユーザーは短期間で意思決定をするが、その前の情報収集・比較検討段階で既に勝負は決まっている」という現実である。
選ばれる決定打は「写真の点数」——圧倒的な1位の理由
写真の点数が多い:72.1%が重視
同調査で「問合せや訪問を行う際に不動産会社を選ぶ時のポイント」を尋ねたところ、「写真の点数が多い」が72.1%でトップとなった。この項目は、「特にポイントとなる点」でも39.8%で1位となり、いずれも前年より高い割合を記録している。
つまり、同じ物件を複数の会社が掲載していた場合、写真の点数が多い会社が選ばれるという明確な傾向があるのだ。
なぜ写真の点数が重要なのか
ユーザー心理を考えれば、この結果は自然だ。物件探しは、人生における大きな決断のひとつ。できるだけ多くの情報を得て、納得した上で問い合わせたいと考えるのは当然である。
写真が5枚しかない物件情報と、30枚ある物件情報では、ユーザーが抱く印象はまったく異なる。写真が多ければ、それだけ物件の全体像を把握しやすく、「この会社は丁寧に物件を紹介してくれている」という信頼感にもつながる。
実際、物件情報サイトで必要だと思う情報を尋ねた設問では、「リビング/ダイニングの写真」が最も高く、続いて「キッチンの写真」「バスの写真」「トイレの写真」などが上位にランクインしている。ユーザーは、各部屋の細部まで確認したいと考えているのだ。
写真の見栄えも見逃せない要素
「写真の見栄えがよい」という項目も24.1%がポイントとして挙げている。ただし、「特にポイント」では6.9%と比較的低く、写真の点数ほどの決定打にはならないことがわかる。
これは、見栄えの良い写真よりも、「多様な角度・箇所から撮影された豊富な写真」の方が重視されることを意味する。過度な加工や演出よりも、ありのままの姿を多く見せることが、ユーザーの信頼を獲得するカギとなる。
動画コンテンツの台頭——「部屋の雰囲気」を伝える新手法
動画付き物件は前年から順位上昇
「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」という項目は、全体で32.6%が重視すると回答。賃貸では前年7位から5位に上昇した。売買では3年連続で増加し、前々年比では9.7ポイント増となっている。
動画は、写真では伝わりにくい「空間の広がり」や「採光の状態」「実際の生活動線」などを直感的に理解してもらえる強力なツールだ。
動画活用のポイント
効果的な動画活用には、以下のようなポイントがある:
- 玄関から各部屋への動線を撮影:実際に住んだときのイメージが湧きやすい
- 窓からの眺望や採光の様子:写真では伝わりにくい明るさや開放感を表現
- 収納スペースの内部:クローゼットや収納の奥行き・広さは動画が有効
- 共用部分の雰囲気:マンションの場合、エントランスや廊下の清潔感を伝える
動画の長さは1〜2分程度が理想的だ。長すぎるとユーザーが途中で離脱してしまうため、重要なポイントを簡潔に押さえた構成が求められる。
正直さが信頼を生む——ネガティブ情報の開示という差別化
物件のウィークポイント開示:35.1%が重視
意外にも高い数値を記録したのが、「物件のウィークポイントも書かれている(鉄塔が近い、大通りに面している等)」という項目で、35.1%が重視すると回答した。
これは、ユーザーが単に良い情報だけを求めているのではなく、物件の全体像を正確に把握したいと考えていることを示している。
ネガティブ情報開示の効果
ネガティブ情報を開示することには、以下のようなメリットがある:
- ミスマッチの防止:内見後に「聞いていなかった」というトラブルを回避できる
- 信頼性の向上:正直に情報提供する姿勢が、会社への信頼につながる
- 問い合わせの質の向上:デメリットを理解した上で問い合わせるため、成約率が高まる
例えば、「1階のため防犯面に注意が必要ですが、専用庭が使えます」「線路沿いのため多少の音がありますが、駅徒歩1分の好立地」など、デメリットとメリットをセットで伝えることで、ユーザーは総合的な判断ができる。
店舗の利便性より情報の質——変化する選択基準
店舗立地の重要性が低下
興味深いことに、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という項目は、賃貸が前年比6.0ポイント減、売買が同9.7ポイント減となった。
これは、IT重説やオンライン接客など、非対面型の接客が浸透していることも一因だが、それ以上に**「店舗の立地より、物件情報の質を重視する」**というユーザーの意識変化を反映している。
地域密着とオンライン対応の両立
もちろん、地域に根ざした営業活動は今後も重要だ。しかし、それ以上に、オンライン上での「情報発信力」が競争力を左右する時代になったといえる。
店舗に足を運んでもらう前に、ウェブ上で「この会社は信頼できる」と思ってもらえるかどうか。そのための武器が、充実した写真、動画、そして正直な物件情報の開示なのである。
