「もう無い物件」が顧客を遠ざける──正確な物件情報提供が仲介業の生命線となる理由

なぜ今、問合せの4件に1件が「その物件はもう無い」という回答で終わるのか

不動産賃貸仲介の現場で、こんな経験はないだろうか。顧客から物件についての問合せがあり、確認したところ「申し訳ございません、その物件は既に成約しております」と答えざるを得ない状況──。

2025年10月に発表された不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の最新調査によると、不動産会社の対応で「不満だったこと」の上位に「問合せをしたら、その物件はもう無いと言われた」という回答が常にランクインしている。これは単なるタイミングの問題ではない。物件情報の正確性と鮮度管理が、不動産仲介業における信頼構築の最重要課題となっていることを示す、明確なシグナルなのだ。

本稿では、物件情報の正確性がなぜビジネスの根幹を揺るがす問題なのか、そして業界全体が直面する課題をどう克服すべきかを、最新データと実践的な解決策とともに考察する。


データが示す厳しい現実:顧客が不動産会社に求める「最低限の条件」

正確な物件情報は「付加価値」ではなく「必須要件」

RSCの調査データ(P13)から浮かび上がるのは、顧客の期待値の高まりだ。不動産会社に求めるもののうち、「正確な物件情報の提供」は全体で60.5%、特に重要なものとしても18.1%が挙げており、業界にとって避けられない基本要件となっている。

注目すべきは、この数字が「親切・丁寧な対応」(70.8%)に次ぐ第2位に位置していることだ。接客態度と同等レベルで、情報の正確性が重視されているのである。

さらに興味深いのは賃貸と売買の違いである。賃貸契約者では「正確な物件情報の提供」を特に重要視する割合が22.2%であるのに対し、売買契約者では12.7%にとどまる。一見すると売買の方が情報精度への要求が低いように見えるが、これは誤解だ。売買では「物件に対する丁寧な説明」(特に重要17.5%)や「周辺地域情報の提供」(特に重要11.1%)など、より包括的な情報提供が求められており、正確性は大前提として織り込まれていると解釈すべきだろう。

不満の本質:「もう無い物件」がもたらす信頼の喪失

同調査のP14では、不動産会社の対応で不満だったこととして以下が上位に挙げられている:

  1. 言葉遣いや対応が気に障った(18.8%)
  2. 問合せをしたら、「その物件はもう無い」と言われた(18.1%)
  3. 問合せへの回答が的を射ていなかった(17.4%)

ここで重要なのは、2位の「もう無い」という回答が、単なる情報の古さだけでなく、顧客の時間と期待を裏切る行為として認識されている点だ。顧客は物件を探すプロセスにおいて、限られた時間の中で真剣に検討している。その貴重な時間を「実は存在しない物件」に費やさせることは、顧客体験を著しく損なう。

賃貸では「問合せをしたら、その物件はもう無いと言われた」が不満の第2位(17.0%)、売買では第6位(9.5%)となっている。賃貸市場の回転の速さを考慮しても、この数字は決して看過できない水準だ。


なぜ物件情報の正確性が失われるのか:業界構造に潜む3つの落とし穴

1. 情報更新の時間差問題

大手不動産ポータルサイトへの掲載情報は、通常、不動産会社のシステムから一定の時間差を経て反映される。成約済みの物件情報を即座に削除しても、ポータルサイト上では数時間から1日程度表示され続けるケースも少なくない。

この構造的な時間差に加え、複数の広告媒体に物件を掲載している場合、すべてのメディアで同期的に情報を更新することは容易ではない。結果として、顧客が目にする情報と実際の在庫状況にズレが生じる。

2. 組織内コミュニケーションの欠如

複数のスタッフが同時に営業活動を行う店舗では、誰がどの物件を案内中なのか、どの物件が商談中なのかといった情報共有が不十分になりがちだ。朝一番にポータルサイトの情報を更新したとしても、午前中に別のスタッフが成約を決めた場合、その情報が即座に全員に共有されなければ、午後に問合せを受けた別のスタッフが「まだ空いています」と誤った案内をしてしまう。

3. 意図的な「釣り物件」の存在

業界の一部では、既に成約済みの好条件物件をあえて掲載し続け、問合せを獲得した後に「残念ながらその物件は成約しましたが、似た条件の物件があります」と別物件を案内する手法が存在する。いわゆる「釣り物件」「おとり物件」と呼ばれる手法だ。

短期的には問合せ件数を増やせるかもしれないが、このような手法は顧客の信頼を根本から損ない、長期的なブランド価値を毀損する。RSCの調査でも、「情報に虚偽があり信頼性に欠けた」という不満が9.0%存在することからも、この問題の深刻さがうかがえる。


正確な情報提供がもたらす3つの競争優位性

1. 顧客ロイヤルティの構築

正確な物件情報を一貫して提供することで、「この会社の情報は信頼できる」という評価が蓄積される。一度信頼を獲得した顧客は、次の住み替え時にも同じ会社に相談する可能性が高く、さらに友人や家族への紹介にもつながる。

RSCの調査では、不動産会社の対応で満足だったこととして「情報が正確で誠実な対応だった」が9.0%挙げられている。この数字は決して高くないが、逆に言えば、正確な情報提供を徹底することで競合との差別化が可能になることを示唆している。

2. 業務効率の向上

物件情報が正確であれば、「もう無い」という回答で終わる無駄な問合せ対応が減少する。スタッフの時間とエネルギーを、本当に成約可能性のある顧客対応に集中できるようになり、結果として成約率の向上と人件費の効率化が実現する。

3. ブランド評判の向上

口コミやSNSが発達した現代において、顧客体験の質は瞬時に拡散される。「問合せた物件が全部無かった」というネガティブな体験は、オンラインレビューや口コミサイトに即座に投稿される可能性がある。

