「この人から借りたい」と思わせる、担当者のパーソナルブランディング術

「どこで借りるか」ではなく「この人から借りたい」——そんな顧客の指名を受ける営業担当者の存在を、ご存知ですか?

不動産賃貸仲介業界では、大手不動産ポータルサイトの登場により、物件検索の一元化が進みました。一方で、2024年の調査によると、物件契約に至った顧客が検討時に問合せした不動産会社は平均1.7社、物件数も平均6.1物件と、直近10年で最も少なくなっています。つまり、顧客は契約前にすでに「この会社」「この人」を絞り込んでいるということです。

そこで勝負を分けるのが、担当者個人の専門性と人柄をどう発信するか——すなわち、「パーソナルブランディング」です。SNSやブログを活用し、自分の知識や経験を可視化することで、顧客からの指名が増え、営業成績が向上する新しい営業スタイルが注目されています。

本記事では、不動産営業担当者が実践できるパーソナルブランディング戦略を、実例と共に紹介します。


第1章 顧客の行動が変わった——数字が語る営業環境の変化

不動産業界の営業環境は、ここ数年で大きく変わりました。

かつては、複数の不動産会社に問い合わせて比較検討するのが一般的でした。ところが、最新の調査データから驚くべき事実が浮き彫りになりました。物件契約者の平均問合せ先は、賃貸で1.9社、売買で1.5社。さらに問合せた物件数も、賃貸で6.4物件、売買で3.7物件と、どちらも直近10年で最少を更新しているのです。

何を意味するのか?答えは明白です。顧客はオンラインで情報を精査した時点で、すでに「この会社なら信頼できる」という判断を下しているということです。つまり、店舗に足を運ぶ前に、その会社と担当者の信頼度がほぼ決まっているのです。

この変化は、営業担当者にとって新たなチャンスです。自分を知ってもらえる仕組みをつくることで、顧客からの問い合わせは劇的に増える可能性があります。


第2章 顧客が重視する「3つの対応品質」——満足と信頼の源泉

では、顧客はどのような基準で担当者や会社を選んでいるのか?

調査によると、不動産会社への対応で「満足」と答えた顧客の理由として、以下の3つが圧倒的に高い割合を占めています。

第1位:問合せへの対応の速さ(69.5%)

顧客にとって、スピーディーな対応は「真摯さ」の証です。24時間以内の返信、営業時間外の電話対応——こうした小さな工夫が、顧客心理に大きなインパクトを与えます。

第2位:内見対応の丁寧さ(53.9%)

物件案内の際の説明の分かりやすさ、質問への柔軟な対応、顧客のペースに合わせた案内など、対面時の質がそのまま評価につながります。

第3位:言葉遣いや態度の丁寧さ(47.9%)

敬語の正確性、相手の話を最後まで聞く姿勢、複雑な不動産用語を平易に説明する能力など、コミュニケーション品質が信頼を構築します。

逆に「不満」だったポイントを見ると、「返答が遅かった」「営業がしつこかった」など、対応品質の低さが顧客離れにつながっている実態が分かります。つまり、高い対応品質を維持しながら、その様子をオンラインで可視化できれば、顧客からの信頼と指名は自然と集まるのです。


第3章 パーソナルブランディングの本質——「ファン化」が営業成績を変える

パーソナルブランディングとは、自分という商品の価値を高める活動です。不動産営業の文脈では、以下の3つの要素で構成されます。

要素1:専門性の発信

物件の選び方、内見時の注目ポイント、地域情報、賃貸契約の基礎知識など、あなたが持つ知識を言語化して発信することで、「この人は頼りになる」というイメージが形成されます。

要素2:人柄の表現

仕事の哲学、失敗した時の対応、顧客との関係構築の工夫、日常のちょっとした気づきなど、素の情報を発信することで、「この人と付き合いたい」という感情が生まれます。

要素3:継続性の示唆

定期的な情報発信、新しい知識のアップデート、顧客からの相談への丁寧な回答など、長期的に信頼を積み重ねることで、一過性の接触から「生涯の相談相手」への関係性が深化します。