今すぐ実践できる差別化戦略——5つのアクションプラン
ここまで見てきたデータを踏まえ、不動産賃貸仲介業者が今すぐ実践できる差別化戦略をまとめる。
1. 写真撮影の徹底——最低20枚以上を目標に
同じ物件でも、写真5枚と30枚では選ばれる確率が大きく変わる。以下の箇所は必ず撮影しよう:
- 玄関、廊下、各居室(複数アングル)
- キッチン(シンク、コンロ、収納)
- バスルーム、トイレ、洗面所
- バルコニーからの眺望
- 収納スペースの内部
- 建物外観、エントランス、共用部分
- 周辺環境(最寄り駅、スーパー、公園など)
2. 動画コンテンツの導入——スマホ撮影でOK
専門的な機材は不要だ。スマートフォンでも十分に効果的な動画が撮れる。
- 横向き撮影で安定した映像を
- 玄関から各部屋への動線を自然に撮影
- ナレーションは簡潔に、または無音でも可
- 1〜2分程度にまとめる
3. ネガティブ情報の適切な開示
隠すのではなく、先に伝える。その上で、そのデメリットをカバーするメリットも併記する。
例:
- 「築30年ですが、昨年リノベーション済み。水回りは新品同様です」
- 「2階ですが、エレベーター付きでご年配の方も安心」
- 「駅徒歩15分ですが、静かな住宅街で駐車場1台込み」
4. 担当者コメントの充実
物件情報に担当者の一言コメントを加えることで、人間味が生まれ、差別化につながる。
例:
- 「内見した際、南向きの明るさに驚きました!」
- 「近くのスーパーは23時まで営業で便利です」
- 「ペット可物件をお探しの方におすすめです」
5. 情報の鮮度管理——こまめな更新
「情報が古いかもしれない」と思われた瞬間、ユーザーは他社に流れる。
- 成約済み物件の速やかな削除
- 価格変更や設備追加の即座反映
- 新着物件の迅速な掲載
レスポンスの速さが成約を左右する
調査では、不動産会社の対応で満足だった点として、「問合せに対するレスポンスが早かった」が賃貸で69.5%、売買で74.7%と最も高い結果となった。
一方、不満だった点では、賃貸で「その物件はもうない」と言われた(22.2%)、「問合せをしたら返答が遅かった」(17.4%)が上位にランクイン。
つまり、どれだけ良質な情報を発信していても、問い合わせへの対応が遅ければ意味がないのだ。
レスポンス向上のための工夫
- 自動返信メールで即座に受付確認
- 担当者不在時のフォロー体制構築
- 営業時間外の問い合わせへの翌朝対応ルール化
- チャットツールでの迅速なコミュニケーション
フランチャイズ加盟という選択肢——システムとノウハウの活用
ここまで述べてきた差別化戦略を個店で実践するのは、時間的にも人的にも負担が大きい。そこで選択肢となるのが、ノウハウとシステムを持つフランチャイズ本部への加盟である。
フランチャイズ加盟のメリット
大手フランチャイズに加盟することで、以下のような支援が受けられる:
- ブランド力による集客力向上:認知度のあるブランドは、ユーザーの信頼を得やすい
- 業務システムの提供:顧客管理、契約管理、コンバータなど、効率化ツールが利用可能
- ノウハウの共有:成功事例や効果的な運営手法を学べる
- 業務提携先の紹介:反響送客や法人営業支援など、多様な収益機会
- コスト削減:システム利用料がロイヤリティに含まれるケースも
特に、直営店で培われたノウハウを共有してもらえる点は大きい。どのような物件情報の見せ方が効果的か、どのような接客が成約につながるか——こうした実践的な知見を得られることは、独立経営では得難いメリットだ。
まとめ——「同じ物件」でも選ばれる会社になるために
不動産賃貸仲介業界は、物件情報の共有化により、表面的には「どの会社も同じ物件を扱っている」状況になった。しかし、だからこそ、情報の見せ方という差別化要素が、これまで以上に重要になっている。
本記事で紹介したデータが示すのは、以下の事実だ:
- ユーザーは事前に情報を吟味し、候補を絞り込んでから問い合わせる
- 選ばれる最大の要因は「写真の点数」で、72.1%が重視
- 動画コンテンツへのニーズが年々高まっている
- ネガティブ情報の開示が、かえって信頼につながる
- 店舗の立地より、情報の質が重視される時代に
- レスポンスの速さが成約を左右する
これらの要素を実践することで、同じ物件を扱っていても、「この会社から借りたい(買いたい)」と思ってもらえる確率は飛躍的に高まる。
重要なのは、完璧を目指すことではなく、今日から一歩ずつ改善することだ。まずは写真を5枚増やす、担当者コメントを1行追加する、問い合わせへの返信を30分早くする——。小さな積み重ねが、やがて大きな差別化につながる。
物件情報の共有化が進む時代だからこそ、「情報の見せ方」という人の手が介在する部分に、競争力の源泉がある。この事実を理解し、実践する会社こそが、これからの不動産賃貸仲介業界で選ばれ続けるのである。