一方、「この会社の情報は常に正確で、無駄な時間を使わされなかった」というポジティブな体験は、地域における評判資産として蓄積され、新規顧客の獲得コストを大幅に削減する。


実践:物件情報の正確性を担保する5つの具体的手法

手法1:リアルタイム在庫管理システムの導入

最新の不動産テック企業が提供する基幹システムを活用することで、物件の状態(空室・商談中・成約済み)をリアルタイムで管理できる。複数のスタッフが同時にアクセスしても、常に最新の情報が共有される仕組みを構築することが第一歩だ。

特に重要なのは、システムと広告媒体の連携だ。物件が成約した瞬間に、すべての掲載メディアで自動的に非公開になる仕組みを整えることで、情報の時間差を最小化できる。

手法2:朝礼・夕礼での情報共有の徹底

システムだけに頼らず、人的なコミュニケーションも重要だ。毎朝の朝礼で前日の成約物件を確認し、夕礼ではその日の商談進捗を共有する。特に、「明日成約見込み」の物件については、問合せ対応時に「現在商談中です」と正確に伝えられるようにする。

手法3:問合せ対応時の「即座確認」ルール

電話やメールで問合せを受けた際、「確認してご連絡します」という対応を基本とする。「空いています」と即答するのではなく、必ずシステムで最新状況を確認してから回答する文化を組織内に定着させる。

数分の確認時間が、顧客に誤った情報を伝えるリスクを大幅に減らす。

手法4:定期的な広告媒体チェック

週に1度、すべての広告媒体(ポータルサイト、自社ホームページ、SNS等)を巡回し、掲載中の物件が実際に空室であるかを確認する。特に、成約から時間が経過している物件については、手動でもダブルチェックする体制を整える。

手法5:顧客フィードバックの活用

問合せや内見後に簡単なアンケートを実施し、「掲載されていた物件情報は正確でしたか?」という質問を含める。もし「いいえ」という回答があった場合は、すぐに原因を特定し、再発防止策を講じる。

顧客の声を直接聞くことで、自社の盲点を発見できる。


ハウスコムFCが提供する「正確性を担保する仕組み」

大手不動産テック企業の基幹システムを標準装備

ハウスコムフランチャイズでは、加盟店に対して大手不動産テック企業の基幹システム(コンバータ・顧客管理・契約管理)を提供している。これらのシステムは、物件情報の一元管理とリアルタイム更新を可能にし、情報の正確性を担保する基盤となる。

重要なのは、これらのシステム利用料がロイヤリティに含まれている点だ。個別に導入すれば高額になるシステムを、加盟店は追加費用なしで利用できる。これは中小規模の仲介業者にとって、大きなコスト面でのメリットとなる。

25年以上のノウハウを結集したベストプラクティス

ハウスコムは1998年の設立以来、賃貸仲介業をコア事業とし、約200店舗の直営店を展開してきた。この過程で蓄積された「正確な情報管理のノウハウ」が、加盟店向けのベンチマークセミナーを通じて共有される。

単なる理論ではなく、実際の現場で機能した具体的な手法を学べることは、加盟店にとって即効性のある価値となる。

本部による定期巡回サポート

ハウスコムFC本部のスタッフが定期的に加盟店を巡回(リアル・オンライン)し、運営上の課題をヒアリングする。物件情報の管理体制についても、第三者の視点からアドバイスを受けることで、自社だけでは気づかない改善点を発見できる。


業界全体の信頼向上に向けて:一社の努力が業界を変える

物件情報の正確性は、個別の不動産会社だけの問題ではない。業界全体の信頼性に関わる構造的課題だ。

RSCの調査で「不動産情報サイト」が情報の鮮度や正確性で最も信頼できる情報源として42.1%の支持を集めている一方で、「不動産会社の自社ホームページ」は23.1%にとどまっている(P11)。これは、個別の不動産会社への信頼がまだ十分に確立されていないことを示している。

しかし、見方を変えれば、これは大きなチャンスでもある。正確な情報提供を徹底し、顧客満足度を高めることで、自社のブランド価値を飛躍的に向上させる余地が残されているのだ。

長期的視点での投資

物件情報の正確性を担保するシステムや体制の構築には、初期投資と継続的な運用コストがかかる。しかし、これは短期的なコストではなく、長期的な信頼資産への投資として位置づけるべきだ。

一度失った顧客の信頼を取り戻すには、獲得時の何倍ものコストがかかる。最初から正確な情報を提供し、顧客に無駄な時間を使わせない姿勢を貫くことが、最も効率的な経営戦略となる。


まとめ:正確性こそが仲介業の「生存戦略」

不動産賃貸仲介業において、物件情報の正確性は単なる「あった方が良いもの」ではない。それは事業継続の生命線であり、競合との差別化要因であり、長期的な成長を支える基盤なのだ。

RSCの調査データが示すように、顧客は「正確な物件情報の提供」を不動産会社に求める最重要項目の一つとして挙げている。「もう無い物件」への問合せで顧客の時間を奪うことは、もはや許されない時代になった。

正確な情報管理のためには、システムへの投資、組織文化の醸成、そして日々の地道な運用が必要だ。しかし、この努力は必ず成果として返ってくる。顧客ロイヤルティの向上、業務効率の改善、ブランド評判の向上という形で。

ハウスコムFCは、こうした正確性担保の仕組みをシステム面・ノウハウ面の両方から支援している。単独では困難な投資やノウハウ獲得を、フランチャイズネットワークの力でサポートする体制が整っている。

**物件情報の正確性に真剣に向き合う企業だけが、これからの不動産仲介市場で生き残り、成長していける。**それが、2025年の不動産業界における明確な現実なのだ。


【参考資料】

  • 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」2025年10月発表