これら3つの要素が揃った時、顧客は単なる「取引先」から「ファン」へと変わります。そしてファンは、あなたを他人に紹介してくれる営業アシスタントになるのです。


第4章 SNS活用戦略——日々の発信で信頼資産を積み重ねる

では、具体的にどうやって実践するのか?最も効果的な手段が、SNS発信です。

Instagram・X(旧Twitter)での発信パターン

パターンA:物件情報の深掘り解説
大手不動産ポータルサイトに掲載されている情報だけでは分からない、その物件の魅力を掘り下げた投稿。例えば、角部屋のメリット・デメリット、日当たりが悪い物件の活用法、壁の色選びのコツなど。これにより「この人の物件情報は違う」という差別化が生まれます。

パターンB:地域情報の提供
最近できた飲食店、穴場の公園、通勤路のおすすめスポット、季節ごとの地域イベント情報など、地元ならではの情報発信。新しく引っ越してくる顧客にとって、これは非常に重宝されます。

パターンC:営業体験の共有
今日出会った顧客の悩み(実名は出さずに)、その解決過程、業界あるあるネタなど。こうした「人間味のある発信」は、フォロワーとの距離を近づけます。

パターンD:業界知識のアップデート
不動産税制の変更、新しい住宅ローン商品、省エネ物件の重要性など、最新の業界情報を噛み砕いて説明。「この人はいつも最新情報を持っている」という信頼が積み重なります。

投稿頻度の目安

毎日投稿は不要です。週3~5回の定期投稿を心がければ、十分にフォロワーの目に留まり続けます。重要なのは「継続性」です。1ヶ月や3ヶ月の短期でなく、1年以上続けることで初めてブランドが形成されます。

フォロワー数よりも「エンゲージメント」

SNSの成功は、フォロワー数では測れません。いいねやコメント、シェアの数、そしてその投稿がきっかけでの問い合わせ数こそが、本当の成果指標です。1000人のフォロワーより、100人の熱心な支持者の方が、営業成績に直結します。


第5章 ブログ発信戦略——SEO検索で見込み客を自動集客

SNS発信で即効性を狙うなら、ブログは「資産化」を狙った施策です。

ブログが向く情報タイプ

  • 「〇〇駅周辺の住みやすさ徹底解説」(3000~5000字の深堀り)
  • 「新社会人が初めての賃貸選びで失敗しないポイント」(実例ベース)
  • 「ペット可物件を探す時に知っておくべき契約上の注意点」(実務的な知識)

これらの情報は、Googleで検索されるキーワードです。ブログ記事として公開すれば、公開後も継続的に検索流入をもたらし、見込み客を自動集客してくれます。

ブログ発信のメリット

長期的な資産化
SNS投稿は時間とともに埋もれていきますが、ブログは半年後、1年後も検索流入をもたらします。100記事書けば、それは100本の営業パイプラインになるのです。

信頼度の向上
詳細で丁寧な解説記事を読んだ顧客は、「この人は真摯だ」と感じます。SNSより高い信頼を獲得できます。

営業資料としての活用
初回問い合わせ時に「こちらのブログ記事をご覧ください」と自分の記事を紹介することで、対面前の信頼構築ができます。

ブログ運営の現実的なペース

月1~2記事の頻度でも、年間12~24記事。3年続けば36~72記事となります。この程度の記事数でも、特定地域や物件タイプに特化すれば、十分に検索流入をもたらすようになります。


第6章 顧客満足度を「発信ネタ」に変える工夫

パーソナルブランディングの最大の難点は「毎日何を発信するのか」という、ネタの確保です。その解決策が、日々の営業活動そのものです。

感謝の声をコンテンツ化

顧客から「ありがとう」と言われた瞬間を思い出してください。その感謝の理由こそが、あなたの強みであり、発信すべき内容です。例えば:

  • 「急な転勤で焦っていたお客さんに、48時間で5件の候補物件を提案できた理由」
  • 「初めての一人暮らしで不安だったお客さんに、契約から入居後のトラブル対応まで全て案内した体験」

