「レスポンス遅い会社」は選ばれない時代へ──不動産賃貸仲介で生産性を2倍にする”業務洗い出し術”の全技法

顧客が不動産会社を比較する社数は、いま過去最多を更新している。
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が発表した2025年調査によれば、賃貸契約者が問い合わせた不動産会社の平均は3.3社と、2015年以降で最多を記録した。「5社以上」に問い合わせた割合は21.0%に達し、顧客の”比較検討”行動は年々激化している。
こうした環境下で、顧客が不動産会社に最も求めているのは何か。同調査で「満足だったこと」の1位に輝いたのは、「問い合わせに対するレスポンスが早かった」であり、実に71.5%がこの点を評価した。裏を返せば、レスポンスが遅い会社は選ばれなくなっているということだ。
「人手が足りない」「業務が多すぎて手が回らない」──そう嘆く前に、まず自社の業務を徹底的に洗い出してみてほしい。本稿では、不動産賃貸仲介業者が今すぐ実践できる”業務洗い出し術”を、具体的な手法とともに解説する。
顧客の期待値は上がり続けている──いま業務改善が必須な理由
比較社数増加が意味するもの
2025年のRSC調査では、賃貸契約者の問い合わせ社数が過去最多となっただけでなく、問い合わせ物件数も平均5.8件と高水準を維持している。「6物件以上」に問い合わせた割合は37.5%に上り、顧客は以前にも増して”徹底的に比較してから決める”傾向を強めている。
この傾向は、不動産会社にとって何を意味するのか。端的に言えば、「対応の質とスピードで差がつく時代」が到来したということだ。
顧客が重視する3つのポイント
同調査の「不動産会社に求めるもの」では、以下の項目が上位を占めた。
第1位:礼儀・マナー対応 第2位:正確な物件情報の提供 第3位:問い合わせに対する迅速対応
注目すべきは、これらがすべて「業務の質」と「スピード」に直結する要素だという点である。物件の品質や価格ではなく、対応力そのものが選ばれる理由になっている。
一方、「不満だったこと」の上位には「問い合わせをしたら『その物件はもう無い』と言われた」「問い合わせへの回答が的を射ていなかった」「問い合わせをしたら返答が遅かった」といった項目が並ぶ。
物件情報の鮮度管理、適切な回答ができる体制、迅速なレスポンス──これらを実現するためには、現状の業務プロセスを見直し、無駄を削減することが不可欠なのである。
業務洗い出しの第一歩──「見える化」から始める
なぜ”洗い出し”が重要なのか
業務改善に取り組む際、多くの経営者や管理者が陥りがちなのが「ツールを導入すれば解決する」という思い込みである。
しかし、どれほど優れたシステムを導入しても、そもそも「何が無駄で、何を効率化すべきか」を把握していなければ、効果は限定的にとどまる。業務洗い出しとは、改善の土台を築く作業にほかならない。
業務洗い出し4ステップ
ステップ1:業務の棚卸し
まずは、自社で行っているすべての業務をリストアップする。「当たり前すぎて意識していない作業」こそが、実は最も改善余地が大きい場合が多い。
具体的には、1週間程度の期間を設け、スタッフ全員に「自分が行った業務」を30分単位で記録してもらうとよい。記録の粒度は細かいほど効果的だ。「物件登録」ではなく、「ポータルサイトAへの物件登録」「ポータルサイトBへの物件登録」「自社HPへの物件登録」のように分解する。
ステップ2:業務フローチャートの作成
棚卸しした業務を、時系列に沿って図式化する。不動産賃貸仲介業の基本的な業務フローは以下のとおりである。
「反響獲得」→「初回対応」→「物件提案」→「内見」→「申込受付」→「審査」→「契約」→「引渡し」→「アフターフォロー」
このフローに沿って、各段階でどのような作業が発生しているかを書き出す。
ステップ3:時間計測
各業務にどれだけの時間がかかっているかを計測する。感覚ではなく、実際のデータを取ることが重要だ。
