顧客の67.6%が求める「治安情報」――不動産仲介業者が知るべき正確な提供手法と差別化戦略

物件情報だけでは選ばれない時代が到来している

不動産賃貸仲介の現場で、こんな経験はないだろうか。条件にぴったり合う物件を紹介したにもかかわらず、顧客が最後の一歩を踏み出せない。価格も立地も申し分ないはずなのに、契約に至らない。その理由の多くは、物件そのものではなく「周辺環境への不安」にある。

2025年10月に公表された不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の最新調査が、この仮説を裏付ける明確なデータを示している。物件契約者144名を対象とした調査において、「物件情報以外に必要だと思う情報」として67.6%が「治安情報」を挙げた。これは調査項目の中で最も高い数値であり、直近3年間で最高値を記録している。

不動産業界が長年培ってきた物件紹介のノウハウだけでは、もはや顧客満足度を満たせない。物件外情報、特に治安情報の提供力こそが、成約率を左右する時代に突入しているのだ。本稿では、なぜ治安情報がこれほど重視されるのか、そして不動産仲介業者がどのように正確かつ効果的に提供すべきかを、実践的な視点から解説する。


なぜ治安情報が最重要なのか――データが示す3つの背景

1. 賃貸と売買で異なる関心度、しかし共通する不安

同調査を詳しく分析すると、興味深い傾向が浮かび上がる。治安情報への関心度は、賃貸契約者で66.0%、売買契約者で69.8%と、わずかな差はあるものの両者ともに6割を超えている。

賃貸では「駅の利便性」(68.8%)に次ぐ2位、売買では「地域の災害リスク」(69.8%)と同率でトップに位置する。賃貸契約者は短期的な生活の安全性を、売買契約者は長期的な資産価値の保全を意識していることがわかる。だが、いずれのケースにおいても「安心して暮らせる環境か」という根本的な問いに対する答えとして、治安情報が求められている。

2. 大手不動産ポータルサイトでは埋められない情報ギャップ

多くの顧客は、物件探しの初期段階で大手不動産ポータルサイトを利用する。しかし、これらのサイトが提供するのは、あくまで物件そのものの情報が中心だ。間取り、築年数、設備――こうした基本情報は網羅されているものの、「この街は夜道が暗くないか」「近隣に風俗店が密集していないか」といった生活実感に基づく情報は、ほとんど掲載されていない。

調査によれば、不動産会社に求めるものとして「丁寧・親切な対応」(71.5%)がトップだが、その内実は単なる接客態度ではない。顧客が本当に求めているのは、ポータルサイトでは得られない「リアルな地域情報」なのだ。特に土地勘のないエリアへの引越しを検討している顧客にとって、治安情報は意思決定の生命線となる。

3. SNS時代の口コミ文化が透明性への期待を高めている

不動産会社を選ぶ際のポイントとして、「不動産会社に対する口コミ情報」が前年比で増加傾向にあることも見逃せない。消費者は、企業が発信する一方的な情報よりも、実際の利用者や地域住民の声を重視するようになっている。

治安情報も同様だ。「この地域は安全です」という抽象的な説明ではなく、具体的な根拠――例えば犯罪発生率、警察署の配置、街灯の整備状況、地域コミュニティの活動実績など――が求められている。透明性の高い情報提供が、顧客からの信頼獲得に直結する時代なのである。


治安情報提供における3つの課題と解決策

課題1:どこまで伝えるべきか――情報の粒度に悩む現場

治安情報を提供しようとする際、多くの仲介業者が直面するのが「どこまで詳しく伝えるべきか」という問題だ。過度にネガティブな情報を伝えれば物件の魅力が損なわれ、逆に情報を隠せば後々のトラブルにつながる。このジレンマは、経験豊富な営業担当者でも悩ましい。

【実践的解決策】

最も有効なのは、「客観的データ」と「体感情報」を組み合わせて提示する手法だ。例えば、次のような情報構成が効果的である。

  • 犯罪統計データ:警察署が公開している犯罪発生マップや統計情報を活用し、エリア全体の治安状況を数値で示す
  • 時間帯別の街の雰囲気:実際に夜間や早朝に現地を訪れ、街灯の明るさ、人通りの多さ、飲食店の営業状況などを写真付きで記録
  • 住民の声:可能であれば、地域の自治会や商店街から得た情報を共有(「毎月パトロールを実施」「防犯カメラ設置率が高い」など)

重要なのは、ネガティブな情報も隠さず伝えることだ。ただし、「この地域は犯罪が多い」ではなく、「市内平均と比較すると若干高めですが、駅前に交番があり夜間パトロールも実施されています」というように、改善策やフォロー情報とセットで提示する。この姿勢が、長期的な信頼関係を構築する。

