【2025年最新】10年後の不動産業界はこう変わる|仲介業者が今から始めるべき生存戦略

「10年後も選ばれる不動産会社」と「淘汰される不動産会社」。その分岐点は、すでに目の前にある。

2025年、不動産業界は静かに、しかし確実に大きな転換期を迎えている。消費者の住まい探し行動は過去11年で最も複雑化し、テクノロジーの進化は業界の常識を次々と塗り替えている。国土交通省が策定した「不動産業ビジョン2030」が示す将来像は、もはや遠い未来の話ではない。

本稿では、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が実施した最新の消費者意識調査データと、2030年に向けた社会経済情勢の変化を読み解きながら、これからの10年で不動産賃貸仲介業者が直面する現実と、生き残るための具体的な戦略を提示する。


消費者行動が示す「選ばれる会社」の新基準

問い合わせ社数は過去最多、検討期間は長期化の一途

2025年のRSC調査によると、賃貸物件を契約するまでに問い合わせた不動産会社数は平均3.3社。これは2015年以降で最多の数字である。さらに5社以上に問い合わせた層は全体の21.0%に達し、消費者の「比較検討」意識が年々高まっていることが鮮明になった。

問い合わせた物件数も平均5.8物件と、2018年以降で最も多い結果となっている。「6物件以上」を比較した層は37.6%に上り、約4割の消費者が6つ以上の物件を天秤にかけてから契約に至っている計算だ。

検討期間においても変化は顕著だ。賃貸契約者のうち、契約までに1ヶ月以上を要した割合は全体の約4割。前年から約6ポイント増加しており、「即決」する消費者が減少していることを物語っている。

これらの数字が意味するのは、消費者が「情報収集」と「比較検討」にかつてないほど時間と労力を費やすようになったということだ。言い換えれば、単に物件情報を並べるだけでは、もはや選ばれる時代ではなくなっている。

写真点数と口コミが勝敗を分ける

では、消費者は何を基準に不動産会社を選んでいるのか。

調査結果によると、不動産会社を選ぶポイントとして最も多く挙げられたのは「写真の点数が多い」という項目だった。これは直近3年間で最高値を記録している。続いて注目すべきは「不動産会社に対する口コミ情報」で、特に重視するポイントでは2位にランクインした。

一方で「店舗がアクセスしやすい場所にある」は2年連続で減少傾向にある。かつては「駅前一等地」が不動産会社の競争力の象徴とされてきたが、その神話は確実に崩壊しつつある。

この傾向から読み取れるのは、消費者の意思決定における「デジタル情報」の比重が増し続けているという事実だ。店舗の立地よりも、オンライン上でどれだけ充実した情報を提供できるかが、選ばれる不動産会社の条件となりつつある。


2030年問題が不動産業界に突きつける現実

人口構造の激変と住宅ニーズの変化

不動産業界を取り巻く環境は、10年後に向けてさらに大きく変化する。その中核にあるのが「2030年問題」だ。

2030年には、日本の人口の約3分の1が65歳以上になると予測されている。生産年齢人口(15〜64歳)は2015年から2030年にかけて853万人減少する一方、高齢人口は329万人増加する見込みだ。この人口構造の激変は、住宅ニーズに直接的な影響を与える。

具体的には、「夫婦と子」世帯の減少と単身世帯の増加が進み、従来のファミリー向け物件の需要は縮小。一方で、高齢者向け住宅やバリアフリー対応物件、コンパクトな単身者向け物件の需要は拡大することが見込まれる。

空き家846万戸時代の到来

人口減少と並行して深刻化するのが空き家問題だ。国内の空き家総数は、2018年時点で846万戸に達しており、利活用されていない空き家だけでも347万戸に上る。今後も増加傾向が続くことは確実視されている。

さらに、築40年を超えるマンションは2017年から20年間で279万戸増加すると予測されており、既存ストックの老朽化も顕著になる。こうした状況下で、新築偏重から中古住宅流通の活性化へと市場の重心が移行していくことは避けられない。

不動産仲介業者にとって、この変化は脅威であると同時に大きなビジネスチャンスでもある。空き家や中古物件の利活用提案、リノベーション物件の仲介など、新たな価値を創出できる事業者が生き残りの鍵を握ることになる。