「物件情報の入力に1件あたり何分かかっているか」「問い合わせ対応の平均時間は何分か」「契約書類の作成にはどれくらいの時間を要しているか」──こうした数字を把握することで、改善すべきボトルネックが見えてくる。
ステップ4:分類と優先順位付け
洗い出した業務を、以下の4つに分類する。
- A:付加価値を生む業務(顧客対応、提案活動、内見同行など)
- B:必要だが付加価値を生まない業務(書類作成、データ入力など)
- C:慣習的に続けているが必要性が不明な業務
- D:明らかに無駄な業務
AとBは効率化、Cは廃止または簡素化、Dは即座に廃止を検討する。
賃貸仲介業で”無駄”が潜みやすい5つの業務領域
1. 物件情報の登録・更新作業
大手不動産ポータルサイトへの物件掲載は、集客の要である。しかし、複数のポータルサイトに同じ物件を登録する作業は、想像以上に時間を食う。
ある中規模仲介会社の調査では、物件1件あたりの登録作業に平均15分、3つのポータルサイトへの登録で計45分を要していた。管理物件が100件あれば、登録作業だけで75時間──約9日分の工数が消費される計算になる。
改善ポイント:コンバータシステム(一括入稿ツール)の導入により、1回の入力で複数ポータルサイトに同時掲載が可能になる。作業時間を3分の1以下に圧縮した事例も珍しくない。
2. 問い合わせ対応と追客
RSC調査で「問い合わせに対するレスポンスの早さ」が満足度1位となったことは先に述べた。しかし、現実には「忙しくて対応が後回しになる」「誰が対応したか分からない」といった問題を抱える会社は多い。
改善ポイント:顧客管理システム(CRM)を導入し、問い合わせの自動振り分けと対応状況の可視化を図る。初回返信の自動化だけでも、対応漏れ・遅れのリスクは大幅に低減する。
3. 内見予約の調整
「この日の午後に内見できますか?」という問い合わせに対し、スタッフのスケジュールを確認し、オーナーに連絡を取り、物件の空き状況を調べ、顧客に返答する──この一連の作業は、往々にして1件あたり20〜30分を要する。
改善ポイント:オンラインカレンダーと連動した予約システムの活用で、顧客が直接空き枠を確認・予約できる仕組みを構築する。スタッフの調整工数を8割削減した事例もある。
4. 契約書類の作成
賃貸借契約に必要な書類は多岐にわたる。契約書、重要事項説明書、入居のしおり、各種特約──これらを一から作成していては、1契約あたり数時間を要することも珍しくない。
2025年のRSC調査では、「IT重説」の利用意向が賃貸で56.7%と過去最高を記録した。「オンライン契約」への関心も42.2%と3年連続で増加している。顧客側も、デジタル化を歓迎する傾向にある。
改善ポイント:テンプレート化と電子契約システムの導入で、作成時間を半減させることが可能だ。また、IT重説の導入は顧客満足度向上にも直結する。
5. 社内連絡・情報共有
「あの物件の鍵、どこにある?」「〇〇様の進捗どうなってる?」──こうした社内確認のやり取りが、1日に何度も発生していないだろうか。
情報が個人の頭の中や手帳にしか存在しない”属人化”状態は、業務効率を著しく低下させる。
改善ポイント:クラウド型の情報共有ツールで、物件情報・顧客情報・進捗状況をリアルタイムで共有する。「聞かなくても分かる」環境を整えることで、コミュニケーションコストを削減する。
業務改善を成功に導く5つの実践Tips
Tip 1:まず「やめる」ことから始める
業務改善というと「効率化」「自動化」に目が行きがちだが、最も効果的なのは「やめる」ことである。
「以前からやっているから」「念のため」という理由で続けている業務がないか、改めて点検してほしい。たとえば、「週次で作成しているが誰も見ていない報告書」「形骸化した朝礼」「効果測定をしていない広告施策」などは、廃止候補の筆頭である。
Tip 2:小さく始めて、素早く検証する