こうした実体験は、新しく物件を探す顧客にとって、最高の指南役になります。

顧客の「よくある質問」を記事化

毎日同じ質問を受けませんか?その質問こそが、多くの見込み客が抱えている悩みです。これをブログやSNSで先回りして答えておけば、顧客は「この人は自分のことを分かってくれている」と感じます。


第7章 言葉遣いと親しみやすさ——パーソナルブランディングの土台

ここで重要な注意点があります。パーソナルブランディングは、あくまで「プロとしての信頼」が前提です。

SNS時代だからといって、敬語を忘れたり、砕けすぎた表現をしたりするのは禁物です。調査で「満足」の上位に「言葉遣いや態度の丁寧さ」(47.9%)が挙がっているように、顧客は担当者の「プロ意識」を厳しく見ています。

推奨されるのは、以下のバランスです:

  • 公式投稿:敬語をベース。業界知識や物件情報を伝える時は、正確さを最優先
  • カジュアル投稿:「ですます調」で親しみやすく。仕事の工夫や日常のちょっとした気づきを。ただし、砕けすぎないレベル
  • コメント対応:フォロワーからの質問には、丁寧に一言一句返す。ここが「この人は親切だ」という評価につながる

この丁寧さの積み重ねが、やがて「この人ならどんなトラブルでも対応してくれる」という圧倒的な信頼を生み出すのです。


第8章 オンラインでの信頼が、オフラインの営業につながる

パーソナルブランディングの最終目的は、「初対面でも信頼から始まる営業」を実現することです。

従来の営業では、初回面談で信頼を0から積み重ねていました。しかし、SNSやブログで事前に情報を知っていれば、初対面時にはすでに信頼が7割方できているのです。

このアドバンテージは計り知れません。顧客は初回面談で「この人は本当に信頼できるのか」と疑う代わりに、「この人のどんな提案を受けるのか」という期待を持って、店舗に足を運びます。その結果、提案から成約までの期間は大幅に短縮され、営業成績は自然と上昇していくのです。


第9章 パーソナルブランディング成功の3つの条件

最後に、パーソナルブランディングを成功させるための必須条件をまとめます。

条件1:「素」の発信を織り交ぜる

完璧な情報発信だけでは、人間味が伝わりません。失敗した経験、悩んでいる姿勢、顧客への感謝の気持ちなど、素の感情を時々発信することで、フォロワーの「この人になら頼みたい」という感情が生まれます。

条件2:長期視点を持つ

SNS開設初月に100フォロワーなんて珍しくありません。その段階で「効果がない」と判断して辞めてしまう人が大多数です。しかし6ヶ月、1年と続けていれば、検索流入やリファレンスによるフォロワー増加は必ず起こります。

条件3:成約後のフォローを「発信」する

最後にして最大の差別化ポイントが、成約後のフォローです。多くの営業は成約後に関係を終わらせてしまいますが、プロはそこからが真の営業だと知っています。引越し後の顧客に「新居の様子はどうですか」とコンタクトを取り、その顧客の「新生活レポート」を発信する——これほど強力なコンテンツはありません。顧客は「自分の話が発信されている」という喜びを感じ、新たな顧客紹介へとつながるのです。


結論:不動産営業の未来は「指名」から始まる

不動産業界の営業環境は大きく変わりました。物件の数や質ではなく、「この人から借りたい」という顧客の指名が、営業成績を左右する時代がやってきたのです。

パーソナルブランディングは、その指名を獲得するための必須戦略です。SNS発信、ブログ執筆、顧客満足度の可視化——これらの小さな工夫の積み重ねが、やがて大きな営業資産になります。

今、業界内で成績を伸ばしている営業担当者の多くが、すでにこの戦略に気づき、実行を始めています。あなたも、今からでも遅くありません。まずは明日からSNSで1投稿、1年後にはあなたの成績は大きく変わっているはずです。

不動産賃貸仲介業で成功する担当者になるために、「個人ブランド」という新しい武器を手に入れてみませんか?