テクノロジーが変える不動産取引の常識

IT重説・オンライン契約の需要は過去最高水準

消費者のデジタルシフトは、住まい探しの入口だけでなく、契約プロセスにまで及んでいる。

RSC調査によると、「IT重説(リモートで重要事項説明を受ける)」を活用したいと回答した賃貸検討者は56.7%に達し、調査史上最高値を更新した。「オンライン契約」の活用意向も42.2%と3年連続で増加しており、非対面での取引に対する抵抗感は確実に薄れている。

特に注目すべきは、賃貸検討者の間でオンライン契約への需要が年々高まっている点だ。転勤や進学で遠方から部屋探しをする層にとって、来店不要で契約が完結するサービスは大きなアドバンテージとなる。

これらの数字が示すのは、IT重説やオンライン契約への対応が、もはや「付加価値」ではなく「標準装備」として求められる時代に突入したということだ。対応が遅れた事業者は、消費者の選択肢から外れるリスクが高まっている。

不動産テック(PropTech)が業界地図を塗り替える

テクノロジーの波は、業務効率化の領域でも加速している。

AIを活用した物件査定、ビッグデータによる需要予測、IoTを導入したスマート賃貸物件など、不動産テック(PropTech)と呼ばれる技術革新が業界全体に浸透しつつある。海外では、AI分析ソフトによる物件調査がワンクリックで完結する事例もある一方、日本では1件あたりの調査・分析に15.5時間かかるという指摘もあり、改善の余地は大きい。

また、ブロックチェーン技術を活用した不動産のトークン化により、小口投資市場が拡大する動きも見られる。従来、大規模な資本を必要とした不動産投資がより身近になることで、投資家層の多様化が進む可能性がある。

不動産業界の社長の平均年齢は63.76歳と過去最高を記録しており(東京商工リサーチ2023年調査)、IT化への対応が遅れている事業者も少なくない。しかし、テクノロジーを味方につけられるかどうかが、今後10年の生き残りを左右することは間違いない。


省エネ性能が「選ばれる物件」の新基準に

78.6%が「省エネ性能は重要」と回答

2024年の「建築物の省エネ性能表示制度」開始、2025年4月からの新築住宅における省エネ基準適合義務化を受け、消費者の省エネ意識も急速に高まっている。

RSC調査では、住まいを選ぶうえで省エネ性能が「重要」と回答した割合は全体で78.6%に達した。売買検討者では8割を超え、賃貸検討者でも約7割半ばと高い水準を示している。前年から賃貸での関心度が1.3ポイント上昇しており、省エネ性能は物件選びの重要な判断基準として定着しつつある。

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やグリーンビルディングなど、環境配慮型住宅の普及は今後さらに加速する見込みだ。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大を背景に、省エネ性能の高い物件は資産価値の維持においても優位性を持つ。

仲介業者にとって、省エネ性能に関する知識と提案力は、もはや「専門性」ではなく「必須スキル」となりつつある。物件の断熱性能や光熱費シミュレーションを含めた提案ができるかどうかが、成約率を大きく左右する時代が到来している。


不動産会社に求められる「対応力」の中身

丁寧・迅速な対応が満足度を決定づける

消費者が不動産会社に求めるものの調査結果を見ると、「丁寧・親切な対応」「正確な物件情報の提供」「問合せに対する迅速対応」が上位を占めている。これは直近3年間でほぼ変わらない傾向だ。

注目すべきは、不動産会社の対応で「満足だったこと」と「不満だったこと」の内訳である。満足だった点のトップは「問合せに対するレスポンスが早かった」(71.5%)、次いで「こちらの都合を配慮してくれた」(51.4%)だった。

一方、不満だった点では「問合せをしたら『その物件はもう無い』と言われた」(18.8%)、「言葉遣いや対応が気に障った」(18.1%)、「問合せへの回答が的を射ていなかった」(17.4%)が上位に並ぶ。

これらの結果から浮かび上がるのは、消費者が求めているのは「特別なサービス」ではなく、「当たり前のことを当たり前にできる対応力」だということだ。物件情報の鮮度管理、迅速なレスポンス、丁寧な接客。基本的な品質を徹底できるかどうかが、選ばれる会社と選ばれない会社を分けている。