課題2:情報の正確性と鮮度をどう担保するか

治安情報は、物件情報以上に「鮮度」が重要だ。2年前のデータをもとに「安全です」と説明しても、その間に環境が変化している可能性がある。しかし、すべての物件周辺の治安状況を常時アップデートするのは、人員が限られる中小仲介業者にとって現実的ではない。

【実践的解決策】

効率的に情報を更新するには、以下のような仕組みづくりが有効だ。

  1. 行政の公開情報を定期チェック:多くの自治体が、月次または四半期ごとに犯罪統計や防犯情報を公開している。これらをカレンダーに登録し、定期的に確認する習慣をつける
  2. 地域とのネットワーク構築:地元の不動産会社や管理会社、商店街組合などと情報交換のルートを確保する。特に長く営業している店舗や住民からの情報は、統計では見えない「生の声」として価値が高い
  3. 顧客からのフィードバック活用:契約後の顧客に対し、入居後の感想をヒアリングする。「思ったより静かで安心」「夜は少し暗い」といった声を蓄積し、次の顧客への情報提供に活かす
  4. ICTツールの活用:犯罪情報アプリや自治体の防災・防犯メールサービスに登録し、リアルタイムで情報を入手する体制を整える

課題3:主観的判断をどう避けるか――営業担当者によるバラツキ

「このエリアは安全です」という説明が、担当者の主観や経験則に基づいている場合、顧客に誤った印象を与えるリスクがある。また、担当者ごとに説明内容が異なれば、会社全体の信頼性が損なわれる。

【実践的解決策】

治安情報の提供基準を社内で標準化することが不可欠だ。具体的には、以下のようなチェックリストを作成し、全営業担当者が同じ視点で情報収集・提供できる体制を整える。

治安情報提供チェックリスト例

  • [ ] 最寄り駅からの帰宅ルートを実際に歩いて確認(昼・夜)
  • [ ] 物件周辺500m圏内の街灯設置状況を確認
  • [ ] 最寄りの警察署・交番の位置と距離を把握
  • [ ] 直近1年間の犯罪発生件数(自治体公開データ)を確認
  • [ ] 近隣商業施設の営業時間帯と業態を把握
  • [ ] 地域の防犯パトロール実施状況を確認
  • [ ] 防犯カメラの設置状況(駅周辺・商店街など)を確認
  • [ ] 過去の災害・事件履歴(可能な範囲で)を確認

このリストに基づいて情報を収集し、顧客に対しては項目ごとに評価(A~Cランクなど)を示すことで、客観性と一貫性が保たれる。


治安情報を武器に変える――具体的提供テクニック5選

テクニック1:「安全マップ」を作成して視覚化する

言葉だけの説明では、顧客に情報が十分伝わらない。治安情報を地図上にプロットした「安全マップ」を作成し、視覚的に提示することで理解度が格段に高まる。

  • 街灯の位置:夜間の安全性を示す重要な要素
  • 交番・警察署:緊急時の対応拠点
  • コンビニ・24時間営業店舗:夜間でも人の目がある場所
  • 公園や空き地:見通しが悪い場所は注意喚起

これらをGoogle マップなどに落とし込み、物件資料とともに提供する。特に女性や単身世帯、子育て世帯からの評価が高い。

テクニック2:「時間帯別レポート」で生活リアリティを伝える

物件周辺を、異なる時間帯(朝・昼・夜・深夜)に訪問し、それぞれの雰囲気を写真やコメント付きでまとめる。

  • 朝7時:通勤・通学で人通りが多く、安心感がある
  • 昼12時:商店街が賑わい、地域住民の往来が盛ん
  • 夜8時:街灯が明るく、コンビニも営業中で視認性良好
  • 深夜1時:人通りは少ないが、主要道路は明るく見通しが効く

こうした具体的な情報は、顧客が自分の生活パターンに照らし合わせて判断する材料となる。

テクニック3:「比較データ」で相対的な安全性を示す

「この地域は安全です」という絶対評価だけでは説得力に欠ける。市区町村全体や隣接エリアとの比較データを示すことで、客観性が増す。

提供例

  • 「このエリアの犯罪発生率は、区全体の平均を15%下回っています」
  • 「最寄り駅周辺は、隣駅エリアと比較して夜間の街灯設置密度が1.5倍高いです」
  • 「過去3年間、重大犯罪の発生件数はゼロを維持しています」