業務改善は、一気に大きな変革を起こそうとすると失敗しやすい。まずは1つの業務、1人のスタッフから始め、効果を検証してから横展開するアプローチが有効だ。
Tip 3:現場の声を徹底的に聞く
業務の「無駄」は、現場で日々作業を行っているスタッフが最もよく知っている。経営者・管理者の視点だけでなく、実務担当者からのヒアリングを丁寧に行うことで、見落としていた改善ポイントが見つかることも多い。
Tip 4:数字で効果を測定する
「なんとなく楽になった」ではなく、「物件登録にかかる時間が45分から15分に短縮された」「問い合わせへの初回返信時間が平均3時間から30分に改善した」といった形で、数字による効果測定を行う。
これは、改善施策の継続判断に必要なだけでなく、スタッフのモチベーション維持にも重要な役割を果たす。
Tip 5:定期的に見直しを行う
業務改善は一度やって終わりではない。市場環境、顧客ニーズ、テクノロジーは常に変化している。少なくとも半年に一度は業務の棚卸しを行い、新たな無駄が発生していないかを確認する習慣をつけたい。
フランチャイズ加盟という選択肢──業務効率化を”仕組み”で解決する
ここまで、自社で取り組める業務改善の手法を解説してきた。しかし、「分かってはいるが、自力で進める余裕がない」「システム導入のコストや手間が負担」という声も少なくないだろう。
そこで検討に値するのが、フランチャイズへの加盟という選択肢である。
本部が構築した業務支援システムを活用できる
たとえば、不動産賃貸仲介のフランチャイズでは、本部が提携した基幹システムを加盟店向けに提供しているケースがある。コンバータ(一括入稿)、顧客管理、契約管理といった機能がパッケージ化されており、個別にシステムを選定・導入する手間とコストを省ける。
特に中小規模の仲介会社にとっては、「本部のスケールメリットを活かして、低コストで業務効率化の仕組みを手に入れられる」点が大きなメリットとなる。
ノウハウの共有で「車輪の再発明」を避けられる
業務改善の試行錯誤は、時間とコストを要する。フランチャイズに加盟すれば、本部や他の加盟店が蓄積してきたノウハウを共有できる。「何から手をつければよいか分からない」という状態から脱し、効果が実証された施策を優先的に導入することが可能になる。
定期的な加盟店会合やベンチマークセミナーを通じて、他社の成功事例・失敗事例を学べる機会があるのも、独立経営にはない強みだ。
本部サポートによる継続的な改善
業務改善は「やりっぱなし」になりがちである。フランチャイズ本部による定期的な巡回やコンサルティングを受けられる環境があれば、改善活動を継続しやすくなる。
「人手が足りない」「ノウハウがない」「コストをかけられない」──これらの課題を抱える事業者にとって、フランチャイズ加盟は業務効率化を実現するための現実的な選択肢といえるだろう。
まとめ──競争環境を勝ち抜くための”引き算”の発想
不動産賃貸仲介業界は、顧客の比較行動の激化、人手不足の深刻化、テクノロジーの進化といった変化の渦中にある。
RSC調査が示すように、顧客は「レスポンスの早さ」「情報の正確さ」「対応の丁寧さ」を重視しており、これらを実現できない会社は選ばれなくなっている。
この状況を打開するカギは、「足し算」ではなく「引き算」の発想にある。新しい施策を追加する前に、まず現状の業務を洗い出し、無駄を削減する。そうすることで初めて、顧客対応の質とスピードを向上させるためのリソースが生まれる。
業務洗い出しは、地道で華やかさのない作業かもしれない。しかし、その一歩が、顧客に選ばれる会社への変革の起点となる。
まずは今日から、自社の業務を1つひとつ書き出すことから始めてみてはいかがだろうか。
※本記事で引用した調査データは、不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)「不動産情報サイト利用者意識アンケート」2025年調査結果に基づいています。