治安情報・ハザード情報の提供が差別化要因に

物件情報以外で消費者が必要としている情報も変化している。

調査では「治安情報」がトップとなり、直近3年で最高値を記録。続いて「周辺の商業情報」「地域の安さ(家賃相場)」がランクインした。特に「地域の安さ」は売買では「治安情報」と並んでトップとなっており、自然災害に対するリスク回避の観点から関心が高まっていることがうかがえる。

地震大国である日本において、今後30年以内に大規模地震が発生する確率は高いと予測されている。防災・減災への意識が高まる中、ハザードマップ情報や避難場所、建物の耐震性能といった情報を適切に提供できる仲介業者は、消費者からの信頼を獲得しやすい。


10年後に生き残るための5つの戦略

ここまで見てきた市場環境の変化を踏まえ、賃貸仲介業者が今から取り組むべき戦略を5つに整理する。

1. デジタル対応の標準化

IT重説、オンライン契約、オンライン内見への対応は、もはや選択肢ではなく必須条件だ。特に転勤族や地方からの進学者など、遠方からの問い合わせに対応できる体制を整えることで、商圏を大きく拡大できる可能性がある。

加えて、物件情報の充実度向上も欠かせない。写真点数の増加、360度カメラによる室内ツアー、動画コンテンツの活用など、オンライン上での情報発信力を高めることが、問い合わせ獲得の決め手となる。

2. 口コミ・レビュー戦略の構築

消費者が「不動産会社の口コミ情報」を重視する傾向は、今後さらに強まることが予想される。Googleビジネスプロフィールをはじめとした各種プラットフォームでの評価管理、成約後のアンケート収集と公開など、意図的に口コミを生み出す仕組みづくりが求められる。

SNSの活用も重要だ。調査ではYouTubeやInstagramを住まい探しに活用する層が増加しており、特に動画・写真による視覚的な情報発信が効果を発揮している。

3. 専門知識の深化と差別化

省エネ性能、ハザード情報、住宅ローン、税制優遇など、不動産取引に関連する専門知識は年々複雑化している。これらの知識を習得し、顧客に対して的確なアドバイスができる人材の育成は、事業者の差別化要因となる。

また、高齢者向け住宅、外国人向け賃貸、リノベーション物件など、特定分野への専門特化も有効な戦略だ。「なんでも扱う」ジェネラリストよりも、「この分野に強い」スペシャリストが選ばれる時代になりつつある。

4. 業務効率化とDXの推進

人口減少による労働力不足は、不動産業界でも深刻化する。定型業務のデジタル化、CRM(顧客管理システム)の導入、AI活用による業務効率化など、限られた人員で生産性を高める取り組みが不可欠となる。

書類のスキャン、データの入力・転記・集計、受発注や社内決済に係るプロセスなど、定型業務を徹底的に効率化することで、接客や提案といった高付加価値業務にリソースを集中させることが可能になる。

5. ネットワーク・連携の強化

単独での事業運営には限界がある。フランチャイズへの加盟、業界団体への参加、他業種との連携など、外部リソースを活用することで、個社では実現できないブランド力やサービス品質を手に入れることができる。

特に、大手不動産ポータルサイトへの効果的な掲載、反響送客の仕組み構築、業務システムの共有化など、スケールメリットを活かした施策は、中小規模の事業者にとって大きな武器となる。


変化を味方につけた者だけが生き残る

10年後の不動産業界を予測することは、決して容易ではない。しかし、確実に言えることがある。それは「変化しない事業者は淘汰される」という厳しい現実だ。

消費者の行動変化、人口構造の激変、テクノロジーの進化、環境意識の高まり。これらの波は、業界全体を根底から揺さぶっている。従来のビジネスモデルに固執し、変化を拒む事業者は、市場から退場を余儀なくされるだろう。

一方で、変化をチャンスと捉え、先手を打って行動する事業者には、大きな成長機会が待っている。デジタル化による商圏拡大、専門性による差別化、効率化による収益改善。いずれも、今から準備を始めることで実現可能な戦略だ。

10年後の不動産業界で「選ばれる会社」になるための種は、今この瞬間にまかれる。変化の時代を生き抜くために、今日からできる一歩を踏み出してほしい。


【執筆】ハウスコムFC事業本部 広報PR

本記事は、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」(2025年)および国土交通省「不動産業ビジョン2030」等の公開資料を参照して作成しています。