数値による裏付けが、顧客の不安を軽減する。

テクニック4:「住民の声」を活用する

治安情報の信頼性を高める最も強力な手段は、実際の住民による評価だ。可能であれば、以下のような情報を収集する。

  • 既存入居者へのヒアリング(管理会社経由)
  • 近隣商店や飲食店への聞き取り
  • 地域掲示板やSNSでの評判チェック
  • 自治会の防犯活動状況

「実際に住んでいる人が安心している」という事実は、どんな統計データよりも説得力がある。ただし、プライバシーには十分配慮し、匿名化や許可取得を徹底する。

テクニック5:「ネガティブ情報」も正直に伝える

治安に関する懸念事項がある場合、隠すのではなく正直に伝えた上で、改善策や対策を併せて提示する。

  • 「駅前に飲み屋街があり、週末夜間は賑やかです。ただし、物件は幹線道路の反対側に位置し、騒音はほとんど届きません」
  • 「3年前に空き巣被害が複数件発生しましたが、その後自治会が防犯カメラを増設し、以降は被害ゼロです」

デメリットを隠さない姿勢が、結果的に信頼を獲得し、長期的な顧客関係につながる。


ハウスコムFCが提供する治安情報活用支援

ここまで見てきたように、治安情報の正確な提供には、継続的な情報収集と社内体制の整備が不可欠だ。しかし、限られたリソースでこれを実現するのは容易ではない。特に独立開業を目指す事業者や中小規模の仲介業者にとって、情報インフラの構築は大きな負担となる。

ハウスコムフランチャイズ(FC)加盟店となることで、こうした課題を効率的に解決できる。

1. 業界ノウハウの共有とベンチマーク

ハウスコムは1998年の設立以来、約200店舗の直営店を展開し、25年以上にわたり賃貸仲介のノウハウを蓄積してきた。この経験に基づく「物件外情報の提供手法」「顧客対応のベストプラクティス」が、FC加盟店に提供される。

特に本部主催のベンチマークセミナーでは、他店舗の成功事例や地域特有の情報収集術が共有される。治安情報の効果的な提示方法についても、実践的なノウハウを学ぶことができる。

2. 業務システムの標準化で情報管理を効率化

ハウスコムFCでは、大手不動産テック企業の基幹システムを採用している。コンバータ・顧客管理・契約管理の3点セットが、ロイヤリティに含まれる形で提供されるため、追加コストをかけずに業務を効率化できる。

治安情報をはじめとする物件外情報を体系的に管理し、顧客ごとに適切なタイミングで提示する仕組みを、システム上で構築可能だ。これにより、担当者ごとのバラツキを抑え、一貫性のある情報提供が実現する。

3. ブランド力による集客と信頼性の向上

ハウスコムは、関東・東海・近畿の三大都市圏において高いブランド認知度を誇る。このブランド力は、顧客の「この会社なら安心」という心理的ハードルを下げる効果がある。

治安情報のような「答えのない情報」を提供する際、情報源の信頼性は極めて重要だ。ハウスコムのブランドを背景に持つことで、顧客は提供される情報をより受け入れやすくなる。

4. 法人営業支援とビジネスパックの活用

ハウスコムFCでは、法人営業向けの支援や、顧客向け販売商材を含む「ハウスコムビジネスパック」が用意されている。治安情報を付加価値として提供し、他社との差別化を図る際に、こうした支援ツールが効果を発揮する。

例えば、企業の人事担当者向けに、転勤者向けの「エリア安全レポート」を作成し、法人契約獲得につなげる――こうした戦略的な営業活動も、本部のサポートを受けながら実行できる。


まとめ:治安情報提供力が成約率を左右する時代へ

不動産賃貸仲介業において、物件情報の正確性は大前提だ。しかし、それだけでは顧客の最終的な意思決定を後押しすることはできない。調査データが明確に示すように、67.6%もの顧客が物件外情報、特に治安情報を求めている。

治安情報を効果的に提供するためには、客観的データの収集、視覚化、比較分析、そして正直な情報開示が不可欠だ。これらを実践することで、顧客からの信頼を獲得し、競合他社との明確な差別化が実現する。

同時に、こうした取り組みを継続的に実施するためには、業務の効率化と情報インフラの整備が求められる。ハウスコムFC加盟は、ブランド力、システム支援、ノウハウ共有という三位一体のサポートを通じて、加盟店の成長を強力に後押しする。

治安情報の提供力を高め、顧客満足度と成約率の向上を目指す――この戦略を実現するパートナーとして、ハウスコムFCの活用を検討されてはいかがだろうか。


参考資料

  • 不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果(2025年10月27日発表)